その弾丸の行先

須方三城

第13話 仮初



 ハートフルマートで商品の補充を行う強面巨漢の魔人、イガルド。


 客足も引いたし、レジで暇そうにしている地味な同僚、エルジに少し話を振ってみる。


「ガツィアがいなくなって、もう一ヶ月か」
「ああ、そうッスね。……もうそんなに経つんスねぇ……」


 丁度一ヶ月前、急にバイトを辞めた新人がいる。


 ガツィア=バッドライナー。顔の恐さはイガルドに退けを取らない、何かと物騒な言動が目立つ変わり者だった。


 同じくこのハトマで働くハイネと同居していたらしいが、そちらからも姿を消してしまったらしい。


「今頃、何してるんスかねぇ。ハイネさんが人探しのビラ街中に配るわ貼るわしてたのに、未だ情報ゼロらしいッスし」
「……ガツィアの事も心配だが、ハイネも心配だ」


 昨日もハイネは明るく振舞ってはいたものの、相当心労が溜まっている様に感じられた。


「ここだけの話、あの2人ってデキてたんスかねぇ?」


 一応同棲していた訳だし、ガツィアの方はうっとおしがってはいたが、基本的に仲が悪そうには見えなかった。


「無いと思うぞ。……お前も実際そう思うだろう」
「まぁ正直」


 2人は知っている。一応ガツィアが大抵悪かったとはいえ、ハイネがガツィアに対し中々の暴力を振るっていた事を。


 更にガツィアがそれを喜ぶ様なMでは無い事も。


「ハイネさんの体罰に耐えられなくて逃げた…とかじゃないと良いんスけど」
「流石にそれは無い…と思うぞ」


 ハイネだって一応限度は弁えていただろうし。


 それにガツィアが全快してからはハイネの攻撃がヒットする事は余り無くなっていたし。


「まぁ、気ままな奴だ。その内ひょっこり戻って……っと、いらっしゃいませ」
「おい、そこの店員、ちょっと聞きたい事があるって話だ」
「?」


 入店した30代くらいの人間は、真っ直ぐエルジの元へ向かい、1枚の紙を突きつけた。


 それは、ハイネが作ったガツィア探しの貼り紙。その写真の面構えから紙のどっかに大きく110と書かれても不思議では無い。


 壁から引っペがしたらしく、四隅が破けてしまっている。


「これを作ったハイネって女はどこにいる?って話だ」
「ハイネさんですか?今日は夜勤だから、まだ自宅かと…」
「自宅はもう行ったって話だ」


 それもそうだ。
 貼り紙にはハイネの自宅の住所が書かれているのだから。


 どうもこの男は、ハイネが自宅にいなかったからここに来たらしい。


(……あれ?)


 しかし、貼り紙にはハトマの情報は載っていない。


 何故、この男はハイネがここの従業員だとわかったのか。


 常人の理解を越えた情報ネットワークでも持っているのだろうか。


 疑問に思いつつも、エルジはもっと気になる事を聞いてみる。


「あの、ガツィア君の知り合いッスか?」
「…………ガツィア…君、ねぇ」


 少し眉をひそめる男。


 なんというか、色々と納得できていない様な感じだ。


「まぁ、あれだ。知り合いっつぅか、同僚だよ。って話だ」


 頭をボリボリと掻きながら、男は名乗る。


「名乗るのなら、ジア=ハードネイルってとこかって話だ」








 ✽








 あいつは自分の意思で出て行った。あいつなりの考えを持って。


 トトリはそう言っていたが、ハイネは未だに納得してはいなかった。


 だって、ガツィアと過ごした最後の日、彼が作ってくれたお粥は、これから人殺しの世界に戻ろうなんて考えている者に作れる味ではなかった。よくわからない、明確な理由は無い。でも、そんな気がした。


 平凡な日々の中で、料理という平凡な行為に夢中だった様に感じられたのだ。


 だから、ハイネは彼がいなくなって一ヶ月間、暇があれば毎日の様にビラを配り、彼を探した。


 ガツィアがあの日、何を思い、どうして何も言わずに自分の前から姿を消したのか、それを、彼自身の口から聞きたかったから。


 だが、この一ヶ月まるで進展は無かった。


 ガツィアはもうこの街にはいないのかも知れない。下手したら、この国にも。


 もう、彼を見つけるのは不可能なのだろうか。


 そう諦めかけていた頃、事態は少しだけ動きを見せた。


 ハイネは、ハトマの休憩室でとある男と話していた。


 ジア=ハードネイル。傭兵時代のガツィアの同僚。


 二ヶ月前に失踪したガツィアを探し、ついさっきハイネの作ったビラを見つけてここに来たらしい。


 まさか裏世界の同僚が迷子扱いされて掲示板に張り出されているなど夢にも思わなかっただろう。


「あいつがコンビニ店員……あー、しつこい様だけど、マジで?って話」
「は、はい。超嫌そうっていうか気だるそうでしたけど、金のためだって」
「…重傷を負い、傷が治るまで表稼業を、か。まぁあの馬鹿にしちゃ理にかなった判断ではあるなって話だ」


