火色の君と青色の私。

タマ犬うさぎ

王都

朝だ。宿の人達が作ってくれた朝食をいただき。俺は王都を巡ることにした。

とは言っても行く場所など決まっていない。

「さて、どうしようか。」

俺がそう言うと、レアが反応する。

『行く場所が決まっていないならば、今日は私に任せてくれないか?』

というわけで、俺はレアの言う通りに言われた場所に向かう。

街路を進んで人混みをかき分け路地へと入り込む。

『そこだ』

そう言われて、俺は立ち止まった。
ここは路地のど真ん中

「なんだ?何も無いぞ。」

『下にあるのさ。』

「下って・・・地下?」

『そこから入ってもらえないかい?』

すぐそばに下水道らしきものがある。恐らくこれのことを言っているのだろう。

「入るのか?これにぃ?」

『今日は任せてくれると言っただろう?』

俺は渋々下水道への蓋を開いて中へと入る。
その穴はギリギリ大人一人が入れる程度の狭い穴だ。
酷い匂いだ、鼻が詰まる。

「ここに何があるんだよ・・・」

『・・・もっと下だな。』

嘘だろ。死んじゃうよ。鼻が。

『王都に入った時からなんだか違和感があったんだ。上手く言えないけど、何かがここにある気がするんだ。』 

俺達は水路の奥へと進み続ける。
道は入り乱れて、既にかなり深い場所まで潜っているんじゃないだろうか。

やべぇ、帰り道覚えてねぇよ・・・
それにしても。

「随分深いな。下水道ってこんなに道必要なのか?」


『いいや、どうだろうね。その辺の知識は私にはないけど・・・確かに不自然に広がってる気がする。』

それから歩み続けて少し経った頃。

『ん?』

「どうした?」

『いや、そこに死体があるから・・・』

レアが炎を作り出して場所をうったえる。
そこには本当に死体があった。

長い間放置されているのか、ほとんどが白骨化して性別すらも判別できない。

だが恐らく女なのだろう。長い髪がそこらに散らばっている。

「なんだよ、これ。」

人間の死体を見たのは初めてだ。悪臭と相まって余計に気分が悪くなってくる。

『かなり近づいてるよ。ていうか、多分そこの角を曲がった先だ。』

ようやくか、俺は言われたとおり角を曲がる。そこには綺麗に装飾された鉄製の両扉があった。

「なんでこんな所にこんなものが・・・?」

扉をの取手を掴んで開こうとするも、鍵がかかっていて開かない。

「開かないよレア」

『少し離れるんだ。』

そう言われて俺は下がると、レアが扉を溶かしてしまった。

「・・・・・・やりすぎだろ」

『平気さ、僕達は迷っただけ。その先に溶けた扉があったから入った。それだけさ。』

全くなんでやつだ。

ポッカリと穴の空いた扉を潜っていく。

中は真っ暗で何も見えない状態だった。

「レア」

俺がそう一言いうと、レアは何も言わずに炎の玉を宙に作り出す。

「!」

そこは、入ってきた場所からは想像もできないほど神秘的な場所だった。

壁にはまるで宝石のようなものが大量に埋め込まれていて、炎の光に反射して綺麗に輝いている。

その空間の中心には、ポツリと大きめの、大理石のようなもので出来た台座がある。

そしてその上には棺桶が置いてあり中には・・・。

「・・・・・・人だ。」

『女の子だね、それも生きてる。』

「まさか探してたものってこの娘のことか?」

『・・・正に、この子から。何か引き寄せられるような力を感じるんだ・・・。』

見た目は普通の女の子だ。短めの銀髪に白いドレス。だが、この場にいる時点で明らかに普通ではないのだろう。

『・・・!アル!人が来る。隠れて!』

「嘘だろ!?隠れるったってどこに・・・!」

俺は焦り、台座の後ろに背をつける形でしゃがみこむ。

耳をすませば、確かに足音が聞こえた。
二人分の足音だ。自分らが入ってきた下水道からは真逆の方向から音がする。

よく見ればそこには階段があり、その上から足音が響いていた。

少しずつ足音が近づいてくる。やがて音がすぐそばまで来た時、話し声が聞こえた。

「これが・・・かの神具【無限】か。」

小太りの男が言う。
源泉とはなんの事だ?

「作用にございます。今はこれが放つエネルギーを特殊な魔鉄鋼で作られた棺桶で封じてはいます・・・。この宝具を使えば必ずや新たな《人造勇者》を作り出すことが可能でしょう。」

そして続けて長槍を背にかけた金髪の男が喋った。

「なるほど・・・・・・これなら確かに期待出来そうではあるな。」

「・・・!では投資を!」

「うむ、受け入れよう。」

神具?人造勇者?、奴らの言う神具ってのは棺桶に入った娘のことを言っているのか?

