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冒険者の日常

アカツキ

洞窟の攻防 4

 彼は静かにそして確実なる敗北を悟った。もう打つ手がないのだ。
 彼は思いもしなかった。まだ、隠された手があることを、まだあの冒険者が本気ではなかったことを予測できなかった……いや、予想しなかったのだ。
 慢心が招いた呆気ない終焉、今更ながらの後悔。そして遅すぎる後悔からは何も生まれない、そこにあるのは取り消せない失敗だけ。もうこの未来を変えることは出来ない。
 きっともう少し考えていれば可能性という希望を見出すことが出来ていたはずだ。
 結局のところ後先考えず死への道を走って突き進んだのだ。そんな間も冒険者を渦巻いている魔力は増え続ける。その魔力はどれだけ強化しても足りないということがありありと感じられた。本能が警鐘を鳴らして理性はそれに準ずる。
 しかし体は動かない。未知なる感覚に理性と本能は追いつけていないのだ。
 彼には冒険者の方がモンスターとして写った。遅まきながら彼は気付いた。そうかこれが本当の恐怖なのだ。しかしそれに今気がついたところでもう何もかもが遅い。
 次があるなら、あの冒険者には近ずかないことにしよう。彼は本能にそう刻み込んだ。
 
 僕はまだなお周囲から魔力を吸収している。
『漆黒の夜空』
 僕の持つ唯一のスキルでこの都市、この世界で同じスキルは存在していないユニークスキルの1つ。
 その効果は様々あるが、その1つが周囲から魔力、正確には魔力を伴う物全てから力を吸収し、自らの力として行使するというもの。吸収限界のようなものはなくあればあるだけ吸い取る。
(……これで終わりにしないとまずいよな)
 これ以上戦闘が長引けば確実にこの洞窟が崩れる。助けられるのもは助けなければいけない。
 そんな僕の思いに呼応する形で魔力が膨張する、空気がビリビリと震える。それは未知の感覚だった、今までに感じたことの無い魔力の奔流だった。なにか、嫌な予感がする。そしてその力は僕の背中に漆黒の翼を生やした。
 皮肉なものだ。それはかつて僕から全てを奪ったあの堕天使のような翼だった。全てを無に返す、絶対的力の現れ。
 しかしどこかあの翼とは違った。
 それには全てを包み込むような夜空の輝きが確かにそこにはあったような気がする。
「これで終わりにしてくれる」
 しっかりと地面を踏み込んで、地面を捉える。筋肉の収縮を一気に解放する。
 瞬間、地面が爆裂した。同時に物凄い衝撃音が洞窟に響く。

 ***

 実にあっけないものだった。あれだけ剣戟を繰り返していたのに終わるときには一撃だった。でも、だからこそこのスキルは好きになれない。もう、それは人間が出せる限界を遥かに超えている。だから、それを使うと僕は人成らざるものになってしまう。それはもうモンスターと変わらないだろう。
 そうして決まって過ぎた力は大抵自分の身に害を及ぼす。そう、通常は……でも何度も言うように例外は常に存在するもので僕の所有するスキルは人体というか僕に対する損傷は皆無、スキル使用時に若干の人格が変わるくらいしか影響がない。
 だから僕はこのスキルが嫌いだ。
 安易に限界を超えられる力、そもそも限界なんて存在しない力、過ぎた力でも害がない力……このスキルは簡単に使用者を飲み込んでしまう。
 あぁ、だから僕は僕自身が嫌いだ。この力に頼ることしか出来ない弱い自分がとても嫌いだ。
 だから僕はもっと強くならないといけない、それこそこのスキルを使わなくても済むように。

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