nox-project 姉妹の奇妙な学園生活

結月マルルゥ大佐@D.I.N.S.I.S.N社

4.禁忌の愛と狂気の愛

静寂がサイ=クマガワの部屋を包み込む。
隙間の開いた窓から風の音が聞こえ、時計の秒針が時を刻む音が聞こえる。
そんな中、口を開いたのは部屋の主であるサイ=クマガワだった。

『どういうこと?私が犯人だなんて』
「……例の襲撃者3人には、とある香りがしました」
『香り?』
「ええ。あの香りは確か、マンドレイクの根と百夜の実を混ぜて燻した様な香りでした。どちらもとある魔術で多用されるものですわよね?」
『……まぁ。薬を作り出すことに特化した《スガヴィ魔術》、生物を操ることに特化した《傀儡魔術》、生物を虜にし吸血しやすくすることに特化した《吸血魔術》だね。でも、幾ら私が吸血鬼だからって、早とちりしすぎじゃないかな?』

吸血鬼の生徒なんて、然程少なくはない。

「ええ。吸血鬼は私のクラスにだけでも貴女を含めて3人は居ますわね」
『でしょー?妹さんがああなって冷静じゃないのは分かるけど、もうちょい落ち着こうよ』
「ですが、吸血鬼だからってだけではないのですよ。まず、クマガワさん。貴女の魔道の専攻はなんでしたか?貴女は自分の得意とする《吸血魔術》以外の専攻をしてましたわよね?」
『……スガヴィ魔術』
「そう。薬学も共に学ぶ《スガヴィ魔術》ですわよね」
『た、確かに私が怪しいのは分かるけど、その材料を使う人なんて少なくないじゃない!それに、別に専攻してなくても、何かの目的のために使ったのかもだし、あの3人が何かをするために使ったかもじゃない!!』

そう。私の推理は、なにも証明していない。
当てずっぽうの推理とすら言える滅茶苦茶なものですわ。

____だって、私は推理をしに来たわけではありませんもの。

「まぁ、確かにそうですわね。どうやら私には探偵の才能は無いみたいですわ」

溜め息をついて、ソファーに深く背凭れに倒れ込んだ。

『あはは、そうそう。私が犯人じゃないってわかって貰えたみたいで安心したよー。あ、別に私は怒ってないから安心してね?こんなときだもん、色々疑っちゃうのも仕方ないもんね』
「ウフフ、そう言っていただけると安心しましたわ。ですが……」

私は指を鳴らした。すると、ふたりを挟むテーブルの上に私の使い魔である黒猫が現れた。
口には書類を食わえながら。

「もう少し警戒心を持っておくべきでしたわね?」
『っ……』

クマガワさんの表情には焦りの色が見えた。
そう。私がこの部屋に来たのは推理ショーをする為ではない。
使い魔に部屋の中の調査をさせる為だった。

勿論、大博打も良いところ。
もし、クマガワさんが犯人じゃなかったなら詫びて次に怪しいと感じた人物のもとへ向かわないとなりませんし、そもそも証拠を見付けられなかった可能性もあった。
その場合、学園内での私の評判は極めて酷いものになりますが……私が大事なのは妹だけ。
他の人物からの評判なんて、どうでもいいですわよ。

「この書類、内容はコルセアを如何に苦しめるかを書いた計画書ですわよね?まぁ、厳密にはコルセアの退学が目的だったみたいですが」
『…………』
「随分と細かい計算をなさっていたみたいですが、計画書を残しておくだなんて抜かりましたわね」
『………………』
「目的はなんです?私、別に貴女に怨みを買うようなことはしていない筈なのですが?」

使い魔には証拠を持って戻ってもらった。
証拠を破壊されてしまっては手段がありませんもの。
まぁ尤も、そんなことをする気はないみたいですが。
クマガワさんは俯きながら口を開いた。

