火色の君と青色の私。
森の中にて。
森は随分と深いようで。俺がここに来てから数時間は歩き続けているというのに人里どころか影も痕跡も見当たらない。
肌寒かった気温は真上まで登りきった太陽によってすっかり温められ寧ろ丁度いいくらいになっていた。
あのコボルト達以外に知能のありそうな生き物は未だに見ていない。
いい加減にこの景色にも飽きてきた。
話し相手がいるだけマシだろうか。
『そういえば』
そんなことを考えていると、相方の方が一つ口を開く。
『まだ父上の名を聞いていないな、父上父上と、これではあまりにも呼びにくい。』
「あー・・・・・・」
そう言われてみれば、自分の名前が思い浮かばない。今更気がつくことでもないだろうに。
「全然考えてなかったんだけどさ、転生?してから自分の名前がこれっぽっちも思い出せないんだよね。そういうお前の名前は?」
名前が無ければ不便だ。呼び方が分からないからずっと相方なんて呼んでいたが違和感しかない。
『はは、面白いことを言う。私はこれでも産まれたばかりの身。言わば赤子だ。名前なんてあるはずもないだろう?』
そうだ、と続けて相方。
『どうせなら父上が考えてはくれないか?呼び名がなければ不便だろう?代わりに私は父上の名を考えようじゃないか。』
なるほど、そう来たか。
「よし、分かった。お前の名前は【レア】だ。」
『レア?その心は?』
「お前は俺から産まれたなんて言ってるけど。お前がここに居るのはレアルっつーおっさんの加護のおかげだろ?だからおっさんから取ってレアだ。」
『ふむ・・・なるほど、呼びやすくて良い名だ。』
表情などは声だけなので分からないが、なるほど、満足してくれたのならば良かった。
『それなら父上の名は・・・【アル】なんて言うのはどうだ?』
「「レアル」だから?」
『そういう事だ。』
なるほど、覚えやすくていい名前だ。
「そうか、ならこれから長い付き合いになるだろう、よろしくレア」
『こちらこそよろしく頼む、アル』
レア・・・・・・彼女(おそらく)は自分のことを産まれたばかりの赤子と例えたが、色々なことを知っていた。彼女が言うには、その知識は自分という存在を作り出したレアルが自分を手助けするために持たせたのだと。
聞きたいことは山ほどあった。だから俺はその中でも一番に重要な「スキル」についての話を聞いていた。
種族、スキル、ユニークスキル、加護、称号は文字通りの意味。
問題はスキルのもたらす恩恵だ。
「異界の知恵と特技は分かる。世界渡り耐性ってのも・・・なんとなく。冷静と鋼の心も、多分似たような効果なんだろう。加護はひとまず置いとくとして。分からないのはこの【晶剣使い 青】ってのと【ランダムコピー】だ。」
これはどんな効果か?と問うと、レアは即答で分からないと言った。
『スキルって言うものはね、生きてる間に君が培った、言わば経験だ。対してユニークスキルはどちらかと言えば才能そのもの。才能ってのは人それぞれでね、名前が被ることはあっても全く同じとは限らないんだ。』
効果を知りたいなら試してみろとのことで。
近くにあった川でスキルを使用してみることになった。
「そもそもスキルってどう使うんだ?」
『・・・君は息をするのに理屈がいるのかい?』
「そりゃ、息をすることほど簡単ってことか?」
『そんな感じ、念じる必要すらない。ただ使おうとするだけでいい。君は既に使い方を知ってるんだから。』
「なら・・・」
まずは【ランダムコピー】を試してみる。が、何も起こらない。だが確実に身体から何か見えない力のようなものが働いたという実感だけはあった。
「・・・・・・なにか、変わったのか?」
『変わらないね』
「・・・・・・おい」
俺が問い詰めると、レアは焦ったような素振りで弁解する。
『は、発現はしてたよ。発現は。』
「じゃあなんで・・・・・・ん?」
話していて気が付かなかったが、何かが近づいている。ズルズルと這うような音を立てて。
音のする方向へと視線を向けると、そこにはナメクジがいた。
それはもうとても大きなナメクジが。
「うわぁ・・・・・・」
そのビジュアルに思わず息を止める。
『丁度いいや、あれに向けて使ってみなよ。もしかしたら攻撃する類のものなのかも知れないよ?』
正直関わりたくもなかったが、言われた通り俺は巨大ナメクジに向けてスキルを放つ。
すると、ナメクジの身体からなにか白くてほんのり光っている球体が飛び出て俺の身体に入り込んで・・・・・・
