冒険者の日常

アカツキ

新たなる試練 3

 悩むこと少々。
「分かりました。彼女とパーティーを組みます」
 いくら悩んでも仕方が無い。もはや選択肢はそれしかないのだろう。サリーさんの願いを断ってほかの保護者を探すなんてこと到底出来るはずもない。それにどんなに足掻いたって都合よくできてはいないのが人間と世界だ。どうにもならないことだってある。いつまでも過去を嘆いていても過去が変わるわけがない。そうして恐らくそれが彼女の望むことなのだから。
「よし、それならいいでしょう。ネロちゃん、言ったからにはにちゃんと守ってあげるのよ」
 そんなわけで、少女とパーティーを組むことになったのだ。
「お兄さん、ありがとうございます」
 無邪気な笑顔が向けられた。
「……うん、よろしくね」
 こうして、僕のソロプレイは終幕を迎える。未だに拭えない不安を抱えながら。
 一つだけ確かなことは今度こそパーティーを、彼女を守り抜かないといけないということだ。それが出来ないならそれこそ本当にリーナたちに合わせる顔がなくなってしまう。
「絶対に守るから……」
 少年は1人決意を表明する。
 そんな少年を見てサリーさんは微笑んだ。

 ***

 「さてと、冒険者登録も無事終わったことだ、武器を作りに行かな……」
 そう言いかけた時だった。
 可愛い音を立てて彼女のお腹がなった。そういえば時間は丁度昼頃だ。
「その前にご飯にしようか」
 彼女は耳まで赤くした顔でコクコクと頷いた。ここは1つ僕が1番気に入っている店に連れて行ってあげよう。
 そして歩くこと5分程。
「……山猫亭?」
「そう、僕のおすすめの店だよ。ここの料理は本当に美味しいんだ」
 一見普通の料理店に見れるがここは喫茶店だ。名前が料理店感を出しているのだと思うけれど……ここはこの都市で結構有名な喫茶店だ。まぁ、そのひとつの要因として僕が関係しているのだがそれはまたの機会に話すことにしよう。
 今は緊張してそれどころではないのだ。
「お兄ちゃんがそう言うなら……」
 あ、いい。お兄ちゃんって呼ばれるの。もう何より響きがいい。これは最高ですね、はい。
 妹という存在がこういうものなのかと初めて知った。事実上サーニャちゃんも妹ということになるのだが彼女は僕のことを名前でしか呼ばない。別に嫌という訳では無いがお兄ちゃんと呼ばれるのもいいなと……
「お兄ちゃん? 名前で呼んだ方が良かった?」
「うん? あぁ、いやそのままでいいよ、むしろそのままで呼んで。あ、僕はアイシャって呼べばいいよね」
「うん」
 こうして、早くも1人だった冒険者は半強制的にパーティーになった少女によって心を開きかけていた。この少年だって元はお人好しで誰に対しても分け隔てなく話すことが出来ていたのだ。別に他人と関わりたくない訳ではなかった。
 今回、そのきっかけがあったから、きっかけを作ってもらえたから心が開いて来たのだ。それに、アイシャはどこかリーナに似ているのだ。
「いらっしゃい、お、ネロじゃねぇか」
 マスターは、腰まで伸ばした長い髪を後ろで結んでいて。それを揺らしながら駆け寄ってきた。
「マスター、髪切らないんですか?」
 何気なく、いつもの様に聞いてみる。
「これは俺のトレードマークだ。簡単にゃ切る訳には行かねぇ、それはそうと……今日は2人か?」
「えぇ、2人です」
 マスターが固まった。
「……あの、マスター?」
「……はっ、いやなんでもない。突き当たりのテーブルを使ってくれ」
 いわれた通りに奥へと進む。
「あ、いつもの頼みます。アイシャはどうする?」
 そう言った所でマスターが疑問を挟んでくる。
「ネロ、その子は誰だい?」
 まぁ、至極当然の疑問だと思う。これまでここに来るのはいつも独りだったのだから。
「アイシャです。僕の新しいパーティーメンバーで、妹です」
 調理場で何かが倒れる音がしてマスターの顔も再び固まった。

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