nox-project 姉妹の奇妙な学園生活

結月マルルゥ大佐@D.I.N.S.I.S.N社

1.優秀な姉の失敗

______少女は困っていた。

私は天才だった。
名前はキルメア=K=ノックスといいます。
自分で言うのも何ですが魔王の血族でもあるノックスのひとりで、その血筋に多く継承される可能性がある膨大な魔力を基に、様々な魔術を覚え、自分なりに改訂し新しい魔術を作り出すことができる為に自他共に認める天才として歩んで参りました。

私は学生でもあります。
通うのは私立トリスメギトス魔道学園。
様々な魔道を研究し、それを修士する生徒たちの通う学園。
そこに妹と共に通っているのです。

妹の名前は"コルセア=O=ノックス"。
努力家だけど、どうにも魔術の才能が無いらしく授業では失敗ばかり。
クラスが違うため、詳しくは解らないのですが実技訓練では失敗続きだという噂は度々聞いている。
そんなこともあってか、この日も深夜遅くまで椅子に座り込み魔術の勉強をしていました。

いつもなら美しい銀髪の妹なのに、最近寝不足だからかハリが見えません。
目の下には隈があり、健康的には見えない。
部屋に帰って部屋着である黒いドレスには着替えましたが、未だにそのままで寝間着にも着替えてません……

時間は午前2時。
明日も朝早くから授業があり、このままではあまり長く寝られないでしょう。
流石に見ていられなくなった私は、声をかけることにする。

「コルセア、まだ起きてますの?もう夜中の2時ですわよ?そろそろ寝ないと……」
「お姉ちゃんには関係ない」

私に視線も向けず、淡々と答えた。
寝不足もあるからか少し当たりが冷たいですわね……

「関係ない……か。でも無理をしてもいい結果は……。確かに気持ちは分かりますが」
「分かる……?お姉ちゃんには分からないでしょ!私がどんな思いで学園に行ってるのか!少し学べば直ぐに結果が出る天才のお姉ちゃんには分かりっこない!放っといてよ!!」

急に怒りの表情を顕にした妹に近くにあった本を投げ付けられた。
その本は額に当たり、私の額から赤いものが床のカーペットに垂れる。

「っ!?……あ……ぅ……」

少し私は呆然としながらも、怒らずゆっくりと宥めます。今のは確かに私の言い方が悪かったのですから。 

妹の表情は、冷静になり自分の行動に戸惑ってる表情ですわね……
自分を傷付けてしまわないようにちゃんと私が悪かったと伝えませんと……

「痛いですわ……ごめんなさい……確かに少し言葉が過ぎましたわ……」
「っ!!」

そういうと妹は近くにあった上着を持って走って部屋から出ていってしまった。
何が悪かったのでしょうか……。
それよりどうしましょう。追い掛ける?
いいえ、今、追い掛けてもどの様に声をかけたら良いか……わかりませんわね。
とりあえず……

私が指を鳴らすと床に小さな魔方陣が現れ、黒い猫が召喚された。
その猫は魔物。所謂使い魔だ。尻尾は3本生えており、眼は赤く輝いている。

「貴方に命じます。コルセアに不埒な輩が声を掛けないか見張っててください。もし、何かあったら私に連絡をしつつ、敵を破壊しなさい!」

命令を聞き終わると黒い猫は低い声で『御意』と言い、消えていった。

「……はぁ。私は天才なんかじゃありませんわ……。苦しむ妹ひとり救えないなんて」

先程、自分で天才だと紹介しましたがそれは訂正することを心に決めつつ立ち去った妹のことを考える。

コルセア、大丈夫かしら。
とりあえず額の怪我を……いいえ、私に非があったんだし忘れないように暫く、そのままにしときましょう。
それに……妹が私に傷をつけるなんて、成長しましたわね。
お姉ちゃんとして複雑ですが、何処か嬉しさもありますわ。

そう呟き、私は額に絆創膏を貼り今日は寝ずに朝まで待った。

朝になっても帰ってこなかったが猫から報告があり、そのまま学園に登校するみたいだと聞いて安心し、私も学園へと向かった。


__________

私は妹より一足先に自分のクラスに入った。
もし、下駄箱で顔を会わせたらコルセアの事だから気まずいでしょう。
少し、時間を置いてあげるべきだと判断しました。

椅子に座ると様々な人から額の傷のことを聞かれた。
正直、煩いですわね。
私の実力ばかり見て、友人としては関わる気もない人ほど詮索したがるもの。
そんな人たちの相手をしている暇があるなら、魔術の研究をするなり妹と話すなりしたいですわよ。