 それでもまさかコンビニ店員とは、ジアにはどうしても飲み込めない。


 冗談100%でキリトに言った直感発言が、実に見事なくらい的中していた。


 4月1日に「明日から氷河期になります」と言われた方が信じられる、とまで評したのに。


 来年の4月2日はヤバイかも知れない。


「んで、一ヶ月前に裏に戻った、って話でOK?」
「はい、まとめると大体そんな感じです」


 ハイネはハイネで信じられない事がある。


 こんな普通そうな人間のおっさんが、ガツィアと同じ傭兵。


 ガツィアと違い、危険なオーラなど一切感じられない。


 ジアはガツィアとは比べ物にならない程のプロ中のプロ。そういう『匂い』を完全に隠し、凡人として振舞うくらい訳の無い事。


「良い話を聞かせてもらったって話だ」


 ジアが立ち上がる。


 ハイネとの接触により、あの馬鹿探しは大分進展した。


「あの馬鹿は、少なくとも先月までは生きていた。そんでもしまだ生きているなら、この街にはいない」
「え?何で、この街にはいないって…」
「あの馬鹿は裏に戻ったんだろって話。ここん所、この街で毎日情報漁ってたが、ここ一ヶ月であの馬鹿がアクションを起こした情報は欠片も無かったって話だ……情報収集範囲を別の街に移すとするかって話だ」


 無闇やたらと放浪するほどガツィアは馬鹿では無い。


 昔から家は持たずとも拠点は決めていた。


 一箇所の留まり、裏で活動を再開しているのなら、見つかるのは時間の問題だろう。


「あの……」
「何だって話」
「ガツィアは、何で傭兵になったんですか?」
「……はぁ?」


 ハイネの質問の意図が読めない。


「彼と生活してて、たった一ヶ月だけど、わかった事があります」
「………わかった事?」
「ガツィアは、ちゃんと平和な生き方だってできる。人殺しを楽しむ異常者でも無い。なのに、何で傭兵だったんだろう、って」
「……平和な生き方、ねぇ……」


 ふぅ、とジアは呆れた様に溜息。


 なんにもわかっちゃいないなこの小娘は。そう言いたげに。


「この辺りで、俺やガツィアがどれだけテログループや犯罪結社を叩いたか、知ってるのかって話だよ、お嬢さん」
「!」
「軍警察が検挙しきれなかった人殺しの種が、この辺、いんや、世界中に散らばってるって話」


 多数のテログループを叩いた。つまりそれは、それだけの数のテログループが暗躍していたという事。


「平和?とんでも無いって話。あんたらは、何も知らないだけだよって話だ」


 ここは平和だ。
 そう思い込んで、人々は爆弾だらけの街で笑っている。
 いつ爆発するかもわからない爆弾の隣に座って、平和の味を錯覚している。


「…ま、ガツィアも元はそうだったって聞いたけどな」
「……え?」


 ガツィアの過去の話は、少しだけ又聞きした事がある。


 ガツィアが気まぐれでロイチに聞かせた身の上話。


「あいつは元々『まともな』居場所があった。教会の施設だったらしいって話だけどな」


 そこで、彼は楽しくやっていたらしい。


「平和に、ただのクソガキとして生きてたらしいぜ。だが、ある日突然同じ施設のガキに殺されかけた」
「な……」
「そして、ガツィアはそいつを殺した。それを原因に施設を追われた。そこから後は聞いて無いが、大体想像はできるって話だ」


 平和だと思っていた日常はあっさりと突き崩され、彼の人生は大きく変わった。


 このご時世の平和なんて、アテになりはしないのだ。


「人殺しをした孤児が、まともに生きていこうなんて発想のできる境遇に至る訳が無いからなって話」


 ただでさえ、まともに生きていける保証なんて無いのに。


「わかってるか、10秒後、この店に強盗がやって来て、店員が皆殺しにされたっておかしくは無い。100mくらい先の公園には金に飢えた浮浪者が溢れてる。資金繰りに困ったテロリストが強盗に走るってのもよくある話だな」
「そんなの…」
「有り得ないか?」


