異世界転生した俺は最強の魔導騎士になる

ひとつめ帽子

第17話

 朝、暖かい日差しで目を覚ます。
窓を開けて外の空気を吸い込んで伸びをする。
今日もいい天気だ。
遠征には丁度いいかもな。
そんな事を考えていると、部屋のドアが開くノックされた。

「おはようございます。
朝食をお持ちしましたが、食べられますか?」

 ドア越しにティナが尋ねてくる。

「頂きます」

 俺は返事をしてドアを開ける。
ドアの前にはティナがお盆を持って立っていた。
パンとハムエッグ、そしてマッシュポテトがお盆のお皿に乗せてある。
その朝食を受け取った。

「あと、来客者が来られてます。
たしか、ザド様と名乗っていたのですが、おば様と口論になってまして」

 困ったような顔をするティナ。
ザドめ、朝っぱらから迷惑かけおって。
俺はゆっくり立ち上がり、出入り口に向かう。

 受付には昨日のおばさん。
そして向かい合ってザドがいた。

「だーからっ!
ツケの分の金は持ってきたんだからそれで良いだろうがっ!」

「馬鹿言ってんじゃないよっ!
ツケてトンズラしてどんだけ経ったと思ってんだい!
迷惑賃くらい上乗せするのが普通だろう!」

「がめついババアだな!」  

「あんたが小さい男なんだよっ!
自覚が無いってのがタチが悪いよ」

 二人はガミガミ言い合っている。
大の大人が何やってんだよ。
ティナは小さくなって、お盆で口元を隠している。
俺はゆっくり歩き出して二人に近付く。

「ザドさん。宿屋のおばさんが正しいですよ。
迷惑をかけたんだからきちんと謝罪するものです。
きちんと謝って下さい。
おばさん、迷惑賃はこれで勘弁してあげて下さい」

 俺は受付のテーブルに金貨を一枚置く。

「……ったく、これで受け取ったらあたしが悪者みたいじゃないか。
坊やから金を受け取る気は無いよ。
仕舞っときな」

 そう言っておばさんは俺に金貨を返した。
それを俺は受け取り、ザドを見る。

「ほら、ザドさんもちゃんと謝って下さい」

 ザドはうっ、と呻いて一歩後ずさる。
そりゃこんな小さい子供から諭されちゃ立つ瀬もないだろう。
だが、ここで謝らずに意地を張れば余計にみっともない。
渋々ザドは頭を下げる。

「悪かったよ。
ただ、金は今はないっ!
また次の行商から帰ってきたら迷惑賃をドーンっと払ってやらぁ!」

 そう言って胸を叩くザド。

「まったく、誰も期待なんかしてないよ。
今回は坊やに免じて勘弁しといたるよ。
次に来たら宿代が倍だからね?」

 そう言ってザドを睨むおばさん。
ティナを見れば、ホッとした顔をしている。
なんでこんな子供の身体になってまで揉め事の仲裁をせにゃならんのだ。
面倒くせぇ事この上ない。
もうこれっきりにして欲しい。

「ザドさん、僕の迎えに来てくれたんですか?」

「お、おう!
そうだそうだ。
シン坊の準備はいいか?」

「朝食もまだなんです。
誰かさんが朝から騒いでるので、ね。
食べ終えるまで待ってて下さい。
直ぐに来ますから」

 若干咎めるように言うと、ザドは冷や汗をかきながら頷いた。
これでようやく落ち着いて飯が食える。

 俺は部屋に戻ると手を合わせ、いただきます、と一礼する。
そしてなるべく急いで朝食を食べた。
見た目は素朴な朝食だったが、味は整っていて美味しかった。
もっとしっかり味わって食べたかったな。
 
 朝食を終えると服を着替え、ローブを纏う。
別にローブは着なくても良いんだけど、昔からの習慣である。
ようはジノの真似である。
自分の尊敬出来る人の格好を真似てみたかったのだ。

 そんな訳で、ローブを纏った俺はまた一階へと降りる。

「おばさん。
少し出掛けてくるね。
しばらく留守にするけれど、部屋に荷物は置かせてもらえないかな?
代金もそのまま引いてもらって構わないから」

 俺がそう言うとおばさんは驚いた顔をして、次いで感心したように頷く。

「わかったよ、坊や。
気をつけていっといで」

 ティナも出入り口まで見送りに来てくれた。

「いってらっしゃいませ」

 そう言って頭を下げるティナ。

「いってきます」

 俺も一礼してザドと共に宿屋を後にする。




 俺達が向かったのは荷馬車のある倉庫だった。
ザドの荷馬車はまた馬が手綱を付けて待機していた。
荷馬車の中にはいくつか大きな木箱が乗っていた。
今回は傭兵の皆さんはいなかった。
俺達は荷馬車に乗って、水の都の門へと向かう。
そして、門の前にはリゼット御一行が既に待機していた。
リゼットは懐中時計から目を離し、こちらを見る。