『ヤッホぃキルキルっちー、おはよう!』

まぁ、友人として関わる人も人で面倒なんですけどね。
声をかけてきた少女はヴァンパイア族の生徒。
同じクラスで隣の席だから、仲良くなった子だ。
名前はサイ=クマガワ。人懐っこい性格だからか友人も多く、あちこちで会話している姿を目にすることがある。

「ああ、クマガワさん。これは少し妹と喧嘩をしてしまいまして」
『喧嘩?それはダメだなー』
「私の不注意で妹を傷付けてしまったのですから当然ですわ」
『分かってるなら早めに話した方がいいと思うよ?こういうのは長引くとろくなことにならないもの』

私より交遊関係の広いクマガワさんのアドバイスは尤もだ。

「そうですわね……では、下校しましたらちゃんと話しますわ」
『うん、それがいいね……って、うわ!教科書を忘れた!!取ってくるからまた後でね!』

そう言うとクマガワさんは走って出ていった。
授業開始まであと15分。大丈夫なんでしょうか……

案の定、遅れたクマガワさんは先生に叱られました。

__________

1限目が終わりました。
次の授業は体育館での闘技訓練。一度、外に出てから向かうことになる。
私はいつも通り、支度を済ましてクマガワさんと共に目的地へ向かうことにした。

『あ、キルキルっち、少し見せたいものがあるんだ!時間はそんなにかからないから、良いかな?』
「え?別に良いですが……?」

急な提案に困惑しつつも特に断る理由も無いため、乗ることにした。

体育館へと向かう最短距離じゃなく、回り道をするように学園を回る。
あ、ここはコルセアのいるクラスが見えますわね。
ちゃんと帰ったらまた、楽しくお話しできるんでしょうか。
少し心配ですが、楽しみですわね。
今日は奮発してケーキでも買って帰りましょうか。
外れにあるケーキ屋さんのチョコレートケーキ、コルセアは好きでしたわね。
よぉし、ホールで買いましょう。
紅茶も上等なものを……

何かクマガワさんも色々、話してるみたいですが私は聞いていません。

帰りのティータイムのことを考えてると、息を切らしたコルセアが出てきた。
ああ、窓から私の姿を見付けたのですわね。
会いに来るということは、昨日のことを謝りに来たのでしょうか。
……少し、緊張しますわね。
冷静に。冷静に。お姉ちゃんらしく……

「あ、コルセア。そんなに急いでどうしたの?」

あまり気にさせない様に、いつも通りいつも通りっと。
これで、妹が怪我のことを謝って私も謝って仲直り。
妹は悪くありませんが、これが無難でしょう。
さぁ、お姉ちゃんは待ってますわよ。

「白々しい……お姉ちゃん。いや、キルメア」

……あれ?
なにか、おかしいですわね……

「ん?」
「貴女なんか、大嫌いだ!!貴女が姉だなんて、此方から願い下げ!!縁を切らせて貰う!!」

……え?
どういうこと?
縁?あれ?なに?
何が起きたの?

「……え?……嘘?」

頭が追い付かない。今まで喧嘩したことは確かにあったけど、縁を切るとか言われたことはない。
そんな……馬鹿な。

コルセアは、走り去ってしまった。

「…………」
『え、えぇとキルキルっち、大丈夫?顔、青ざめてるよ?』

私と妹の仲はそう簡単に壊れるものじゃない。
帰れば仲直り。
全て丸く収まる。
こんなことになるわけがない。
……こんなことが現実で起きるわけがない。
そう。これは夢。悪い夢。
目を覚ませば、また妹と仲良く出来る。
( 貴女なんか、大嫌いだ!! )
っ!!?
頭が痛い。
目の前が真っ暗になった。

