nox-project 姉妹の奇妙な学園生活

結月マルルゥ大佐@D.I.N.S.I.S.N社

7.風邪の姉と頑張る妹

私と妹が眼帯をしていた女性が居た部屋を散策した次の日。
私はベッドに横たわっていました。

時刻は朝の7時。本来ならもう身支度を整えて妹を起こして朝御飯にしている頃です。

……はい。やっぱり熱が上がりましたわ。

顔が熱い。頭が締め付けられるように痛く、咳も出ますわ……。
妹も怪我が完治していないというのに情けない。

「キルメア、大丈夫?」

先に目を覚まして、自力で身支度を整えていた妹が横にある椅子に腰掛け心配そうにしている。

「ええ、大丈夫ですわよ。それより御免なさい。本来なら私がしっかりして貴女の怪我を気遣わないとですのに……」
「大丈夫だよー。殆んど治ってきてるんだしー。それより何かして欲しいことはあるかな?」

まぁ殆んど治っている、というのは強がりでしょうけど、日常生活を送る上では大した問題はあんまり無いみたいですわよね。
これも血筋様々でしょう。
それよりも返事をしませんと。

私は少し考える。
そういえば、喉が渇きましたわね。

「喉が渇きましたわ。何か飲み物を運んでくださる?」
「わかった!」

そういうと保冷庫を開ける妹。
入口のドアの近くに冷却魔術が込められた符が貼られた箱がありますの。
そこに物を入れておけば冷たいままで傷む速度を遅くすることが出来る学園側が用意した寮備え付けの道具ですわ。
ちなみにその隣には、この箱を冷凍様に改良した道具があります。

ま、ぶっちゃけ私たちが居た国では普通にある冷蔵庫や冷凍庫と同じようなものなんですけどね?

「んー、キルメアー。冷たくない方が良い?」
「いえ、身体が熱いので冷たい方が……」
「わかった」

妹は黒っぽい紙パックからグラスへとドリンクを注いだ。
アレは……パパが何処かの国から贈ってきたブラックベリー系のミックスジュースですわね。
書かれてる文字は読めませんが、パックに描かれたイラストとパパからの手紙でそう認識しました。

「はーい、どうぞー」
「ありがとうございますわ」

ドリンクを受け取り、少しだけ飲む。
美味しい……。
独特な風味がしますが口に合うんですわよね、これ。

「着替えは……まだ大丈夫かな?結構、夜のうちに汗とかかいた?」
「いえ、まだ大丈夫かと。それより貴女、朝食は大丈夫ですの?あまり遅いと食堂の方が閉まってしまいますわよ?」

朝食だけは食堂……厳密には食堂に連絡して運んで貰うルームサービスを使っているのですが、早めに連絡をしないと朝の営業を終わらせてしまうのです。
部屋に簡単な厨房ならあるのですが、お恥ずかしながら私、あまり料理はする方ではなくて。軽い料理やお菓子なら作れますが。

「んーん。今日は私が作るから!」
「作るって、貴女まだ片腕が使えないじゃないの……」
「大丈夫大丈夫。パパが贈ってきた缶詰とか冷凍のカット野菜とかを炒めるだけだから片手でイケるイケるー!!それに多少は雑になっちゃうけど、ちゃんと物だって切れるし?」
「本当ですの?心配なのですが……」
「任せときなって」

言いながら妹は厨房の方へと行った。
ここからは見えないからよく分からないけど、冷凍庫や保冷庫、棚を開ける音が聞こえる。

「……本当に大丈夫かしら。コルセアの手料理なんて食べたことがないのですが……」

これでも魔王の娘です。実家に居たときは常に従者がいるような楽な暮らしをしてましたからね……。
案外、出来ないことも少なくないんですわよ。
そりゃあ、大好きな妹がつくる料理ですもの。たとえ不味くても完食するつもりですが……今の体調でそんな無茶をして大丈夫なのでしょうか。
一抹の不安がありますわ。

