nox-project 姉妹の奇妙な学園生活

結月マルルゥ大佐@D.I.N.S.I.S.N社

13.平原にて

「荷物はちゃんと、持ちましたの?」
「うん!忘れ物はないと思うよ?忘れ物があると分かった時点で、それはもう忘れ物じゃないけど!!」
「深いようで浅いことは言わなくて良いですから、それでは参りましょうか」

朝の喧騒の中に、私たちは居る。
手には1週間分の着替え等が入った鞄を持っています。

この魔道学園のある世界には、他に国はありません。
殆んどの学生は何らかの手段で此方の世界に訪れ、 寮に入り魔道を学ぶのです。

故に他の世界、並びに他の国家の法律は存在していない為、校則が法律のように扱われているのです。

学生たちが入学のために、この世界へ訪れる手段があるならば同じく、この世界から別の世界へ移動する手段もあるわけでして。

学園の外れ、正門から出て暫く歩いた場所に、まるで空港のような建物がある。
私たち姉妹は、そこに居ました。

叔母たちが住む世界にあるミラ王国へと旅行をする為です。
勿論、自分の元々居た世界以外に移動するには幾らか制限や認定が必要です。
異世界移動を悪用されては、大変な事態になる可能性もありますからね。

私たち姉妹は、幸い、全ての認定は得てますので容易に移動が出来るわけです。

…………まぁ、これもノックスという私たちの名前に依るものなんですがね?

異世界を渡り、世界の均衡を護る存在である。
そのことは学園の長である学園長は勿論、高位の魔術師のなかでは常識となっている為、認定にかかる大きな手間も代金も免除されてるわけですわ。

本当、ありがたいものですわね。殆んどの方は、この手続きだけで数ヵ月を費やす為に帰省だけなら未しも異世界旅行なんて気軽に出来ないと言いますのに。

そんなわけで、出国の準備が整うまで私たち姉妹は鞄を床に置いて椅子に座り、サービスのドリンクを飲んで待ってるわけ。

ちなみに、私はトマト系の野菜ジュースでコルセアは果実が香る黒い炭酸飲料のようですね。恐らくはブラックベリーやグレープも混ぜてるんでしょう。

「まだかなーまだかなー」
「手続きをしてから、まだ2分も経ってませんわよ?少し落ち着きなさい?」
「だってー」

はしゃぐのも無理はないんでしょうけどね。
私はアンドラス叔母様たちに最近会いましたが、コルセアは他の血族と電話や手紙じゃなく面と向かって話すのはかなり久々になっておりますし。
…………あれ?

「というか、ここ数年、クリスマスとかハロウィンに呼ばれませんでしたが何ででしょう?」
「んー、そういえば何でだろ。ちゃんと毎年、やってたよね…………もしかして、私たちハブられてる!?」
「そんなわけないでしょ。折角ですし、会ったらこの事も聞いてみましょうか」

まぁ、悪魔である私たちがハロウィンなら未しも何処かの神の聖誕祭であるクリスマスを祝うというのは、おかしい話なんですがね?
本音はただ、集まって騒ぎたいだけでしょうけど。

そんな話をしていたら出国の準備が整ったらしく、職員に呼ばれました。

「行きますわよコルセア」
「はーい!!」

__________

地面に刻まれた魔方陣が輝き、世界は光に包まれました。

「まぶしっ」

光が消えると、そこは先程まで居た景色とは違いました。

先程まで居たのは、外が見えない密閉した石造りの部屋。
そして、ここは外です。
風が心地よく、土の香りがする木々に囲まれた場所。
平原と呼ばれる場所。

「問題なく、到着できたみたいですわね。コルセア、荷物もちゃんとありますの?」
「問題ないよ」

ごく稀に、違う世界に飛ばされてしまったり荷物だけ取り残されてしまう事態があると聞きましたので移動する度に確認するのが私の決まりとしてるのですわ。

「内臓も多分、ちゃんとあるよ!」
「怖いことを言わないでくださる!?」
「あははー」

まったく…………荷物が取り残され忘れるなら内臓も置き忘れることもあるんじゃないかと一瞬、心配してしまいましたわ。
もっとも、その様な事態があるとは聞いたことも御座いませんが。

恐らく、人体自体を魔力で包み、そのまま転移させる為、荷物は設定で忘れてしまっても内臓等には影響はないのでしょう。

「それで、ここは何処ですの?平原みたいですが」
「私たちノックスの異世界転位陣と違って、場所がランダムだからこういうところが困るよねー」
「まぁ、陸地であり、また生存可能な場所であるようにはなってるみたいですがね?」

辺りを見渡しながら話していると、遠くの木の上に人影が見えた。手元には槍のようなものが見えます。

「んー、人?」
「というより、あの方、後ろ姿ですが見覚えが……」
「おーい!!」
「あ、ちょっと、誰なのか確認もしないで武器を持った人物に声をかけるのは!!」

声が届いたのか振り返りました。
その人物は、素早く木の枝から枝を飛び乗りながら近付いて、すぐに私の近くまで来ました。
顔が見えてきて、私は警戒を解く。

「やぁ、キルメア、コルセア。こんにちは」
「ごきげんようですの」
「こんにちはー!」
「二人とも、いったいどうしてこんな所に居るんです?修行ですか?」

その人物は、私と同じ黒い色をした長髪を肩甲骨辺りまで垂らし、目元には2ヶ所、縦向きに傷のある真面目そうな人物だった。
膝上辺りまでのスカートを履き、片手には鋭く輝く槍を持っている。

