nox-project 姉妹の奇妙な学園生活

結月マルルゥ大佐@D.I.N.S.I.S.N社

2.妹を愛するお姉ちゃん

私は妹を探して走った。
脚が痛い。浮遊魔術を使いたいが、コルセアは浮遊魔法は使えない筈。
ならば、空からでは草木が生い茂る森の中に居るであろう妹を見逃してしまうかもしれない。
だから、走るしかないのです。

私は走った。慣れていない運動で身体に傷みがある筈ですが今の私には気にならなかった。

暫く走ったとき、叫び声が聞こえた。

「熱い……熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!!!いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」

……妹だ。
声がする方に走ると、そこには最悪な残酷な光景があった。

床に力なく転がっている妹。背中の服は焦げて肌が露になっており、その背中は焼け爛れている。
近くには二人の男女。もう一人は妹の髪を掴み引き上げている。

『綺麗……眼球……欲しい……あははははははは!!』

キラリと輝く何かを持っている。
これは……医療用メスだ!!
このままでは妹の眼が貫かれてしまう。

私は微塵も迷わなかった。
もう、間違いは犯さない。

メスが妹の目を貫くことはなかった。
直前で私の手で庇ったからだ。
掌をメスは貫通している。無理矢理押すように力を入れた為、貫通したメスは妹の目に届かなかったが……危なかった。

「はぁ……間に合いましたわね?」
「お姉……ちゃん?」

よかった。意識は虚ろであるけれど、確かに妹は生きている。
安心した。しかし、それ以上に私の心には違う感情が渦巻いていた。

それは____

「私の妹に何してくれてますの!!」

ズドンと眼帯をした女の顔面を蹴り飛ばした。
一瞬で脚を強化して蹴りつけた為、顔面の骨が砕けたような感覚が私の脚に残った。

__私の心に渦巻いていた感情は、純粋かつ確実で、完全なる殺意だ。

「コルセア、少し待ってなさい?お姉ちゃん、少し……いや、かなりキレてますわ。此処まで殺意を持ったのは初めてかもしれません」
「どう、して……」
「……どうして?貴女はやっぱり馬鹿ですわね。私は貴女のお姉ちゃんなんですわよ?妹がこんなにされて、平静を保てるほど、私は優秀ではありません」

本当に平静を保てていません。
発狂したいぐらい、私はこの人たちを赦せそうにありません。
業火が腹の中で燃えています。
私はこの人たちを__殺したくて殺したくて堪りません。

「コルセア、貴女には大事な話があります。これが片付いて、貴女の治療が終わったら逃げずに会いなさい。良いですわね?」
「……うん……」

少し振り向き、妹に微笑むと妹は気を失った。
良かった。
出来ればこれからあることを妹には見せたくありませんもの。

「……さぁ、私の大事な妹を苦しめた落とし前は命でも足りないですわよ……でも、同じ学園に通うよしみです。私は優しいので罪を少しだけ軽くしましょう」

にっこり笑うと2人は少し、希望を持てたらしく、安堵した表情を浮かべた。
次の言葉を聞くまでは__

「肉片すら残さず殲滅するだけで、許して差し上げますわ…………死になさい」

今の私には自分を押さえることが出来ない。
今から始まるのは戦いではない。一方的な虐殺。
そんな姿、妹には見せたくない。
意識を失っている眼帯の女の方が幸せだったのかもしれない。

まず、私は気絶している眼帯の女の首を絞めるように持ち上げた。
鼻が曲がっている。

『……う……うぅ……くる……しい……』

苦しさで目を覚ましたようだ。可哀想に。
目を覚まさなければ、苦しむことも無かっただろうに。
妹の目は確かに綺麗。私に向ける怒りや憎悪の視線ですら、心地好いとすら感じてしまう宝石のような綺麗な瞳。
そんな瞳を傷付けようとした。
……許せない。

