nox-project 姉妹の奇妙な学園生活

結月マルルゥ大佐@D.I.N.S.I.S.N社

9.アンドラスによる解剖報告

アンドラスがミラ王国の沖に座礁していた鯨を解剖した次の日、そこに多くの魔王があった。

ミラ王国……。
キルメアとコルセアが通う学園とは、また別の世界にあり、パイモンやアンドラスの住む王国である。

そんな国の中心にあるこの国を支配する魔王の住む城に、この世界に居住しているノックスたちの何人かが集められていた。

尚、サレオスやキルメア、コルセア姉妹たちはここの世界の担当ではない為に呼ばなかったらしい。

大きな円卓のある広い部屋。いつもはミラ王国の政治を任されている人物たちが集まり、ああだこうだと議題に沿って話し合う場所であるが、集まりやすい為か大きな報告がある場合は使用されるらしい。

円卓を囲むように置かれた椅子には、様々な魔王が座っている。
皆、血族ではあるが、あまり似ていない。

「それで、そろそろ集会の時間だが……集まりが悪いな。半数も来てないじゃないか」

不貞腐れた態度で呟くのは黒いスーツを着て、頭には同じく黒いソフト帽を被っている青年。
名前はストラス=N=ノックス。この国を治める魔王だ。

「仕方ないでしょ、急な召集だったんだから。いつも通り連絡が取れなかったジェヴォーダンはともかく、セシリアは大事な試合、ラウムは山籠り中で連絡が難しいしデカラビアとオルタンシアは大量の仕事が残ってるから召集に裂く時間もなかったみたいだし、他も似たような感じよ?」

ストラスの文句に彼の一歩手前で立ったまま淡々と応えるのは、この場で唯一ノックスではない、ストラスの右腕的存在でありこの国を統治する補佐をしているクレア=ウォーカー。
後ろ髪を括り、美しい黒髪を靡かせる美しい女性だ。

「そりゃそうだが……むぅ」
「それに細かい報告は私がこの集会が終了したら書面に纏めて、各自に送るから大丈夫でしょ。そんなことより話を進めなさい」

不満そうなストラスを置いておいて会議を進めるクレア。実質、この国を纏めてるのはクレアじゃないか?という噂すらある優秀な政務官であり、その正体は銃に魂を固定された魔銃である。

「分かったわぁ……その前に」

この会議の大事な報告者であるアンドラスがストラスたちの右側を見ると、うたた寝をしている人物が居た。

腰には両手剣を装備した短髪の女性だ。
名前はグレン=F=ノックス。実兄であるストラスの使い魔もしている戦士である。

「グレン、起きなさい?」
「ん…んー……?」

クレアが近付いて肩を揺すると、眠そうな目を擦りながら起きた。

「ふぁぁぁ……そろそろ始まるのか?」
「ええ。やっぱり私たちとアンドラス、パイモンしか来なかったわ」
「だろー?今日は皆、忙しいって言ってたし」
「はいはぁい、そろそろ報告に進むわよぉ?パイモン、用紙をちょうだぁい?」
「はーい」

咳払いをして報告を纏めた用紙をパイモンから受け取るアンドラス。

「まず始めに、前日から私は座礁した鯨……マガツヒゲクジラの解剖をしていたのは知ってるわよねぇ?」
「ああ。ストラス兄さんから命令されてやってたんだよな?」
「ええ、そうよぉ。少し手間で時間がかかったけどねぇ。それで解ったことだけど、まずこれは空気感染とかするような病が原因じゃ無かったわぁ」
「良かった。これで警戒レベルを下げられるわ。会議が済んだら連絡しなきゃ」

