ガンスリンガー

限界集落村人

4

非常事態を無事に逃れた俺たちは、屋敷で話し合いをしていた。
「あのボケ国王め、俺たちだけにやらせて自分の兵は出さないってどんだけ役立たずなんだテメェの兵は!」
クーパーは机を蹴り飛ばして怒りをあらわにしていた。
「だがこんな事が続くようじゃ、俺たちがいくら精鋭とはいえ長続きはしないな。もしかしたらこの世界で死ぬって可能性もあるね。」
「リー、冗談でもやめてくれ。俺やクーパーは故郷に娘や息子がいるんだぞ。」
クラークが珍しく深刻そうな顔をしていた。
だがリーの言う通り、敵があれだから良かったが、もしさらに多くの軍勢が押し寄せて来たら、俺たちはその時が最後だろう。
「それよりあのバカ女どこにいるんだ!自分で領主と話をつけておいて後はほったらかしか?」
クーパーは机をガンガンけりまくってマジに切れていた。
クーパーの言う通り、ディーナ少佐は一体どこに消えてしまったのか。小隊長としては無責任極まりない。
そんな時俺は、ある事が頭をよぎった。
「まさか、帰れちゃったんじゃ……。」
そういった瞬間、皆の視線が一斉に俺に向けられる。
「そ、そんなわけないかぁ〜……。」
俺が軽く流そうとすると、皆口を揃えて「ありえる。」と言った。それがハモった時は俺もまさかのその事を考えてしまった。
俺たちはただ静かに椅子に座り、現実を受け入れようとしていた。
だがそんな時、突然扉をノックしてこの屋敷の世話係が現れた。
「皆さま、ディーナ様がお戻りになられました。」
「それは本当か!?」
クーパーはそれを聞いて世話係の胸ぐらを掴んで持ち上げていた。身長が190あるクーパーに持ち上げられ、世話係は足が完全に宙に浮いていた。
「ええ、左様でございます…ていうか下ろして……。」
クーパーは世話係を投げ飛ばし、走って屋敷の面に向かった。俺たちもクーパーに続いた。