「時間より早いね。アンタにしちゃ珍しい」

「うるせーよ。
お前はいつだって時間より早過ぎるんだ」

 ザドは言い返す。

「時間は金じゃ買えないからね。
大事に使わなきゃいけないだろ?」

 リゼットはザドではなくら俺を見てそう言った。

「来たんだね、坊や。
あんたがどれだけの魔法使いか楽しみにしてたんだ。
期待外れにならないよう頑張っとくれ」

 そう言ってニヤッと笑うリゼット。

「えぇ、それなりには頑張りますよ。
でも、皆さんお強い方のようで、僕の出る幕は無いかもしれませんね」

 そう言ってリゼットの後ろに控えている人達を見る。
一人は昨日喋ったローラ。
そして長剣と盾を待った若い男が一人と、大斧を肩に担いだ渋いおっちゃんが一人。
弓矢と短剣を身に付けてる青年が一人と、籠手を両腕に付けた若い女が一人。
最後に、修道服を身に纏った美少女が一人の計六人。
そこにリゼットさんが加わり七人のパーティーのようだ。

「皆さんは専属の護衛なんですか?」

 リゼットに問いかけるとリゼットが頷く。

「一番最後に入ったセリーヌさえ、もう護衛を続けて三年になる」

 そう言って修道女の肩に手を置くリゼット。
修道服の美少女、セリーヌは両手で十字架のついたロッドを握り締める。
どうやら緊張しているようだ。

「悪いがゼド、あんたの事まで面倒は見ないからね」

 そう言って突き放すリゼット。

「お、おいおいっ!
お前のお抱えの護衛達がいるから俺ぁ今回シン坊だけの護衛にしたんだぜ!?
一緒に行くんだから別に構いやしないだろ!?」

 そうせがむザドだが、リゼットは取り合わず自分の荷馬車へと向かう。
荷馬車はザドのより一回り大きく、それを引いているのも馬ではなかった。
それは、巨大なハムスターのような生き物。
丸々とした身体はモフモフとした毛に包まれ、瞳は綺麗な青色をしている。
鞍を背負い、大きな角の付いた兜を被っている。
こいつは魔獣はポックルだ。

 可愛い……。

 だが、この可愛らしさとは裏腹になかなか獰猛な一面もあると聞く。
そして地を駆ける速さは馬にも劣らない。

 リゼットはポックルの鞍に跨り、他の人達は荷馬車の中に入っていった。

「それじゃあ出発しようか。
ポポロ、頼んだよ」

 リゼットがポックルを優しく撫でると、ポックルはゆっくり歩き出してから、段々と速度を上げて駆け出し始める。
なかなか早い。
ザドの馬もそれに追従していく。





 俺達はひたすらあぜ道を進んだ。
魔物にも盗賊にも襲われる事もなく、二時間は走った所で一度休憩を取った。
ポックルはリゼットから大きな木の実を渡され、カリカリと齧り始めた。
ザドの馬はその辺の柔らかい草をムシャムシャ食べている。
俺はポックルの様子を近くでジーっと眺めていた。

「ポックルは珍しいかい?」

 リゼットが近寄って俺に話しかけてきた。
俺はポックルを見つめたまま頷く。

「図鑑でしか見た事はなかったです。
とっても可愛いですねぇ」

「ポポロは元は野生のポックルだったんだ。
それを、あたしが手懐けた。
あたしゃ獣使いの加護を持ってるからね」

 そう言って腰に巻いて付けてある二本の鞭に触れるリゼット。
一つは荊の鞭。もう一つは鉄のチェーンの鞭だ。
なるほど、ザドとはモノが違うってのは本当にみたいだ。
少し、この人に興味が湧いたので、ステータスを覗き見してみる。

“ステータス鑑定”。



名称:リゼット・グリンドル
性別:女
種族:人族

身体能力

レベル:39

体力:3650
マナ:380
魔力:150
筋力:1010
耐久:1050
俊敏:850

特性

・魔獣使いの加護 ・洞観の目

スキル

・鑑定眼lv.5 ・状態異常耐性lv.3 ・剣術lv.6 ・格闘術lv.6 ・槍術lv.5 ・鞭術lv.8 ・魔獣の使役術lv.5
・身体強化 ・魔獣使い ・交渉術 ・対話術



【魔獣使いの加護】
 魔獣や獣、動物を使役し易くなり、すぐに懐かれる。

【洞観の目】
 嘘か真かを見抜く事ができる。
また、物に対しても本物か偽物かを判別出来る。

【交渉術】
 取り引きをする上でより良い条件を引き出しやすくなる。




 へぇ、商人としても戦闘をする人としてもなかなか優秀みたいだ。
しかも、嘘を見破り、真実を見抜くってのは地味にヤバイな。
リゼットさんには嘘をつかないようにしよう。

「凄いですね、魔獣を手懐けるなんて」

「まだまだ実力不足なのを感じるけどね。
それより、アンタの不思議な魔法の才能には、何かカラクリでもあるのかい?」

 ニヤリと笑って俺を訪ねてくるリゼット。

「産まれて間もない頃からマナポーションを飲んで育ちまして。
それで身体の作りが変わってしまったようです。
後は小さい頃から魔導書ばかり読んで、魔法の訓練をし続けたから、でしょうかね」