『キルキルっち!!』

ああ、私はどうしてこんなところで寝てるんだろう。
そう思いながら、私は意識を手放した。

…………………………
……………………
………………
…………
……


次に目を覚ますとき、私は保健室で寝ていた。

「う……ん…………?」
『あ、キルキルっち、起きた?』

隣の椅子にはクマガワさんが座っていた。
時間は……既に下校時間ですわね。
初めて、病気以外で授業を休みましたわ……
それよりも確認したいことがありますから、授業自体は諦めますが。
とりあえず上体を起こし、尋ねてみることにします。

「クマガワさん……どこからが夢で、どこからが現実ですか?」

そう言うと、クマガワさんは言い辛そうに苦虫を噛み砕いた様な顔で答える。

『……コルセアちゃんが、キルキルっちに……絶縁を……』

そこまで言うと、黙ってしまった。
……夢じゃなかったんですわね……

「……夢で、あって欲しかったですわ……」
『うぅん……あのあと、色々な子に何があったか聞いてみたんだけど。実は訳があったみたいだよ』
「なんですの?訳を解決すれば元通りになるんですの!?」

私はクマガワさんの言葉を聞き逃さず迫り、クマガワさんの肩を両手で掴んだ。

『痛い痛い。落ち着いて?ちゃんと話すからさ?』
「あ、ごめんなさい」

手を離し、深呼吸をするとクマガワさんは話し始める。

『コルセアちゃん、どうやら虐められてるみたいだね』
「……誰ですの?」

そう呟き、私は殺意を顕にした。

『落ち着いて。えーと、犯人は過激思想のあるキルキルっちのファンクラブだよ。額の傷の件で怨みを持ったみたい。それをコルセアちゃんは額に絆創膏を貼ってきたキルキルっちの差し金だと誤解して、カッとなって絶縁しちゃったみたいだね』
「…………私のせい、ですわね。
自分が注目されてることを忘れ、浅はかにも額の傷をそのままにすることで妹を苦しめる事情を与えてしまったわけですか……」
『自分を責めないで?もし今回のことが無くても、いずれはこうなった可能性もあるんだから。今回は偶然、不運にも重なってしまっただけなんだから』

クマガワさんが慰めるけど、私の心には響かない。
……いや、私は私自身への自責もありますが、もうひとつの感情が心に渦巻いているからだ。

「解決すれば、元通りの関係になりますわよね?」
『勿論だよ。今、友人に過激思想のファンクラブを調べさせてるけど、誰なのかは解らないみたいだね……』

奴等の尻尾は掴めないのですわね。
……気持ち悪い。
私を偶像にしているのであれば、私の大事なものを傷付けないで欲しいものです。
これはファンなんかじゃない。
自分の都合が良い様に、私を利用しているだけ。
気持ち悪い気持ち悪い。

「クマガワさん。その人たちを炙り出すのに、良い手段はありますか?」
『あるにはあるけど、正直危ないよ?』
「危険は元より覚悟をしてますわ。私は私の大事な妹を傷付け、私と妹の幸せな時間を壊した奴等を許せない。ぜってぇに許せないのですわ……」
『あはは、本気みたいだね。うーん、コルセアちゃん次第だけど……コルセアちゃんが悪巧みをしてキルキルっちを陥れたりしたら多分、実行犯が出てくると思うんだ。虐めている便乗犯や末端を潰しても意味がないし、実行犯を炙り出すにはこれが良いと思うよ』
「成る程。あとはいつ、どの様に妹が私を陥れたりするか、ですが」
『その前にコルセアちゃんがそんなことをするか、じゃない?』
「その辺りは大丈夫ですわ。妹はやる。私が保証しますわ」

胸を張りますが、哀しい信用ですわねコレ……

『あは、あはは……まぁ、コルセアちゃんの性格はキルキルっちがよく理解してるんだろうし、キルキルっちがやるっていうならやるんだろうね』
「まぁ、私はとりあえず隙を与えて待ちますわ……」
『それじゃ、少しでもコルセアちゃんの虐めが減るように私は私なりに色々やっとくね?便乗してる子や下っ派ぐらいならなんとかなるっしょ』
「ありがとうございます」

感謝を言うと、早速色々するようでクマガワさんは帰っていった。
私は少し休んでから、自分の寮に帰った。

__________

今日も寮の自室には私、ひとり。
いつもなら広く感じない部屋だが、私ひとりでは広過ぎる。
そりゃ、実家でもあった魔王城の方が比ではない程に広いが、魔道学園に来てからはこの広さが当たり前となっていた為、特にそう感じる。
広い……そして、寂しい。