屋敷の玄関には豪華な馬車が一台と、大量の荷馬車がずらっと列をなしていた。
唖然としている俺たちの前に、豪華な馬車から少佐が現れる。
「すまない、今戻った。」
少佐はなにごとも無かったかのようにそれだけ言ったが、それにクーパは納得がいくわけもなく、「ふざけるなぁぁぁあ!!」と一喝。
「なにしてやがったボケ少佐!あんたが居ない間大変だったんだぞ!!」
「話は聞いている。ご苦労だったな。」
「話は聞いているだぁ?お前はそれでいいかもしれないが、俺たちゃそれじゃ腹の虫がおさまらねーんだよ!大体なにやってやがったんだ3ヶ月も!俺たちをなんだと思ってやがる。」
クーパーがブチギレいているのを見て、少佐はクーパーの腹に一発グーパンをかました。不意打ちで一撃で沈められたクーパー。場が一瞬で静かになった。
「諸君らが2000の兵を相手に戦ったのは聞いている。」
「領主の兵は動かず、我々六人で敵を食い止めたのもご存知で?」
俺がそうたずねると、少佐は「ああ、もちろん。」と一言。
「なんせ領主に兵を出さぬよう伝えたのは私だからな。」
俺たちは「え?」となぜそんなことをしたのか訳がわからなかった。
「君らがさっきやったのはいわばデモンストレーションだよ。君たち六人の実力を試そうて思い、私が頼んで出現させたゴブリンだ。」
デモンストレーションだとか、出現させたゴブリンだとか、全く話が見えてこなかった。
「だが試すまでも無いな、貴様らの腕は。戦闘をするためだけに作られた殺戮マシーンは伊達じゃないな。あの短時間で849のゴブリンを殺していた。」
俺はその数字を聞かされて驚いた。俺が自分で殺した数を数えていただけでも98だが、他の連中はいったい何人殺したんだ?
その時俺の感情には仲間への対抗心と悔しさしかなかった。
「途中閃光弾を空に投げたのは私だよ。あの勢いなら殲滅しかね無かったからな。」
「てめぇ、まさかゲームかなんかと勘違いしてんじゃねーのか!?」
さっきまで床に尻餅をついていたクーパーが腹を抱えながら立ち上がりそう言った。
「なにをいっている。これはゲームだろう?」
「はぁ?なにを馬鹿な……。」
その時、クーパーは否定しなかった。
普段の勢いで「ゲームだぁ?ふざけるな!」とでも言うかと思ったが、なぜかクーパーは否定もしなければ肯定もしないという、彼に似合わず曖昧な態度をとった。
だが実際、俺たち全員、「これはゲームだろう?」という言葉に対して疑問に思わなかった。俺は周りの奴らが恐ろしくなったと同時に、自分に嫌気がさした。
さっきの戦闘で、俺は内心手応えがないと感じてしまっていた。
「もういい、もうわかった。で、お前は3ヶ月の間なにをしてたんだ?」
クーパーが少佐にそう尋ねると、少佐はおもむろに7.62mm弾を胸ポケットから取り出してみせた。
「こいつを探していた。」
「こいつを探していたって…こんな古臭い時代の世界にそんなもんがあるのか?」
「実は険しい山を越えた先に伝説の錬金術師という方がおられ流と聞いてその伝説の錬金術師とやらに会ったんだが、紹介しよう。」
少佐はそう言うと、馬車から80過ぎのじい様が現れた。
「こちら、伝説の錬金術師、イルムス・アグエレーツ様だ。」
どうみてもただの老人。子供の頃ボランティアで行ったデイサービスのお爺ちゃんたちとなんら変わりのない老人だ。
「この老人がどうしたんだ?」
クーパーが老人と言う言葉を口にすると、「誰が老人じゃぁぁぁ!!」とイルムス・アグエレーツ様がクーパーに飛びかかり、顔面を引っ掻き回した。
「やめろくそじじい!!」
「わしはまだ80歳じゃぞぇ!!」
「分かったから離しやがれ!!!」
クーパーの顔がズタズタにされたところで少佐の話は本題に入る。
「私はこの世界に来てから数少ない弾薬をどうにかしようと考えていた。金属加工やなんやらの書物を城の書庫で探していた時、錬金術という興味深いタイトルの書物を見つけたのだが、それがとんでもない代物で、錬金術師というのはなんでも生み出せるという神のような技をなすことができると書かれていた。私は領主から錬金術師の居場所を聞いて錬金術師を探した。だがレベルの低い錬金術師はいたが、銃弾を一発生成するのに一時間かかるという使えぬ奴ばかり。途方に暮れていた頃、西にある山を越えた先に伝説の錬金術師が住んでいると耳に挟み、私は領主から馬を借りてその場所へ向かい、伝説の錬金術師を見つけたという訳だ。」
要するに今目の前にいる爺さんは俺たちにとって重要な存在ということである。
「伝説と言われるだけあり、凄腕の錬金術師が作れる弾薬は10分で一発に対し、この爺さんは弾薬箱箱分を1分で作り上げることができる。要はこの爺さんは動く弾薬工場って訳だ。」
なんか失礼なことを言っているような気がしなくもないが、とにかくそれより今は驚くべきだ。弾薬箱一箱につき840発、それが5箱だとその数4200発である。それが10分なら42000発、一時間で252000発もの弾薬が生成されている。
「弾薬だけでなくこの爺さんは一度その物体を見せればなんでも生成する事ができる。これは爺さんに作らせた私の持つAK12なんだが、出来栄えは素晴らしい。」
そう言って少佐は俺たちに爺さんが作った銃を確かめるが、しっかりとしていて、内部構造など確認するまでもないような、新品同様だった。
「早速弾薬600000発とakと手榴弾を作らせた。後ろの馬車には全部それが積んである。私は私なりに、行動していたということをこれでわかってくれたか?」
俺たちは素直に首を縦に振った。
ていうかあの爺さん、少佐にはえらく従うが、なにか吹き込まれたのだろうか。


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