「……………………まずは、ひとりめ」
『っ……っ!!……うぅぅ!!』

首の手をなんとかしようと暴れる。既に片手から出血しているため暴れることによって、更に出血して袖と眼帯をした女の服を赤く染めるが私は気にならない。

『うぅぅっ、うっ、ぐっ……ぐっ……うぅぅぅぅ……』

段々と眼帯をした女の顔が青くなってきた。
口から漏れる唾液が締める手に垂れる。
流れ出る赤い血と混ざり地へと落ちた。
そんなこと、今の私には気にもならない。

「………………」
『あ……ぐっ……うう……ううっ……うぅぅぅぅぅぅぅっ』

ゴキッ。鈍い音が響いた。

『……か……あ……ああ……シュー…シュー……』

眼帯をした女は身体を痙攣させ、口から泡を吹きながらも何かを喋ろうとするが何も喋れず抜けるような空気音だけがする。
骨が折れたことにより、気管に異常が出たのだろう。
そんな彼女を私は見下した目で見ながら、淡々と、当たり前のように話す。

「なまじ頑丈な体質というのも考えものですわね。人間なら即死でしょうに……」

更に言葉を続ける。

「最初に顔面を蹴り飛ばした時に死んでれば楽でしたのに、哀れですわね……。まぁ、それでもこれで終わりですが」

そう言うと私は指を鳴らした。
すると眼帯をした女……いや、眼帯をしていた女の身体が膨れて吹き飛んだ。
弾けるとき、『ぼっ』と言ったようにも聞こえたが、恐らくそれは破裂する際に聞こえる空気音なのだろう。
肉片と血が周囲に散乱する。

「無詠唱魔術の遅延発動ですわ。私は首を絞めながら、そこの"肉"の身体の内側に炸裂魔術を打ち込んでいたのですわよ」
『ひっ……』

金縛りにあったかの様にその場から動かなかった二人の片方が尻餅をついた。
そんな彼女に近付く。
反り血がついた顔で、笑顔で、ゆっくりと。

「貴女は……妹に何をしましたか?」
『わ、私は悪くないの!二人に脅されて仕方なくっ!!』

嘘だ。そこまでして自分だけ助かりたいのですか?
でしたら、なんで妹を。
そんな憐れな女を見ていると……殺意と共に笑みすら湧いてきましたわ。

「うふ……うふふふ!!アハハハハハッ!!仲間を裏切ってまでも生き延びたいのですの?貴女は……本当に最低な生物ですわねっ?」

腹を抱えて笑っていると角を生やした女が小瓶を投げ付けてきた。

「当たるわけないでしょう?」

防御結界に当たり小瓶は割れ、中の液体は地面へと溢れた。

「これは……成る程?妹の背中の焼け爛れは、これのせいだったのですわね?」
『っ……』

破れかぶれになって、持っている様々なものを私へと投げ付けてくる。
小瓶を。
ペンを。
アクセサリーを。
小石を。
砂を。
抵抗空しく、私には何一つ届かない。
叫びも懇願も、何一つ届かない。
妹の肌は白くて綺麗。
昔はよく一緒にお風呂へ入っていました。その度に綺麗な肌が美しくて洗うと見せかけて撫でたものですわ。
そんな肌をこいつは焼いた。
許せない……。

「……貴女には同じ痛みを味あわせてあげますわ」

杖を振る。宙に魔方陣を描くと、魔方陣は角を生やした女性の真上に浮かび上がった。

「……熔けなさい」

魔方陣から雨が降り注いだ。

『ああ…あァァァァァァァァァァァァ!!?熱い!!あついぃぃぃぃ!!?』

彼女は床に転がり悶える。
周囲には人肉が焼ける不快な匂いを放っている。
そう、この雨は強酸性の雨だ。
鎧ですら、何回も浴びていれば穴が空く。
そんな酸を薄手の服を着ている彼女は浴びている。
服が焼け、皮膚が爛れ落ちる。
獣のような叫びだけが響き、痛みから何度も気を失うが痛みで再び目を覚ます。
そんな地獄を彼女は受け入れるしかなかった。
その雨音は安らぎなど与えず、ただただ絶望の叫びのみを奏で続ける。

