ガンスリンガー

限界集落村人

2

中央にある巨大な城に入るまでは、騎兵が車両の周りを囲むようになってゆっくりと移動した。
城の入り口は巨大で、まるで世界遺産を見ているように圧巻だった。
城の中央で止まり、俺たちは車から降り、男の後ろを何人かの槍を持った兵士と共に城の奥へと進んで行った。
「おい裕一、大丈夫なのかこれは。」
イーライはビクビクしながら俺に話しかけて来た。
「心配するな、もし相手がその気ならさっきの時点で騎兵の大群を俺たちめがけて突撃させてるだろ。」
「お前は心配しなさすぎなんだよ。」
イーライは終始銃をしっかりと握って手放さなかった。

少し歩いてたどり着いたのは巨大な玉座の間。
男はそこに座り、家来のような者たちが頭を下げる。
「頭が高いぞ旅の者!こちらにおられるのは、ゲルマン王国第14地区領主、ユーリー・ハルバード様であられるぞ!控えよ。」
家来の一人の老人が俺たちに向かって怒鳴り散らした。
「よいよい、我は頭を下げる程の権力者でもなければ、讃えられる英雄でもないのだ。」
領主のユーリーは俺たちに笑顔でそう言うと、玉座から立ち上がり、クーパーの持っているM110を見て、「それを使って見せてはくれぬか?」と聞いた。
クーパーは素早くM110を構えて玉座の柱に向けて撃った。
俺たちには聴き慣れている音だが、領主のユーリーや家来たちは唖然としていた。
ユーリーは銃弾が撃ち込まれた柱に近寄り、柱に空いた穴をみて喜びを隠せずにいた。
「このような兵器を我は今まで見たことがない!そなたらは一体なにものなのだ?ただの旅人ではあるまい。」
ユーリーは笑顔でそう質問すると、ディーナは答えた。
「私の故郷はロシア連邦、世界で最も偉大な国です。ご存知ないでしょうか?」
「ほう、聞いたことはないな。それはどこにあるのだ?」
ユーリーがそう言うと、ディーナは笑い始めた。
その姿を見てユーリーや家来、俺たちまでもがあっけにとられていた。
「失礼、私の勘違いでした。生まれは遠い遠い名もなき小さな村です。私たちはそこからやってきました。」
ディーナは突然訳の分からない事を言い始め、俺たちは動揺していた。
「遠い遠い小さな村か……。我は今、まだまだ世界は広いという事を改めて実感した。」
するとユーリーは家来になにやら持ってくるように命令した。
数分して数十人の兵士が荷台を引いてやってきた。
それは見たこともない程の量の金塊。換金すればおそらく予想もできないような金額になるだろう。
「そなたらにこの金塊を与える。その代わり我が兵にはなってくれぬか?」
ユーリーの言葉に俺は一瞬心が揺らいだがらよく考えてみれば、自国のために命を張って戦ってきた今までの事を一瞬で無駄にしてしまう、そう思った。
皆もそうだろうと思った矢先だった。
「分かりました。我々は今からあなたの兵です。」
ディーナはその場でひざまづいてそう言ったのだ。
俺は唖然としていたが、クーパーは反対する。
「おいなんのつもりだ!いかれたのか?こんな事してないで早くここを出るぞ!」
「いかれてるのはお前の方だクーパー大尉。」
クーパーに対するディーナの一言でクーパーはぶち切れた。
「ふざけるなロシア人!こんなところで得体も知れない奴に仕えるだぁ?いいかげんにしろ!俺たちは何のためにここにいると思ってやがる!はやく海兵隊のキャンプに戻って事態を……。」
「貴様は呆れるほど頭が悪いようだなクーパー大尉。今の現状を理解できていないのはお前だけのようだぞ。」
ディーナの言葉を聞いてクーパーは俺たちの様子を見る。
残念ながらクーパーだけが状況を把握できていない。クーパーはきっとまだ島に自分たちはいて、島のよくわからない地域に迷い込んでしまったと思っているのだろう。
だがそれは違う。あんな小さな島で、こんなに広い都市があり、山があるなど考えられない。信じたくはないが、俺たちは今あの島にはいない。きっと全く別の場所、そして別の時代にいる。
この領主ユーリーが嘘をついてるようにも見えない上に、もし仮に本当ならここはゲルマン王国の第14地区、たかが王国の一部に過ぎないんだろう。ならば考えたくはないが、ここは別の時代の別の場所、あるいは全く別の世界って可能性が高い。
映画や漫画の影響を受け過ぎとかじゃない。これは完全にタイムトラベルとか別世界に送られるってやつだ。それはクーパー以外皆理解していた。実際はクーパーも理解してはいるが、認めたくないんだろう。
「本当に我の兵になってくれるのか?」
「ええ、ただし条件があります。」
「条件?なんでも聞こう。」

ディーナはユーリーの兵になる代わりに、条件として自由に行動する許可を求めた。
そしてそれをユーリーはあっさりと許可したのだ。
俺はイーライとリー、そしてクラークと共に街にある居酒屋で飲んでいた。
「かぁー!やっぱり酒はどこに言ってもうまいな!」
酒好きのクラークは嬉しそうにビールを一気に飲み干していた。
「正直最初は少佐のあれ、流石になに言ってんだこいつと思ったが。案外一番冷静に判断していたのは少佐なのかもな。」
クラークはそう言ってビールを飲み続ける。
クラークだけではなく、恐らく皆あの判断が良かったと感じているだろう。あの場で断ったとして、この先あてもなく動くより、巨大な王国に抱えられる方が動きやすいというのもある。
「この訳の分からない世界で王国との関係はいわば僕たちの生命線だからね。」
リーがそう言った。
「しかし困ったな。もしここがマジで別の世界だったら、俺たちは帰れないのかなぁ......。」
クラークの言葉を聞いて全員が沈黙してしまった。
たしかに帰れなかったとしら、もう日本にいる友人や家族には会えないのだろうか。
酒の席が完全に白けてしまった。みんなボーとしていて心ここに在らずといった感じだった。
「なぁ、でももしかしたら来た道をそのまま戻れば帰れるんじゃないのか?」
イーライが言ったそれに対して全員「それだ!」と声を張り上げた。

城から少し離れた場所に用意された豪邸に、一人一部屋が用意された。
まるで高級ホテルのような部屋の内装は豪華絢爛で素晴らしかった。
俺たちはその後夕食を食べ、ディーナ少佐に帰る方法について話した。
「私は無駄だと思っている。」
少佐の言葉はそれだけだった。イーライはやってみる価値はあると言ったが、少佐はため息をついて頭を抱えた。
「わずかな可能性にかけてあの森に戻るとしよう。それでもし帰れなかった場合どうする?あの森は聞く話によると馬を走らせても抜けるのに二週間かかるらしい。さらにその森を越えた先には東の魔王がいるらしい。」
少佐の魔王という言葉を聞いて馬鹿なと思ったが、今の状況だと信じない理由がない。
「とりあえず指示を出すまで全員待機だ。」


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