『…………怨みなんてないよ?』
「でしたらなんで……」
『…………』
「……言う気がないなら仕方ありません。もし、他人でしたら命はありませんが、友人のよしみです。学園から去り、2度と私の目の前に現れない、と約束できるなら許しましょう……」

クマガワさんは俯いたままだ。
私ができることはもうない。
帰りましょう。

「……それでは、夜分遅くに申し訳ありませんでした。お邪魔しました」
『…………』

私はソファーから立ち上がり、ドアを開けて出た。
……しかし、私は自室へと帰るための脚を停めざる逐えなかった。

「…………どういうつもりですか?」
『…………』
「答えなさい!!」
『……ずっと一緒……そう、キルキルっちと私はいつまでも一緒じゃないと駄目なの!!』

クマガワさんは目を見開き、私を見た。

「……いいから帰しなさい」

私は一刻も早く帰りたかった。
この女はやばい。そう、私の本能が伝えていたからだ。
しかし、幾ら足掻いてもこのままでは帰れない。

____廊下が存在しなかったからだ。

どうやら、いつの間にかドアの外が異空間となっていた様だ。
恐らくクマガワさんが仕掛けていたのだろう。
ドアを開けると闇が歪んでいる空間のみがあった。

『私と貴女は友人?いや、友人なんかじゃない。恋人にならなくてはならない存在……』

ぶつぶつと言い続けている。

「……貴女が如何に私を欲していても、私は貴女のものにはなりませんわよ?百年河清を待つよりも、他を探すことをお奨めしますわ……」

そう。私の心は何年、何百年経とうときっと変わりません。
実現不可能な恋愛の為に如何に努力をクマガワさんがしても、それは結局、砂上の楼閣。
早く諦めて戴くしか友人としては、言えません。

そう私が考えていると、クマガワさんの表情が変わった。

狂ったかの様に口許をひしゃげ笑い、口を開いた。

『妹が理由、だよね?キルキルっちは妹を姉妹としてではなく、恋愛的に愛しちゃってる。そんなこと、許されないのに……』

許されない。禁忌。
……まぁ、社会的にはそうなんでしょうね。
私たちノックスでは、珍しくもないから違和感を感じづらくありますが。

「そうですわね。社会的には駄目でしょう。でも、私は考えを改める気はありませんわ」
『だから、あの妹がいなくなればキルキルっちの考えも変わるんじゃないかってね』
「そんな理由でコルセアを?」
『充分すぎる理由だよ。折角だから見せてあげる……』

クマガワさんが指を鳴らすと壁にあるプロジェクターから映像が向かいの壁に投影された。
これは……私たちの部屋?
どうやら、監視されてたみたいですわね。
ベッドには薬が効いてぐっすりと寝ている妹がいる。

『もし、貴女の妹が純潔じゃなくなったら考えも変わるんじゃないかなって思ってね』

私は血の気が引いた。
その瞬間、私たちの部屋の扉が壊され、中に10人近いガタイの良い男性が雪崩れ込んできた。

「っ!!クマガワさん!!今すぐ止めさせなさい!!」
『なんでー?』

男たちは寝ている妹の近くまで来ている。
妹は確かに近接戦闘は得意。
しかし、薬が効いて眠っている上に満身創痍の状況だ。
こんな状況では……妹は……
確かに私たちノックスは死ぬことはない。
如何に身体を破壊しようとも、再生することが可能です。
しかし、心はそうではありません。


『私の恋人になりなさい。一生、私から離れない、私しか見ない恋人に』
「っ……」
『はい、これが契約書。契約が成立したら、キルキルっちと私の首に契約の首輪が巻き付いて契約を遵守しなければ締まり続ける罰を受けることになる』

嫌だ。私は……妹とだけ一生、一緒にいたい。
でも、このままでは妹が……

『……やっぱ駄目か。さぁみんな、待たせてごめんね。いいよ、やっちゃえ!』
「待って!」
『んー?』
「……わかりましたわ。お請けします」

これで良い。私は妹さえ幸せなら、私がどうなろうとも……

『よろしい。じゃ、契約書に触れて?それで契約は完了だから』
「……わかりましたわ」

…………………………
…………………
……………
……
ああ、これで私は妹と結ばれることは無いんですわね……
そう、一粒の涙を流し契約書に触れようとした瞬間、契約書に大きな針が刺さり黒く変色した。
これでは契約書としては使えない。

