僕の前世が魔物でしかも不死鳥だった件

低系

不死鳥と後輩

 翌朝。
 昨夜の事故のことが、割りと深刻な様子でニュースとなっていた。
 まあ、当然か。
 あれだけ派手な事故なんていくら大雪注意報の出るこの県でもそうはないからな。
 ちなみに今は朝食の真っ最中。
 近頃は家族四人で食卓を囲むことが当たり前になってきた。僕の周りには、同じく朝食を食べている両親と妹が座っている。

「怖いわね、うちのすぐ近所でこんな大きな事故なんて………」

 母さんが不安そうな表情で言う。

「まあ、確かに被害は酷いけど怪我人が一人も出なかったみたいだから、不幸中の幸いだよ」

 父さんがそれに相づちをうちながら、味噌汁をすする。あまり興味がなさそうにしているが、視線は終始テレビを気にしている。

「お兄ちゃんも気を付けてよ? 事故があったのって、バイオリン教室から帰るときの時間と変わらないみたいだし」

 続く妹の言葉に、僕は心の中で苦笑いを浮かべた。

「そうよ、夕月。やっぱり遅い時間になるなら車で迎えに行った方が良いと思うの。この時期だと事故も多いし、巻き込まれたりしたら大変よ?」

 そう言う母さんは、子供に対してかなり心配性だ。
 僕がすでに事故に巻き込まれ、モロにトラックが直撃していることを知ったらどうなることやら。

「そこまでしなくても大丈夫だよ。母さんも仕事で疲れてるだろうし、バイオリン教室はそこまで遠くないからね」

 それに、バイオリン教室の行き帰りに優希姫と二人で歩くのは、僕の楽しみでもあるし。

「ご馳走さま。じゃあ、学校行ってくるよ」

「あ、お兄ちゃん待ってよ! はむ、はむ、ん、ご馳走さま!」 

 立ち上がった僕を見て慌てて朝食を口に詰め込んだ峰月が後ろからついてくる。
 僕が通う中学校と妹の通う小学校はすぐ隣だ。

 ―――あ、あのね、お兄ちゃん。学校、一緒に行ってもいいかな……?

 二年ほど前にそんな会話をして以降、妹とはずっと一緒に登校している。ちなみに下校は時間が合わないから別々だ。
 ぶっちゃけこの家から学校までは五分くらいしか掛からないんだから、登校くらい一人でも出来るだろうに。
 何故にこうも僕になついてくるのやら。
 昔からそんなによくしてやった記憶はないんだがな。
 まあ、別に拒む必要も、理由もないから良いんだけどね。

「そういえば、峰月……」

「ん、なに?」

「お前、附属の中学の受験しないって聞いたけど。そのままうちの中学にくるのか?」

「うん、そのつもりだよ」

 田舎だか唯一受験のある大学附属の中学は、県内では間違いなくトップの学力を誇っていて、小学生の頃から成績の良い子たちは大概がそちらを受験するのだ。ちなみに受験をしなければ、そのまま地区の中学に進む。僕や優希姫がそうだ。
 この前に優希姫と話した県内トップの高校はその中学と同じ大学附属の学校になる。所謂、エリート街道、というやつだな。田舎だけど。

「………良いのか? 峰月は成績良いんだし、エスカレーター式の名門校にも普通に受かると思うけど」

「それお兄ちゃんが言う? お兄ちゃんこそ、何で附属の中学受けなかったの?」

「遠くて通うのが面倒だから……」

 せっかく近場に中学があるんだから、そこに通った方が楽だろ。

「ぷっ、お兄ちゃんらしいよね……」

「峰月も同じ理由か?」

「ううん。私は、お兄ちゃんと同じ学校が良いからだよ」

「何だそりゃ……」

 優希姫と似たようなこと言いやがって。
 あいつはともかく、峰月は僕と同じ学校に通ったって何かあるのか?
 小学校のときは学校で話なんてしなかったのに。
 まあ、当時の僕は優希姫以外の誰とも喋らなかったけど。
 そういえば小学生の頃、僕が図書室にいるときに峰月がちょくちょく来てたな。話し掛けてはこなかったけど、こっちを見ていたのは気づいてた。
 中学にあがってから峰月ともよく話すようになったが、それが同じ学校に通ったら何か変わるのかね。