名はラウム=F=ノックス。魔壁の魔王と呼ばれる私たちの親族。

「いいえ、修行じゃありませんわ。ミラ王国へ旅行ついでにアンドラス叔母様へとある報告をしに来たのですが、転位の都合、ここに飛ばされてしまいまして」
「報告の方が本来の目的だった気がしたけどね!!」
「あー、それは災難でしたね。どれ、それでは街へと送って差し上げましょう。ちょうど修行も一段落ついたので僕もそろそろ帰ろうと思ってましたし」
「よかった!それじゃ行こう!!」

私たちは、ラウム叔父様に着いていくことにしました。
そう、叔父様なのです。

見た目は引き締まった肉体が凛々しく美しい女性のように見えますが、彼はまぎれもなく男。
女性になりたいとかそういうのではなく、単にラウム叔父様が育った遊牧民の一族では一人前の男だと自覚するまでは女装をする風習があるそうで、育ての親を亡くした今でもそれを全うしているらしいです。

もっとも、実力は既に一人前どころか、並大抵の魔物なら楽に倒せる程に実力があるため、とっくに一人前だと思いますがね?
似合ってるから誰も止めませんが。

「ラウム叔父さんー、今日はどんな修行をしてたのー?」

歩きながら興味深そうに聞くコルセア。それに答えるように歩きながらラウム叔父さんも答えます。

「そうですね……いつも通りの走り込みに、木こりの方が切っても良いと仰られた大木を19本ほど切り落として、更に害獣騒ぎがありましたので人喰い熊の退治、同じく人喰い植物の討伐に滝行でしょうか」
「ほえー、凄いなー」
「そうですか?いつもならセシリアとスパーリングもあるのですが、今日は試合があるらしく来れなかったんですよね。折角ですし、セシリアの方も見てっては如何です?」
「良いですわね。報告を済ましたら行きましょう」
「わーい、闘技場とか好きなんだよねー」

行き先を決めながら、歩きつつ談笑に花を咲かせる私たち。
すると、遠くから悲鳴のような声が聞こえました。

『うわぁぁぁ!!誰か!!誰か助けてくれ!!』

その声を聞いた瞬間、ラウム叔父様は凄まじい速度で駆け出しました。私たちは、その背中を追いかけるので精一杯です。

少し走るとラウム叔父様が停まります。

追い付いて、隣に立つとそこには巨大な狼とそれにのし掛かられながらも抵抗し、牙が体に刺さらないよう足掻いている中年男性が居ました。

「助けに参りました!!」
『はっ、た、助かった!!もう持たない、早く!!』

そう言った瞬間、ラウム叔父様は狼の右脇腹を蹴り飛ばしました。
少し怯みながらも狼は体勢を立て直し、低い唸り声をあげながらラウム叔父様を睨みます。

「さ、今のうちに!助けは呼ばなくて良いです!それより貴方はすぐに怪我の治療をするように!!」
『分かった!ありがとう!!しかし、大丈夫なのかい!?』
「ええ、だって僕はノックスですもの」
『君があの……そうか、わかった。ありがとう!この恩は忘れない!!』

そういうと中年男性は一目散に逃げていきました。

「ラウム叔父様、私たちは何をすれば」
「そこで見てるだけで大丈夫ですよ。すぐに終わらしますので」

言葉は通じるわけがない。しかし、まるで言葉の意味を察したかのように怒りの声をあげながらラウム叔父様へと大口をあけて狼は襲い掛かりました。

「当たりません!!」

ラウム叔父様の左腕、籠手の内側が赤く輝き、籠手を貫通して刻印が浮かび上がりました。

これがノックスの刻印。
私たちにもありますが、ノックスの刻印の形はそれぞれ違うのです。
円で囲まれており、眼のような形があるのは同じなのですが刻印の形状が全員違い、その形で個人の特定も出来るようになっています。
そんな刻印が輝くとき、私たちノックスは特殊な力が使えます。

魔力を消費しない代わりに、血液を消費して使用することができる特別な力。

「足元注意ですよ!!」

何もない地面から、まるで竹が生えるかのように城壁の一部らしいものが現れ、狼の腹に激突した。
『グルァァ』と痛みを堪える声を出し、それでも狼は退かず、城壁を蹴りラウム叔父様の首筋へと噛みつこうとします。

もっとも、彼がそれを許すわけもありませんけど。

「これで退いてくれれば命までは取りませんのに……残念です」

槍の側面で弾き飛ばし、狼が体勢を整え直す前に今度は狼の足元から先端に槍を構えた女性の石像がついた城壁を出し、その石像に腹を貫かれ天高く浮かび上がらせた。

女性の石像が狼の血液で赤く染まった。

「はぁ……」

ラウム叔父様は溜め息をついて、槍の柄を地面に叩き付ける。
すると、出した城壁が消滅し狼だけが残された。

「さて、それでは狼の死体を埋めますので手伝ってくださいますか?」
「わかりました」

私たちはラウム叔父様の言うとおり、穴を掘る手伝いをしました。
死体をそのままにすると、衛生的に問題があると判断されたのでしょう。

これが一流のノックスの戦い方。
私は尊敬の視線を向けながら、穴を掘りました。

「………………コルセア、どうしましたの?」
「いやぁ、狼の眼球も良いなぁって」
「はぁ……」

最近のコルセアの趣味が分からなくて、お姉ちゃん、少し不安ですわ。

複雑な視線をコルセアに与えつつ死体を埋め終えた私たちは、再び街へと向かうため、歩き出しました。

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