私とクマガワさんが針の飛んできた場所、入口のドアを見ると開かれたドアの前に彼女がいた。

『あらぁ?感動的な告白にしちゃぁ、ロマンチックじゃないわねぇ?』

『誰っ!!』
「はじめましてぇ、キルメアの叔母であるアンドラス=O=ノックスって言いまぁす。ちなみに魔王としての名前は不和の魔王よぉ?」

彼女は部屋の中に入りドアを閉め、笑みを浮かべながら、やたらケバケバしい色をした深緑色のスカートをつまみ上げて儀礼的な挨拶をした。
頭には肩まで届かないさらさらとした美しい金髪を生やし、口許には挑発的な笑みを浮かべている。

「あ……アンドラス叔母様!!」
『ちっ、どうやってこの部屋に……』
「えぇ?この程度、子供騙しの次元封鎖じゃなぁい?大体の子は解除できると思ったけどぉ、今時の子はできないのぉ?ジェネレーションギャップ?」

あからさまな挑発をしながら笑う。
私だって少し時間をかければ解除できると思いますが……子供騙し呼ばわりとは、流石はアンドラス叔母様です。

『っ、もういい!やってしまいなさい!貴女たちはここで妹が汚される様を見たらいいわ!!』
「あのねぇ?私がひとりで来ているって、どぉして思うのぉ?」
「そうか。アンドラス叔母様がいるってことは、部屋には……」

投影された部屋の映像を見ると、男たちはドアがあった方、入口を見て怯えている。
入口の前には見張りが居たのだろう。
その見張りだった人物を引き摺って現れた褐色の女性が現れた。
豊満な胸が強調される紫色の服、足元にはスリットがあり美しい脚が見える。
何処かの異世界では民族衣装と言われている服で名前はチャイナ服と言うらしいですわね。
口許には黒いマスクをつけ、肩まで届かない美しい黒髪には猫耳のアクセサリーを装着している。
そんな彼女の名前は______

無音の魔王・パイモン=S=ノックス。

「相手できるなら、ウチの恋人に手を出しても良いわよぉ?まぁ、無理でしょうけど」
『ひどーい。私だって、か弱い女性なんだよー?』
「か弱い女性なら、巨漢を片手だけで引き摺ったりしないわよぉ」

どうやら入った時点で隠しカメラに気付いていたらしく、そちらを見ながら話すパイモン叔母様。
ふたりは、まるでゲーム中のように話している。
いいえ。ふたりにとって、これぐらいの敵なんてゲームですらないのでしょう。
単なるチュートリアル程度でしかない。私には分かる。
ふたりは微塵も本気なんて出していませんわ。

『な……なんなんだよ、貴女たちっ!!』
「ん?私たち?さっきも言ったけど、キルメアの叔母よぉ?」

あ、私のベッドが男たちの血にまみれた。

「ちょっと、私の部屋だからあまり血を流さないでいただけませんかっ!?」
『無茶だよー。ってか、コルセア、全然起きないなぁ』
「痛みが酷いから睡眠薬も兼ねた強めの鎮痛剤を飲んでますからね……」

ああ、部屋がスプラッタ映画みたくなってますわね……買い換えないと。
少しなら学園側でなんとかしてくれますが、流石にこれは自腹でしょうよ。
助けられた立場ですから、なにも言えませんが。

男A『なんだべおめぇっ!!』
男B『おらの股間の大根で、おめぇの股間をがばがばにされてぇのかってんだべさ!』

『何語だべさー!!』

踊るように切り裂いた。

男A『ダゴサクぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!おめぇ、ダゴサクの大根をまるでおでんの大根みてぇに切るなんて、おめぇ、人間じゃねーよ!!』

