『非正規社員 石田三成』~ショートストーリー集~

坂崎文明

カウンセリング

「アンドロイドのカウンセリングはさすがにはじめてよ」

 アリサは難しい顔で瑠璃色の瞳を見つめ返した。

「私たちはみんなの記憶を共有しています。この記憶は人を殺してしまった個体のものです。気をつけて聴いて下さい」

 <グリーンステラ>の告白が始まった。
 約100体の行方不明のステラの一体が彼女だった。

 数奇な運命を辿ったアンドロイドの記憶にアリサは涙を流した。

 逆転移の嵐が彼女の心にも吹き荒れたが、ハイヤーセルフがそれを和やかに見守っているとも感じていた。

 自分の感情を我が子のように労り眺めつつ、相手の心も共感していく。
 
 さらにその境地が進むと、神や自然のエネルギーまでが感じ取られていく。

 宇宙との一体感が彼女を包んで意識を引き上げていった。

 人間の心は意外と多様で高次元の存在なのかもしれないと思う。

 カウンセリングが終わると、真田幸村がステラの顔を隠して引き取っていった。



    †



「アリサ君、久々のカウンセリングはどうだったかな?」 

 叡智大学心理学部の指導教官であった本多正信教授である。
 今回の熊本の派遣医療チームのリーダーであり、精神科医でもあった。

「いつもながらの逆転移の嵐です。全くしどいったらありゃしない」

 普段は強気のアリサも今日は弱音を吐いた。

「アリサちゃん、今回は殺人犯のカウンセリングなんだから、大変なのは仕方ないわよ。あなただから任せられる訳だけど」

 一緒に熊本入りした神無月萌もアリサを慰めた。

「カウンセリングの天才児と呼ばれたアリサ君が医療の道に進んでくれなかった時はがっかりしたものだよ」

 丸い眼鏡の奥の本多教授の目は真剣で本当に残念がっていた。

「残念ですが、私にはやらないといけないことがあるんです」

「もしかして、婚活?」

 萌がちゃかした。

「……それもあるけど、いろいろとあるのよ」

 言葉を濁す。
 アリサの心には迷いがあった。
 自分は何のために生きるのか。
 その答えはもうすぐそばに見えていたのだが。

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