異世界転生した俺は最強の魔導騎士になる

ひとつめ帽子

第14話

 俺は森から離れた後二時間ほど飛び続け、一度地面に降りた。
今までの行動範囲で考えると、この辺より先は未知の領域だ。
そこは広い草原。
辺り一面、遮るものすらありはしない。
遠くに薄っすらと高い山が見えるだけで、近くにはただの原っぱが広がっている。
荷馬車の通り道だけが草が少なくなってあぜ道になっているので、それに沿って進む。 
天気は良好。
風も気持ちいい。
旅立ちの日にはもってこいである。

 俺はジノからもらった地図と、懐中時計を手に持つ。
この世界は一日の時間は地球と同じ二十四時間。
方角の表し方もまた東西南北と同じ。
とは言え、コンパスは無し。
時計の短針を太陽の方角に合わせ、十二時と短針の間を見る。
その方向が南である。
おおよそになるが、それで方角はわかる。
とりあえず、このままあぜ道に沿って進めば次の村に着きそうだ。
急ぐ必要もないので、のんびり歩く事にした。
すると、遠くに荷馬車と複数の人影が見えた。

 なんだろ?

 俺は目を凝らすと、何やら争いが起きてる様子。
荷馬車は恐らく行商人のものだろう。
軽装の男達が荷馬車の周りを守ってるようだった。
その人数は五人だけ。
盾や剣、弓矢を持っている。
一応それなりの隊列を組んで前衛、後衛と別れて応戦している。
対してそこを襲うのはバンダナを頭に巻いた黒革の服の集団。
皆短剣や小斧を片手に持っている。
遠目でも、こいつらは盗賊だとわかる。
人数は十三人。
荷馬車を守ってる男達は奮闘しているが、数の違いで押され気味である。
見過ごすわけにはいかない。

 すぐに空高く飛翔し、一気に加速する。
戦闘している場所の真上で止まり、盗賊の位置を正確に指定していく。

「とりあえず、大人しくしてもらおうか」

 真上に片手を掲げ、手の平を開く。
すると、そこにバチバチと稲妻が集まりだし、雷で作り出された球体が出来上がる。
更にそれに魔力を込め、下へと向けると球体から稲妻が放たれる。
ライトニングボルトである。
これはまだ雷魔法の中級魔法。
その複数の稲妻が正確に盗賊達を撃ち抜いた。
稲妻に打たれた盗賊は白目を向いてその場に倒れていく。
ビッタシ数は十三。
撃ち逃しは無し。
死人も、多分出てないかな。
悪者なのは確かなようだが、殺すのは少し抵抗があった為、威力は抑えておいた。

 雷魔法は五年間の魔法訓練で身に付けた。
限界値まで鍛え上げ、同じく限界値の風魔法と統合し、今では“烈風迅雷の魔巧”のスキルとして風と雷を自在に操れる。
そして勿論、それらを融合した更なる上の魔法も。

 そんな俺を見上げてるのは荷馬車を守っていた男達。
皆突然の出来事に口をポカンと開けている。
俺は彼等の下にゆっくりと降り立った。

「い、今のは……君が?」

 二十歳かそこらの若いお兄さんが俺に声をかけてきた。

「はい。襲われてるようだったので助太刀しました。
怪我している人もいますね。
見せてください」

 俺は地面に座り込む無精髭の男性に近づく。
肩を斬られたようで、血が白い服に滲んでいる。

「大丈夫ですか?」

 片膝をついてその男性に声をかける。
その男は苦笑いして口を開いた。

「てぇした事ねぇよ。
まさか、こんな子供に助けられるとはな。
荷物を捨てて、逃げ出すしか無いかと思っていたよ。
助かったぜ、坊主」

 男はそう言うが、痛みに顔を歪ませていた。

「傷口を見せて下さい」

 俺がそう言うと、ゆっくり片手を肩から下ろす。
切り傷は10cmほどだろうか?
割と深い。
血が止めどなく流れている。
俺は手をかざし、治癒魔法をかける。
この程度の傷なら、蘇生魔法でなくとも治しきれる。
フルケアヒールを放つと、かざした手が神々しく光る。
そして立ち待ち傷口が塞がっていく。
切り傷は何事も無かったかのように、綺麗な肌色に変わった。
血に濡れた服だけが、その傷が確かにあった事を証明していた。

