冒険者の日常

アカツキ

洞窟の攻防

 そうしてやってきたのがここ。
『セルクロード大洞窟』
 かつて掘り進められた中でも最大規模を誇る洞窟だ。ダンジョンとは比べ物にはならないが、それでもかなりの大きさだしここに来ればモンスターもいるだろう。
 そして当然ながらその中は暗い。発光灯ランタンを持っていても自分の数メル先を照らすことしか出来ないくらいに闇が支配していた。正直いつ襲われてもおかしくはない状況だった……だが。
「モンスターが少なすぎる、というかさっきから1体も遭遇エンカウントしてない……」
 一体何が起きているのだろうか。
 そもそもモンスターがいないのだ。どれだけ進んでも全く気配を感じない。はっきり言って異常だ。
「………………」
 次第に言葉が消え、暗闇はいっそ深くなるような錯覚を覚える。
 確かだが、アンティラの図書館の資料ではここの最下層は14階となっている。
「……お兄ちゃん、あれはなんですか?」
 アイシャが僕に尋ねる。彼女が指さすその先には何かがある。それは布に包まれているようなのだ、何がどうなっているかなんて誰にもわからない。それでも進むしかないのだろう。

 ***

 それは冒険者だった。いや、正確には冒険者だったものだ、今やそれは原型など留めていない。切り裂かれたような跡がいくつも走り手足は曲がってはいけない方へと折れ曲がっている。その傍らには冒険者が命の次に大事にする物が転がっていた。
 そこには1振りの剣がのこっている。この状況を見るにどうやらこの冒険者死んでからそれほど時間が経っていないようだった。
 つまりはまだここ周辺にはモンスターがいるってことなのかな……

 ジャリッッ

 目の前で何かが動いた。それと同時にモンスターにこちらの存在が認識されたようだ。
「ガアアアアアアアアッッ!」
 洞窟の中をモンスターの雄叫びが反響する。
「ーーーーーっ!?」
 突然の出来事に反応が遅れる。それは傍から見れば大したことはないように思えた。しかしそれは致命的なまでに大きな隙だった。
 それはリザードマンというモンスター、この草原でのピラミッドでは頂点の方に君臨するモンスター。右手にはサーベル、左手には盾を装備している。
 それは一瞬にして距離を詰めてくる。正しくモンスターの持つ運動能力の賜物だ。僕は本能に任せて懐の刀を引き抜き上段に構える。
「〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!」
 次の瞬間には金属同士のぶつかる甲高い音が響く。そうしてギチギチと刀と剣は交差する。
 こいつ、只者じゃない。明らかに挙動がおかしい。草原にいるモンスターとは段違いに強い。それこそ天と地、雲泥の差がある。そこまで差が出るとなるともはやそれしかない。
「くっ、強化種か……」
 他のモンスター乃至ないしは冒険者を喰らいその力を自分のものとしたモンスター。時としてそれは1個体の能力を1回りも2回りも凌駕りょうがする。
 両者は1歩も引かずに鍔迫つばぜいが続き、火花が散り辺りを照らす。
 くそっ、これじゃ埒が明かない。それにどうやら単純な力は若干僕の方が劣るようだ。僕は刀の背に手を添え刃を斜めに倒す。相手の剣は僕の刀の上を滑り空を切った。続けて、刀を上段から切り下げる。その刀は視認が困難なほど早かった。現に後ろにいたアイシャは何が起きているのか理解ができていないようだった……が、手に伝わるのは肉を割いた感覚ではない。
 再び響く金属音。これはもう確信するしかない、このモンスターは間違いなく強化種である……と。
「アイシャ、下がって」
 生と死を行き来する剣戟けんげきの嵐の中でそれを伝えるのが精一杯だった。
 

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