 その話しを聞いてリゼットは笑った。

「なんとも可笑しな幼少期を過ごしてきたみたいだね。
しかし、それなら少しは納得もいく」

 リゼットはそう言って笑った。
 その時、近付く気配を俺は生体感知で感じ取る。

「何か……近付いてきます」

 俺は目を閉じて集中し、接近してくる何かがいる事を伝える。

「坊や、生体感知も持ってるのかい!?」

 小声で驚くリゼット。

「ええ、恐らく敵です。
東の茂みに隠れてます。
気配から察するに、盗賊の類です」

 そう伝えて俺は目を開く。

 さて、やるか。

 俺が歩き出すのをリゼットが止めた。
俺は不思議そうにリゼットを見上げる。

「あんたの実力を見る前に、あたし達から見せるべきじゃないかと思ってね。
盗賊も無駄に良いものを身に付けてる事もある。
行商人同士が組んで進んでるんだ。
道中手に入れた物は、倒した方が頂くとしようか。
無駄な争いは起こしたくないからね」

 だから、と続けるリゼット。

「相手が盗賊なら、持ってる品物は頂かせてもらうっ!」

 リゼットが荷馬車とポポロを外し、リゼットを乗せたままポポロが荷馬車の前で足踏みを始める。

「東のあの茂みに盗賊がいるそうだ!
ガウェンッ!ローランドッ!サリアッ!
付いてきなっ!」

 リゼットの声が響き、直後にポポロが駆け出した。
リゼットは片手で手綱を握りしめ、もう片方の手には長い鞭を握っている。
そして、荷馬車から護衛の六人が飛び出して、駆け出したのはその内の三人。
籠手を付けた若い女が一番速い。

 俺はゆっくりと飛び上がり、空から行く末を見守る。
先頭はポポロに跨るリゼット。
次いで籠手を付けたお姉さん。
その後ろから長剣と盾を構えたお兄さんが追従し、少し遅れて大斧を肩に担いだ男が後を追う。
その後ろから弓矢を構えた青年が矢を引き絞って狙いを定めていた。
ローラも杖を構えて何かを呟いている。
魔法の詠唱だろうな。
修道服の美少女、セリーヌもロッドを構えて何か唱えていた。

 まさか商人側から強襲されるとは思っていなかった盗賊達は茂みから顔を出し、それぞれの獲物を構える。
弓矢を構えた者もいたが、その頭はすぐ様射抜かれた。
護衛団の弓使いの青年はなかなか腕が良いようだ。
残り、四人弓矢を構えた盗賊がいたが、放たれた矢は見えない壁に当たり、届く事は無かった。
光魔法の聖なる壁、プロテクションだ。
それは魔力に準じてあらゆる物理、魔法の攻撃を防ぐ。
そして続けて弓使いの青年が四発矢を放ち、弓を構えた盗賊の頭は射抜かれていった。
エルフでもないのに大したものだ。

 先頭のリゼットさんは盗賊の集団に突っ込んで行く。
ポポロは兜の角を集団に向けて突進する。
トラックに轢かれたかのように弾け飛ぶ盗賊達。
それを避けた盗賊もリゼットさんの鞭が襲い掛かる。
軌道の読みにくい鞭の動きを盗賊達は避ける事も出来ず、その一撃で吹き飛ばされる。
鞭とは言え、かなりの威力のようだ。

 大混乱の盗賊達の集団に次いで籠手を握りしめたお姉さんが突撃し、殴り、蹴って盗賊達を地面に叩きつける。
なかなか綺麗なお姉さんだけど、喧嘩はしたくないかな。
鳩尾に入った正拳突きで、盗賊は何メートルも吹っ飛んでいる。

 次いで到着した長剣と盾を構えたお兄さんはリゼットさんの近くに寄って盗賊達を近寄らせない。
一番護衛っぽい動きをしてるけど、一番地味だな。
でも、的確に敵の攻撃を受けて反撃するあたり、腕前は上々。
とは言え、護衛対象が先陣を切るんだから護衛する方は大変だな。

 遅れて到着した大斧を担いだおっちゃんはブンブン大斧を振り回して盗賊達を薙ぎ払う。
盗賊達は近寄る事すら出来ないようだ。
あれは脳筋だな、間違いない。

 すると、全員が急に盗賊達から距離を開き始める。
その息はピッタリと合っている。
急に退いていった連中に驚き、次いで駆け足で逃げようとする盗賊の残党達。
その背中に、ローラから放たれた連なる雷が一人、また一人と駆け巡って行く。
近くにいる者を連鎖的に電撃が襲う魔法。
チェインライトニングだ。
盗賊達は一人も残さず倒れ伏した。
リゼットさん達がやっつけた盗賊の合計は四二人。
それはあっという間の出来事だった。

 リゼットさん達はなかなかやる。
それは理解出来た。
まだ本気は誰も出してないだろうけど、その力の一端は見させてもらった。

 リゼットさんは宙に浮く俺を見てニヤリと笑う。

 次は俺って事だろ。

 俺もニヤリと笑い返す。

 望むところだよ。
実力を見たいのなら、俺の力をちょっぴり見せたるよ。



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