城に入れないから図書館へ

ジャスミンR

story 2

「こんにちは、蛍介。私覚えてる?」
『誰?』
公園の近くにあるアパートをライが貸してくれた。
僕はそこで暮らしていた。
この世界は実に素晴らしい。
まず、お金が無い。
金銭管理というものが存在しないのだ。
そして、食べ物や着るもの、家具、家電。
それら全て、物々交換で終わるのだ。
僕は、風船を沢山持っている。
その風船をどこで手に入れたかって言うと、
公園にいる、よくいるお姉さんに貰っているのだ
ライの言った通りとても美しい人で、
高嶺の花で、それはもう…と言った感じだ。

そして、今、玄関に見たことも無い女性が僕の家を尋ねてきた。
「ねぇ、忘れたの?」
『いや、見たことないし』
「ひどい人。セレナだよ 」
いやいや、どう見てもセレナじゃない。
セレナはもっと可愛くて、少し抜けてて、
この人は…全く別人だ。
なんというか、全てが完璧というオーラがある。
その完璧というオーラは、〈何をやってもできるよ?人生スーパーウルトライージモードだから!〉というオーラではなく、
偽るのが完璧な人・・・・・・・・というオーラ。何かを隠すオーラだ。
『お前、セレナじゃない』
「私はセレナよ」
『セレナの誕生日は?』
「4月1日」
違う。
『セレナは4月2日だ。偽物なら出て行ってくれ』
「おいおい、実の彼女をそんな追い返し方はないだろ?」
ふと、偽セレナの後ろから、ライが顔を覗かせた。
『ライ…なんだよ』
「ここは理想の世界ネバーランド忘れたのかい?彼女はセレナを完璧にした人だよ」
完璧にした人?
それはあれか、
『弱点を全て無くした、セレナがここに立っている偽セレナってこと?』
「そーゆー事。あと、“偽”って付けないほうがいいよ。ちゃんとしたセレナなんだから」
『わかった』
「蛍介」
なんだろう、この人に自分の名前を言われると悪寒がする。悪い事をしているような……あ、そうか、
浮気しているみたいに思えるからか。
公園のお姉さんもそうだけど、可愛い人ばかりだな。これが僕の理想の世界ネバーランドなんだ。
異性しか考えてないのかよ。
男子だから、許されるよな…多分。

セレナの区別をやっぱり付けたくて、
完璧なセレナを偽セレナと呼ぶことにする。
あれから、偽セレナと同居が始まった。
朝起きるとご飯が用意してあり、
なにか仕事をすることも無いため、家でゆっくり偽セレナと過ごす。そして、日が暮れてしまえば、
ご飯も、布団の用意も、お風呂も。全て用意されている。完璧な偽セレナ。これなら、ずっと居て欲しいな。全てが完璧。誰でも完璧な方がいいだろ?
「蛍介。もうすぐお風呂」
『んー、わかった。もう少し待って』
僕は今、この世界で流行っているゲームにどハマりしている。このラスボスを倒せば…
「蛍介。お風呂」
『待って、今、良いところ…』
「蛍介」
うるさいなぁ、少しの間だけいなくなってくれよ・・・・・・・・・・・・・・・
『入るから』
「………」
『……終わったぁ!今何時だよ…げ、11時!?あーどうしてセレナは言ってくれなかったんだよ』
机には、一人分の夕飯がポツンと置かれ、
偽セレナの姿はどこにもなかった。
一言謝った方がいいのか考えながら偽セレナを探す。しかし、家にいないのだ。
『セーレーナー?』
返事もなく、ただ、静まり返った家が怖くなった。
ったくどこに消えた?
こんなことで怒っているようなものなら、
完璧とは言えないな。 
外に出て、探しに行こう。
『セーレーナー?どこだー?』
「そんなに大声を出していると引かれるよ・・・・・蛍介」
『ライ。よく会うな。セレナがいないんだ』
「嗚呼、知っているよセレナは君の頭から消去・・されたから、消えたんだ」
『はぁ?』
僕の頭の中から消えた?
セレナは消えていない。
頭の中に記憶もしっかりとある。
それなのに、消えたなんておかしい。
「君は1回でもセレナが邪魔だと思った。違うかい?」
『それは……』
確かに1度だけだから消えたのか…いや、なんでだよ。
「ここは君の世界なんだから、欲しいと思ったものしかこの世界にはない。ゲームや、服、人さえもいらないと思った瞬間消えてしまう。だから、セレナも消えたんだよ」
『……そんなのおかしくないか?一瞬思っただけでも消えてしまうのかよ』
「そうだよ。嫌な思いはしないように、この世界には幸せしか満ち溢れないようになっているんだ」
『そんな………じゃあセレナは?』
「もう二度と戻ってこない」 
『………………………』
嘘だろ、あんなに完璧だった偽セレナ。
戻ってこないのか。
案外、セレナよりも偽セレナの方が良かったな…
「そんなことを思ってしまったらセレナの記憶自体が消えてしまうよ?」
『どうして?』
「ここにいて欲しくないって思って、すぐにいて欲しいと思う。矛盾してるよね?その矛盾が分からなくなって、その記憶自体を消してしまうんだ」
『……なんだよそれ』
それじゃあこの世界は、
完璧な世界ネバーランドでしか無いのか。
「素敵な世界だろう?」
『完璧すぎていて面白くない』
「そうかい?完璧だからこそ、不満を持たないのだろう?」
『それはそうだが……』
なんだ?この分からない不満は?
「そうだ明日、この世界の住人を紹介するよ」
『あ、嗚呼』
なんだ…この、変な気持ちは…
セレナに会いたい?
違う。
元の世界に戻りたい?
…違う。
なんだよ、これ。






拝啓
  榎本 蛍介様。
本日をもちまして、貴方を理想の世界ネバーランドの住人とし、また、この世界の王様・・として迎え入れたことをここに記します。
敬具

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