少しだけ安堵の表情を浮かべる皆。しかし、アンドラスの表情は変わらない。

「それがねぇ。確かに病の不安はなくなったけど、今度は別の不可解なことが起きちゃったのよねぇ」

この報告の助手を任されてるのであろうパイモンが各々に写真を渡した。

「この写真を見なさぁい。何か違和感はあるぅ?」
「……心臓がないわね」
「はぁいクレア正解。そうよぉ、私が開いた時には既に心臓がなかったわぁ」
「んー、これってアレじゃないか?前にラウムから聞いた、傷口を作らずに心臓を剥ぎ取る暗殺術ってやつ」
「はぁいグレンの質問に、暗殺に詳しいパイモン、答えなさぁい?」
「はいよー。まず、傷口を作らずに心臓を抜く手段だけど、アレって実は傷口あるんだよね。皮膚を切り裂き心臓を抜いて、傷口を自身の体の自己治癒で接着するか回復魔法で塞いでるかってだけなんだー。それを一瞬でやってるからそう見えるだけー」
「そういうことぉ。他に傷口は確かに無かったわぁ。勿論、再生した跡もねぇ?」
「そっか……」

再び、写真を見て悩むグレン。

「まぁ、心臓がない理由はもう解ってるわぁ。皆、ノックスはどう覚醒するか知ってるぅ?」

ノックスは、当主から産まれた第2世代のみとなるが産まれたときは普通の悪魔か混血悪魔として産まれる。

ある日に自分の本来の力を呼び起こし、本当のノックスとして生き始めるのだ。
覚醒に至るのは、何年掛かるかは個人差があるが。

「どうって……色々あるけど、精神に大きな負荷が掛かったり、力を強く望んだりとかじゃなかったか?」
「正解よ、グレン。なら、覚醒したと同時に身体はどんな変化が起きるのかしらぁ?」
「えーと……身体が熱くなって、何処かにノックスの刻印が浮かび上がって、自分の力の使い方や秘術が頭に浮かび上がって覚醒、かな?」
「そうねぇ。確かに正解なんだけど体内で起きてることは知らなかったみたいねぇ。ストラス御兄様……は、止めといてクレアはわかるぅ?」
「何故、止めた!?」
「体内で起きてることね?確か血が心臓を包み、既存の心臓を変貌させて新しい心臓を産み出すんじゃなかったっけ?刻印が付いた頑丈なもので、これが完全な不死の効果を産み出してるっていう」
「正解。覚醒するまでは個人差はあるけど再生力は平均程度で普通に負傷もするし、確かに死にはしないけど再起動が極めて遅いのよねぇ。覚醒後は歳を取ることもなくなるし、完全に不死となるわけよぉ?」
「「そ、そんなことが起きてたのか!?」」
「馬鹿兄妹!!」

なんで知らない、ミラ王国の魔王とその契魔妹……。
つい、クレアが突っ込みを入れてしまった。

「はぁ……少しは自分の身体の事ぐらい調べなさいよぉ」
「あははー」
「パイモンも、よぉ?顔に出さなかったけど、実は知らなかったでしょ」
「なんでバレたの!?」
「視線。あとは雰囲気かしらぁ」
「怖い。自分の恋人が怖いっ」
「はいはい、報告を続けて?」

脱線しかけた話題を元に戻すクレア。

「それで、鯨だけどぉ。血液を採取した結果、私たちの血液とよく似た形をしていたわぁ」
「ってことは、あの鯨もノックスか?」
「うへー、母さんもよくやるなぁ……」
「違うわぁ。もしノックスなら死亡しないでしょぉ?まぁ、鯨のノックスが居ても御母様が御母様だから驚かないんだけどねぇ?」

絶倫ロリババァ、それがアンヘル。

「そうねぇ。もしかしたら誰かがノックスの血液を悪用して何かをしようとしてるのかもねぇ。鯨には拘束された痕があったしぃ、実験の失敗作って辺りじゃなぁい?」
「オレたちの血を?仮にオレたちの血を別の生物に入れると不味いのか?」

グレンが出したその質問に首を横に振るアンドラス。

「いいえ。仮に接種した場合は吐き出されるか排泄されるだけで何にもならないわぁ。それにもうひとつ、気になることがあってねぇ?」
「気になること?勿体ぶらずに早く言え?」

