虚無の果てにあるのはやはり友情だろうか

白神 柾

君と交わした約束

「くそ…まじか…嘘でしょ…」


ノアは迷っていた。


「えっまさか…この俺が…ここで…?」


そう。事もあろうに家から出て数分の住宅地で。
まさかの地元で。生まれ育った場所で。 


「終わった…始まったばかりなのに終わった…」


20分前に遡る………


「姉さんめ。馬鹿にしやがって!」


ノアはそこにいないミアに悪態をついた。


「いくらなんでも道くらいわかるっつの!何年ここに住んでると思ってんだ!」


1分前、ミアに道わかる?と出かけ際に言われ、本当はものすごく不安に思っていたが、見栄を張り走り去ってしまい、そのまま激情に身を任せていた。


「いくら外出てなくても、故郷だし、地元だし」


ノアはしばらくは自身満々に進んでいた。
真新しい建物が多く、外を見ていなかったノアにはとても新鮮だった。


「ここどこだよって感じだな」


ノアの本音が出た。全く見覚えがないので、ここどこだよってなのである。五年前とはいろいろ変わっているのである。


「まぁ子供じゃないんだし、大丈夫だろ」


と、言っているが、ノアは一年前も一応外に出ている。道を完璧に忘れているのだ。
10分後、集会所に着いた。


「ここは…誰の家だ?でかいけど、かなり質素だな」


ノアは集会所を誰かの家と思っていた…ここは目的地の中間地点で、ノアは奇跡的に正確な道を進んでいた。


「もうすぐだと思うんだが、どっちかな…」


ノアの視界には三つの通りがあった。


「どれだ…どれなんだ…!」


正解は真ん中である。むしろノアのいる位置からもう目的地が見えている。 


 「いや…これは…むしろ後ろだ!」


……そうしてノアは今まで来た道を逆行した。
集会所は広い円形の場所にあったため、今まで来た道がわからなくなったのだった。


 さらに五分後…あれからかなりグルグル周囲を回り続けた。  


 「えー次はーこっちだな!」


未だ自身満々なノアは家からも遠く離れ、目的地からはもっと離れたところにいる。


「あれ?どっちだっけ…」


  突如、道がわからなくなった。もちろん最初から合っていないが。
 

「誰かに聞こうかな…………………………………明日
でいいか」


誰かに聞くことだけはしないノア。
そのまま多分に予想を含みながら進んだ。


「こっちでいいのかな…いやあっちか…」
「あれじゃないか?いや違うか…」


こんな調子でいたら、家から数分の位置にいたのだ。
 











現在……


「ここどこよ…誰の家だよ…」


まだ新しい家々を回りながら、苦言をもらした。


「集会所の近くだってことはわかってるんだが…」


その集会所は出発して十分で行っている。


「はっは…まぁ迷うのは当然だよな…数年間まともに外出てないんだし」


 ノアは今になって気づいた。そして、これは毎年のことである。それなのに、覚えないのだ。もしかしたら、一年ごとに記憶が吹き飛んでるのかもしれない。


「姉さんに担架切ったのに情けねぇ…取り敢えず、ここを抜けよう。高めのところに…」


 ノアはそう言って高い所を探した。


「あれは…学校かな…」


 ノアがしばらく行っていない学校が見えた。


「山の上だし、ちょうどいいか」


 そう言って学校を目指した。


 「目的地が見えてるとわかりやすいな」


ノアは着実に学校の方に歩みを進めた。移動中に人々とすれ違うが暗いせいかノアに気を留める者はいない。


「やっぱり夜に行ってよかったな。まぁ顔がバレても気づかれないだろうけど」
 

 実際その通りで、顔を見てもノアと気づいた者はいない。五年も引きこもっているのだ。当然だろう。
 そのあとかなり迷った。見えてるのにもかかわらず。


「もっもうすぐ。これを登りきれば!」


ノアの目に写っているのは山道であった。大した山ではないが、夜なので、かなり暗かった。


「暗いな…はぁ…魔法が使えたらな…」


ノアは肩を落として、トボトボと歩き始めた。




山の中はかなり暗かった。ノアは明かりを持って来ていなかったので、ほぼ何も見えていない。


「おっかねぇ…ここなんか出そう…熊とか」


たしかに出そうだか、ここは子供達が毎日通ってる道である。そんなものがあるはずもない。そのことに気づかないノアは、少しの物音でビクビクした。
ガサガサ!
フューーー!
ウォーーーン!アオーーーーン!