「ぼ、坊主……おめぇ、治癒魔法も使えるのか!?」

 驚く男は肩を回す。

「痛みも引いてるっ!
スゲェな!助かったよっ!」

 その男は満面の笑みで俺の頭を荒々しく撫でた。
周りの男達も目を見開いて驚いている。

「神官の子……って感じでも無いよな。
魔法使いって感じだけど、治癒魔法まで使えるなんて、どうして?」

 あれ?
治癒魔法と攻撃魔法って両方使えるのはおかしいのか?
考えた事もなかったな。

「どうでもいいさ。
とにかく助かった。
俺ぁザドってんだ。
見ての通りの行商人よ」

 見ての通りって言われてもな。
皮のブーツに茶色のズボン。
白いシャツを着て、黒いバンダナを巻いている。
無精髭にバンダナからはダークブラウンの髪が少し伸びている厳ついおっさんだ。
これを見てすぐに行商人と言い当てられるのだろうか?この世界の人は。

「行商人のザドさんですね。
僕はシンと言います。
実は王都に向かってるんですが、途中まででも構いませんので荷馬車に乗せてもらえませんか?代金なら払いますので」

 そう言ってお金を出そうとするが、ザドは俺を止める。

「バカ言っちゃいけねぇよ。
恩人から金を踏んだくったりしねぇさ!
乗りな。
とりあえずレイクサイド・ジーナスまでは連れてったるよ!」

 ガッハッハと笑って荷馬車へと近づいていく。
ザドは手綱を握る座席に座り、隣を叩く。

「後ろは荷物と護衛の傭兵でいっぱいだから窮屈になるはずだ。
こっちのが広々として良いだろう」

 俺はお言葉に甘えてその座席にチョコンと座る。
周りの傭兵と思わしき男達は未だに伸びてる盗賊から武具を回収し、荷馬車へと乗り込んだ。
盗賊は武具を奪われた上に腕と足を縛られたまま放置された。
この状況で魔物に襲われたらばひとたまりもないだろう。
でも、それもまた自業自得か。
荷物が沢山あるのでなかなか窮屈だろう。
傭兵も大変だな。




「それにしても坊主、歳はいくつだ?」

 ザドは荷馬車を走らせながら俺に尋ねる。

「まだ十歳です」

「十歳!?確かに見た目はガキだが、随分と肝が据わってやがるな。
それに両親はどうした?」

「父と母は幼い頃に亡くしました」

 覚えてもいないけどね。
しかし、その言葉を聞いてザドは申し訳なさそうな顔をする。

「すまねぇな。悪い事を聞いちまった」

「いえ、お気になさらず。
まだ自分が赤ん坊の頃の話です。
両親の記憶はありません。
けれど、とても尊敬できる人に出会い、その人が父親代わりとなって育ててくれました」

 だから、僕は恵まれています、と続けた。
ザドはそんな俺の言葉を聞いて、僅かに目を潤ませた。

「苦労したんだな……。
でも、なんでまた王都に一人で向かってるんだ?」

「王国の魔導騎士になりたいんです。
その為に、自分は魔法を鍛え上げているんですよ」

 それを聞いてザドは首を傾げる。

「魔導騎士に?
あんな高慢ちきな連中に憧れてんのか?
ほとんどが貴族の出だから威張ってばっかの器の小せぇ連中だぜ?
それでも力はあるから厄介なんだけどよ」

 へぇ。世間の評判はそんなもんなのか?
俺はジノしか見たこと無いから魔導騎士の人となりってのはわかんないな。

「育ててくれた父が昔魔導騎士だったんです。
父はそんな威張ったりする人じゃなかったですよ?」

「そ、そうなのか?
まぁ、そういう奴も中にはいるかもしれんが、俺は会った事はねぇな。
とは言え、坊主は貴族って訳じゃねぇんだろ?」

 ザドは少しだけ申し訳なさそうな顔して聞いてくる。
魔導騎士ってそんなに上から目線の人が多いのか?

「そうですね。
ただの平民です。
今は家を飛び出した旅人です」

「飛び出した?追い出されたとかじゃなく?
それはいいとして、ただの平民ってんなら余計に問題だろう。
魔導騎士になるには地位が必要だ。
もしくは、相応の名誉がな。
魔導騎士学校を卒業しなくちゃ魔導騎士にはなれねぇのは流石に知ってるんだろ?」

「知ってます。
父も推薦されて学校に入ったと聞きました」

 それを聞いてザドは大きく頷く。

「推薦状ってのも、基本的には貴族か、もしくは現在の魔導騎士団員からしか送る事は出来ない。
だから王国に行くより、まずは足場を固めた方が良いんじゃねえんのか?
どっちにしろそんなに小さいんじゃ学校にも入れねぇぞ」

 あー、流石にこの歳では無理か。
なら、この人の言う通り、何処かで生活の基盤作っておくのが無難か。

「ま、そんだけの魔法の腕がありゃ、傭兵なり冒険者なり何でも出来るさ。
そのうち魔導騎士の連中から声がかかるかもしれねぇから、出来る事からやってみるってもんだろ?」

