儚い雪に埋もれる想い

雪莉

気付かなかった異変

その姿は今の美空よりも、何かに怖がっているようにも見えた。幽霊に怖がっている、子供というべきだろうか。



その怯えている姿を察し、美空は糸が切れたかのように、緊張がほぐれた。


いうならば、同士を見つけた安心感というところだろうか。
 

 百地は紅く染まった瞳を隠すように、後ろを向いた。


しかし、すぐに回れ右をし、いつものように胡散臭い笑顔でこう言った。


「はい、起きてください。行きますよ。どこにだって? それは、先輩の記憶を取り戻しに、です」



 いつもと同じように見えたその顔は、しかしいつもより強がっているように見えた。


まるで、自分がしっかりしないといけないと言わんばかりに。


「はい、手。捕まってください」




ベッドで座っている美空に、手を差し出した。


その手を握り返した美空は、強引に捕まれ男らしい大きな力で、難なく立ち上がった。



「じゃ、着替えましょうか。はい。適当に服選びますけど…。ていうか、そこらへんにある服を適当に拾っただけですけど」



そう言って百瀬は、藍色に染まったスキニーのジーンズと、菖蒲色に色付いたウール素材のパーカを取った。



それらを身に着けたら、暖かそうだ。



「外は絶対寒いと思うので、このくらい暖かい方がいいと思います。たしか、天気予報では雪が振るとか、振らないとか。はい。後ろ向いてください。前向かないでくださいね、絶対に」




 自分で脱ぐ気がないと分かったのか、百瀬は、美空のパジャマを脱がした。



後ろを強要したのは、彼女に配慮したからだろう。

下心を少しも出してないと言えば嘘になるが、決して襲うとかそんな物騒な事は一ミリも考えてなど百地はいなかった。 


逆に言えば、惚れている女性の背中ではあるが、半裸を見て何も思わないはずがない。


 そんな聖人ではない、と百地は思う。
 


 しかし、見てしまった。美空の背中の痛々しい傷跡を。



まだ、血の気が残っている生々しいそれを。



 赤の他人が見れば、それを傷つけられたと勘違いする。




だが、百瀬は知っていた。


美空は、耐えきれないほどの恐怖心を抱くと、それを紛らわせるかのように、痛みを作ってそれをかき消そうとすることを。



 その傷を見て静止していると、あんなに強要されていながらも、後ろを躊躇なく美空は振り返ってしまった。

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