儚い雪に埋もれる想い

雪莉

小説家の朝

目が覚めると、見覚えのある空色の天井があった。


 頬の濡れた感触に違和感を覚え、恐る恐る触れてみる。
 
どうやら、三年前の夢を見ていたらしい。
夢で泣いてしまうときは、大体過去夢を見ているときだ。

 

 いつのまにか、物音一つたたないこの一人きりの朝が、日常として体に染みつく。
その現状が煩わしくて、これ以上ないというくらいの大きなあくびを吐き捨てた。






「今日は――、何曜日だっけ」




 今現在、二十四歳小説家という肩書を持っている東雲美空。旧名、時雨美空。


ごく一部のマニアからは、絶大の人気を花のように華麗に咲かしている。


 しかし、あくまでも「マニア中のマニア」という小さい植木鉢の中の前提。彼女の誇り高き素晴らしい花は、水をあげることすら世間には許されない。
 




 そんな状態で、出世などというバカな話、彼女の養分として使用することを提案されたところで、彼女が肯定文を述べる術は底辺に近いに等しい。



 今、なんとなく違和感を持った人がいるかもしれない。




 なぜなら出世などという言葉を、今このタイミングで無理やり出したからだ。

実は最近、美空はそのような話をつい最近持ち掛けられた。だから意図的に、考えさせたかったのだ。


 
「おはようございます、東雲先生。今日はみんな大好き、日曜日でございます。が、先生には今日一日で、三百枚という枚数の原稿用紙を仕上げてもらいますからね」
 



 突然聞きなれた馴染みのある声が、前方から聞こえてきた。



その声の主は、美空を担当している編集者の百瀬であった。



泥棒という名の、庶民の敵ではなかったが故の安堵感が混ざり合った溜息をこぼす。

‥まぁ、泥棒が友達みたく陽気にしゃべりかけてきたら、恐怖心で発狂してしまう自信があるが、と美空は思う。



 そんな冗談はさておき、締め切りの日と言えば、悠長な時間を過ごせるくらい先だったはずだ。だが今、美空はスランプ状態に入っている。どんなにせかされたって、いい作品など作り上げられるはずなどない。


それもそのはず。

高校を卒業して早七年。外出と言ってもいいほど、豪華な代物はなかったに等しい。



イコール、人と接することも、編集者である百瀬以外にはなかった。むろん、美空の携帯の連絡も仕事関連だけしか、残念ながら届くことがなかった。



 つまりだ。美空の才能を、決して軽く見ているのではない。作家には必要不可欠なもの、物語のネタが一切獲得できない状態なのだ。


 美空も、薄々気が付いていたのだろう。




十八年間、という少ない間の起承転結で生涯、沢山の物語を作ることなんて、いくら天才と呼ばれる人間でも不可能だという事を。



いつかはまた、外の街に触れないといけないことぐらい、わかっていた。けど、そんな作家人生が終わりみたいなものが、こんなに早く来るとは予想出来なかったのである。





「…どうしても、今日中じゃないとだめなものなの?」


 

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