冒険者の日常

アカツキ

最悪の災厄 1

「それは万物に通ずる森羅万象、その中で全てのものを焼き払う壮絶なる力よ、その力は何にも頼らずして確かなる力を振るい、巡り巡りてなおも巡る、われが顕現させるのは万物を焼き尽くす紅蓮の炎、我に応え我の力としてその力を解放せよ、ヘルフレア」
 彼女を中心に広がっていた魔術陣がいっそ輝き出す。
 次の瞬間、僕たちの前の通路が火の海へと変わる。
 魔術とは詠唱が長くなれば長くなるほど難しく複雑でそれだけ強力な力を振るう。彼女が今唱えたのは上位魔術この世界では究極魔術の次に強い魔術の系統だ。
 この力ならここら辺のモンスターは大体が蒸発する……これまでの見解ならば。
「敵の反応、消滅しない」
「な、リーナ……今のは上位魔術でしょ? それで消滅しないって……」
 ルーシェの反応は当然のものだ。これまで、上位魔術で消滅しないものなどなかったのだから。つまり、魔術に対してなんらかの適正、耐性を持っているものの出現ということか。
「厄介だな……ヤオラ、状況は?」
「少し問題があるようです。あのモンスターには魔術が効きません、おそらく対魔術アンチマジックを保有しています、それに見たことも無い形をしているのです」
「完全に未知って事か……」
 リーナの魔術が通用しない。基本的に対魔術を用いていたとしても多少なりともダメージは入るものだ。しかし入らない場合が1つだけある。それは術者よりも相手のレベルが高いということ、普通対魔術の魔術はモンスターがどう頑張っても身につけることはできない。ただ2つの例外を除いて。
「強化種か上位種ってことか」
「おそらくは」
 強化種、それは弱肉強食の世界でできたものだ。モンスターを食べてその力を自分のものにできるモンスターの特権により生み出された。モンスターの中でも稀に見る状態だ。なんといってもモンスターも生きているから自ら進んで危険に突っ込んだりしない。
 つまるところ強化種は人間で言うところの殺人者、犯罪者と大差ないという事だ。
 対して上位種は年功序列が作り上げたものだ。これはその種族の長がそう言われているだけのこと、若干その種族のモンスターよりも強い力を持てるということ。
 上位種よりかは強化種の方がはるかに強い。
「魔術が効かないとなると、物理でどうにかするしかないな」
 とは言っても、このモンスターに対して攻撃が通るがどうかもわからない。
 そんな状況の中で、僕たちの目の前に現れたそれは今までのモンスターとは全く異なるものだった。
 まず姿形が違う。それは神話に出てくるような天使の姿と酷似していたのだ。
「ヴァァァァアァァ……」
「な、何あれ。天使?」
 モンスターには左右対称の翼が付いていた。しかしそれは真っ黒い翼だ。そして頭には半壊している輪っかのようなものが宙を浮いていた。何から何まで真っ黒なのだ。髪も目も翼は勿論。それが発する雰囲気というか気みたいなものはそれまでのモンスターとは似ても似つかないものだ。
「……いや、堕天使って方が正しいんじゃないか」
 いや、そもそも天使なんてものがこの世界にいるのだろうか、精霊がいるのだからあるいはとは思うが。少なくとも常識の見解では神話の中だけだ。
「ともあれ、戦うしかないのだろうな。リーナ、強化魔術」
「了解……それは万物に通ずる森羅万象、理のままに力を振るう者に抗うべくして紡がれる、全てを守りし絶対的な力を持ってかのものを守れ、我に応え我の力としてその力を解放せよ、プロテクション」
 防御強化の術が発動する。
「それは万物に通ずる森羅万象、理に抗う全てのものに力を与えるべくして紡がれる、いかなる逆境にも立ち向かう強さをかのものに与えよ、リンフォースメント」
 続いて身体強化が施される。

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