ガンスリンガー

限界集落村人

10

俺は今、王都西部の大森林にマリとともに草陰に隠れていた。かくれんぼをしているわけではない。これは敵から身を隠すカモフラージュだ。そして今は、マリの依頼を受けてこの森である敵を待っている。
「お、おい……。」
「なんだ?便所にでも行きたいのか?」
「い…いつまでこの状態でいるつもりだ?」
「そりゃあお前が言ってた影の戦士とやらが来るまでには決まってるだろ。」
「そうは言っても…ち、近すぎじゃないか…。」
「なんだお前、照れてるのか?」
「ば、馬鹿者!私がなんでお前なんかに…!」
マリという女は、いわゆるツンデレというやつだ。全くめんどくさい。だが、ヤンデレとやらよりはまだましだ。
マリが言っていた影の戦士というのは、王都西部にある大森林にいると言われている珍しい魔物らしい。どうやらそいつの持つマントは誰もが欲しがる透明マントとの事。マリはそれが欲しいらしい。対価は俺がドラゴンを倒したのを他言しないこと。
この世界に来てから技術の時代差はとんでもないものだったが、魔法に関しては俺たちのいた世界を凌駕している。そもそも魔法なんてないからな。透明マントなんてもんがあるなら、是非この品を日本に持ち帰り国防の足しにしたい。
「分かってるな裕一。その銃とやらは長距離の先制攻撃に向いている。影の戦士はずっと透明化しているわけじゃない。食事の時は姿を現わすんだ。そこを一撃で仕留めて欲しい。」
「任せろ。射撃なら一番だった。」
「だった?」
だったというのは、自衛隊時代は射撃の腕は随一だったが、今の仲間の中では中堅だという意味だ。
こうして同じ体勢で居続けるのは良くない。筋肉が硬直していざ標的が来た時に指が動かなくなるからだ。だから一時間が限界だ。
マリの話では、大好物の鶏肉をワインにつけた料理を用意すると匂いを嗅ぎ分けてすぐに現れるらしい。
といってもう既に40分。徐々に体が硬くなって来る。マリはモジモジと動いて居たが、俺はスコープから目を離さなかった。
それから5分しなかった。突然なにもない場所からふとそいつは姿を現した。ゾンビのような顔をした魔物だった。そして餌にかぶりつき、黙々と食べ始める。
俺は影の戦士の脳天めがけて12.7x99mmを発射した。
静かな森に銃声が響き渡り、影の戦士は頭が粉砕して地面に崩れ落ちる。
俺はマリと急いでその場所に行くと、影の戦士の死体が転がっていた。
マリはおもむろな影の戦士の死体の首元あたりを触り始めた。
頭部を吹き飛ばしただけあり、気持ち悪くて俺は触りたくなかった。
「これよ!!」
マリはそう言って手を高く振り上げた。しかしマリの手を見ると、なにも無かった。
「なにもないんだが…。」
「ちょっと見てなさい。」
マリはそう言ってさっと消えてしまった。
俺は声を出して驚いた。
「どうだ、すごいだろう。」
「これは認めざるを得ない。」
声は聞こえるが、マリがどこにいるのか全くわからなかった。これは光学迷彩なんて紛い物では無く、完璧に隠蔽が可能なマントだ。
「裕一、私がどこか探してみろ!」
こんなのは依頼になかったはずだが。
俺は仕方なくマリを探した。俺は江戸時代の悪代官を演じた。
「どこにおる〜。」
「なんだそれ、なんだか気持ち悪い…。」
声はふつうに聞こえたので、早く茶番を終わらせるために俺は「ここか!」とマリを捕まえた。
「ひゃあっ!?」
「ひゃあ……?」
「変態!!!」
俺はなぜか頬を勢いよく叩かれた。

俺とマリは無事影の戦士のマントを入手し、王都に帰っていた。
「あのなぁマリ、さっきのは不可抗力だ。」
俺はさっきの件を謝罪したが、マリはそっぽを向いて俺を無視していた。
あれは絶対に俺は悪くない。だが触ってしまったのは確かだ。思ったより柔らかくてでかかった。やはり俺は変態なのかだろうか。
王都の農村地帯に入った時だった。ひとりの老人が倒れていた。
俺たちは馬を止め、老人にかけよった。
「爺さん大丈夫か……ってあれ…?」
俺が爺さんに声をかけた時だった。
後ろから足音が聞こえ、振り向いた時には既に遅く、マリはならずものに短剣を突きつけられていた。
「おっと、そこで動くな、動いたらこの女の首を掻っ切るぞ?」
「なにが目的だ?」
「金目のものを全てよこせ。」
全くこんな絵に描いたようなチンピラがこの世界にもいたとは。
俺は懐に入れていた金貨と、マリの馬に積んである金貨を全て差し出した。
「これで全部みたいだな。」
「有り金は全部渡した、彼女を離せ。」
「そうはいかねぇ、悪いが彼女と馬は頂いて行くぜ。」
俺は腰のM9を抜こうとしたが、敵はマナの首にナイフを突きつけていて、チンピラながら隙がなかった。どうやら常習犯のようだ。
チンピラはマナをつれて馬で走り去ってしまった。馬を撃てば最悪死にかねない。
俺はチンピラを見逃すしかなかった。下手に追ったところで、結局場所が変わっただけで状況は変わらないだろう。
だとしたらやれる事はひとつ。
「で、いつになったら死んだふりは終わりだ爺さん?」
俺は倒れている爺さんの頭に銃を突きつけた。
「さぁあんたらのアジトはどこだ?」
爺さんはあっけなく口を割った。もしこれが口の硬いやつだったら、元CIAのクーパーに任せるしかなかったが。
爺さんの話によるとアジトは王都のスラム街にあるらしい。どうやらそこらでは有名な人攫いを生業とする連中だったらしい。女はそこら一帯をしきる親分とやらに献上するらしいが、とにかく一刻もはやくマリを救出せねば。





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