「ぎゃぁぁ!なんか入ったぁあ!!?!?」
『落ち着いて!今・・・・・・あっほらこれすごいよ!ステータス見てみなよ!』
そう言われて、俺はナメクジから距離を取りつつ歯を食いしばってステータスを覗く。
【スキル】
異界の知恵Lv‐
異界の特技Lv-
世界渡り耐性Lv-
冷静Lv-
粘液放出Lv4 《00:04:42》
うおーいなんかキモイの増えてるんですけどー
『これ、相手のスキルをコピーして一時的に使えるスキルだったんだよ。せっかくだから使ってみたら?』
なんだか書いてあることからして気持ちが悪い気がするが・・・確かに興味が無いわけではなかったので使用してみる。
「・・・・・・おらっ!」
スキルを使う時の感覚が流れる。
それと同時に前へと向けた手から文字通り粘液が放たれた。
ボッ、ブビュッ!ビュッ!
『・・・・・・』
「やっぱりじゃん!予想通りだよクソッ!」
案外弾丸のように出てくるとか考えていたら大間違い。もろ汚い音を出しながら特に意味の無い粘液が手から出ただけだった。
『なんてものを見せるんだい・・・』
「お前がやってみろって言ったんだろ白々しい!」
まあともかくこれでわかった。このスキルは指定した対象のスキルを一時的にコピーするというスキルだ。聞くだけなら強力そうに見えるが、名前にもある通り奪えるスキルはランダムだし、それが必ずしも使えるものとは限らないのがネック。
「使いようによっては・・・ワンチャンなくもないのか・・・?」
『それよりもほら、次々。』
次は【晶剣使い 青】というスキル。
これはさっきコボルトに襲われた時、無意識に軽く使っていたが・・・あの剣は使い終わると同時に散るように消えてしまった。
『ただ剣を召喚して上手く振り回せるだけならスキルで十分。これはユニークスキルだ。剣も、このスキル自体も特別なものでなくてはおかしいんだ。』
先程と同じように、いや、今度は一度使っている分早く。
自分の手を中心に大気から青い光を放つ粒子が現れ、それが収束し剣を形取る。
気がつけば、あの剣が再び自分の手に握られていた。
「・・・・・・やっぱ不思議だ。この剣、重さが全くない。剣を握ってるっていう感覚はあるのに・・・・・・。」
剣を縦に振る。
軽く振っただけなのに、その一閃は恐ろしい程の速度で空気を切り裂く。
「そう言えば。」
『そう言えば?』
「すっかり忘れてたんだけど、気絶する前この剣を使ったら。変なものが見えたんだ。」
俺はあの時起こったことを細かくレアに話す。
『・・・・・・んー・・・。』
「なんだよ」
『攻撃した相手の記憶を覗き見する力・・・なんだか弱すぎる気がするんだ。掠っただけなんだろう?やっぱり試してみればいい、ほら、そこの・・・ナメクジで。』
「おいおい、バカ言うなよ。掠っただけで気絶するほどの効力だぜ?あんな経験もうごめんだ。試すにしてもまた次の機会にしようぜ。」
俺達は今、明日を生き残る事さえ怪しい身。食料もなければ安全にキャンプもとい野宿すらできるか分からない。炎は御本人がいるので、沸騰させれば水分を補給することに問題はないが・・・・・・。
『ねぇ。』
レアが呼びかける。
「なんだよ、今考え事・・・」
『川があるならさ、近くに村や街もあるんじゃないかな。そうでなくても人の痕跡を見つけることが出来れば・・・。』
「・・・・・・・・・あっ。」
盲点だった。
「いや、考えてたんだよ?うん。それそれそう。言おうとしてたの、それ。ね?」
『はいはい。』
「おい、本当だって、いやマジで!ほら、とっとと行こうぜ?そう、上流に、登ってこう!ほら!」
本当に、先が思いやられる。
肌寒かった気温は真上まで登りきった太陽によってすっかり温められ寧ろ丁度いいくらいになっていた。
あのコボルト達以外に知能のありそうな生き物は未だに見ていない。
いい加減にこの景色にも飽きてきた。
話し相手がいるだけマシだろうか。
『そういえば』
そんなことを考えていると、相方の方が一つ口を開く。
『まだ父上の名を聞いていないな、父上父上と、これではあまりにも呼びにくい。』
「あー・・・・・・」
そう言われてみれば、自分の名前が思い浮かばない。今更気がつくことでもないだろうに。
「全然考えてなかったんだけどさ、転生?してから自分の名前がこれっぽっちも思い出せないんだよね。そういうお前の名前は?」
