冒険者の日常

アカツキ

最悪の元凶

 パーティーの最高速度で移動すること半日くらい。すでに周りは真っ暗で……いや、ダンジョンだからそれは普通だ。
 どうやらいつも以上に緊張しているらしい。それはメンバーも同じようで、さっきから会話が全くない。いつもは会話がないことなどないのに。なんとかして緊張を解かないと戦闘にも影響が出る。どうにかしないとな。そこでリーナが立ち止まる。
「リーナ、おぶろうか?」
 リーナは一瞬悩むそぶりを見せたが「……大丈夫、多分」とのことだった。
 パーティーは現在も下へと進み続けている。この階段を降りれば21階層だ。そうだと思っていたんだが……
「これはどういうことだ……」
 想像とは違う、何度も訪れていたはずのその階層に入った瞬間絶句した。
 そこには地獄のような、いや、まさしくそのままの地獄が広がっていた。
「……ここ、本当に21階層? もっと綺麗なところだったよね?」
 ルーシェの言う通りで本来の21階層は緑が生い茂っており、小鳥が飛び回り比較的どの階層よりも安全なところだった。透き通った川が流れるそこはよくベースキャンプとして利用されていると言うのが常識だった。豆知識だが、ここで獲れる魚はとても美味おいしい。特に塩焼きが最高である。しかしこれは地上では食べることはできない。一部の高級レストランでは食べれるがとても高い。なんでそうなるかっていうと通常の速度で21階層から地上までは2日から3日かかる。だから市場には滅多に出回らない。出回る前に鮮度が落ちてしまうのだ。簡単な話腐るのだ。その魚、迷宮魚ダンジョンフィッシュを食べれるのはここまで来れる冒険者の特権ごほうびだ。そんな階層だった。
 それが今現在、そんな姿が一変して木は枯れ水は濁り大地には血が染み付いていた。多分それは冒険者とモンスターの両者のものであろう。
 かつての地下の緑生い茂る森林は赤い血が飛び交う戦場に変わっていた。もはや、以前の姿に戻ることができないのは火を見るより明らかだった。
「僕たちが来ていない間に何が……」
 というのも僕たちのパーティーは最近長期の休暇を取っていた。約1週間くらいだろうか。その間にこれほどまでに環境を激変させてしまう何かが起きた。一体なんなんだ。それに、僕たち以外にもここに来れる冒険者はいるはずだ。そういえば行方不明になった冒険者って確か……
「ネロ、ここにいちゃ行けない。今すぐ帰らないと」
 突然リーナが蒼白した顔でそう告げる。
「ここには化け物がいる。そこらのモンスターなんてゴミのような強さのモンスターがいる」
 リーナがこんな顔をして僕にしがみついてくるのは初めてだ。それこそ彼女は普段からパーティーに喚起を促すことが多い。敵感知をしているからそうなるのだがそれでも、こんなに慌てた様子ではない。
 つまり、事態は相当深刻なのだ、これまでに類を見ないほどに……
「リーナ、敵までの距離は?」
「約250メルこっちに向かってくる」
「な、なんだって?」
 それが示すことに驚きを隠せない。250メル、それは彼女の動体感知の最高範囲だ。つまり今回彼女は敵感知ではなく動体感知の結果でしか判断できなかったということだ。
 そういえば半径1キルで感じられるのは過去に確認しているモンスターだけ。つまり、今回のモンスターは未確認なのだ。つまり、何が起きるかわからない……とは言っても、今更引けない。逃げるにしても敵が近すぎる。それに僕たちが逃げたら未知の敵は誰が倒すのか。
「っ……戦闘準備」
 各々おのおの武器を構え、未知なる敵との戦闘に備えた。

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