 ハイネの顎に、冷たい物が触れる。


「え……」
「ほぅら、こういう展開だって、有り得なくは無いんだぜ?」


 ハイネの喉を撫でるのは、一本の小鉈。


 ジアの暗器術。一体いつどこからその小鉈を抜き、ハイネの首に添えたのか、常人にはわかりはしない。


「俺がこの場でこうやってあんたを脅して犯っちまう、そんな展開は充分あったっておかしかねぇ。何せ最近欲求不満気味だからなって話」
「……!?」


 ま、冗談だけど。そう言ってジアは軽く笑った。
 小鉈が引かれ、スっと袖の中へ消える。


「まぁわかったら、二度と平和なんて言葉は使わない事だって話」


 ちょっとした凶気で、仮初の平和はあっさりと打ち砕かれる。


 昔の魔人は、その欲の低さから凶気が生まれにくく、平和が実現していた。


「今のこの世界で、平和なんて有り得ない」


 ハロニアをそんな地球へと変えたのは、ジアやハイネの祖先、人間だ。


 温和だった魔人にすら凶気を伝播させたのは、紛れもない人間なのだ。


人間オレらがこの星で平和を謳う事程、滑稽な事は無ぇって話だぜ」


 言い換えてしまえば、今この世界にガツィアの様な存在を生み出したのは、ジアやハイネ達の祖先。


 魔国が人間を憎む事を、一概に否定する事はできないのだ。


「もうすぐ、派手な戦争が起きるかもって話だし、あんたもせいぜい気を付ける事だって話。おめでたいお嬢さん」


 ロイチはもうすぐ魔国が動くと言っていた。


 このトレフ大陸は、北端にタルダルス、南方にアビスクロックと魔国に挟まれた大陸。


 魔国が全ての勢力を上げて動き出せば、ここは見せかけの平和すら維持できない有様になるだろう。


 ジアの殺気を浴び、ハイネは小鉈で撫でられた跡を押さえ、うなだれている。


 実感しているのだろう、凶気という奴を。


 人が人を殺すのは倫理的には難しく思えても、物理的にはこうも簡単な事なのだと、理解し、そして戦慄しているのだろう。


(この程度で放心気味になる様じゃ、たかが知れてるって話)


 もし、魔国が人間への報復戦争なんてモンを始めて、この街にまで戦火が及んだのなら、きっとこの女はロクな抵抗もできず、悲惨な最後を迎える事だろう。


(ま、俺には関係無いって話だな)


 さっさとガツィアを探そう。
 ハイネを放って、ジアは店を後にした。








 ✽








『さ、ガツィア、準備は良い?』
「良い訳無ぇだろ金持チビ」


 クロウラ国軍第三演習場。


 そんな場所でガツィアは何故かGAのコックピットに乗せられていた。


 クロウラ国軍で作られている最新型GAの試作先行機、『グングネル』。
 GAの中ではやや小さめで全高5m程度。ノマリーと比べるとスリムなボディラインを持つ。二足型で、足首や背に取り付けられたブーストスラスターを使い加速する事もできる。


 このグングネル最大の特徴はその胴部にある肋骨の様な細長い12のパーツ。背から生え、胴に貼り付く形で折りたたまれたそれは、翼。
12の翼ルシエルシステム』と呼ばれる代物だ。


 何故ガツィアがそんな物に乗っているのか、それはまずガツィアの雇主であるクルノ、その父親について説明する必要がある。


 クルノの父、ステンデット=グレイホープは、クロウラ国軍最高司令官補佐。つまり、クロウラ軍事のNO,2だ。


 更にGM工学に精通しているステンデットは、クロウラ国軍のGA開発室最高顧問でもある。


 そんな父をバックに持つからこそ、クルノはあんな大規模な違法闘技場を堂々と運営できているのだ。


 そして、ステンデットが開発の指揮を執っている機体こそ、このグングネル。


 実はこのグングネル、試作弐号機だ。壱号機は試運転完了直後に『強奪』されてしまったらしい。


(軍の基地からGAを盗む…ね…)


 そんなアホみたいな仕事をこなせる化物に、ガツィアは1人だけ心当たりがあったりする。教えてやる義理は無いので何も言わないが。


 まぁ一号だろうが二号だろうが関係無い。
 今日の主役は、グングネルでは無いのだから。


 コックピットのディスプレイ越しにガツィアと向かい合った相手が、今日の主役。


 グングネルとよく似たデザインラインのGA。
 違いは、12の翼ルシエルシステムが無い事と、その背に背負った大剣、両腰に2本ずつ携えたの剣装。


 GA『ヒュベリオン』。
 グングネルのコンセプトが『射・狙撃特化』なら、ヒュべリオンは逆。
 近接戦闘に特化した、グングネルのアナザータイプとも言える試作先行機。