「はぁ……いつになったら帰ってきますの……黒猫、報告を頼みますわ」

見張りをさせている黒猫には、もっとしっかり監視を任せている。
どうやら妹は近くの宿泊施設……、たまに発表会や臨時講師を呼んだりすることがある為、学園側で経営をしている宿泊施設があるのですが、そこに滞在しているみたいです。

「衛生状態は?警備体制は万全ですの?食事のバランスは?」

そう私が捲し立てると黒猫は困った顔をしながらも答える。
どうやら妹が泊まっている部屋は貴賓用の良質な部屋みたい。
お金ならパパが大量に送ってきてるから、足りるのでしょう。
毎日、ハウスクリーニングをしているらしく、衛生状態は寮よりも良い。
警備体勢は……対軍用魔術防壁があり、夜中には10人体制で見回りがある。

「んー、充分大丈夫みたいですわね。食事のバランスは?」

聞くと、少しだけ言い辛そうに黒猫は答える。

「……は?出前のピザだけで済ましてますって……?パパじゃないんだから……」

栄養バランスを気にしないで、ただただ食べたいものだけを食べている模様。
大丈夫かしら……体調を悪くしたりしませんか。
ピザはカロリーが在り過ぎてますし、このままでは妹がでっぷりして……それはそれで可愛いですが健康には最悪です。
ああ、どうしましょう。
今、私が何を言っても意味がありませんし……うぅん。

「妹にちゃんとした栄養を取らせる魔術は……流石にありませんわね……」

近くにあった魔術の図鑑を捲るが、やっぱり無い。
というか、そんなピンポイントに使えるか使えないか、よくわからない魔術があるわけがないのだけど。

「無いなら作れば良いだけですわ。さぁ、頑張りますわ!!」

その日、私は徹夜をした。保健室での事を睡眠と言わないならば2日目の徹夜だった。
朝日が登る頃には、理論上は開発に成功したが…………冷静に考えてみたら普通にこっそり私がピザ屋に手を回して、ピザのおまけ扱いでサラダを付けたら良いことに気付いた。
あまりにも遅い閃きに、燦々と太陽が照らす空を見る私であった。

__________

学園の自分のクラス。窓際の席に私は頬杖を突いて授業を受けていた。
退屈。
既に独学で学んでいる授業だった為、高成績を維持している私は抜けても良いのだけど、特に今、やらなくてはならないこともない為に授業を受けていた。
教師の教科書を読み上げ、黒板に文字を書く音と、それを必死にノートへ書き上げる音が教室を包む。
…………眠い。
徹夜もあったからか、私は転た寝を始めてしまった。

………………
…………
……


私は夢を見た。これは……そう、まだ私たち姉妹がパパと共に魔王城に住んでいた時だ。
その時の私たちはまだ幼く、広い魔王城で走り回ったりして遊んでいた。

「おにごっこするー!おねえちゃんがオニー!」
「いきなりですわね!?でも、いいですわよ!!まてまてー!!」

この日も鬼ごっこを楽しんでいた。
広い魔王城を走り回るのは楽しかった。
私たちにはママは居ない。
私たちが物心がつく前に、病気で亡くなったと聞いている。
生まれがあまり良くなく、禁忌の魔術を大量に扱って人に言えないような仕事をしていたとか。
ノックスの秘術を以てしても、身体の衰退は良くならなくて、最終的には病気で亡くなったみたい。
パパはモテるから浮いた話は事欠かなかったけど、新しいママだって紹介されたことは1度もなかった。
私たち姉妹としては、パパが決めたなら受け入れるつもりだったんだけどね。
そんなことを私が考えてると、事件が起きた。
鬼ごっこの最中、脚を滑らせたコルセアが階段から落ちそうになったんだ。
宙に放り出された妹……私は咄嗟に飛び付いて妹を抱き締めて一緒に階段から落ちていった。

