冒険者の日常

アカツキ

戦いの後で

 爽やかな風が吹きぬけていった。
 僕は白い天井を見上げていた。天井だけじゃない、壁もベッドも何もかもが白い。
「……ん、ここは……」
 燦々さんさんと降り注ぐ暖かい日の光が差し込んでいる。ベッド脇の窓からは青く曇りのない空が広がっている。いつもの様に小鳥のさえずる声が聞こえる……のだけれどもここはどこだ?
 不意にノックの音が聞こえる。次にはゆっくりと扉が開く。
「……お、お兄ちゃん!?」
 扉を開けたのはアイシャだった。手には手ぬぐいが握られていた。
 アイシャは扉を開けてすぐに僕が起きていることを確認して涙を流しながら僕の腹へと抱きついてきた。それもかなりの速さで。
「ぐふっ、アイシャ……痛い……」
人体的急所みぞおちに頭が突撃してきた。いくらレベルが高くても油断してればダメージは入るし、痛いものは痛いのだ。
「……あ、ごめんなさい、嬉しかったからつい……」
 抱きついたままそう言って彼女は僕のことを見上げてニッコリと笑う。
「ありがとう……」
 アイシャの頭を撫でる。アイシャはくすぐったそうに少し身を捩《よじ》りそうしてさっきよりも強く僕に抱きつく。
 僕は幸せ者だ。いつも周りには僕の事を思ってくれる大切な人がいる。いつだってどこだって、それは今もそうだし3年前もそうだ。僕は本当に幸せ者だ。だから時々不安になる。僕は彼ら彼女らになにか返すことが出来ているのだろうかと。
「……お兄ちゃんはあの日から魔力欠乏症というものになって3日もずっと寝てたんですよ」
「えっ、そんなに?」
 長い、長すぎる。通常、魔力欠乏症と言っても1日寝ていれば魔力は自然回復する。3日も寝込むほどの魔力欠乏、下手をすれば死んでいるレベルだ。
 魔力欠乏症の場合、2日で要観察となりこのころからだんだんと顔色が悪くなってくる、具体的に言うと顔色が白くなっていく。3日経つと人工供給がなされる。2日もとい1日の時から常に人工供給はされている。しかしそれは回復を手助けする程度の微々たるものだ。ここで言うのは本人の自然回復に頼らない人工供給だ。無理矢理に魔力を一方的に流し続ける。この時点で生きられるか死んでしまうのかが判断されるそうだ。それでも魔力が足りないと手足の指先が壊死し始める、4日目になると手足の細胞は全壊する。そうして5日目には大抵の場合、死、だそうだ。そもそも魔力が回復しないというのはその人の生命維持活動に深刻な問題が生じていると言っているようなものだ。
 魔力というものは僕達の体を常に巡っているもので、それを取り込んだり放ったりすることで魔術やスキルとして発動させることが出来るらしい。僕達の体が魔力を扱うための器となるのだ器の大きさで使える魔術も変わってくだという事だ。
 しかし吸収、放出が出来ないということはつまりは器が破損している、ということだ。魔力欠乏症の場合何らかの原因自然回復がが出来ない場合と回復が間に合わない場合がある。つまり吸収及び回復ができない方と放出が調整出来ない方があるという事だ。器は魔術を発動させるためには必要不可欠な媒体となる。媒体が無ければ術は完成しない、そもそも術自体が存在しなくなる。
 そして、器は一部が欠けた状態でもなお魔力を注ぎ込まれると耐えきれなくなり全損する。詰まるところこれが死だ。ということになっている。実際のところ詳しいことはまだ分かっていないのだ。
「だから、ほんとに心配したんです」
 ご飯用意しときますね、と安心したように、いや実際に安心しているのだろう。声音には確かな安堵が感じられた。
 アイシャは踊りというか舞いにも似た何かをしながら部屋を出ていった。
 そんな光景を見て自然と頬が緩む、しかし自分が3日も寝ていたという事実。そこまで自分が魔力の消耗を余儀なくされたということには正直言って驚きだった。本来なら自動回復がされていて消費量よりも回復量の方が多いはずなのに。回復が追いつかなかったのか、そもそも回復行為自体が停止してしまっていたのか。わからないことは多すぎる。きっと医者に聞いても詳しいことは分からないだろう。
 それよりも、冒険者たちは大丈夫だったのだろうか。僕のせいで腕が飛んでしまった冒険者もいたと思ったのだが……
 それも含めてギルドに行かないとな。

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