グレンの出した質問の解答が気になるストラス。それを愉しげに見るアンドラス。

「心臓に本来繋がってる筈の器官を見てみると壊死していたわぁ。だけどねぇ、本来は心臓が無くなり器官が壊死する頃には他の臓器の全ても多少誤差はあれど、大体同じ頃に壊死する訳よねぇ?」
「まぁ、血液が回らなくなるからね」
「ただ、心臓から延びる器官のみが壊死していたけど、他の臓器はまだ新鮮だったのよぉ?まぁ、比較するとってレベルだから結局は壊死してるけど。ちなみに脳の方は少し変形していたわぁ」
「それは、どういうことだ?」
「つまり、心臓が無くなり器官が壊死してから短く見ても1ヶ月は生きていたってことぉ。脳が普通じゃなかったからまともな行動をしていたのかは解らないけどねぇ?」

それを聞いたクレアがアンドラスに質問する。

「変形って、脳がどの様に変形していたの?」
「滅茶苦茶よぉ?一部が出っ張って、また一部が小さくなってたわねぇ。アレじゃ激しい頭痛が発生して意識を失う筈よぉ?そして、そのまま死亡するわねぇ」
「でも、それでも生きてたわけね?」
「ええ。もっともアレじゃ生きていると言えるかは解らないけど、確かに活動はしてたみたいよぉ?もしかしたら行動に関わる分野の脳とかは血が操作していたのかもねぇ。少なくても私たちの血がまるで意思を持つかの様に動くことは無いけど」

血が生き物の様に動いて、生物の身体を支配する。
不気味な話だと言いたそうな顔でクレアは淡々と話すアンドラスの顔を見た。

「ま、とにかく私はそんな鯨の有り様を見て、朝早くに鯨から採取した血液を使用してネズミに注入してみたわけよぉ。実際、どうなるのかは見ないと推察の域を出ないからねぇ?」
「無難な実験ね。鼠には悪いけど」
「勿論、使ったのは害鼠の方よぉ?ハムスターとかは可愛くてとてもとてもぉ」
「害チュー!!あ、ちなみにアンドラスは徹夜してたんだよね。報酬をもっと寄越せー!」

謎の合いの手と要求を入れるパイモンが、手のひらサイズの箱を取り出し円卓の中心に置く。

「ふふ、わかってるわ。いつもより高めに報酬を出してあげるわね?」
「……俺が魔王なんだが、基本的に俺には国家予算を使う権利がない件はどう思う?」
「自業自得だとオレは思うぜ、ストラス兄さん」
「ストラス御兄様が国家予算を使い出したら、その大半が夜の店に溶けて国民が困るでしょうから駄目よぉ」
「むぅ……」

不貞腐れる魔王。ちなみに、小遣い制で毎月の始めにクレアから小遣いを貰ってるらしい。
こうなった理由は、前に夜遊びをした際に豪遊しすぎて国家予算の3分の1を使い果たしたことが起因していたりする。
その時は、流石に店の主人が「これは流石に不味いじゃん?」と言って、クレア宛に一部を残して返金されたからなんとかなったが、それを知ったクレアはカンカンに怒りこの有り様になったわけ。

「さぁ、箱を開けるわぁ。動きは鈍くなってる筈だから脱走とかは大丈夫でしょ。使用済みの血液を更に使い回したからねぇ、あの鯨より劣化して効果が出たのよ」

箱を開けると、それは現れた。

濁った目をキョロキョロと動かし、口から血を足らしたネズミだ。
生気などはなく、もしかしたら近くにある生物に襲い掛かろうとしてるのかもしれない。
それを見たグレン、クレア、ストラスは順番に口を開いた。

「これは……」
「まるでゾンビ映画ね」
「成る程な。つまり、どっかの馬鹿が俺らの血を改造利用してパニックホラームービーさながらのゾンビ事件を起こすかも、とお前は見てるわけか」

箱から脱出してなかったネズミを、そのまま蓋をして仕舞う。

「そういうことぉ。一般的なゾンビより、ずっと頑丈でしょうから気を付けさせないといけないわよぉ?私は帰ったらこのネズミを解剖して、血がどの様に作用してるのか詳しく調べるわぁ。そうすれば私たち以外の子でも効率的に破壊する事も不可能じゃないでしょ?」
「ああ、任せた。ま、頭を破壊すれば済むと思うがな?」
「それにしても、目的は何だろ?」
「さぁねぇ?私たちの秘薬を使わずに後天的なノックスを産み出して自分の戦力にしようとしてるのか、それともそもそも失敗に見えてるけどぉ、実はこのゾンビ擬き……ゾンビ擬きじゃ単なるゾンビの劣化版に見えるしぃ違うわねぇ…………心臓がないから"lost"って呼ぼうかしらぁ?」

