ガンスリンガー

限界集落村人

17

大佐の怒りは爆発寸前になっていた。
先日送られてきた王都からの書状。内容は技術力を提供せよとの事だった。
当然そんな事をすれば、今までの戦いのように簡単には行かなくなってしまう。
しかし領主ユーリーはこれに応じ、銃火器10000万挺を王に献上せよと大佐に命令を出した。だがこの要求を大佐は拒否し、俺たちを招集した。
軍師タヌーアは大佐に領主ユーリーに代わり、領主の地位につく事を進言した。それはつまり、領主ユーリーを殺して14地区を乗っ取るという意味。つまりそれは王国に対する反逆の意味でもある。
俺たちは反対もせず、それに賛成した。理由は特にない。ただ俺たちは戦う事を望んだ。
一方で、貴族連合はゲルマン王国に対し権力の回復を要求するが、交渉すら受け入れられず、貴族連合はついに王国に対し独立を宣言し、貴族が所有する土地は独立した。
貴族連合の国主はマルス・ディ・ティアンツ。

こちらの世界に来て2年。
城では大佐と領主ユーリーが面会中。その間俺たちはいつでも出動できるように態勢を整えていた。
14地区外周付近には第1歩兵大隊を配備し、街中は軍警察と第2歩兵大隊によって警備、というより占拠されていた。
これはつまり、大佐のクーデターである。
領主ユーリーは全てを大佐に委任したがために、兵を失い、民衆からも見放された。領主ユーリーの支持者や家臣はもはや1000程度。大佐は領主になって代わろうというのだ。
領主ユーリーとの面会開始から数時間後、城から大佐が出てきたと城付近で待機していた第3ライフル中隊から連絡があった。
城から出てきた大佐は血まみれだったという。
大佐はこの面会で領主ユーリーとその場にいた家臣29名を殺害。ほかに城にいた兵士たちは大佐の鬼畜すぎる行為に畏怖し、投降した。
大佐は14地区領主としての地位に就くと同時に徴兵制の廃止、そして徴兵制度によって軍務に就いた者が除隊することを許した。18000人の内除隊者はたったの567名。その多くが家庭内の事情によるもので、復帰を望んだ。
翌月、王都と貴族連合から書状が届く。王都からは領主としての地位を認め、褒美を与える代わりに、貴族連合へ攻撃を要請した。
対する貴族連合からの書状は、大佐を王国の王にする為帝国の反発分子を排除を手伝うという趣旨のものだった。
大佐はそれに対し、王都には戦線布告の書状を、貴族連合には一切の介入を認めないという返答だった。
大佐のやることに俺たちは誰一人として反発しなかった。あのクーパーでさえもが。その時、俺たちは、帰るという本来の目的を時間という催眠術によって忘れてしまっていたのかもしれない。

王国は14地区に第一次討伐軍を派兵。その数は多い120万。王国の5分の一の兵力を14地区に派兵した。
大佐は二個大隊の指揮をタヌーアに任せ、自らは新たに組織された第1スパルタ中隊の指揮を執った。
俺は第1スパルタ中隊所属の第1小隊の小隊長として、14地区と15地区にかかる橋の防衛を任されていた。
敵は東から大軍で押し寄せて来ているようだが、橋の方からは今のところ敵が来る様子はないと先行した偵察隊が報告している。
「マグス、今回は俺たちもしかしたらやる事なしかもな。」
「正面が突破される可能性は?」
「あの軍師が口だけじゃないならな。」
タヌーアは大隊二つの指揮を任せられている。それは一個旅団に相当する。つまりかなりの指揮官としての素質が必要である。
まず間違いなく言えるのは、責任感と重圧半端じゃないという事だ。
橋は細く、横一列に10並んだらいっぱいいっぱいの橋。まずこの橋は捨てる。敵は大軍。わざわざこんな道を使うわけがない。
まず第一、このような橋に戦略的価値はない。なぜなら14地区と15地区の間にあるこの橋は、14地区の主要地帯まで距離がある事もあり、橋をわざわざ守らなくても橋の先にある砦から敵を防げるのだ。
橋の後ろにあるのは大軍が進軍しづらい太い川があり、水深も深く、攻めるには適していないのだ。
大佐は念のためにと俺を配置したのだろうが、俺はこの大一番でなにもできる気がしない。
敵は120万とはいえ、こちらには120mm迫撃砲と、155mm榴弾砲がある。どうやって準備したかは不明だが、欲を言えば空軍力が欲しいな。空とは戦場で重要な戦略地帯だ。制空権を握れば勝ったも同然、は言い過ぎかもしれないが、戦局を大きく左右する大事な要だ。まぁ、制海権を握る事が最も重要だと思うが。
「マグスはこの橋に敵が来ると思うか?」
「いいえ。」
「即答かよ。」
また暇になる。俺は暇人の素質があるようだ。
俺の緊張感はなくなり、現場が緩み始めたその時だった。
中隊本部から通信が届いた。
「スパルタよりスパルタワン、橋付近にて敵を確認。シーフォースツーの報告によるとおよそ30万が橋に向かって進軍中。」
それを聞いた瞬間俺たちは凍りついた。
「スパルタワンよりスパルタ、援軍を要請する。」
俺はすぐに援軍を要請した。
「スパルタよりスパルタワン、あ、大佐……。」
通信は突然途絶えたと思ったら、大佐が出てきた。
「何のために貴様をその橋に置いたのか理解していないようだな。援軍は送らない。お前たちには文字通りスパルタ兵となり、テルモピュライの戦いのように少数精鋭で橋を守れ。」
それ以降、通信は繋がらなくなった。
俺は少佐の意図が分からなかった。30万相手に20人でどうしろと言うのだろうか。
小隊員20名、4分隊、内一つは小隊本部。砲撃支援、航空支援、援軍無し。俺たちは15000倍の敵と戦わなくてはならないのだ。
だが、俺は少しワクワクしていた。

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