冒険者の日常

翠恋 暁

静寂たる草原

 レベル上げを開始してから1週間。あっという間に時間は流れた。
ダンジョンとは都市を挟んで反対側、比較的レベルの低いモンスターがそこにはいる。
 レベルが低くダンジョンに入れない冒険者はここでレベル上げをしている、僕もここでレベルを上げていた。 ただ今そこはただ草が広がるだけのところとなっていた。だから草原と言うのだろうけど……
 でも、それじゃあレベル上げは出来ない。どうにもこうにも良くも悪くも嫌でも否でもモンスターはいなければ話は始まらない。結果として冒険者はモンスターがいなければ何も出来ないということだ。常に死と隣り合わせなのは冒険者もモンスターも変わらないのだ。特にレベル上げに関してはモンスターとの二人三脚なのだけれど……
「………………本当に何もいない」
 都市を囲む外壁を出てそれなりに歩いたのだが一向にモンスターは現れない。相変わらず目の前には少し暖かい風が吹き、草はゆらゆら揺れている。見渡す限りの草原だ。
「お兄ちゃん、どうしますか?」
 正直、今までこんなことは無かった。この草原から見える範囲にはいつもモンスターがいた、昨日も普通にモンスターを倒していた……のだけれど。一体何があったんだろう。
 どうしてこうなっているのだろうか。誰かが狩り尽くしたのだろうか、いや、それは無いだろう。たった1日で狩り尽くせるほどのモンスターの量じゃない、それに最近討伐依頼なども出ているのだ。それこそ究極魔術を撃ち込まないと殲滅せんめつ出来ない。
 でも少なくともここ最近草原で究極魔術が使われてはいない。というかこの都市に究極魔術が使えるのはもう1人しかいないし、この世界で見ても5人といない。そもそも究極魔術が使われれば地形そのものが変わる。だから滅多なことがないと使用は出来ない。
 そもそも究極魔術はこの世界では禁術指定がされている。こんな見晴らしのいい草原で撃てばすぐに衛兵が捕まえに来るだろう。術者にとってメリットなど1つもない。
「それはともかく、これじゃらちが明かないな……」
 今日は出直した方がいいのだろうか。そう思ったが、基本的にこういう時は何かがある時だ。僕の中にある冒険者の勘がそう叫んでいる。多分従っておいた方がいいだろう……多分。
 モンスターにとって万が一が起こった場合、ここら辺でモンスターが隠れられる場所……そんなの考えるまでもなく洞窟だ。ここら草原の周りには人間が掘った洞窟がある。アンティラの周辺には洞窟が数多く存在している。そして、その約9割が過去に人為的に作り出されたものだ。歴史的文献によると地中にある地下資源や何かを得ようととして失敗しているということだった。数えられるだけでもざっと20回、それだけの失敗と改善を繰り返した挙句その計画は放棄された。今や人間の記憶からも消えかかっている始末だ。残されているのは草原に転々とする穴、国立図書館の倉庫にしかない。一応今の情報は国家機密らしい。
「多分、モンスターは洞窟にいる」
 そう言って2人は歩き始める。
 でもそれは、かなり厳しい戦いになることを予感させた、いや、予感ではないそれは確かに厳しい戦いになることだろう。
 もし、僕の仮説が正しければ草原中のモンスターがそこに集結しているのだから。
 そうなった場合、アイシャをどうするべきかな、僕一人なら何も気にせず暴れることが出来るし大した苦労もせずにモンスターの集団を壊滅させられる。
 でも、今は1人じゃない。打開策を考えないとな。
「……一体何が起きているんだろう?」
 そんな独り言は誰にも聞こえることなく春の風に吹き飛ばされた。

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