「胃薬……用意しておきましょう」

ぽつりと呟かざる逐えませんでした。

少しすると包丁で何かを切る音や、油を敷いた鉄板で何かを焼く音が聞こえる。
鼻が微妙に詰まってますから分かりづらいですが、ほのかに卵が焼ける匂いがします。

「玉子料理、ですかね?」

妹の鼻唄も聞こえてきた。

「ああ、病人を気遣って世話をしようとするなんて……私が知らないうちに妹もちゃんと成長してましたのね……」

鼻唄を聞いていたら少しだけ寝てしまったみたい。

「おーい、キルメア起きてー?」
「んー……」

料理が完成したらしく皿に盛られた料理を妹が持ってきました。

「完成したよー。食べてー?」
「んー、ああ完成しましたの?」

私が目を擦っていると妹はそれを、ベッド近くの小さいテーブルに置きました。
これは……細かく切ったベーコンと玉子を炒った料理みたいですわね。
付け合わせにはサラダでしょうか。
千切って小さくなってる緑の葉っぱ、恐らくはレタスと赤いパプリカを細かく切り、中心にはポテトサラダを置いた見映えもいいサラダです。

上からは白いドレッシングがかけられてます。チーズの香りもしてますし、チーズ系のドレッシングなのかもしれません。
他にはライスとスープがあります。
スープは見た感じ、根菜が入っていまして香りからはコンソメがベースになっているみたいです。

「コルセア、貴女料理できたの?」
「うん。知らなかった?」
「ええ……いつも、放っておくとバランスを無視した食事ばかりしてるからてっきり……」
「あはは、そこはパパに似たのかもね。食べたいものと、食べさせたいものとは違うよ。今のキルメアはしっかりと栄養をつけて貰うことが大事だからこのメニューになったわけ」

ああ、妹がしっかりしてますわ……お姉ちゃん嬉しい。
そんな感慨に耽りつつも、さっそく料理を食べてみることにします。

「……ん!?」

さぁ、エンジンを全開にしましょう。
これが私の食レポですわ!!
お姉ちゃんは全力で頑張りますわ!!

「……これは……美味しい……!!!!」

私は食べながら更に言葉を続けます。

「いい感じの焼き加減ですわ。玉子炒めも玉子がふんわりとしていて、程好い塩コショウでしっかりと味がしています。ベーコンもどうやら先に味付けして炒められているのか脂っ濃過ぎず程好い焼き加減でいいアクセントになってます。このままでも贅沢なベーコンを卵と炒めることで溢れ出す肉汁や脂も胃をもたらせることもなく食べさせてくれます。これは簡単そうに見えて贅沢な料理ですわ!!」

次はスープをスプーンで一口。

「根菜もちゃんと溶けていて、コンソメと上手くmatchしてますわ。ああ、アンドラス叔母様から戴いた魔石式圧力鍋を使ったんですわね。まるで長時間丁寧に煮込んだぐらいに野菜が溶けていて、野菜本来の甘みや味わいがスープに溶けてますわ……ああ、美味しい。まるで農村地帯の大田舎で農業を営む夫婦に作って戴いたかの様な料理ですわね。城暮らしの私たちの実家とはなんの関わりもありませんが、何故か懐かしく思えてしまいます」

私は満足しながらもサラダを口に運びます。

「ポテトサラダもドレッシングも自作ですの?」
「う、うん。ポテトは冷凍のマッシュポテトだし、色々手抜きもしてるんだけどね?」

「凄く美味しいですわ。サラダはただ野菜を切って盛るだけとも言えますが今回はそれに該当しません。一口サイズに合わせるかのように程好いサイズに葉物野菜とパプリカを切り……いえ、これは予め葉物野菜とパプリカに味付けがされてます。あまり濃くならないよう適量の塩をかけられてるみたいです」

ムシャムシャと食べ続けます。

「中心にあるポテトサラダはマッシュしたポテトをマヨネーズで和えただけにも見えますがどうやら二種類のマッシュポテトを使ってるみたいですね。細かくパウダー状にしたマッシュポテトと食感を残すために荒くマッシュされたポテトと。マヨネーズの時点でポテトサラダは完成とも言えますが更に上からかけられたのはチーズが薫るドレッシング。これは……」
「うん、それもパイモン叔母様から貰ったチーズだよ?」
「贅沢にもそれまたブロックで貰った濃厚なチーズを溶かして、今度は瓶に入ってた酸味は薄口ながらも卵っぽさが濃厚なマヨネーズと挽きたての粗挽き黒胡椒を混ぜた自家製ドレッシングを上からかけるとは、まさに魔王級のサラダ。これはまさにチートですわっ!!!!!!」
「なんか元気だね……」