『悪魔だよっ』

軽やかなステップで切り裂いた。

男C『うぇへへっ、俺のこのナイフには毒が塗っていてな?かすっただけでお前は悶え苦しんで死ぬことになるぜぇ?うぇへへっ……』

そう言うと男は挑発するように舌を出してナイフを舐めた。
…………男は毒で死んだ。

『なんでやねーん!!』

突っ込みついでに他の男性を切り裂いた。

「……なんか楽しそうですわね……」
『そんな馬鹿な……私が用意した男たちが全滅……そんな……』
「御愁傷様ぁ。しかし、ノックスにこんな真似をするなんて、貴女正気ぃ?伝説ぐらい聞いたこともあるでしょう?」
『あるけど……あんなの噂が尾ひれとかがついただけで……』
「そうでもないわよぉ?当主であり、キルメアたちから見たら祖母に当たる人はアンヘル。実際に神々との大戦を引き起こした本人だしぃ、未だに幼い体型のまま健在。元気に血族を増やして楽しんでるロリビッチになってるわよぉ?」
「ロリビッチは余計ですわよ……」
「ノックスの使命は世界の均衡を保つことで、均衡に触れる行いをした際は異形の力を操りその者に確実なる死を与えることになるわぁ」

……本当に私たちノックスのことをクマガワさんは知らなかったみたい。
青ざめた顔で私やアンドラス叔母様を見ている。

『……そんなことって』
「貴女、キルメアが好きって言ってたくせにぃ、なにも知らないのねぇ?ただ、一方的な愛を語るだけぇ」
『そんなわけは……』
「そんなわけないってぇ?いやいや、貴女は一方的な愛を語ってるだけぇ。違うわねぇ、貴女は恋愛してる気になってるだけで本当は誰も愛していなぁい。自分を愛してるだけぇ」
『ひっ』

アンドラス叔母様は目を見開き、ソファーにクマガワさんを押し倒し、顔を近づけ目を合わしている。
……もし、パイモン叔母様が見たらヤキモチを妬きそうな光景ですわね。
これがもし妹なら………………あぁ、妬きますわね私も。

「貴女はなにも知らない。なにも愛してない。そもそも貴女に愛はなぁい」
『違う……』

クマガワさんは目をそらしている。目線から動揺しているのは明らかだ。
そんな彼女の異変をアンドラス叔母様は見逃さない。
捲し立てるように言い続けた。

「貴女も気付いているんじゃなぁい?貴女の心には穴があるってぇ。空いた心を恋愛しているって感覚で誤魔化したいだけぇ。貴女は一生、獲られないもので穴を塞ぎたいだけ。それだけの為に見苦しくもキルメアにすがっただけぇ。貴女はそれを知っている筈。貴女はそれを理解している筈。わかっているのに認めたくないだけぇ。貴女が友人たちにちやほやされたくて色々やってるのもすべて、それが明らかになるのが怖いから。自分が歪だと明らかになるのが怖いから。だから、実力があり学園でちやほやされているキルメアの恩恵に肖ろうと近づいただけぇ。貴女には愛なんてなぁい」
『違う……違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う……』
「そんな貴女の生き方は……………………気持ち悪くてヘドが出るわぁ」

耳元でアンドラス叔母様が囁いた瞬間、何かが彼女のなかで壊れたらしくクマガワさんは失禁をして気を失った。
アンドラス叔母様はソファーから離れ、私の傍に近付いて頭を撫でた。

「精神汚染ってものはこうやるのよぉ。良い勉強になったかしらぁ?ああいうクラスの人気者タイプは自分を認識されたい、愛されたいって感情が強いからねぇ。その根底を刺激してしまえば案外、潰しやすくなるのよぉ。まして、まだまだ幼い心なら尚更ねぇ?」

