冒険者の日常

アカツキ

本当の力

 満を持してそれは放たれる。
 とてつもない轟音と共に爆風を撒き散らして全てを無に帰すが如き白き咆哮。見ずとも分かる膨大な魔力、そこに秘められた莫大な破壊力。ロードとしての絶対的な力の権限。確かにこの魔力、破壊力なら都市の結界を破るのも容易たやすいだろう。
 考えれば逆によくこの攻撃を受けて外壁の一部が吹っ飛ぶだけで済んだものだ。流石はアンティラの技術力と言うべきだろうか。しかしここまでの力をほんの一瞬に集めてしまうドラゴンの力、本当に凄い。
「………………だからどうした」
 知らず知らずのうちに口元が不気味に曲がる。咆哮はもう眼前まで迫っている。でもこれ、魔術なんだよね。なら僕の敵じゃない。
「こんなもん吸い尽くしてくれる」
 瞬間的に空は白く塗りつぶされた。
 しかし結局いつまで経ってもその咆哮が都市に届くことは無かった。真正面から攻撃を受けたはずのネロは傷一つなく、むしろさらに力が膨れ上がっていた。一撃必殺の攻撃はネロにたった1人の少年にダメージを与えることが出来なかった。
 白き咆哮は音もなく消滅した。
「ふむ、こんなものか? 思ったよりも大したことないな」
「グオォォォ?」
 ドラゴンロードは何が起きたのか理解出来なかった。ただだた困惑するしか無かった。
 あれ程の魔力が一体どこに消えたのか。
 何故目の前の人間は立っているのか。
 何が起こっているのか。
 自分の持つあの絶対的な咆哮はどこに消えてしまったのか。
「次はこっちの番だぜっ!」
 ドラゴンロードが放心しているうちにネロは空中を蹴りそれまであった距離を一気に詰める。そして脳天めがけてかかとを一閃。
 しかし手応えはなかった。確かに頭を捉えた、しかし足は強靭な外皮によって拒まれる。
「ちっ、なんて体をしていやがる……」
 今ので地面に落とすはずだったがドラゴンロードはビクともしない。
 普通のドラゴンならおそらく今ので地面に叩きつけられていたはずだった。名ばかりのロードではないという事だ。
「ゴォアァァァーーーー!!」
 再びドラゴンの咆哮が響き、口からは炎が吐き出される。
『ドラゴンブレス』
 広範囲物理攻撃、種族によって属性が異なり威力も強さに比例する。レッドドラゴンなら火、ブルードラゴンなら水、とかそういう感じだ。
 付け加えるならばこのブレスどんなに下級のドラゴンが放ったとしても冒険者はひとたまりもない。ほぼ確実に死ぬと考えても過言ではない、というのが共通見解だ。いや、そもそもドラゴン自体滅多なことがない限り人の前に姿を現さない。
 それにドラゴンは神聖な生き物だ。かつては神の僕として活躍していたようだ。
 結論からいえば人知を超えてるという事だ。だから咄嗟に翼で体を覆う。それでも熱さまでは防げない。容赦ない熱風が肌を焼く。まさか自分の体から煙が出ているのを目撃することになるとは……
「……でも、こんなんで倒れるつもりはねぇ!」
  間髪入れずにドラゴンロードは再び咆哮を上げる。
「黙ってやらせるわけねぇだろ!」
 空が黒く染まる。黒雲が立ちこめ雷が轟き気温が急激に低下する。
絶空落雷ぜっくうらくらい、俺と同じ目に合してやるよぉおおお!」
 手を前に突き出す。
 ひときわ強く空が発光し、無数の雷がドラゴンロードを中心にして出現する。上にも下にも雷が走りドラゴンロードを閉じ込める。さしずめ雷の牢獄と言ったような状況だ。
「グゥォォォオオオオーーーー!!」
 ドラゴンロードはブレスを放つ。とてつもない轟音が響く。しかし雷の牢獄は壊れない。
「無駄だ、それにまだ術は完成してないんだ、大人しくしていろ」
 突き出していた手のひらを握る。
 瞬間空から稲妻が走る。とてつもない速さでドラゴンロードの体を貫いていく。そうして牢獄の底の方にに雷のエネルギーが溜まっていく。
「……焼き尽くされろぉおおお!!」
 握った拳を空へと突き上げる。
 溜まっていたエネルギーが逆流を始める。再びドラゴンの体を電撃が駆け巡る。今度は確実にドラゴンの外皮を焼いた。あちこちから煙が上がり、焦げた匂いが立ちこめた。
 そしてこちらも翼の大きさが少し縮んでいた。まぁ、究極魔術を放てば当たり前か。いやでも地形をも変える究極魔術で表面が焦げるだけというのも恐ろしい話だ。本当に天災級の化け物だよ。こいつはどうすれば倒せるんだ。
「……なんで気が付かなかったんだ、そうだよなぁ、そうすりゃいいんだよな」
 ニヤリと不気味に口角を釣りあげた。
 しかし誰も気が付かない、どこかで何かが壊れたことを……誰も気がつけない。

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