冒険者の日常

アカツキ

洞窟の攻防 3

 モンスターの生に対する執着は尋常では無い。人間の予測や観測、常識すらも通用しない。モンスターが高レベルになればなるほどそれはどんどん非常になって行く。それはこれまでの経験の中で痛いほど分かっている。
 かくいう僕も何度もそれによって生死をさまよっているから。
「ーーーーまだ、足りないか」
 そうしてこのモンスターが持っているのは魔剣の類だ。剣自体に魔術付与がある特別な武器。そういう武器ならこの刀の斬撃も防げる。
 きっと言うまでもなく冒険者から奪い取ったものだろう。多分、あの冒険者。見た感じ魔剣を持ってもおかしくない人だった。それに鞘は2つ転がっていたのだから。そうでもしなければここで、この洞窟で魔剣は手に入らないのだから。手に入れられるはずがないのだから。
「グガァァァァァアアァ」
 双方の刃はそれぞれの体を浅く切りつける。
(……勘弁して欲しい)
 意味もなく考え続ける頭が思考が何度も何度もそう告げる。これでもさっきよりも何段階も速度を上げている。本来のモンスターなら剣戟すら見えない、さらに言うなら切られたことにすら気づかない。でもこのモンスターには見えている。それは恐ろしい事実だった。
(一体どれだけのモンスターを……)
 慌てて雑念を振り落とす。そうして剣戟の嵐は洞窟の壁を傷付けえぐり新たな亀裂を作り出す。
 さっきから壁はギシギシという音をだんだん大きくしている。このままやり続ければ洞窟が崩落するのも時間の問題だろう。そうなれば間違いなく全員が死ぬ。そして、その時間はもう終わりに近い。
「……使うしかないな」
 本当は使いたくはなかった。これは決して自分の実力では無いのだから。邪道だ。それ以外の何物でもない。でも、今の僕には自分の誇りプライドよりも大切なものがある。リザードマンから距離をとる。
「アイシャ、もう少し下がってくれ。スキルを使う」
 この際四の五の言ってる暇はない。本当に余裕などないのだ。使える手があるのに使わないのは下策も下策。そう自分に言い聞かせる。
 アイシャがさらに下がったのを確認してから詠唱を唱える。
「我が力の根源たるもの、今こその力を解放せよ」

 ***

(私は私が情けないです)
 今目の前で起きていることに対して胸の前で手を握っていることしか出来ない、お兄ちゃんの役に立てない自分がとても情けないです。そしてとても悔しいです、悲しいです。
 さっきから洞窟には刃同士が衝突する音と火花が容赦なく散っているのでしょう。でも私に詳しい状況は分からない。だってあのモンスターもお兄ちゃんも物凄い速度で剣を振るっているいるのだろうから。洞窟の中を縦横無尽に駆け回る刀と剣、そもそもお兄ちゃんとモンスターすら今の私でははっきりと視認出来ていない。せいぜい私がわかるのは壁につく傷がだんだん大きくなっていることくらい。
 分かってはいたけれど私とお兄ちゃんとは天と地の差があるようです。レベルも経験も……何もかもが足りていない。まさしく言葉通りの足でまとい、だから私には何も出来ない。
 それこそレベルは上がってきてはいるのだけれど、使える魔術はファイヤーボールくらいだ。それ以外の魔術は今練習中でいつも途中で暴発してしまう。ファイヤーボールのような下級魔術で倒せる相手ではないことはわかっているし、きっとお兄ちゃんにとっても迷惑だと思う。多分だけど私に敵意が向かないように1人であの剣と戦っているのだろうから。だから私は何も出来ない……何もさせてもらえない、それだけの力がないのだから。
 悔しいけれど今はそれでいい。私はいつかお兄ちゃんに認めてもらうんです。そのために今ただ眺めていることしか出来なくても、必ずいつか…………

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