妹が若干、引いてる気がしますが今の私には料理のことで頭がいっぱいいっぱいです。

やりきりました!!
お姉ちゃんは頑張って食レポを達成しましたわよ!!
勿論、料理はちゃんとすべて食べましたわ。

「こんな美味しい料理、何処で学んだんですの?」
「ほら、実家に居たとき、ラウム叔父様がたまに遊びに来てたでしょ?そのとき、ラウム叔父様から教わってたんだー。ちなみにキルメアも誘おうとしたけど、そのとき本に集中してて誘えなかった」
「あー、そういえばそんなこともありましたわね」

私、最初にラウム叔父様を見たとき、女性だと勘違いしたんですわ。
ラウム叔父様の育ての親の風習だかで、一人前になるまでは女装をするって決まりがあり、未だにそれを守っているとか。
今は魔術的な意味合いがあるから、とか、単に趣味になってしまったからとかって理由もありますが。

「あら?コルセアは食べなくてよかったんですの?ついつい全部食べ終わってしまいましたが」
「私は料理を作りながら、ベーコンを食べてたからー」

そういえば、パイモン叔母様からベーコンをまるまるブロックで貰ってましたわね。
食べ盛りの私たちにとって、嬉しい限りです。
お陰で保冷庫の3分の1が占拠されてますが。
残りの3分の1がチーズ、3分の1は調味料やドリンク、僅かな野菜で占めてた筈です。

って、まさかベーコンだけを食べてたのですの?
パンやライスを食べずに?

「……ベーコンだけをブロックで食べてましたの?」
「いんや?その料理に使った分だけ切って、残りを分厚く切ってナイフで刺して火に炙ったら美味しかった!!」

わぁお野性的……そういえば新鮮なベーコンでしたからね。軽く焼いただけでもおいしく食べられるのでしょう。
中々美味しそうです。

…………って、そこじゃありませんわ。幾らなんでもバランスが悪すぎます。

「コルセア……せめて少しは野菜を食べなさい。ベーコンは脂も塩っけもある方なんですから」
「えー。私、肉食だから!!」
「雑食でしょうが私たち……猛禽類や肉食獣じゃあるまいに」
「ミーンミンミンミンミンミンミィィィィィィィィィ」
「何気に似てる蝉の物真似ですが蝉は猛禽類でも、そもそも鳥類でもありません……ただの虫です」
「ツクツクボォシツクツクボォシ」
「だからそれも蝉ですわ……なんですの?蝉の物真似選手権にでも出ますの?というかありますのソレ」
「あるよ?」
「あるの!?あー考えただけでも不毛な大会ですわ……」
「カツラじゃないよ?」
「その不毛じゃありませんわよ」
「あ、下の方は確かにそうかな?」
「知ってますがそれも関係ありませんわよ……」
「えへ……えへへ」
「恥ずかしくなるなら初めから言わないでくださいませ……」

ふと壁に掛けられた時計を見る。既に8時を回っていました。

「あ、学校に連絡をしませんと」
「私がやっとくよ。どちらにしろ私も休むって伝えないとだし。怪我は治ってきてるけど、折角だからキルメアの世話もしたいからね」
「コルセア……ありがとうございますわ。御言葉に甘えさせていただきます」
「いいっていいって。どうせ、私の場合、授業を受けても意味がないからね」

自嘲気味に笑う妹。私は慰めの言葉を言いたいところですが、いまいち言葉が出てきません。

「ま、それにも少しだけ希望が見えてきたけどね?」
「なにか解決策がありますの?」
「うん。もしかしたらこの学園で廃止された魔道の中に適正が高いものがあるんじゃないかってね?」
「…………」
「んー?どうかした?希望的すぎたかな?」
「いえ……というより、調べてませんでしたの?」
「うん。そもそもこの学園で廃止された魔道があるなんて、考えたこともなかった!」