「いたた…………って大丈夫!?おねえちゃん!!……あ……おねえ……ちゃん……?」

私は動かない。頭から血を流している。
妹は私が死んだと思い、大声で泣いた。
私たちノックスは不死でもあるのに、そのときの私たちは知らなかった。
実はこのとき耳だけは聞こえていた。
頭を強く打ち、意識は朦朧としている為に身体は動かせない。
これがもし人間なら死にかけている状態なのかもしれない。
少し五月蝿い。どうやら抱き付いて泣いているようだ。
妹の泣き声にメイドが気付いたらしく、私は救助された。
それから目を覚ました私を見て、また抱き付いて大声で泣いた。
はぁ……昔っからあの子はそそっかしいんですから。
でもまた、あのときみたいになにも考えず遊びたいですわね。

………………
…………
……


私が目を覚ますと、既に授業は終わっており昼休みになっていた。
……そういえば、妹は何も仕掛けて来ませんわね。
まぁ、あの子の事だから少し時間をかけて来るのでしょうけど。
叔母のひとりと少し前から仲良くしてましたからね……あの腹黒毒使いの叔母や猟奇的な趣味のある幼い体型の叔母とかと。
…………何か怖くなってきましたわ。
御手柔らかにしていただきたいものです。

「さて、お腹が減りましたわ。ご飯にしましょう」

私は料理というものがあまり得意ではなく、そして昼時に売店前の行列に並ぶなんて思いもしたくない為、朝のうちに弁当を買っているのです。

「さてと、いただきます……」

厚紙製の弁当の蓋をあける。

「ああ、そうですの。早速、妹からの嫌がらせがありましたわね……」

この程度は所謂、"小攻撃"のつもりなのでしょう。
これで犯人を炙り出せるとは思えませんし、これで妹が満足するとは思えません。
しかし、私にはダメージを与えられたみたいです。
弁当箱の中には恐らく冷めてしまっていますが、それでも充分おいしい《白身魚のフライ弁当》ではなく、重さで気付かないように重りを入れてメモが入っていた。
メモには『ごちそうさま byコルセア』と。

「お腹、すきましたわね…………」

私は机に項垂れた。こんなことならもう少し身体に良い弁当を持ってくるのでしたわ……
昨日もコルセアはピザでしたし、サラダの盛り合わせとかにしてたら良かったのに。

項垂れた私の隣から声をかけられた。

『おやぁキルキルっちー、やられちゃったみたいだねー』

友人だった。

「ああ、クマガワさん……」
『お金は持ってきてないの?』
「いえ、そうではありませんがどうせまた売店や食堂は混んでいらっしゃるのでしょう?あの競争に参加する自信はありませんわ……」
『ああ、確かに凄いことになってたねぇ。でも、ちょうど良いからキルキルっちには私からこれをあげよう!』

私の机にパンを置いた。
中にイチゴジャムが入っている所謂、ジャムパンだ。

『ついつい、貰いすぎちゃってね?』

チラッとクマガワさんの机を見ると、大量のパンが山になっていた。

「それは有り難いですが、いったいどうしてパンをそんなに?」
『んー?ほら、私って毎回売店で血液入りのジュースとか買ってるでしょ?』
「ええ。吸血鬼とか血液を好む方が飲むものですわよね?」
『うん。その時にポイントが貯まって、一定のポイントが貯まると福引きを回せるんだけどそれが全部パンでねー。私が欲しかったのはいつものジュースか、お肉を使ったものだったのに』
「それは……ある意味、災難でしたわね」
『ん、だからこれから皆に配ったりしてくるから、キルキルっちにはこれをってね。要らないやつだから気にしないで食べて良いからね?』
「ありがとうございますわ」

そう言うとパンを持ってクマガワさんは何処かに走っていった。
私は貰ったジャムパンの袋を開けて、咀嚼した。

「…………ん?」

確かにジャムパンなのですが、若干おかしな味がしました。
賞味期限は……大丈夫みたいですし、まぁ食べられないほどって訳でもないし良いですわ。
毒や薬剤があるなら未だしも、善意で貰ったものを捨てるような真似はしたくありませんもの。
私はジャムパンを食べ終えた。
お腹が満たされた私は、次の授業の支度をして待つことにした。

__________

1ヶ月が経過しました。
小さな悪戯の様な嫌がらせはありましたが決定的な行為が無いため、私は困っていた。
そのことを相談したく、授業が終わった放課後にクマガワさんを自室に招いていた。
とりとめのない会話をしつつ、紅茶とクッキーを出してちょっとしたお茶会も兼ねた形です。
そんな中、私は深い溜め息をついて話し始める。