恐ろしい。ガタイの良い男たちを紙屑のように、一方的に破壊したパイモン叔母様も、狂いきっているクマガワさんの精神を軽々と壊したアンドラス叔母様も恐ろしい人だ。
あれで、血族内ではあまり強い部類ではないって聞きますし……私たちの道は遠いですわね……。

「さぁて、とりあえず貴女の部屋に行きましょうかぁ。少しなら片付け、手伝ってあげるわぁ」
「あ、はい。色々とありがとうございます」
「いいわよ別にぃ。暇潰しの一貫だものぉ。さぁて、部屋の片付けの前に、あの吸血鬼どぉするぅ?」

そう言って振り返りクマガワさんの姿を確認しようとしたが、既にその姿はなかった。

「あれ?」
「何処かに仲間とかが居たのでしょ。連れて逃げたわねぇ。まぁ、心は折ってあるから、少なくても暫くは貴女の前には現れないでしょうよ」
「で、でも、大丈夫なんですか?報復とか……」
「あらぁ?私たち大人を甘く見ないで貰えないかしらぁ?」

そう言うとアンドラス叔母様は私の頬を撫でニヤリと笑った。
確かに愚問でしたわね。
物理的に強いというならいざ知らず、策を操るような人物がアンドラス叔母様に敵うとは私には思えません。
同じ土俵の上でならアンドラス叔母様に敵う人物なんて、そうはいないでしょう。
それに、アンドラス叔母様たちがいるのは別の次元にあるミラ王国。
そこに向かう手段が見付からない可能性もありますし、不要な心配でしたわ。

「……まぁ、そうですわよね。それより今、何とかしないと不味いのは私の部屋ですわね……」

そう答え、私たちは自分の部屋へと走って帰った。
幸い、時間が時間ですから誰ともすれ違いそうにありません。
あ、念のため、クマガワさんの部屋の投影機等は破壊しておきました。
あとは私の部屋の隠しカメラを破壊しないといけませんわね。
札の魔道具かしら。

私たちの部屋に着くとやはり、モニターで見た通りの惨状となっていました。
ああ、私のお気に入りの本が……ああ、ベッドシーツが……

「パイモン叔母様、とりあえずありがとうございますわ……」
「いいってことよー」
「でーすーがー、もうちょい加減はできなかったのですかー!私の部屋が天井に至るまで真っ赤じゃないですかー!!」
「無理だよー。あんまり器用じゃないもん」

嘘だ。絶対嘘だ。
パイモン叔母様はドジですが、腕利きの暗殺者です。
血を流さずに暗殺なんて、容易いことの筈。
それをしなかったのは……気分でしょうね。

「……はぁ。まぁ、妹に何もないだけマシだと思うしかありませんわね……って、うわ……」

私の机の上に……口にすることも憚られる男性のアレが乗っています。
ええ、はい、まるで近くにあるペン立てから落ちたみたいに鎮座していますとも。
……誰がうまいことを言えと。

「あらぁ、あれが大根?まるでちょっとだけ太めのペンじゃなぁい。小さぁい」
「んー?ああ、そうだよ。あれがダゴサクの大根だね?なんか出しっぱなしで迫ってきたから切っちゃった」
「ちょっ……えぇー……」

ちらっと見直す。
ダゴサクの大根だったのですね、それ。
よく知らない人ですが、ダゴサクの大根というパワーワードが頭に染み付いて覚えてしまいましたわ……
っていうか、何処から連れてきましたのダゴサク……

「えぇー……机も総取っ替えしないとならないんですか……」
「別に大丈夫じゃなぁい?ちゃんと殺菌すれば」
「そういう問題じゃありません……精神衛生の方ですわよ……」
「案外、デリケートねぇ貴女」

ああ、幼い頃にパパとお風呂に入って以来、初めてであり恋愛対象の性別的に見ることはないだろうと思っていたアレをこんなところで見るだなんて……なんか、もう、色々と厄日ですわね……

