ガンスリンガー

限界集落村人

11

マリが拐われた日の夜。俺はスラム街に潜入していた。爺さんの話じゃこの辺りでは兵士や珍しい格好をしているものは襲われるらしい。だから俺は装備の上にマントにローブを被り、スラム街を支配する親分のアジトに向かった。
俺はそのアジトの横の路地でローブとマントを脱ぎ、ナイトビジョンゴーグルを装備し、消音器をつけたM9を用意した。
俺は裏口の鍵を破壊し、アジトに潜入した。
床は老朽化が進んでいて、ギシギシと音がなった。裏口の近くで話していた二人のチンピラが音を聞いて近づいてきた。
俺は暗闇から飛び出し、男の一人の頭を撃ち抜き、もう一人を床に叩きつけて首をナイフで切り裂いた。
俺はそのまま階段をゆっくり上がり、二階の一室の扉のよこに張り付いた。ナイトビジョンゴーグルを外して部屋に入ると、髭面の大男と気絶して床に倒れているマリの姿があった。
「なんだてめ…。」
俺はその髭面の大男が喋る前に頭を撃ち抜いた。
俺はすぐにマリに駆け寄り、マリを担いだ。
「マリ、ここから出るぞ。」
俺はマリをかかえて部屋を出ると、タイミングよく男が扉の前に立っていた。
俺は素早くその男を撃ち殺した。しかし後ろからまた別の男たちが二人現れ、俺は急いで男たちを撃つが、一歩遅く、一人が「敵だ!」と叫び、下の階やアジトの前にいたチンピラたちが集まってきた。
俺は裏口から急いでマリを連れて出るが、チンピラが複数人裏口で待ち構えていた。俺は一人を足で蹴り飛ばし、もう一人を射殺して蹴り倒したい男にトドメをさし、弾倉を交換した。
スラム街からは近くに置いてきた馬で脱出するつもりだったが、そこまでは歩いて行かなくてはならない。それもマリを抱えて。
敵は俺たちを追ってくるが、その度に撃ち返しての繰り返し。しかし弾薬も無限でなく、残りはわずかだった。
馬のある場所まであと半分の所でマリは目を覚まし、自分で歩くと言い出した。
「マリ、時間は俺が稼ぐからはやく逃げろ。」
俺はマリに馬の置いてある場所を教えた。その時、油断した俺にひとりの男が襲いかかってきた。短剣を足に突き刺され、俺は地面に倒れる。
マリは俺に短剣を刺した男めがけ、火の玉を手から発射した。
男に命中した火の玉は男を吹き飛ばす、軽い爆発を発生させた。
「大丈夫か裕一!」
「問題ない。俺はお前が逃げるだけの時間を稼いですぐに逃げる。」
「置いて行けるわけ…!」
「いいから行け!」
俺はマリを怒鳴りつけると、マリは何も言わずに走っていった。
それより俺の足の具合は最悪だ。短剣を刺されて走ることができない。歩いて逃げられるような数じゃない。
俺は来る敵を射殺して行くが、弾倉は遂に最後の一つとなってしまった。
15発でなんとかなる訳がないが、俺は最後の悪あがきで足を引きずりながらスラム街から脱出しようとした。
そこら中で聞こえる追っ手の声。俺は一度その場に座り、足の止血をした。応急処置ではあるが、しないよりマシだ。
通りでは馬に乗ったチンピラの集団が俺を探していた。
応急処置を終えて立ち上がった俺は運悪く敵に見つかってしまった。
「いたぞ!」と叫ばれ、何十人もの足音が聞こえた。
俺は襲いかかって来る敵を撃ち殺すが、遂に弾薬が尽き、俺はナイフで敵を殺す。
次々とやって来る敵を倒し続けると、敵が怯み始め、距離をとって俺を囲い込む。
「いいか、全員で同時に攻撃するんだ!いけっ!」
敵の一人がそういって全員が一斉に俺に飛びかかった時だった。
「待て、そいつを殺すな。」
その男の掛け声一つで、敵の動きが止まった。
赤い髪に海賊のようななりをし、身長は2メートルを越えていた。
「ボ、ボス!」
どうやらその男はこいつらのボスのようだった。
「そいつを捕まえて俺の屋敷に連れてこい。後そいつが使ってた武器も拾ってこい。」
「は、はい!」
俺はチンピラに無理やり手を縛られ、でかい馬車に乗せられ、どこかへ連れて行かれた。

馬車で数時間移動すると、俺は目隠しをされて数分歩かされた。一度止まって衣類を全て脱がされた。また数分歩き、そして突然手の拘束をとられ、背中を押され倒された。目隠しを取ると、そこは檻の中だった。
檻の向こうにはボスが立っていた。ボスは部下を全員下がらせ、俺はボスと檻を挟んで二人きりになった。
「お前、出身は?」
ボスは俺の出身地を尋ねてきた。
「14地区から来た。」
俺がそう答えるとボスは溜息をついた。
「そうじゃなくてさ、前の世界での生まれを聞いたんだがな……。」
前の世界って、まさかとは思うがこの男、俺たちと同じなのだろうか。
「お前の着てた服、あれ自衛隊だろ。お前日本人か?」
「なんでそれを……お前もしかして……。」
「俺はKGBのヘッケランだ。そう言ったらわかるか?」
KGBは、ロシアの諜報機関。つまり、こいつは俺たちのようにこの世界にきたということだ。
「俺は裕一、自衛官だ。」
「やっぱりか。お前はいつからこっちの世界に来た?」
「俺は5ヶ月ほど前にこっちの世界に迷い込んだ。そっちは?」
「俺はもう6年目だ。」
6年目とは、かなり長い間こちらの世界にいるようだ。なら色々と知っているに違いない。捕まった時は逃げ出すことばかり考えていたが、今は逃げる必要はないようだ。
「こっちにはお前一人か?」
「いや、他に六人。演習中にこっちに迷い込んだ。」
「俺が来た時は俺の他に仲間が四人いた。今はもう二人になっちまったが。」
なにかあったのだろうか。
「あれれぇ〜ボス〜、捕虜なんて珍しいじゃないですかぁ〜。もしかしてやっと私に餌をくれる気になった〜?」
ヘッケランと俺が話をしていると、そこへ何者かがそう言って檻の先にある階段を降りて来た。
「ああ、まずい…。あいつだよ、俺の仲間を殺し、俺の腕をこんなにしたのは。」
ヘッケランの腕をよく見ると、右腕が無くなっていた。
「ひどいなぁ〜、あれはボスたちが悪いんじゃな〜い。私の食事の邪魔をするから。」
そいつは女で見覚えのある顔だった。かつて警察庁公安特別機動隊の死神と呼ばれた凄腕スナイパーであり、そして俺の元彼女、剣崎愛華だった。
「あぁぁぁあ!!ゆうちゃんだぁ〜、どうしてここにいるのぉ〜!」
檻にしがみついてヨダレを垂らす彼女は、さながら餌に飢えた獣のようだった。



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