名前が無ければ不便だ。呼び方が分からないからずっと相方なんて呼んでいたが違和感しかない。
『はは、面白いことを言う。私はこれでも産まれたばかりの身。言わば赤子だ。名前なんてあるはずもないだろう?』
そうだ、と続けて相方。
『どうせなら父上が考えてはくれないか?呼び名がなければ不便だろう?代わりに私は父上の名を考えようじゃないか。』
なるほど、そう来たか。
「よし、分かった。お前の名前は【レア】だ。」
『レア?その心は?』
「お前は俺から産まれたなんて言ってるけど。お前がここに居るのはレアルっつーおっさんの加護のおかげだろ?だからおっさんから取ってレアだ。」
『ふむ・・・なるほど、呼びやすくて良い名だ。』
表情などは声だけなので分からないが、なるほど、満足してくれたのならば良かった。
『それなら父上の名は・・・【アル】なんて言うのはどうだ?』
「「レアル」だから?」
『そういう事だ。』
なるほど、覚えやすくていい名前だ。
「そうか、ならこれから長い付き合いになるだろう、よろしくレア」
『こちらこそよろしく頼む、アル』
レア・・・・・・彼女(おそらく)は自分のことを産まれたばかりの赤子と例えたが、色々なことを知っていた。彼女が言うには、その知識は自分という存在を作り出したレアルが自分を手助けするために持たせたのだと。
聞きたいことは山ほどあった。だから俺はその中でも一番に重要な「スキル」についての話を聞いていた。
種族、スキル、ユニークスキル、加護、称号は文字通りの意味。
問題はスキルのもたらす恩恵だ。
「異界の知恵と特技は分かる。世界渡り耐性ってのも・・・なんとなく。冷静と鋼の心も、多分似たような効果なんだろう。加護はひとまず置いとくとして。分からないのはこの【晶剣使い 青】ってのと【ランダムコピー】だ。」
これはどんな効果か?と問うと、レアは即答で分からないと言った。
『スキルって言うものはね、生きてる間に君が培った、言わば経験だ。対してユニークスキルはどちらかと言えば才能そのもの。才能ってのは人それぞれでね、名前が被ることはあっても全く同じとは限らないんだ。』
効果を知りたいなら試してみろとのことで。
近くにあった川でスキルを使用してみることになった。
「そもそもスキルってどう使うんだ?」
『・・・君は息をするのに理屈がいるのかい?』
「そりゃ、息をすることほど簡単ってことか?」
『そんな感じ、念じる必要すらない。ただ使おうとするだけでいい。君は既に使い方を知ってるんだから。』
「なら・・・」
まずは【ランダムコピー】を試してみる。が、何も起こらない。だが確実に身体から何か見えない力のようなものが働いたという実感だけはあった。
「・・・・・・なにか、変わったのか?」
『変わらないね』
「・・・・・・おい」
俺が問い詰めると、レアは焦ったような素振りで弁解する。
『は、発現はしてたよ。発現は。』
「じゃあなんで・・・・・・ん?」
話していて気が付かなかったが、何かが近づいている。ズルズルと這うような音を立てて。
音のする方向へと視線を向けると、そこにはナメクジがいた。
それはもうとても大きなナメクジが。
「うわぁ・・・・・・」
そのビジュアルに思わず息を止める。
『丁度いいや、あれに向けて使ってみなよ。もしかしたら攻撃する類のものなのかも知れないよ?』
正直関わりたくもなかったが、言われた通り俺は巨大ナメクジに向けてスキルを放つ。
すると、ナメクジの身体からなにか白くてほんのり光っている球体が飛び出て俺の身体に入り込んで・・・・・・
「ぎゃぁぁ!なんか入ったぁあ!!?!?」
『落ち着いて!今・・・・・・あっほらこれすごいよ!ステータス見てみなよ!』
そう言われて、俺はナメクジから距離を取りつつ歯を食いしばってステータスを覗く。
【スキル】
異界の知恵Lv‐
異界の特技Lv-
世界渡り耐性Lv-
冷静Lv-
粘液放出Lv4 《00:04:42》
うおーいなんかキモイの増えてるんですけどー
『これ、相手のスキルをコピーして一時的に使えるスキルだったんだよ。せっかくだから使ってみたら?』
なんだか書いてあることからして気持ちが悪い気がするが・・・確かに興味が無いわけではなかったので使用してみる。
「・・・・・・おらっ!」
スキルを使う時の感覚が流れる。
それと同時に前へと向けた手から文字通り粘液が放たれた。
ボッ、ブビュッ!ビュッ!