雨が止む頃には叫びすらなくなっていた。

『あ……あ……ぅ……あ……』
「そろそろ良いでしょう。それでは、さようなら……」

私は踏み抜くように角を生やした女性の頭を潰した。
酸で脆くなっていたらしく、簡単に潰れた。
吹き飛んだ眼球がバンダナの男の足元へと落ちる。

バンダナの男は、暑くもないのに汗が止まらない。脂汗を流している。
すぐにでも遁走したいのでしょう?
すぐにでも自分の部屋に帰り、ベッドに踞り震えたいのでしょう?
しかし、身体が動くことを許さない。
蛇に睨まれた蛙のように身体が動かない。
脚が震えて立っているのがやっとだからだ。

「さぁ、あとは貴方ですわよね?」
『くっ、くるな!!』
「あら、くるなとは失礼ですわね?私、これでも異性にモテる方だと自覚しているのですが少し傲慢でしたでしょうか?」

私は笑みを浮かべてゆっくりと近づく。
その笑みは恐怖を与えるのには、充分すぎる笑みだった。
妹へ向ける笑みでも、学校での作り笑いでもない。
これから怨みを果たせるという、歓びの笑みだ。

するとバンダナを被った男性が焦りの表情を浮かべながら指先で宙に陣を描いた。
悪足掻き。
そんなことは自分でも既に分かっているのでしょう。
しかし、しないわけにはいかない。
抵抗しないということは自分の死を受け入れることだから。

「遅いですわ」
『っ!?』

まぁ、尤もそんな行為を私が許すわけないじゃないですか。
私は陣を邪魔する様に宙に浮かんだ魔法陣に触れ、凝縮する魔力を解除した。
すると魔法陣が形を保てなくなり消えた。

「確かに詠唱魔法や魔法陣を使った魔法は威力が極めて高くなります。しかし、1対1ではあまり意味を成さず大きな隙を与えてしまう為、今回の様なケースの場合は無詠唱魔法や身体強化魔法の方が正しいかと私は思いますわ」

まるで授業中に教師から指されたとき、淡々と答えるかのように私は話す。
どうせ今更教えたところで意味は無いのですが。

『う、うわぁぁぁ!!』

破れかぶれになった彼は、恐らく彼が使える魔法の中で一番威力が高い無詠唱魔法である電撃を私に放った。

「ほう?コルセアが身動きを取れなかったのは、この電撃によって痺れていたからでしたか……」

私は人差し指を1本出した。
すると放たれた電撃が指に集まり、焦がすことなくドーナツ状に浮遊し集まり消えた。

『な……』
「貴方の電撃なんて、大した威力ではありません。ですので、僅かな磁力を指先に出すだけでこんな遊びも出来るのですわよ?」

圧倒的な力量差。私はそれを見せて、徹底的に恐れを与えた。

「1対1でコルセアと戦わなかった理由がよく分かりましたわ。貴方……弱いからコルセアと1人で戦うのが怖かったのですわね?」
『な……何を言っているんだ!?俺がこんな劣等生なんて恐れるわけないだろう!!家畜と御主人様と同じぐらい立場に差があるんだぞ!?』

家畜……だって?
私のコルセアを家畜と今、言ったの?

「今、コルセアのことを家畜と言いましたか……?ねぇ、言いましたか……?言ったのかって聞いてるんだよ!!」

私は感情を剥き出しにしてバンダナの男の顔面を殴り付けた。
彼は蛙の潰れるような音を出し、鼻血を出して仰向けに転倒した。
私は彼に馬乗りになって、更に殴り続ける。

「私のコルセアが家畜?私の大事な大事なコルセアが家畜?私の愛しいコルセアが家畜?私の……私の……私のコルセアが?私のコルセア……私のコルセア……私のコルセア……」

私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア私のコルセア……

何分経過したのか分からない。気付いたら私はただ、ひたすらに死体の顔を殴り続けていたらしい。
顔の肉は潰れ、骨は砕け、反り血で私の手は真っ赤になっている。
殴り慣れてる訳ではないから、手が痛い。
先程の掌に空いた穴も拡がっている。

