冒険者の日常

アカツキ

戦いの後で 2

 部屋を出た後もそれは続く。壁、天井は真っ白く汚れなど見当たらない。これこそが清潔感の表れなのだろう。しかしそれと同時に少し落ち着かない気持ちになる。ここはあんまり得意じゃないんだ。
『アンティラ国立病院』
 アンティライカにおける最大規模の医療施設で、数々の病気から怪我まで幅広く治療している。とは言っても大概は魔術で治ってしまうから、ここへ来るのは余程の重症患者であるということ。それと患者の半数以上は冒険者達である。だからどちらかと言うと病気よりも怪我の方を中心に扱っている。
 僕も不本意ながら何度かここに患者として訪れている。思い出しただけでも背筋のあたりがゾクゾクするくらいの大怪我だったのを覚えている。そして思うのは僕はとても幸運でそれと同等に不運であるということ。
 食堂の近くまで足を運ぶとアイシャが待っていた。
「お兄ちゃん、こっちです」
 おそらく注文を終えて僕のことを待っていたのだろう。元気に手を振って僕のことを呼んでいる。
「とりあえず、おすすめと書いてあった定食を取っておきました」
 おぼんの上にはコメと呼ばれるヤマト地方の主食を盛ったおわんとヤマト風のスープが入りゆらゆらと湯気ゆげを立てているお椀、魚の塩焼きが乗っているお皿があった。
 ヤマトの料理は病人であっても食べやすいということからここでは約5年前から導入しているそうだ。確かに食べやすく何より美味しい。このミソシル、と言っただろうか、特にこれは本当に美味しい、是非とも山猫亭でも出してもらいたいものだ。
「……まぁ、もう既に十分儲かってるか」
「何がですか?」
「うん? あぁ、このスープをさ山猫亭で出だしたらいいんじゃないかなって」
 その瞬間僕は見た。
 アイシャの目が冒険をしている時よりも鋭くなったのを。キラキラというかギラギラと輝いていたのを。
「本当ですか? それは嬉しいです、とても美味しいですから」
 なるべく早いうちに、忘れないうちにマスターに相談してみよう。この料理を作るためにはヤマト出身の誰かの知恵が必要となる。おそらくそれは冒険者をあたればどうにかなるだろう。まぁ、問題があるとすれば材料だよな。確かヤマトには独特の調味料があって、それじゃなければ作れないものも多いそうだ。聞いた話によるとミソシルもそのようだ。
「マスターと話しておくよ」
「はい! お願いします!」
 輝く瞳を見ていると、いやアイシャの瞳だからだろうか、その瞳から涙を流して欲しくは無いと不意に思った。
 理由はない。
 いや、ないというか分からない。おそらく僕の中で何かがあるのだろうがその何かがよく分からない。
 とにかく、泣いて欲しくない泣かせたくない。そう思ってしまった。
「……なんでだろうな」
 ポロリと独り言が漏れる。
 今度は誰にも聞こえることはなく、増え始めた人の声のなかに吸い込まれていった。

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