太陽が無い世界

紫陽花色の夢

第一章 ~戦友、そして敵~

俺は夏神 紅夜。訳あって【国家機密能力悪用犯討伐隊】に入隊している。

しかし──現在午前5時。
いや、こんな時間から見回りとかする必要あんのかよッ!

だけど、こんな時間から見回りとかしなきゃいけない理由はちゃんとある。
なんと、ここ俺の出身地兼在宅地である東京都○○区は…犯罪発生率No.1なんです…。
もうね?月に何十回も起きてんのよ…。
実際俺の両親も偶々出くわした爆発テロに巻き込まれて他界してるからな。

まぁそんなのはどうでも良いんだよ。全くもってこんなに今日は平和なのにな…。

「や、やめてください…っ…!」
「やめてほしいんならとっとと金出せよ!」

平和とか、軽々しく思うのは良くないな、うん。反省。

どういう状況か説明すると、こんな朝っぱらから大通りのど真ん中でガリ勉君が不良に金をせびられている状況だ。

「…は?」

こんな状況にも関わらず周りの人々は気付いていないフリをしたり、挙げ句の果てにスマホで写真を撮っている奴がくらいだ。

そんな様子に俺は声を漏らしてしまった。
全く、いつからこんな冷めた世の中になったんだか…腐っちまってんねぇ…。
まぁ…こんな腐った世界の住人である俺も腐っていることに違いは無いんだろう。
あ、腐るってあっちの意味じゃないよ?

ま、そんなどうでも良いことは置いといて、あの不良は能力者じゃ無いみたいだし、ご近所さんの秩序を乱す者は成敗せねば。

「なぁ、やめときなよ。そのガリ勉君が可哀想だぜ?」

不良の肩をトントン、と軽く叩いては純粋な満面の笑顔を浮かべながらそう言ってみる。

「あ?なんだテメェは…」

不良がこちらを振り向くやいなや威圧を掛けるようにそう言いながら胸倉を掴んでくる。
いや、まぁ別に怖くないんだけど。

不良の注意がこちらに向いた隙にガリ勉君は急いで辺りに散らばった荷物──ほとんど教本──を拾い集めては素早くお辞儀をして走り去っていく。
ん…?なんかあの顔どっかでみたような…?

「チッ、逃がしたか…仕方ねェ、テメェ金出せよ」
「は?そんなに金がほしいなら自分で稼げよ」

嫌みったらしく笑う不良に、先程まで浮かべていた笑顔をすっと消し、冷たい表情と声音で言い放つ。

「なんだテメェ!」

あからさまに怒る不良は拳を振るってきた…が、“暁”の影響で身体能力が向上していると思われる俺は簡単に避けることが出来た。
もう面倒だし適当に終わらせるか。

「やだなぁ、俺は平和主義で争い事苦手なんですけど~」

愛想笑いを浮かべながらそう言ってやった。
まぁ嘘なんだけどね。てへぺろ。

「あ゙?なめてんのか?」
「なめてないですよ」

しばらくそんな風にやりとりを続けていると、なんだかもう一殴り来そうな気がしてきた。
まぁ避けるけど。

「あはは、殴るならお手柔らかに、ね?」
「ふざけんじゃねぇ!」

やっぱり予想通り拳が飛んできた。だから今度は避けずに右の手のひらで受け止めてみた。
なんだ、案外やわい。

「おや?そりゃちょいとお手柔らか過ぎませんかねぇ?」

皮肉を述べながらここで俺は必殺技を繰り出すことにした。
そう、男に対しての必殺技“股間蹴り”である。

痛みのあまり声も出ない様子の不良が苦しみ悶えている様子を見て、つい悪党のような笑顔を浮かべてしまった。
いけないいけない、どっちかと言えば正義なんだから。

そして俺は俺の黒い部分が、いつの間にか出来ていた周囲の人集りにバレないうちに、何事も無かったかのように見回りを再開する。

しかしその時俺は気付いていなかった。先程の光景を全てビルの上から眺めていた、今後自分の敵と成りうる存在がいたことに。

コメント

コメントを書く

「現代アクション」の人気作品

書籍化作品