「はぁ……はぁ……やり過ぎましたわね。とりあえず……」

私は2体の死体を引き摺って集める。

「もう1個は……まぁ良いですわよね。もうなってましたし」

魔法陣を宙で血にまみれた指で描く。
すると宙に描いた魔法陣が大きくなり2体の死体を包み輝いた。
ボンッ!と鈍い音が鳴り、2体の死体が内側から膨らみ吹き飛んだ。
まるでポップコーンの様に吹き飛んで、木々を赤く染めた。
どうやら、ドラゴンの討伐が済んだらしく終了のブザーが鳴り響いた。

「さて、最初に言った通り、約束は果たしましたし怒りは晴れましたわ。とりあえずコルセアを背負って医務室に参りましょうか」

優しくコルセアを背負う。

「良かった、呼吸も安定してますし治療すれば大丈夫そうですわね。途中で彼らに会ったら謝らないといけませんね……」

そう独り言を呟き、私は歩き出した。

__________

私は医務室にいた。
途中、実習の際に抜けてしまったことを詫びた。
やっぱり一部の人物からは非難されたけれど、主に2人の人物が取り繕ってくれてなんとかなりました。
私の妹を痛めつけたゴミ虫……いえ、失礼。
虫以下の細菌どもの始末は恐らく学園側も把握なされてることでしょうけれど、問題になることはやはりありませんでした。

この魔道学園には様々な種族、様々な家柄の子が生徒として在席しています。
ですから学園内での小競り合いは少なくなくて、更には実習中での私闘の場合は自己責任という扱いとなる為に例え死人が出ても大事にはならないのです。
まぁ、それを利用されたからこそ妹はあんな目に遭ってしまったのですが。

勿論、推奨はされてませんが黙認されていることに当たるのでしょう。

ちなみに死亡した生徒の所有物は遺族が望むなら遺族に向かいますが、如何せん訳ありも少なくない学園ですからね。
大体は"死亡した際に一番側に居た人物"が貰うことになります。
まぁ、はっきり言うと実質的な略奪ですね。
あまり良い校則とは思えませんが、校則は校則です。後で見に行きましょうか。

さて、妹の治療が済んだらしく治癒魔術師の方からお話を聞きました。
妹は医務室のベッドで俯せに眠っています。
片腕には治癒の魔術を施されたギブスが填められてます。痛々しいですわね。
治癒魔術師が言うには、この程度なら体質も体質ですし1ヶ月もあれば傷跡ひとつ残らないとのこと。
よかった。安心しましたわ。
ノックスの血筋様々ですわよ。
後は目を覚ますまで待たないといけませんわね。

着替えも済ましましたし……血生臭くはありませんわよね?
目を覚ましたとき、妹から臭いとか言われたら暫く眠れませんわよ私……

暫く経過すると、妹は目を覚ました……らしい。
私は疲れていたのか、他の仕事があったらしい治癒魔術師を見送った私は椅子に座り転た寝をしていたらしく、船を漕ぐ様にしていた。

「お姉ちゃん……」

呟きに気付き、私は目を覚ました。
あ、妹が起きてますわ。
冷静に……冷静に……。いきなり抱き付いたりしたら吃驚しますし傷にも障りますわね。

「コルセア、起きましたの?傷は痛みますか?」

私は微笑んだ。本当なら抱き締めてキスをしまくりたい。
はい。私は妹が大好きです。異常な程だと自覚はありますとも。

「うん……痛い……」
「………………ごめんなさい!私がもう少し早く気付いてればこんなことには」
「なんでお姉ちゃんが謝るの。悪いのは私じゃん……」

少し妹が落ち込んでる。なんとか励まさないと。

「それだけじゃないですわ。貴女が私の部屋から去ってから、色々調べて虐めがあるのは知ってました。でも、中々解決しなくて……」

確かに、もう少し安全に解決する手段もあった筈。
これがもしパパなら。
これがもし叔母様たちならもっと手早く、もっと確実に解決できた筈。
…………まぁ、死傷者も倍以上になった気もしますが。
ああ、どうせなら魔法の才能開花より、こういうことを容易く解決する手段を学びたかったですわ。