「さぁ、早く掃除をしちゃうわよぉ?あんまり時間もないでしょうしぃ」
「時間?っていうか、よくこんなに早く来れましたわね。学園に入るには色々手続きが必要だから、早くても1、2時間は掛かりますわよね?」
「あー……」
「だぁから、時間がないのよねぇ。あんまり掛かると、お迎えがきちゃうものぉ」
「……無理矢理、侵入しましたわね叔母様方……」
「だってぇ、手続きとか面倒そうだったんだもぉん」

守衛の方、警備の方、申し訳ありませんわ……

「それに色々と抜けてたもん。誰が侵入したのか、顔も見れてないと思うから大丈夫だと思うよ?」
「死角から気絶させただけだもんねぇ?」

……本当に申し訳ありませんですわ。後で差し入れでも持っていきましょう。

「はぁ……とりあえずさっさと片付けを済ましますわよ……」
「はーい」
「死体は保存しといてねぇ?ちょっとやってみたい研究があるから。手間ついでにゴミも此方で処分しとくから纏めといていいわよぉ?」
「わかりましたわ。とりあえず札に封じておきますから持って帰ってくださいね?」
「はぁい」

そう言うと手早く、私たちは部屋の掃除を済ました。
テーブルの買い替えはまだですが、とりあえずベッドのマットは魔法で無理矢理に血を取り除いてベッドシーツやカーペットは仕舞ってあった替えのものと取り替えた。
ゴミや死体を入れた札はアンドラス叔母様が自身の影のなかに仕舞い込む。
便利なものですわね。
ノックスの皆は、荷物を運ぶ際には影を利用して運ぶことがあります。

個人差はありますが、およそスーツケース1つ分から3畳間分ぐらいの間ぐらいといわれています。
私たち姉妹はまだ練習中ですが、いずれは欲しい力ですわね。

「zzz……もう食べられないよぅ……」
「めちゃくちゃよくある寝言を出したわねぇ……」
「アンドラス、悪戯しちゃダメだよー?」
「……なんでバレたのぉ?」
「何年付き合ってると思ってるの?アンドラスがさっきポケットに隠したペンで悪戯しようとしたのは、バレバレだよ?」
「あら、ざぁんねん」

そう言うとペンをテーブルに置いた。
私の妹の愛くるしい顔で遊ばないで欲しいものですわ。
私は綺麗になった自分のベッドに腰掛ける。
アンドラス叔母様も隣に腰掛けた。

「……それにしても、まさかクマガワさんがあのような思いを私に向けていたとは……」
「あら、気付いてなかったのぉ?」
「ええ、微塵も」
「おかしいわねぇ。ああいう子は話しているうちに、何処かに相手に察して貰うためのヒントを出しているものだけどぉ」
「うぅん……」

私は色々と考えてみた。
……あれ?
そういえば、クマガワさんとどんな話をしていましたっけ。
首を傾げる私に机の方にある椅子に腰掛けて自分のナイフでジャグリングしているパイモン叔母様が話し掛ける。

「もしかして、黒幕ちゃんが話してるとき、例えばコルセアの事とか考えてて聞いてなかったりー?」
「ギクッ」
「…………………………」
「……………………………図星っぽいね?」
「あは……あははははー」

私は目をそらした。

「気持ちは分からなくもないけど駄目じゃなぁい。そうやって貴女が等閑視の様に扱ってばかりいるから、歪んじゃったんじゃないのぉ?」

アンドラス叔母様は私の頬を引っ張った。
等閑視……いいかげんに扱うこと。なおざりって意味ですわね。
はい、確かにその通りですわ……

「いたたたたぁ、だってぇ」
「まぁまぁ、仮に早めに分かってもどうしようもなかったでしょー?」

まぁ、確かに恋愛感情をどうこうするのは、早くわかっていても意味がないでしょう。
精々、黒幕だと早く気付いて今回の件をもっと簡単にできただけでしょう。
……………………って、だけじゃないっ!!
むしろ、充分ですわよっ!?
嗚呼、コルセア……お姉ちゃんのミスでこんな傷を……嗚呼……嗚呼……