だとしたらかなり聞いちゃいけない話な気がしてきた。とっととずらかってしまいたい衝動に駆られる。

そんなことを思っていると、小太りの男が口を開く。

「それにしてもここは妙に臭うな。下水道と繋がっているからか?」

「臭う・・・?そんなはずは・・・・・・なっ!?」

まずい、レアが壊した扉を見られた。

金髪の男は背にかけた槍を手に取って何やら呪文めいた言葉を呟く。

嫌な予感がする。

それと同時に、彼が持っていた槍が迷わず俺をめがけて飛んできた。

「あっぶね!!!!!」

槍は胴体に突き刺さる直前ギリギリで止めることが出来たが・・・

「・・・貴様何者だ?」

「あー、ごめんなさーい。俺ぇ、なんか迷っちゃったみたいでぇー、出口ってこっちであってますぅ?」

「ふざけたことを・・・どうせこの神具が目当てなのだろう?」

金髪の男が指さす。そこにはやはり棺桶に入った少女がいた。

これは・・・あの娘も回収して逃げた方がいいのか・・・?

『私としては、全員焼き殺して証拠隠滅するのが1番だと思うけど。』

「ほんとお前エグいよなぁ、嫌いじゃないぜ。でも却下だけど!」

「何を一人でブツブツとっ!!」

金髪の男が槍を一突き、それをひらりと回避してすぐさま蹴りを入れる。

金髪はその衝撃で天井まで吹っ飛び、さながらドラ〇エの室内ルーラのような状態になった。

「・・・・・・っ!?貴様・・・!!」

「やべっ、おこ?」

金髪の男が見るからに必殺技でも放つようなポーズを取っている。

山貫く一突きシディア!!!!」

奴がそう叫ぶと、手に持っていた槍が爆発と衝撃をまき散らしながら凄まじい速度で飛んでくる。

俺はそれを受け止めるが、あまりの威力に仰け反りそうになる。

危なかったので槍を背後に受け流すことで難をかいくぐった。

「これを掻い潜るとは・・・なかなかやるな。」

「はっ、そりゃどうも」

ふふっ、こんな感じの空気でこういうセリフ、少し言ってみたかった。

だがやつは気がついていない。
今自分が放った技で、少女が入った棺桶が台座から落ち開いているのを。

少女は棺桶から出るのとほぼ同時に目が覚めたようだ。必死になって立ち上がろうとしている。

そんな中で、俺の発達した聴覚が確かに拾った彼女の声。

「・・・たす・・・けて。」

それは、誰に対してでもない。まるで神に願うかのような、もはや祈りと同義だった。

「おいおい」

俺はすぐさま倒れている彼女元へと飛ぶように駆けつけ。持ち上げる。

「こんな可愛い女の子に、そんなこと言われたら助けちゃうだろ。計画的犯行かよ。」

それを見た金髪が、焦ったように俺へと槍を構える。そして再び先程の技

いや、先ほどよりも強力なものを放とうとしている。

「レアっ!守れ!!」

『はいよ了解!!』

その掛け声と同時に、俺と男達の間に分厚い炎の壁が出来上がる。

それはもう、炎の先が見えないくらい分厚い壁だ。それつまり。

「逃げるが勝ち!!!」

「ぐっ・・・・・・きっさまァァァァァァァ!!!!」

少女をお姫様抱っこしながら、下水道を走る。

うおぉ柔けぇ・・・いやいや今それどころじゃない!

「レア道覚えてる!?」

『大丈夫だよ、炎で目印付けておいたから。君と一緒にしないでくれ。』

「ひどい!俺だって頑張ってるのに!」

レアが付けてくれた目印を辿って、全力疾走で元の道を引き返す。

思えば異世界に来てから全力疾走したことは無い。走れば走るほど、グングンと速度が上がっていく。

そして研ぎ澄まされた五感でそれをコントロール出来ているのは自分でも驚きだ。

俺は加速を続けた。そしていつの間にか
「あれ?俺って新幹線だっけ?」
とか思うくらいの速度に達していた。

やがてあの場所から遠ざかった頃。

『外に出るのは不味いんじゃない?』

「なんで?」

『私達が外に出れば顔を見られる。さっきの男はすぐに君を探し始めるだろう。《銀髪の少女を背負った男》なんてそうそういない、見れば一目で分かる。そのキーワードで指名手配なんてされたら・・・。』

なるほど。

俺は適当な場所で止まって少女を下ろす。

『ひどい臭いだけど、ここ以上に入り組んでて安全な場所は多分ない。ここから出るのは夜にしよう。』

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