儚い雪に埋もれる想い

雪莉

無意識の告白

だが性格上、被虐的に思っていても、口にはできない。ただ、それだけの事だ。



「だけど、この本たちの中に彼女たちが眠っているかのようで。彼女たちに抱く、複雑な思いも一緒に。だから、それを他人の経験で書き足したくない。…ううん、伽耶は他人なんかではない。大切な後輩。だけど、その貴方すら私は嫌だと思ってしまった。だから、もっと誰かとの思い出を増やして、今描こうとしているこれを未完成ではない、完成作品として世の中に出したい」 




息継ぎ。そんなことをしている暇などない、といわんばかりに、長々と噛まずに言ってのける。


その姿は冷静で、無頓着とも、間違えたら言ってしまうかもしれない。


しかし、それと相反するように、落ち着きという欠片もなく、美空から目を離せなくなってしまっている。 



「それはまぎれもなく、自分の思い出が書いたものにしないとだめなの。だからお願い。私に飛び切りの思い出を頂戴」



思い出。


 そんな代物、今ここで簡単に作れるわけがない。


それを承知の上で、美空はいっているのだろう。それは、間接的な外に出たいという意思表示だろう。


それを見抜いた百瀬は、こんな言葉をかけた。



「先輩、だったら今からでも外に出ますか。
まだお昼前だし、今日だけでも思い出は、案外作れるものですよ」



 まるで何かに勧誘するかのように、はきはきとした表情で百瀬は言う。

しかし、先ほどの表情と正反対な顔で美空は答える。


「無理だと思う。だって、外に行くのが怖いのだから」


はぁ、とため息を百瀬はついた。



「先輩、そんな感情なんて捨ててください。昔の先輩は、怖いと言って怖気づく様な人ではなかった」
 


 ぴくっと、美空が反応する。「昔」とあえて、使ったのは彼女が反応するからだろう。


「いついかなるときも、その光は鈍ることなく、いや、くすんだときもあったかもしれない。だけど、それはいつも、輝きを取り戻していた。僕は、俺は」



一人称が変わっているのにも気づかない百瀬は、先輩と後輩という立場を無いものとみて、言葉を伝えてきた。


「そんな美空に好かれた。だから、いつまでもそんな美空でいろよ。美しい空、そんな名前のように。雨が降っても、どんなに崩れた天気でも、いつかは太陽が照った、雲一つない天気をみせてたじゃん。もっと自分に自信を持ってくれ」



告白じみたそれは、両者の頬を赤らめた。


その恥ずかしさを、押し切った百瀬は最後に悲鳴に近い声で訴えた。





「あぁ、もうっ。だから、大丈夫だって。何も怖くない。俺を信じろよぉっ。そんなに俺、頼りねーのかよぉぉぉぉっ」





 今までみたことのないくらい、百瀬は怒気に満ちていた。けど、どこか顔が固い気がする。



そう、まるでこの状況に緊張しているかのように、顔が強張っていたのだ。



その姿は今の美空よりも、何かに怖がっているようにも見えた。




幽霊に怖がっている、子供というべきだろうか。

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