 いや、すでに変わっているんだったな。

 そして、さらに変化し続けていく。
 周りの環境も、その中にいる僕自身も。




 冬の教室は暖房やストーブが点けられ、昼休みにはそこに群がるかのように人の壁が出来ていた。寒い廊下に出ているものはほとんどいない。
 若いやつらが何を軟弱な、と思わないでもないが、元より寒さに苦を感じる概念のない僕が言えた義理ではないので、黙ってその光景を見つめている。
 すると、小学五年生から四年連続で同じクラスである優希姫が、弁当の包みを持って僕の席までやって来た。

「夕月、お昼食べよ?」

「おー」

 そうやって二人で机に弁当を広げたときだった。

「おーい、羽川!」

 名前を呼ばれる声がした。
 見れば同じクラスの男子が教室の出入口に立って、こちらに手をあげている。
 えーっと、名前なんだったかな。まあいいや。

「なんだ?」

 席に座ったまま割りと雑に答えると、男子生徒は要件を言った。

「お客、一年の」

「は?」

 僕に客?
 しかも後輩で?
 出入口に男子生徒と共に立っている女子生徒がそうらしい。学年は靴紐の色で分かるが、確かに一年生のようだ。
 はて………、僕に一年の女子生徒との接点なんて合っただろうか?

「夕月の知り合い?」

「いや、知らん」

 対面の優希姫が疑問を飛ばすが、僕の方が疑問だらけだった。

「取りあえず行ってくるわ。優希姫、先に食べててくれ」

「ほーい」

 優希姫の返事を聞いてからそちらに向かう。男子生徒の方は僕を呼んだら、そのまま廊下に抜けていったようだ。
 僕も廊下に出て、改めてその一年の女子生徒を見る。
 黒い髪と瞳。ショートボブで眼鏡をかけた姿は一見地味だが、綺麗な顔立ちをしてるのは分かった。
 うん、知らん。心当たりは欠片もない。記憶にかする気配もない。マジで誰だこの娘?

「すみません、お呼び立てしてしまって」

 まずは彼女が呼び出しについて謝ってきた。見た目通り、礼儀正しい良い子という感じだが、やはり僕の記憶にはないな。

「ああ、それはいいけど、何か用かな? というか、君とは初対面だと思うんだが………」

「あ、はい、すみません名前も言わずに。一年八組の星河姫刹ほしかわきせつです。羽川夕月先輩ですよね、二年五組の」

「ああ、見ての通りな」

 クラスまで来て名前で呼び出したんだから知っているはずだが、改めての確認だろうか。
 それはいいとして、彼女の名前を聞いてもピンとこない。
 考えても分からんし、訊いてみるか。

「それで、何かな?」

「あ、はい、その………昨日のことのお礼をと思いまして……」

 昨日のこと?
 何かあったっけ?

「昨日の夜、トラックに轢かれそうになった私を助けてくれましたよね?」

「………………………君が昨日の、よく僕だと分かったな」

 背後から突き飛ばしたつもりだったが、まさかあの状況で僕の顔を見て、しかも覚えてたとは。

「はい、後ろ目に金色の髪と瞳が一瞬見えたので……………」

「ははは、余計なとこで目立つからな、これ」

 乾いた笑いしか出てこない。我ながら派手な見た目だとは思うが、こんなところでも足を引くとは。

「あの、昨日は本当にありがとうございました」

 深々と頭を下げる星河。

「羽川先輩、お怪我はありませんでしたか?」

「ああ、君を突き飛ばした後、すぐに身体を引いてトラックの進路から出た。ギリギリだったが、特に怪我もなかったよ」

 実際にはトラックに直撃したのだが、幸い見られていなかったらしい。

「君の方こそ怪我はなかったか? 悪かったな、強目に突き飛ばしちまって」

「いえ、下は雪でしたから何とも………それに、多少の傷も命には代えられませんし」

「まあ、な。あれだけ派手に突っ込まれたら死んでもおかしくないしな」

「はい、おかげさまで命拾いしました。本当に、ありがとうございました」

 改めて深く頭を下げる星河は、本当に心からの感謝を述べているようだ。
 まさか、この僕が他人に感謝されるようになるとはな。
 人からされる感謝、か。
 何ていうかちょっと、良いもんだな。
 そんな感慨に浸っていた僕は、背後で妙にジトっとした視線を送ってくる優希姫に気付かなかった。

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