胸を張る妹。
流石に天然が過ぎますわ。そんなところも可愛いのですが。
私はてっきり、既に調べてるとばかり思ってました。
そこに御互い、認識のズレがあったんですね。

「はぁ……少し考えたら分かることですのに……」

少し呆れ顔でため息をつきました。

「あははー、まぁだから暫く授業は受けないで図書室に行ったり他の身内に色々聞いてみるよ」

そこで友達と言わない辺りが哀しくもなりますが、私も裏切られたばかりですので何も言えませんね……。
裏切られた……というより、私にも非がありますがねアレは。
ええ、自覚してますとも。
でも仕方がないじゃないですか。私にとって妹はなくてはならない存在、
例えるならば……そう、鍋料理のなかのニラですわ。
え、アレは苦手?
そんな人は知りませんよ。私にとっては鍋を食べる意味に繋がる極めて大事な食材なのですわよ。

ん?他の身内で魔道に詳しく、的確な答えを出せる人……あ。

「というより、お婆様……いえ、アンヘルちゃんに聞いたら早いんじゃありませんこと?あの人、あれでも伝説レベルの化物ですし」
「んー、確かになにか知ってそうだね……試しに聞いてみよっか」
「それがいいですわ」

頷いて電話をとると「その前に」と呟いて、先に先生方へ欠席の連絡をしました。

「さてと……実は先程から熱が…………」

視界がぐらんぐらんとしてますわ……。
ああ、妹は視界がぐらんぐらんとなっていてもやっぱり可愛い。
なにが起きてもやっぱり可愛い……うっ…………

「まったくもう、急に全力で食レポみたいなことをするからだよー?すこし寝てなー?って、もう気を失っちゃってるか」

返事も出来ずに私は夢の世界へと向かってしまいました。

__________

世界のすべて、どのようなものであっても否応なしに必然的に境界はある。

それは次元にも言えること。
しかし、それは誰にも関与することも認識することもできない境界。

次元は常に隣接する次元と、吸収と侵攻を繰り返しており境界の圧力は凄まじいものであるためだ。
もしも生身の人間……いや、屈強な鎧のような鱗があるドラゴンですら狭間にそのまま落ちたりしたら1秒も持たずに肉体が消滅してしまうことでしょう。

しかし、何事にも例外はある。
自分の尋常ならざる力で世界の均衡を崩さないようにするため、次元の狭間に城を築いて住み着いたひとりの悪魔が居た。

それがノックスたちの祖であり原点。始まりにして終わりでもある無限の魔王アンヘルの城だ。

次元の狭間に強靭すぎる結界を張り巡らせそこに地盤を構築し、訳あって世界の均衡監視に着任させられなかった自分の娘と複数の恋人たちと住んでいた。

その城の一室。間接照明である松明で明かりをつけている赤い絨毯の部屋にそれは居る。

ここは謁見室。謁見に来た人物を迎える部屋であり本来なら護衛が神経を研ぎ澄ましている部屋だ。
とはいえ自分が招いた人物と血族以外、来る可能性は低い為に自由な格好をしているわけだが。

そこの一際大きな椅子に腰掛けている女性が居た。
その女性は、女性というには未成熟で幼く子供にすら見えた。
左目は赤く輝いていて右目には眼帯がされている。
肩まで届かない黒い髪を垂らして、椅子に脚を組んだ体勢のまま座っていた。
…………………………全裸で。

「んー……流石に新しいプレイを探さないとなぁ。私は良くても恋人たちが飽きちゃうかもだし」

そう、この人物が無限の魔王・アンヘルだ。
足下には先程まで激しく愛し合ったのであろう女性が同じく裸で気絶している。

「よいしょっと」

アンヘルはおもむろに立ち上がった。
別に城は適温を保っているけど一応椅子の背もたれに掛けられていた自分の服を女性にかけた。
気絶している女性の頬を撫でて「気持ち良かったよ?ゆっくり休みな?」と囁き、軽く口付けをして、再び椅子へと腰掛ける。