「ヒョェーーーーー!たっ助けテェーー!」


風で木が揺れているだけなのだが、ノアはそれだけで泣きそうな顔になりながら、走った。
 ちなみに遠吠えは山の麓に住んでいる子供達が叫んでいただけだ。
 だが、ノアを走らせるには十分すぎた。


それからも子供達の遠吠えが続き、ノアは意味もなく走り続けた。
それからもノア的には何かから逃げながら進んだ。そして…
  やっとの思いで学校に着いた。




「はぁはぁはぁ…やっやっとついた。はぁはぁ」


ノアは肩で息をした。ノアの目にはかつて通った
学校が写っていた。ずっと変わらない少し古びた校舎に感慨を覚えた。


「久しぶりだなぁ」


と、ノアは目を細めた。


「割と最近見た気がするけどな。それだけ思い出があるってことか…」


 ノアは割と最近見ている。実は一年前も同じように考え、ここに来ている。だがノアは全く覚えていなかった。やはり、記憶が吹き飛んでしまったのだろう。


一年前はすぐに目的地を探したが、なんの気の迷いか「少し、見ていこうかな」と思ったノアは立派とは言えない校門を通り、五年ぶりに年季を感じる学校に入った。学校だけは古いままだった。学校はノアが思っていたより広かった。 
 村の学校はここだけで、5歳から17歳までの子供達が魔法、剣術、座学を主として学んでいる。
そして、スキルが発動したものはその系統により、クラスを分けられる。かなり珍しいものが発動した場合は、担当の教師がつく。そして、卒業したものは王都に行ったり、違う国に行ったりなど様々である。
 

「昇降口はどこだっけ…」
 

  ノアは中に入るべく、入り口を探した。遠くからでは分からなかったが、下の階で明かりが付いている教室があった。


「まだ、人はいるか…先生たちかな。どうしよ…」


それを見たノアは行くのをためらった。ずっと行っていなかったのだ。バレたら不審者扱いになるかもしれない、と考えたノアは校舎の裏に回った。


「ここは…」


 ノアが来た場所は昔、よく遊んだ場所だった。みんなと……


「あんまり変わってねぇな。なんか残ってないかな」


 ノアは久しぶりに来た場所に感慨深くなりながら、かつてみんなと遊んだ痕跡を探した。


「あっここはリムが俺をふざけて投げとばしてできた凹みだ。ここはテレシアが果実を投げてできた染だ」


 ノアは次々に出てくる思い出に笑みを浮かべた。


「これも…ここも俺たちだ……」


  自分たちが刻んだ思い出を噛み締めた。


「久しぶりだ…ホントに…ホントに…」


 ノアは笑みを深めて呟いた。


「リムとテレシアと…俺と……–––と」


ノアは最後に自分でも聞こえないくらいの名前を呟いた。


「よく…遊んだなぁ…」


リム・ラッカル、テレシア・アーガストそれぞれかつてのノアの親友だった。今はどうなっているか分からないが、二人とも優秀な剣士と魔術師の卵だった。五年前から一度も会っていない。ノアがたまに聞く世間話では、学校でも1、2を争うほど優秀らしい。


「他にも色々あるな…あいつら元気かな…」


 ノアは顔に影をさしながら呟いた。様々な気持ちが
混濁する中、彼らに対して後ろめたい気持ちがその顔を作ったのだ。他にも–––––––
  それから数分間痕跡をじっと見続けていたノアは不意にある跡を発見した。


「っ!これは…あいつと…」


ノアは泣きそうになりながら、木に隠れるようにある文字が刻まれた所を見つめた。
そこには…




『『いつか』』
『君を守れる剣に』
『貴方を守れる星に』
『君と』
『貴方と』
『『この星降る夜に誓って』』
『ノア』『–––––』
  



  まだ拙い文字でノアともう一人が交わした約束が刻まれていた。
最後だけ掠れてしまって読めなかったが、おそらく名前が刻まれていたのだろう。


「ッ……まだ残ってたんだ…」


 ノアは思うところがあるのか、泣きそうで申し訳なさそうな顔をした。


「元気に……元気にしてるかな…してる…よね」


ノアは上を向いて言った。溢れそうな涙を堪えるように。 


「くっうっああぁ…」


しかし、耐えきれず静かに涙を流した。
  ノアの瞳から溢れた涙が彼の頰を伝う。彼の鈍色のまつ毛を濡らした。


「……っ………ふっ……くっ」


ノアはしばらく泣き続けた。
 













「はぁ…」


泣き腫らしてわずかに腫れた目を擦りながらため息をついた。そして、名残惜しむように、また逃げるように学校から顔を背けた。
















「さっさと探そう…」


ノアは何かに言い訳をするように目的地を探した。


「大体…あっちだったかな…もっと奥か?あっあそこだ」


ノアは高いところから見たことにより、簡単に…とはいかなかったが方向を確認することができた。


「行きますか…」


ノアはそう言って、ちらりと学校を見て、今まで来た方向とは真逆の方へ歩き始めた



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