「……困りましたわ。妹の陰湿さは知っていましたが地味なものばかりで犯人たちの炙り出しには至りません……」
『予想外だね。でも地味にキルキルっちへのダメージを与え続けてる辺りはある意味賢いっていうのかもね』

「まぁ……教科書をすべてアダルトな本とすり替えたのは真面目に色々心配になりましたが……」

というか何処で買ったのでしょう。あまりそういう店には近づいて欲しくないのですが。
妹が厄介事に捲き込まれたら嫌ですもの。

『今も妹さんの元に監視をしてるの?』
「ええ。でも明日は例の実習ですわよね?」
『そだよ。だからそろそろ使い魔とかのリンクが出来なくなるから引き上げさせなー?』

実習。それは全生徒が集まって行う1年に1回ある学園の大きな試験。
教師陣が召喚した魔物を今まで学んだ技術で倒すという実力主義の学園にとっては、学園らしい試験と言える。
倒す魔物は生徒の申告制で、自分の力量を見極めることも重要となる。

実習期間中は全日の訓練による疲労を少なくするために強制的に魔術を解除する結界が学園全土を包む。
その為、悪さをする人物も稀に居るが学園専属の騎士が多く巡回しているから安全を保てているらしい。

「少し心配ですが……仕方ありませんわ」
『それじゃ、私も今日は用事があるし戻るね?私も明日に備えないとだし』
「ええ、今日はありがとうね」

使い魔に撤退を命じ、自室へと帰るクマガワさんを見送った。


…………アレ?クマガワさんの自室はあっちじゃない気がしましたが……また道でも迷ったのでしょうか。
それとも何処か寄るつもりなのでしょうか。
少し気になりましたが、あまり詮索するのも良くないですからね。
気にせず、私も明日の備えをすることにしました。

__________

実習当日。
暑くもないのに汗が出るという感覚を私は初めて体験していた。

私は早々に手続きを済まして実習の待ち合い室に向かった。
私が選んだのは実習最高難度のブラックドラゴンの討伐。
倒しさえすれば一番の点数を貰えるが、それは至難の技で鱗は極めて強靭、動きは素早く隙を見せたら最期。
炸裂する黒弾を放たれて、痛みを感じる前に弾け飛ぶことでしょう。

やはり、そこには予想通り学園の優秀な生徒たちが居た。
私は軽く挨拶を済まして、私の魔法の触媒である杖を整備している。
すると、本来ここに居てはならない人物が入ってきた。
どうせ、漁夫の利を獲るためにハイエナの如く張り付いてるであろう人物たちなら私も何も感じない。
しかし、この子だけは居てはならない。

……妹だ。

「……どうしてコルセアが此処に……今からでも遅くない。棄権しなさい!!」
「…………」

私は整備していた杖を驚いて落としながらも妹に迫った。
しかし、妹は何も感じていないようで鬱陶しい様な顔をしている。
杖が床に転がる音だけが響き、他の生徒が心配そうに見ている。

「意地を張ってないで!ブラックドラゴンの恐ろしさは知ってるでしょう!?今の貴女の実力では、勝る相手では」

つい、口から出た言葉だった。
別に妹の実力を過小評価しているわけではない。
確かに妹は魔術こそは使えないが、近接ならむしろ優秀とすら言える。
でも、今回だけは。今回だけは駄目。

「私は下がりませんよ、キルメアさん?」

妹は私へと冷たい視線を向けた。
……私は何も言えなくなる。
何としてでも止めさせたいが、その手段が見付からない。

「っ……好きにしなさい……」

その言葉を言い放ってこの場を去ることしか出来なかった。
どうしよう。
別に戦闘中、私に何かをする分には構いませんわ。
しかし、もしドラゴンの放った攻撃が妹に当たったら?
もし仲間の魔法が流れ弾の様に当たったら?
私たちなら、自動で結界を貼る魔術ぐらい心得てますので大丈夫。
でも、妹にそんな魔術なんて使えるわけもありませんわ……
どうしたら妹を安全な場所へ移動できる?