無限の魔王・アンヘルの性欲には底がない。
底が知れない。
そもそも底なんて存在していないのかもしれない。

その趣味も兼ねた交わりで血族を日々増やしているからこそ、誰も文句を言えないが…………
もう少し落ち着いて、節操というものを持ってほしいとは子供たちに言われているらしい。

そんなことばかり考えている城主の住む次元の狭間にある城、通称"無限城"の謁見室に音が鳴り響いた。

「ん、電話だ。誰かな誰かなー?」

虚空に次元の切れ目を出して、そこから電話の子機らしきものを掴み出して通話ボタンを押した。

「もしもし誰?新聞なら要らないよ?」
「新聞の勧誘なんて、そこには届ける手段がないじゃん……」
「この声はコルセアだね?」
「うん。お婆様に相談があって」
「お婆様じゃなくアンヘルちゃんって呼んで?」
「あ、ごめんごめん。アンヘルちゃんに相談があるんだけど、今、いいかな?」
「大丈夫だよ?ついさっき、恋人のひとりをイキ倒れさせたばかりだし賢者タイムじゃないけどひと休みしてるし」
「相変わらず元気だねぇ……」

私は少し呆れた。
真っ最中じゃなくて良かったよ。喘ぎ声を聞きながら電話することになったら色々と気まずいもん。
アンヘルちゃんは多分気にしないと思うけど。

「で、相談なんだけど、私に向いてそうな魔道……魔術とか魔法ね?なにか心当たりないかな?」
「知ってるけど?」
「へ?」
「というか普通に知ってるし多分私の子供たち、貴女から見たら親や叔父叔母ね?あの子達も感覚で気付いてると思うよ?」

流石は《当主》と《第2世代》
そんな容易く私の適正を把握できるとは……

「んー?なら、なんで教えてくれなかったんだろ」
「そりゃそうだよ。そういうことは本来なら自力で知るべきことなんだもん」

更に言葉を続けるアンヘル。私はそれを大人しく聞き続けることにする。

「《第3世代》は《第2世代》と違い、産まれたときから異世界に落とされて自力で生き抜いて覚醒するしかないっていう試練がない分、それぐらいは自力で頑張らないと駄目だと思うんだよね?」

《第2世代》つまりパパや叔父叔母様方は基本的には産みの親であるアンヘルちゃんやその恋人に育てられてはいない。
産まれてすぐに異世界に落とされそこで誰かに拾われて暮らすか、宿無しとして頑張るかという決まりしかないんだ。

とはいえ、決してアンヘルちゃんに愛情がないわけではない。
ノックスとして未熟な未覚醒の子は、常に眼帯の下にある魔術で監視をしていると聞く。

それはまるで、複数のモニターがある監視室の様に。

たまに結界により監視が働かなくなる場合や、行方が追えなくなる場合もあるが基本的には見守っていたりするそうな。
とはいえ酷い目に遭っていたからといって、すぐに助けるわけにもいかないけれど。

それも覚醒するための試練だから。

世界の均衡を守護する為には覚醒しなければいけないし、覚醒するだけじゃなく実力も磨かないとならない。
その力を与えるために、心を鬼にして見守っているんだってパパから聞いたことがある。

「んー、なら私の適正は教えてはくれない?」
「うん。流石に始めから答えを見せちゃ訓練にもならないでしょ?」
「うぅ、やっぱりかぁ……」

無駄足だったかなぁ。
別に電話をしているだけだから大変って訳ではないけれど。

「ただひとつだけ言えることは、コルセア。貴女にも適正が極めて高い魔道はあるよ。適正にさえ気付けばその道の大魔道師になることも容易いんだよね」
「えぇ!?そうなの!?」

え?私が大魔道師?
……いやいや、そんな馬鹿な。姉であるキルメアならそう遠くないうちに大魔道師って言われると思うけど。
既に呼ばれてたっけ?
少なくても私はあり得ないよ。

