冒険者の日常

アカツキ

悲しみの先

 いつもの様にギルドボードに張り出されている依頼書クエストを物色していた時、ふと後ろから声をかけられた。
「ネロ、指名クエストが来ているわ」 
 そう言って、1枚の紙が差し出されていた。僕に声をかけたのはギルドマスターだった。2年前にギルド職員の総入れ替えがあり、ここのギルドマスターはシャルティアという女性職員になったのだった。みんなからシャルさんと呼ばれ親しまれている。とても優しい女性だ。
「了解です。確認しても?」
「えぇ、というか確認しないでどうやってクエストを受けるつもり?」
「それもそうですね」
 今回のクエストはダンジョンではなく草原での採取クエストだった。指名クエストは最近なかったんだけどな……依頼主は薬屋のおっちゃんか。まぁ、いつも世話になっているからな、こんな時くらいはいつもの恩を返すとしよう。
 ある程度の薬草の知識はあるし、すぐに見つけられるだろうと思っていたのだが……
「どこにもないじゃないか、月落草ムーンドロップ
 普段ならここ、キエラ山の山頂にあるのだが。どうしてないんだ?
 ムーンドロップ、基本的なポーションで1番重要な材料だ。これがなければポーションはポーションとしての役割を果たさない。
 ムーンドロップ、もとい月落草その名の由来は夜になると白く光るところにある。正しく月が落ちてきたような、少し黄色がかった白色に葉が光るのだ。
 収穫される時期は夏の終わり、例年通りなら丁度今頃なのだ。何事もなければここにあるはずだった。月落草の分布としては主に山頂、例外として障害物のない草原だ。昼間のうちに太陽光をたくさん吸うからだそうだ。
 残念ながらここら辺の草原では育たない。岩や木が多いうえに日照時間が短いからだ。
「ここら辺にほかの山ってあったっけ……少し遠いけど、あと1キロくらい歩けばあるな」
 普通に歩けば1時間くらいかかるかな。うん、しょうがないよな。
「我が力の根源たるもの、今こその力を解放せよ」
『漆黒の夜空』を使って、草原を疾駆した。
 草原を走ること10分程。
 目的のザンクロ山が見えてきた。この山、ここら辺では1番高い山で標高が1000メルあるそうだ。だいたいムーンドロップが採れるのは標高500メルくらいだ、それより高いところでは温度の問題で育たない 。結構繊細な植物なのだ。
 難なく山を登ってくることは出来た。『漆黒の夜空』凄い便利。
「で、なんでここにもないんだ?」
 問題はそこにムーンドロップが生えてないことだ。さすがにおかしいよな。
「僕が来るよりも前に誰かが採っていった……」
 そう考えるのが一番しっくりくる。なんの為に?
「ま、ポーションを作る為だよな……」
 本当に困った。これでは依頼は達成できない。うーん、どうしたものか。知らず知らず独り言がこぼれる。
 日当たりが良くて基本的に温度の変化が少ないところ……あぁ、ひとつある。

 ***

 無事、ダンジョンでムーンドロップを指定量獲得して薬屋のおっちゃんに渡した。
 予想以上に時間がかかってしまった。どうやら今年はムーンドロップが不作らしい。結果としていつも群生している8階層ではなく1つ下の9階層で探す羽目になった。それ自体は大したことない、1階層分降りたところでモンスターの強さはさして変わらない。問題だったのは指定量集めるという事だ。なかなか見つからなかった。結構疲れた。
「なぁネロ……いや、なんでもない。今日も依頼こなしてくれてありがとな、また頼むぜ」
 依頼主が言いかけたことは分かっている。きっとあのことについてなのだろう。
 僕自身確かにこのままではいけないとは自分が1番よく分かっている、でも踏ん切りがつかないのだ。どうにも仲間を作るとなるとまたあの惨劇を繰り返してしまうのではないかと思ってしまう。怖いのだ、また仲間をなくすのが。
「……んじゃ、またな。おっちゃん」
 そう言って、その場から逃げるようにギルドへと向かった。

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