「……そんな……私はてっきり、お姉ちゃんが私を嫌いでそうしてるのかもって……」

へ?そんなわけないでしょう?
私が妹への愛を文字に起こしたら、辞典並みの本が出来上がることでしょう。
……いっそ、執筆してみましょうか。
タイトルは『嗚呼、愛しき妹』
……全6巻ぐらいなら書けそうですわね。
っと、妹に訂正しなくては。

「何を馬鹿なことを言ってますの!私は1度も貴女のことを嫌いに思ったことなんて、無いですわよ!!」

つい、大声を出してしまいました。
ああ……大声に吃驚してる妹が可愛い……

「なら、あのときの絆創膏は……」
「あぁ、あの発端みたいなアレですわね……」

溜め息をつき、私は答える。
まさかアレがこんな大事になるなんて。
授業中や勉強中以外は使い魔を通して、しっかりと監視していましたから我慢できましたが……アレさえなければ……あぁ……
とりあえずちゃんと訂正しましょう。

「アレは、私なりの謝罪のつもりだったのですわ。本当は心配で貴女を休ませたかったのに、逆に怒らせる様な無神経な発言をしてしまったことの自責で治癒をやめてそのままにしていたの」

まぁ、半分は違う理由もありますけど少なくても悪意ではありませんから今は黙っておきましょう。

「じゃあ……虐めは……」
「周りが勝手に仕掛けたことですわ。私もあのときは、少しショックで頭が回らなくて……ごめんなさい……」

ええ、ショックでしたわ。軽く1週間は眠れませんでしたもの。
妹に大嫌いと言われるのは……ああ、また胃がキリキリと……

「私の方こそ……ごめんなさい……ごめんなさい、お姉ちゃん……ぐすっ……」

妹は涙を流した。
とりあえず抱き締めましょう。
……ああ、妹が暖かい。
妹が可愛い。
……落ち着け私。お姉ちゃんらしくしませんと。
落ち着け、落ち着け、COOLになれキルメア。
今、チューしたりしたら不味いですわ。
COOL、COOLですわ。

「これで、仲直りは出来たのかしら。喧嘩とかしたことがあまりないから、よくわからないのですが……」
「……うん。お姉ちゃんが許してくれたんだから、少しずつでも元の関係に……戻るよ……うん、きっと」

…………。

「だったら、良かったですわ。まぁ実習中は監視されてますから既に御存じでしょうけど一応先生方に何があったのか報告してきますわね?ひとりにしても大丈夫?」
「うん……大丈夫だよ」
「何かあったら直ぐに呼ぶんですわよ?遠慮したら逆に怒りますから、ね?」
「心配し過ぎ……。流石に白昼堂々、学園内で下手なことはもうしないと思うよ?」
「それでも確実ではありませんから。ですので約束してくださる?」
「わ……わかったよ」
「よろしい。また後でね?」

そう言って私は手を軽く振り、部屋を出ていった。
ドアを背にし、私は無言で一旦、自室へと帰る。
先生方に伝える前に自室へと帰る。

自室へと向かう廊下を私は歩いていた。
……ああ……
ああ……ああ……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
妹が可愛すぎて、もう、色々と我慢ができませんわ。
早く自室に戻らないと……戻らないと……爆発しますわ!!
LOVEが爆発しますわ!!!!
なんとか表情に出さず、廊下を歩く。
途中、知人がふたりで空き教室から出てきたので声をかけられました。
同じ演習に参加したバンシュウ=オダさんとモース=ハルトマンさんです。

『お、キルメア殿。妹君の怪我は如何かのぅ?』
『なんともないなら……良いけど…………』

どうやらふたりは本当に心配をしているみたい。
私は、微笑んで答える。

「オダさんハルトマンさん、どうも。妹の方の治療は済みましたわ。私たちの体質が上手く作用しましたので1ヶ月もあれば全快できるとのことです」
『お、そいつは良かったのぅ。モースの奴、心配しすぎてお見舞いに行くとかさっきまで騒いでおったのじゃぞ?』
『バンシュウ……余計なことを……言わないで……』