『・・・・・・』
「やっぱりじゃん!予想通りだよクソッ!」
案外弾丸のように出てくるとか考えていたら大間違い。もろ汚い音を出しながら特に意味の無い粘液が手から出ただけだった。
『なんてものを見せるんだい・・・』
「お前がやってみろって言ったんだろ白々しい!」
まあともかくこれでわかった。このスキルは指定した対象のスキルを一時的にコピーするというスキルだ。聞くだけなら強力そうに見えるが、名前にもある通り奪えるスキルはランダムだし、それが必ずしも使えるものとは限らないのがネック。
「使いようによっては・・・ワンチャンなくもないのか・・・?」
『それよりもほら、次々。』
次は【晶剣使い 青】というスキル。
これはさっきコボルトに襲われた時、無意識に軽く使っていたが・・・あの剣は使い終わると同時に散るように消えてしまった。
『ただ剣を召喚して上手く振り回せるだけならスキルで十分。これはユニークスキルだ。剣も、このスキル自体も特別なものでなくてはおかしいんだ。』
先程と同じように、いや、今度は一度使っている分早く。
自分の手を中心に大気から青い光を放つ粒子が現れ、それが収束し剣を形取る。
気がつけば、あの剣が再び自分の手に握られていた。
「・・・・・・やっぱ不思議だ。この剣、重さが全くない。剣を握ってるっていう感覚はあるのに・・・・・・。」
剣を縦に振る。
軽く振っただけなのに、その一閃は恐ろしい程の速度で空気を切り裂く。
「そう言えば。」
『そう言えば?』
「すっかり忘れてたんだけど、気絶する前この剣を使ったら。変なものが見えたんだ。」
俺はあの時起こったことを細かくレアに話す。
『・・・・・・んー・・・。』
「なんだよ」
『攻撃した相手の記憶を覗き見する力・・・なんだか弱すぎる気がするんだ。掠っただけなんだろう?やっぱり試してみればいい、ほら、そこの・・・ナメクジで。』
「おいおい、バカ言うなよ。掠っただけで気絶するほどの効力だぜ?あんな経験もうごめんだ。試すにしてもまた次の機会にしようぜ。」
俺達は今、明日を生き残る事さえ怪しい身。食料もなければ安全にキャンプもとい野宿すらできるか分からない。炎は御本人がいるので、沸騰させれば水分を補給することに問題はないが・・・・・・。
『ねぇ。』
レアが呼びかける。
「なんだよ、今考え事・・・」
『川があるならさ、近くに村や街もあるんじゃないかな。そうでなくても人の痕跡を見つけることが出来れば・・・。』
「・・・・・・・・・あっ。」
盲点だった。
「いや、考えてたんだよ?うん。それそれそう。言おうとしてたの、それ。ね?」
『はいはい。』
「おい、本当だって、いやマジで!ほら、とっとと行こうぜ?そう、上流に、登ってこう!ほら!」
本当に、先が思いやられる。
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