「あり得ないよー?だって、《基礎基本》の魔術ですら碌に使えないし」
「んーこれはノックスの血筋あるあるだけど、実はノックスって極端な子が多いんだよ。近接戦闘は極めて得意だけどそもそも魔術を使う魔力が基本的に無かったり、魔力の量は異常だけど極端な程に身体が弱かったり」
「あー……」

思い浮かぶ身内がちらほらと居る。

「それに《基礎基本》の魔術って言うけどさ?なにが《基礎基本》なのかとかだって色々と意味が分かれるんじゃないかな?例えばひとつの魔道なら炎を放つことが《基礎基本》でも治癒は大分後に覚えたりするじゃん?」
「そもそも覚える必要がなかったりもするね」
「だから、《基礎基本》って言ってもコルセアにとって得意な魔術の《基礎基本》とは言い切れないんだよ。現に私の恋人のひとりに炎を放ったり治癒魔術は幼い頃から苦手でイマイチできないけど見えない糸を操る魔術は幼い頃からできた、なんて子もいるし」
「ふむふむ?」
「つまり、《基礎基本》はあくまでもその魔道を教える上での指針であり実際の《基礎基本》とはまた違うってことだね?」
「はぇー……」
「だから、自分の得意なことさえ知ってしまえば尋常じゃない技術を獲たりすることは不可能じゃないんだ。現にキルメアだって魔術の才能は確かに異様なのかもしれないけど、運動神経は微妙でしょ?いざってときは身体強化の魔術で乗りきれそうだけど」
「うん、確かに」
「そういうものだよ。苦手を克服するのも確かに大事だけど得意なことを見付けて、それを極めることだって立派な道。だからコルセアはなにが一番得意か見定めた方が良いと思うよ?」

得意なことを極める、か……。
運動は得意だけど魔術でもひとつの才能があるってアンヘルちゃんが言うなら、頑張ってみる価値はあるのかもしれないね。

「わかった。信じて頑張ってみる」
「それがいいよ。ところで次はいつ頃、私の城に遊びに来るのかな?」
「んー?キルメアにエッチなことをしようとしないなら次の長い休みに行くよー?」
「しないしない。流石に息子に叱られてまだまだ日が浅いからね」
「というより、自分の孫に手を出そうとしないで欲しいなぁって」

アンヘルちゃんだから仕方ないって、みんな諦めてるみたいだけど。

「キルメアは私のだから、そこは忘れないでねー?」
「別に私は姉妹丼という選択肢も好きなんだけどなぁ……って、自分の真の気持ちに気付いたんだね。良かった良かった」
「孫で姉妹丼とか考えないで欲しいなぁって。なんだ、アンヘルちゃんは気付いてたの?」
「うん。というかそれも大体の子は察してたと思うけど。前に血族を何人か集めてパーティをした時、私がキルメアを誘惑してみたらコルセア、やたら嫌そうにしてたじゃん?」

自覚してなかったけど、そのときから既に私ってば姉をそんな目で見てたの!?
自分の気持ちに鈍感過ぎない!?

「そ、そうだっけ?あの時はまだ、10歳にも満たなかったからかな?あんまりよく覚えてないんだよね…………って、10歳にも満たない孫娘を誘惑しないでよアンヘルちゃん……」
「なにを言うの。3歳超えればストライクゾーンだよ?もっともあのときはキルメアを閨に運ぼうとしたらサレオスたちに攻撃されて諦めちゃったけど」

ナイス、パパと叔父様叔母様。
危うく姉の貞操が幼くしてケダモノに汚される所だったよ。

「もしも見た目がもっと大人だったり、男性だったらとりあえず通報してるところだよソレ…………」
「そうかな?まぁいいや。他に用事はあるかな?」
「うぅ、良くない気がするけど……まぁいいかぁ。用事?んー…………今はもう特にないや」
「そう?それじゃ、そろそろ切るね?お風呂に入りたいし」
「わかった。それじゃ、またね?」
「はいさーい」
「何処の方言だよっ!?」

電話を切った。
結局、私に合った魔道がなんなのか教えては貰えなかったけど為になったかな。

「よぉし、キルメアの看病が済んだら頑張ろっか!!」



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