異世界の民族問題に現世界のならず者が参加します

ノベルバユーザー239614

漂流物は削れ合う

「はぁ、全く、なんで隊長はこんな所に俺たちを仕向けたのかねぇ。」

「………黙れ。」

「へいへい、頭のお固い戦場叩き上げの軍人さんは怖いもんだ。」

巴谷の外れにある大きな森の中を2人の男が歩いていた。
魔物が蔓延る土地だが男たちは悠々と歩いていた。

2人の男は突撃銃で武装していて、いかにも軍人という感じだったが、明らかに雰囲気がおかしかった。

何体か魔物が襲いかかったが、銃なしで無力化され、その魔物の首は2人のベルトに紐で括りつけられている。

「それにしてもここが例の場所かよ、こんな何もない所で『大佐』はアレを実行する気か?」

「大佐がどこで何をしようとも我々はあの赤の夢を見るために大佐に付き従うだけだ。」

「改造手術を受けても頭は堅物のままだな。その感じじゃコカインはやってないみたいだな。」

歩きながら訳の分からない話をしつつ、2人はホルツの潜伏する村に向かっていった。












ホルツ「何故だか知らんが突然こいつらの話が理解できるようになったぞ?」

子供「おーけーおじさん、なんで急に喋れるようになったの?」

ホルツは助けた子供の家にしばらく泊めてもらうことになっていた。
しかし言葉が通じなかったはずのホルツの言葉が巴谷に来て1日で通じるようになっていた。
その理由はホルツにもホルツを匿ってくれた家族にも分からなかった。

ホルツ「だからOKおじさんじゃないって。」

ホルツは目の前に広がるご馳走を頬張りながら助けた子供と喋っている。

ホルツ「なんか小便がしたいな。トイレは何処にあるんですか?」

母「といれ?用を足すなら厠ですよ?厠はうちのすぐ裏にありますから。」

ホルツ「すみませんね。」

モジモジしながらホルツは戸を開けて家から出ていった。

母「お口に合わなかったのかしらねぇ。」

子供「大丈夫だよ、おじさんもぐもぐ食べてたもの。」

「こんにちはー」

扉の向こうから声が聞こえた。
聞いた途端に拍子抜けするような声だった。

母「はい?どちら様で?」

「いや、少しばかりここらの人に用がありましてね。」













ホルツ「ふぅ、スッキリした。しかし臭いトイレだ。未だに水道を敷いてないのか?」

ホルツは小便を終えて身震いさせながら厠から出てきた。
ホルツは軍人であるため、トイレに行くときでも最低限ピストルは持ち歩いていた。

ホルツ「食事中にトイレなんて行ってしまってすみませ…」

ホルツが戸を開けるとさっきまで笑顔で食事を振舞ってくれていた2人がいなくなっていた。
代わりに見慣れない服を着た背の高い白人が囲炉裏の前に座り込んでいた。

ホルツ「お前ら……軍人か。」

「お?こっちの世界にもいるじゃねえか。どうなってんだ?」

2人はホルツが居ることを知らなかったようだった。

「……仕方ない、殺すぞ。」

「そう来なきゃな、兄弟!!」

2人はナイフでホルツを切りつけようとしてきた。
しかし、その刃はホルツまで届かなかった。
ホルツの右足のホルスターにぶら下げていた拳銃がいつの間にかホルツの右手に握られていた。

ホルツ「……俺にナイフを向けるな。」

2人の心臓部には弾丸がめり込んだあとが見える。

ホルツ「手前らが何者か知らないが俺を殺そうとしたんだ、悪く思うなよ。」

「ふふ、何者か知んねえが強いなオッサン。」

ホルツ「……なんだ?」

「はぁ、コイツは我々の目的のためには厄介すぎる。」

2人の男は心臓部から煙をふかしながら立っていた。
軽い口調の男は胸に鉄板を入れていて助かっていたようだった。
物静かな男は銃創から血を垂れ流していた。

ホルツ(あの軽いのは運が良かったようだな、だがあの静かな奴は確実に死んでいたはずだ。)

口調の軽い男はいくら鉄板を入れていたといっても45口径の弾丸をもろに受けてダメージを受けていたようだった。

「お前は肝心なときに深手をおうな。しばらく座ってろ。」

「すまねえな、そうさせてもらうぜ。」

「で、初めまして、俺はバルカバン・レーチン。コイツはニコラス・ゴルブノスフ。」

ホルツ「……ロシア軍人か。」

バル「正確にはソヴィエトの軍人だ。」

ホルツ「ソヴィエト?そんな物はとうの昔に消えたはずだが?」

バル「成程、大佐のおっしゃられていた通りだ、つまり貴様は我々よりも未来の人間という事だな。」

ホルツ「……」

バル「その沈黙、答えとして受け取っておこう。」

ホルツ「あの親子をどこへやった?」

ニコ「アイツらは殺したぞ?悪いがこれも命令なんでな。」

ホルツ「そうか。」

ニコ「おや?あの親子に思い入れはなかったのか?返事が軽過ぎないか?」

ホルツ「そうか?」

ニコ「そうだよ。もしかして俺が親子を殺したことを怒っているのか?まさかな、だってアンタも俺たちと同じで人を殺してきた…」

ホルツ「そうだ。」

ズドドン!!

連続した銃声が響いた。
気がつけばホルツの足元には煙を吹く空薬莢が転がっていた。
しかし、ニコラスは傷を負っていなかった。

ホルツ「なるほどな、それが貴様の姿か。」

胸を抑えてしゃがみこむニコラスの前に明らかに様子が変わったバルカバンが立っていた。
バルカバンの右半身に何かオーラのようなものがまとわりついているように見えた。

やがてそれは鮮明な形となり、狼のような姿となってホルツの目に映った。

ホルツ「かつてソ連が極秘に計画していた人狼を見つけだし、軍人として活用するプログラム。冷戦後NATOが名付けた英語表記の作戦名は『サーチウルフマン』。ロシア語『ヴコドラク作戦』による兵士か!!」

バル「正確には人狼となった兵士って所なのだが、この際どうでも良い。」

ホルツ「人間を超越した存在と殺し合いをすることになるとはな、正規軍ではこんな体験は出来ないところだ。」

バル「非正規軍?傭兵、あるいは民兵、私兵か。」

ホルツ「そんな所だ。さて、話はそこまでにしよう。お前のような人外をどうしても狩りたくなった!!」

バル「かかってこい!!」





















紅葉「!!」

レイモン「どうしたんや姉ちゃん?」

紅葉「私たち以外に……人狼が…」

紅葉は突然人の集落がある方向へ向かって走り出した。
まるで何かを感じとったかのように。

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