青ざめた私を見て、パイモン叔母様が苦笑いをしている。

「まぁ、これからは気を付けよう?」
「はい……」
「そうだ!今回の件、アンドラスだったらどう立ち回ってた?」
「どうって?」
「仮に私がコルセアみたいになってたら」
「……いや、貴女なら自力でなんとかしてたでしょぉ?」
「そーだけど、仮にさー?」
「仮にって……そんな話して、どうなるのよぉ」
「私が聞きたいから!!」

アンドラス叔母様が溜め息をついた。
興味を示してるパイモン叔母様を停めるには、満足させるしかない。
そんなことは恋人であるアンドラス叔母様が一番分かってることでしょう。
面倒そうにアンドラス叔母様は答えることにした。

「はぁ……仕方ないわねぇ……」

深呼吸して考えているようだ。
なるべく、本当にあったことのようにイメージする気だろう。

「っ……」

私は急に寒気がした。
気温が下がったわけではない。

理由は考えるまでもない。私の隣にいるアンドラス叔母様が殺意を示しているからだ。

「そうねぇ。まずは余計なことを言わせない為に喉に薬剤を注射して喋れなくするわぁ。そうすれば指示は勿論出来ないし助けも呼べないわよねぇ?」

開始から私とは違うみたいですわね……

「勿論、前提としてパイモンの身の安全は保証できるように罠を貼っとくわよぉ?大体、しそうなことは分かるものぉ。あとは易々と死なせずに少しずつ薬漬けにして、死んだら肉体は研究に使うわぁ。魂?冥界に行かせると思う?」
「ああ……私って、アンドラス叔母様から見たら甘かったんですわね……」
「当たり前じゃなぁい。友人だかなんだか知らないけど、貴女のことだから生かして見逃そうとしたんじゃないのぉ?」

はい、図星ですとも。

「だって……あの子、何処かコルセアに似てたのですもの……」
「……はぁ」

アンドラス叔母様は呆れてます。

「まぁまぁ。そこもキルメアの良いところだと思うし、良いんじゃない?」
「まぁ、別に良いけど忘れないようになさぁい?いつか、また同じようなことがあったとき、今度ばかりは私たちが助けられるか分からないんだから甘く見てしまったら後悔するわぁ。そのときこそ、貴女が本当に守りたい相手を選ぶようにねぇ?」

守りたい相手を選ぶ。

つまり、殺すか見逃すか、ですわね。
面識のないただの他人だった3人組なら未だしも、今の私では友人だったクマガワさんを殺すことはきっとできません…………
でも、いつか選ばなくてはならないときは頑張らないといけませんわね……。

「今回のことは、犠牲も少なくなかったけど良い勉強にはなったみたいだね」
「さぁて、私は帰るわぁ。そろそろ御迎えが目を覚ます頃でしょうしぃ」
「あはは、捕まったらキルメアたちの立場が不味いもんね」
「まったく、学園の結界がウザいったらないわねぇ。結界がなければ、直接入れたのにぃ」
「そんなことを許していたら、安心してられませんわよ……」
「あはは、下着泥棒とか変態が沸きそうだね」
「だからこそ、結界は万全なんですわ」
「なら仕方ないわねぇ。それじゃ、突っ切って出るわよぉ」
「はーい。んじゃ、まったねー!」

ふたりは手を振って帰っていった。
…………あ、サイレンが鳴り響いた。
あのふたりなら、捕まることはないでしょうけど流石に喧しいですわね。
爆発音までしてますわ……

「死人とか出てませんわよね?」

『いたぞー!』
『突撃ぃぃぃぃぃ!!』
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
『隊長!!第4小隊は全滅です!!戦線は維持できません!!!』

「本当に死人とか出てませんわよねぇぇ!!?」

真面目に大丈夫か心配になって参りましたわ……

この日、私は疲れている筈でしたのに気になって一睡もできませんでした。

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