顔を赤らめたハルトマンさんがオダさんの脚を踏みつけた。

『あいたっ!!これっ!!乱暴をするでないっ!!』
『バンシュウが……悪い……』
「まぁまぁ。そういえば、ふたりはどうしてこんなところに?教室からも寮からも遠いですし、やはりオダさんが仰っていたようにお見舞いに?」
『否。それは拙者が止めていたから違うぞ。流石に大して面識もない拙者どもが急に行っても不信感しか御座らんじゃろうからのぅ……』
『むー……』
『で、拙者らがここにいた理由じゃが……ま、まぁ、色々あるのじゃ。気にしないで貰えると嬉しい』

……ははぁん。そうですの、そういうことですのね?

「わかりましたわ。どちらから告白したのか気になりますが、聞かないことにしましょう」
『何故、気付いたっ!?』
『…………流石は……天才』
「いえ、元々二人とも仲が良いのは噂で聞いてましたし、天才じゃなくても分かるかと思うのですが……」
『そ……そんなに……有名?』
「ええ。色々な意味で目立ちますからね」

二人とも顔を赤らめている。
ああ、私も妹と同じことをしてみたいですわね。

『はぁ、バレたならば隠し立てする必要はないだろうのぅ』
『私から……告白した……そして……上手くいった』

無表情でVサインを出すハルトマンさん。
まぁ、二人仲良く出てきた時点で分かってましたけどね。

「それはおめでとうございますわ」
『ありがとう……』
『応!!キルメア殿も妹君と上手くいくと良いのぅ!!』
『時には……押し倒す勢いで……押すのもあり』
「わかりましたわ……って、知ってましたの?」
『うん……』
『バレバレだと思うがのぅ……』

気を付けないといけませんわね。
私は別に皆に知られても微塵も困りませんが、妹が更に奇異な目で見られたら堪りませんもの。

『バンシュウ……そろそろ……』
『お、それではキルメア殿。拙者らはそろそろ失礼する』
「そうですか。では、ごきげんようですわ」
『おやすみ……』
『時間的にはモースのが正しいのぅ。おやすみで御座る』

二人と別れた。二人とも手を繋いで歩いていますわ。
しかし、恋人ですか……
羨ましいですわね。私も妹と……妹と……グヘヘ……
って、廊下で淑女がしてはいけない顔をしては駄目ですわね。
さぁさぁ、とりあえず自室へ帰りましょう………………グヘヘ……おっと涎が……

自室へとついた。
先程の医務室での妹を思い浮かべる。
照明を点け、鍵を閉めて窓も閉まってるかと確認してベッドに寝転がり枕に抱き付いた。

「あぁぁぁぁ!!妹が可愛いですわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ベッドの上をゴロゴロと転がる私。

「なに?なにあの可愛い生き物!!あぁぁぁぁ!あぁぁぁぁ!!あぁぁぁぁ!!!」

私は色々我慢できなかった。
妹が好き。
正直、妹としてより、ひとりの女性として好き。
大好き。
愛してる。
最早、禁忌を犯せるほどに愛してる。
ノックスに禁忌って概念はあんまりないけど!!
あ…
あぁぁぁぁ!!!
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

「やっべぇですわ。元通りの関係になんて戻れるか不安ですわ。マジパネェですわぁぁぁぁ!!」

貞淑さや真面目さを何処かに置いてきた私は暴走気味に吠えた。
暫くベッドで悶えたがやらなくてはならないことまでは忘れていなく、ちゃんと先生方に報告をするために移動をした。
こんなことをしてる暇があるなら、さっさと用事を済まして妹の傍に居たいですからね。

私は早足で廊下を歩き、職員室へと行って用件を済ましました。
やはり、叱られることもなく遺品を好きにするようにと3つの寮の一室の鍵を渡された。

「正直、良いものがあるとは思えないのですがね。とりあえず妹が歩けるようになったら一緒に見に行きましょうか」

そう呟いて私は医務室へと向かった。

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