私は今まで学んだ様々な知識を総動員をして考えましたが残念ながら、無情にも時間は過ぎ去ってしまいました。

演習が始まる。私はとりあえず手早く演習を終わらせることに専念することにしました。

開始早々、チームメイトのひとりが赤い宝石を投げた。

『地よ__共鳴せよ_____』

宝石を投げた人物の名前は、モース=ハルトマン。赤い髪が目立つ無口な少女だ。
彼女が得意とするのは宝石魔術。
どうやら宝石を地と共鳴させてドラゴンの位置を調べているようだ。

『いた……南西へ2キロ……まだ此方の魔力に気付いていない』
『あいわかった。それでは拙者の擬態魔術で探知を阻害するから皆、近付くで御座る』

バンシュウ=オダ。髷という珍しい髪型をしている腰に刀を下げた生徒だ。
彼は刀や肉体を強化するエンチャント魔術を得意とするが、その応用で魔力の探知を阻害する擬態魔術を使えるらしい。
バンシュウが宙で指を動かし、陣を描くと梵字が現れ私たちの身体に入っていった。

「これで問題はありませんわね」
『……キルメア、どうかした……?』
『先程から顔色が悪いぞ?何か懸念があると見える。如何なされた?』
「い、いえ、大丈夫ですわ。少し、妹が……ですね」

チラッと後ろを見ると、明らかに場違いで明らかに敵意を向けているコルセアの姿がある。

『成る程。噂には聞いていたが、そこまで拗れているのかのぅ……』
『…………キルメア、貴女にひとつ……助言がある』
「なんです?」
『悪い感情が感じられる……。妹さんじゃない。もし、何かがあったなら外れることを勧める……』
『そうじゃな。拙者たちだけでもドラゴンぐらい、容易いものじゃ。いざってときは気にせずに抜けるが良いぞ』
「……ありがとうございますわ。何か気付きましたらお言葉に甘えます」

そう言うと私たちはドラゴンへ向けて、進んだ。
二人はこう言ってくれるが、他の生徒が認めてくれるとは思えませんし……最終手段ですわね。
一番の流れは、さっさとドラゴンを倒して何かが起きる前に実習を終わらせること。
急がないと。

そうこうしてるうちに、肉眼でドラゴンを確認できる距離にまで近付いた。

『……まずは拙者から参るで御座る』
「私はバンシュウさんが攻撃したら更に追撃として対龍砲撃魔術を放ちますわ」
『……防御は任せて』

そう話すとバンシュウは刀を抜いてドラゴンの眼へと飛び掛かり突いた。
どうやらドラゴンから見たら突然目の前に現れたように感じたようで、咆哮をあげて暴れだした。

「擬態魔術も侮れませんわね……ファイアクラッカー!!」

キルメアが魔法を放つと炸裂する炎がドラゴンの体を焦がしていく。
他の生徒も皆、自分の最大限の魔法を放ってドラゴンに着実にダメージを与えていく。
ドラゴンも黙ってやられるわけもなく、私たちへ向けて黒い炎弾を放った。

『やらせない……』

モースは宝石を投げた。すると宝石が炎弾を吸収した。
まるで打ち付ける水を地が吸収するかの様に。

『拙者を忘れて貰ってはいかんぞ?』

身体に周りに梵字が浮遊している。身体と刀を強化しているのだろう。
バンシュウはドラゴンの鱗を気にしない素振りでドラゴンの肉体を切り裂いていた。

この分では難なく倒せる。そう私が安心した瞬間、ゾクッと嫌な予感がした。

「っ!!モースさん、妹は!?」
『……あれ?移動中にはぐれたのでしょうか……』
「皆、すいません。戦線を離脱します。嫌な予感が……するのですわ」

当然、非難の声はあった。嫌な予感程度で離脱するなんて、納得する方が不思議なのですから。

『ああ、行くが良い。御主は御主の為すべきことをせねば、一生後悔するからのぅ』
『……行って。ここは私たちだけで足りるから……そんなことより、非難するってことは自分の力に自信がないから、なの?』
『まったく、五月蝿い小童どもじゃのぅ……あまり五月蝿いとドラゴンごと斬るぞ?』

二人が睨むと静かになった。

「ありがとうございます。では、急ぎますので!!」

そう言って私は森の中へと走っていった。

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