《ハーレム》か《富と名声》か。あの日、超一流の英雄王志願者パーティーを抜けた俺の判断は間違っていなかったと信じたい。

しみずん

5 獣人族

 俺達が感動の再会を果たしていると、突如、すぐ側で声を掛けられた。

「にゃーにゃーにゃーにゃー、人ん家の前でいったいにゃにを騒いでるのかにゃ?」

「ーーーーわっ!」

 あまりに突然の事だったので腰が抜けそうになったが、何とか踏みとどまり冷静を装って声のした方を確認すると、ちょうどアイラの左後ろ辺りに声の主はいた。

 薄い緑髪にところどころ白の毛束が入り混じった変わった毛髪、髪の長さは肩に届くくらいで、三角に尖った耳が覗いており、瞳の色は金色、活発さが表面にありありと溢れた笑顔が可愛い女の子。

 しかし、気を抜いていたとは言え、ここまで接近されるまで気付かないものかと不思議な感覚を覚えた。

「あっ、えっと。その、ごめんなさい。何か色々あって取り乱しちゃってて……」

 目元を乱暴に拭いながら、俺は答える。

 そんな俺を覗き込むようにして、

「んんぅ~。にゃんだ、にゃいてたのかにゃ?」

 泣いてたのがバレちゃって恥ずかしい限りではあったが、だがしかし。

 さっきから、何だ。この違和感。

「ん? どうかしたのかにゃ?」

 小首を傾げて俺を見るその子の顔を見て、ずっと感じていた違和感の正体をやっと掴む事が出来た。

「んにゃ?」

「それっ!」

 それだよ、その『にゃ』だよ。

 何でネコみたいな喋り方してんだよ、この子。

「その『にゃ』って何ですか?」

「ああ~これにゃ。獣人族の名残にゃ、お前達の言葉でも方言ってのがあるだろう? あれと同じようなもんだにゃ」

 ほぅ。そうなのか、方言なのか。

 可愛いじゃねぇか。

 しかし、今さっきさらっと言ってたけど獣人族って何だ?

「あの……じゅうじんぞくって、何ですか?」

「にゃんだお前、獣人族を知らにゃいのか? お勉強が足らにゃいにゃ~」

 俺の浅学さがあらわになり始めた所で、アイラが口を挟む。

「獣人族は私達が今いる大陸グラの外にある大陸に住む種族で、身体に動物の様な特徴を持つ種族です。実際、私も見るのは初めてですが……」

「へぇ~そうなんだ。僕も知らなかった」

 チキも珍しいものを見るように目を輝かせている。

 俺はチキの頭をガシガシと撫でながら、

「外の世界には色んな人がいるだな~勉強になったな、チキ」

「うん」

 そんな獣人族の女の子は、先ほどまでの活き活きとした表情はいつしか影を潜めており、少し俯いた、見方によっては怒っているような表情で、

「人ねぇ……」

 と、呟いた。

 その子の、獣人族の女の子の表情の変化がどうしても気になり、聞くべきかどうか迷ったが俺は聞くことにした。

「どうしたの? 急に元気なくなっちゃったけど……気分悪いの?」

「ああ、いや。何でもにゃいにゃ


 言いながら顔を上げたその子の表情はさっきまでの眩しいくらいの笑顔に戻っていたが、でも、目元がわずかに濡れていた。

「お前達! ちょっと家に寄ってけにゃ」

 俺達は獣人族の女の子に促されるまま、その子の家に案内された。
 

 

 

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