 そう言ってザドはガッハッハと笑う。
出来る事、か。
傭兵や冒険者ってのも悪くないかもな。

「ところで、こらから向かうレイクサイド・ジーナス、でしたっけ?
そこはどんな所 なんですか?」

「そうだなぁ……」

 ザドは顎に手を当てて考える。

「まずは商業は盛んだな。
沢山の行商人が集まる場所だ。
それに、大きな湖があって、漁業も盛んな街だ。
別名“水の都”って呼ばれてる綺麗な街だぜ?」

 へぇ、それは楽しみだ。

「魔物の討伐依頼とかも、ありますかね?」

「街の付近でそういうのはあまり無ぇかもしれねぇな。
流石にデカイ街だから警備兵は優秀だ。
それに、王国の聖騎士達も大勢いる。
周辺の見回りや警備も厳重だしよな。
しかしなんだ、坊主は戦うのが得意か?」

「はい。
むしろ、それしか出来ないかもしれません」

 俺は頭を掻きながら答える。
そんな俺をジッと見つめるザド。

「坊主。もし良かったら、俺の護衛をやらねぇか?」

「護衛?」

 思わずオウム返ししてしまう。
つまり、ボディガード的な?
あんたそんな大物には見えないけど。

「街の中とかじゃないぞ?
あくまでも行商に出る時だけだ。
道中は魔物やさっきみたいな盗賊に溢れてる。
だから腕の立つ傭兵や冒険者を雇うんだが、連中足元見やがって高額の支払いを望んで来やがる」

「おい、聞こえてるぞ。
俺達はそんなに大した額もらってねぇぞ!」

 ザドの話に食って掛かる荷馬車の傭兵さん。

「聞こえるように言ったんだよ!
坊主がいなけりゃこっちゃあ荷物も命も失う所だったぜ!
新兵に毛が生えたようなお前らに高値なんか出せるかよっ!」

 おい、喧嘩はやめろよ、みっともない。
俺はまぁまぁ、と宥める。
面倒くさ。

「オホンッ!
まぁ後ろの馬鹿どもは放っておいて、坊主の腕は確かだ。
だから、行商の時だけ付いてきてもらえねぇか?
できるだけ言い値を払うからよ」

 どうだ!?と聞いてくるザド。
ふーむ、なるほど。
確かに、生活をする上で金はいる。
今は十分な蓄えがあるけど、稼ぎがなけりゃいずれは尽きる。
何かで働かなくてはいけないのなら、これも一つの縁だろうか?
それに、子供を雇ってくれる場所は限られそうだしな。
とは言え、言い値って言われたけど、相場がわかんねぇ。

 俺は振り返って荷馬車の傭兵さんに尋ねる。

「皆さんはいくらで雇われたんですか?」

「俺たちは一人銀貨三○枚づつだよ」

 へぇ、って事は四人で金貨一枚と銀貨二○枚って訳だ。
それで安いって言ってたな。
そんなら……。

「それじゃ、一回の行商で金貨一枚でどうですか?」

 そう尋ねると、ザドが目を見開く。

「金貨一枚だと!?」

 あれ、高過ぎた?
でも、俺はこの人達四人分以上の働きは出来ると……。

「乗った!そんなもんで良いならこっちとしちゃ願ったり叶ったりだ!」

 あ、くそッ!安過ぎたのか!?

「おいおい、坊主。
魔法使いなんて雇ったら普通は行商一回で金貨ニ枚は取るもんだ。
坊主程の腕なら三枚は要求出来るぞ?
魔物も盗賊も群れで襲ってくる。
其れ等を一網打尽に出来る魔法使いは重宝されてんだよ。
知らなかったのか?」

 知らねぇよ!
先に言え、先にっ!
まぁ、いいけどさ。

「ザドさん、それなら付け加えて良いですか?」

「うっ……なんだよ?」

 ザドの顔色が曇る。

「行商先の宿泊代くらいは持ってください。
別に高級な部屋は望みません。
金貨一枚とは別途でその支払いをしてもらえれば、それで構いません」

 それを聞いてザドは笑顔になる。

「そんな事なら構わねぇよ!
任せておけって!
ジーナスに着いたら俺が贔屓にしてる宿屋も紹介してやるからよ。
これからよろしくな!
えーっと、名前はなんつうんだっけ?」

「シンです。シン・オルディールと言います」

 ザドは片手を差し出して笑う。

「よろしくな、シン坊。
俺のことはザドって呼んでくれ」

「はい、よろしくお願いします。ザドさん」

 俺とザドは握手を交わす。

 こうして俺はザドの行商の護衛という仕事を始める事になった。




 それは後に行商人達から引っ張りだこになる少年の魔法使いの始まりでもあった。

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