首を傾げるアンドラスに異議を唱えるストラス。

「いや、lostより……心亡キ者(ハートロスト)の方が、カッコ良くないか?」
「なにそれ、中二病っぽいわよぉ?」
「いや待て、俺ら中二病が憧れるガチの剣と魔法の世界の住民であり魔王なのだが……」
「ストラス兄さんが使うのは銃だけどな?」
「はいはい、それは各自、後で話し合いなさい。今はとりあえず呼称はlostで統一、ね?」

クレアが手を叩いて脱線した話を元に戻す。

「まぁ、とにかく犯人の目的はさっき言った動機か、それともlostを産み出して騒ぎを起こすことが目的なのか、かしらねぇ?」
「あー……まぁ、確かに後天的にノックスにする手段はあるけど、精製が極めて大変だからね」

いつの間にかナイフを麻布で磨き出していたパイモンが答える。
それを聞いたグレンが肯定しながら話を続けた。

「そうだな。母さんの城にすら少ししかないって聞いてるし。前に間違ってセシリア姉さんが1個割ったときは珍しく母さんも怒ってたし」
「最近、サレオスの奴が少し貰ってったらしく在庫はほぼ無いみたいだしな」
「サレオス御兄様が?何に使うのかしらぁ」
「なんでも、最近再婚しそうでな?後妻に飲ませて、今度こそ死に別れしないようにしたいんだと。素養も問題ないらしいからな」

必ずしもノックスの秘薬を使用したからと言って、効果が出るとは言えない。
素養が無いと、効果が出ないのだ。

「まぁ、だったら良かったわぁ。あの子が亡くなってから元々怠惰だったのに、更に怠惰の極みになってたからねぇ」
「まぁな。無理もないが」
「そうだ、サレオス御兄様の娘のキルメアとコルセアと最近、よく会ってるんだけどぉ。姉のキルメアの方の見た目が段々、母親に似てきてるわよぉ?」
「へー。オレはまだあんまり会ったことがないから知らないけど、そうなのか?」
「そういやグレンは、この前の合同集会……ということにしただけのパーティには不参加だったな?」

たまに、滅多に会わない別の世界の血族とも集会をすることがある。
……まぁ、集会とは便宜上のもので、その大半は交流も兼ねた集まりなんだけど。

「仕方ないだろ、母さんがドレスをやたら一押ししてきたんだから」
「あら、良いじゃなぁい?似合うんじゃないかしらぁ?」
「ガラじゃないよ……」
「グレン、基本的に男性向けの服ばかり着てるからね?私みたいな服を着たら良いのに」
「動きやすいからだよ。それに、パイモン姉さんの服はオレには……」
「主に胸部に差があるからな?」
「ストラス、デリカシーがないわね。制裁を与えるわ」
「ちょっ、待っガフッ!?」

そう言うと肘を彼の顔面にめり込ませて、涼しい顔をするクレア。
ストラスはそのまま椅子の背凭れに寄りかかり気絶した。

「はは、まぁ似合わないのは事実だしオレとしても、そもそもスカートはスースーして嫌なんだよなー」
「私みたいにスカートの中にズボンを穿いたら良いじゃなぁい?」
「タイツって手段もあるわよ?」

気絶中のストラスを放置して話を続けるアンドラスとクレア。

「っていうかアンドラス姉さんもパイモン姉さん、クレアもオレにスカートを穿かせる気でもあるのか?」
「別に?」
「ただ、面白そうだからよぉ?」
「うんうん、面白そう!」
「オレで遊ぶなよ……」

二人の姉と友人に弄ばれるグレン。例え、風変わりな血のあるノックスとはいえ、姉の悪戯に困る妹が居るのは、何処の世界でも同じだったようだ。

「nox-project 姉妹の奇妙な学園生活」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く