 本日は、あのヒュベリオンの試運転を兼ねた演習。


 グングネルが引っ張り出されたのは「生っちょろい量産機では充分な結果を得られない」というステンデットの判断。


 そして、それにガツィアが乗っているのは成り行きというか、クルノの無茶ぶり。


 今朝、グングネルに乗る予定だったテストパイロットが腹痛で倒れてしまった。代役を立てようにも、グングネルの機動力は並のGAより優れすぎてしまっているため、並のパイロットでは御し切れない。技術うんぬんの問題でなく、肉体的に。


 そしてGAに乗る事に特化した肉体を完成させている様な優秀なパイロットは即日で予定を押えられるものでも無い。


 困った父に、クルノは提案した。


「私の玩具に、体だけなら馬鹿みたいに頑丈なのがいるよ?」


 ってな訳で、ガツィアは今朝突然この軍事演習場に連れてこられ、先程までみっちりシュミレーションマシンでインスタント的なGA操縦訓練を受けさせられていた。そんで休む間も無く実機搭乗である。


「ったく……」


 一応の操縦法はわかった。最低限ステンデットが認めるシュミレーション結果も出した。


 とはいえ、ガツィアがGAに乗るのは初の事。


 まともにやれるかは疑問が残る。


 だが、やるしかないだろう。


 仕事とは、仕方なくやる事なのだから。






 そしてこの後、ガツィアの乗るグングネルは案の定、ボコボコにされた。








 ✽






「流石に疲れた……」


 グレイホープ邸。クルノに与えられた自室で、ガツィアは重々しい溜息をついた。


「わふ」
 まぁ頑張れよ、と子犬が鳴く。


 昼は散々だった。


 GAの実機操縦は想像以上に全身の筋肉が疲労する上に、普段使わない様な筋肉まで酷使するため、疲労感が更に増長される。


 特に、あのグングネルとかいう特機は狙撃を売りにしておきながら異常な機動力を誇る。


 そのため並のGAとは比較にならない程、疲労の蓄積が顕著。


 クルノは「これでテストパイロットって稼ぎ口ができたわね」とか言っていたが、二度とGAには乗りたくない。この経験が活かされる日は来ない、ってか来させてたまるか。もう御免だ。


(……アレだ、寝る)


 体を休めようとベッドへ向かうガツィア。


 そんなガツィアを追い討つ様に、スマホが鳴った。
「……」


 全力で舌打ちし、通話ボタンをタップする。


「何だ金持チビ。流石の俺でも今闘技場行ったら死んじまうぞ、相手が」


 今の機嫌では加減するのが難しい。


『心配ご無用。…あんたに客よ。さっさとゲストルームに来なさい』
「客?」
『そうよ。しかも超大物。こっちじゃ、だけど』
 裏の大物が、ガツィアを訪ねてきた。


(まさか…)
『「死神の爪ハードネイル」…あんたの知り合いなんでしょ?』




 依頼達成率100%。やり過ぎる事はあっても失敗はしない。


 殺しなら100人単位の仕事すらあっさりと受けこなす。盗みなら国軍のトップシークレットすら一晩で手に入れる。


 その傭兵の名は『死神の爪ハードネイル』。


 おそらく、地球最強の『人間』。


「久しぶりだな、って話」


 無駄に豪華なゲストルームで、その死神の爪ハードネイルことジアはくつろいでいた。


「色々大変だったみたいだなって話だ。な、コンビニ店員」
「!……テメェ、知ってたのかよ」
「つい先週知ったんだよって話」


 本当に無駄な豪華さを備えたカップに入ったコーヒーを一気に飲み干し、ジアは少し首をひねる。


「えーと……カイネだったかイイネだったか……」
「……ハイネか」
「そーそー、その子が作った探し人のビラを見つけてなって話」


 あの犬帽子は何してんだとガツィアは溜息。


「そこから色々情報を得て、ここに辿り着いたって話だ」


 ハッジタウンの違法闘技場にヤケに強い灰髪の魔人がいる。
 そんな噂でも聞きつけたのだろう。


「いやー、人探しとかのほほんとした仕事は苦手だから骨が折れたって話」
「ご苦労なこった」


 室内にいた使用人がコーヒーのおかわりを注ぐ姿を眺めながら、ジアは世間話を続ける。


「で、どうだった?久々に味わった、パチモンの平和は?」
「……悪くぁ無かった」
「そりゃ良かったなって話だ」


 おかわりのコーヒーをまたしても一気飲みし、ジアは大きくゲップ。


 そして本題へ。


 懐から取り出したスマホをガツィアへと投げ渡す。


「俺の予備だ。やるよって話。キリトのアドレスが入ってる」
「……助かる。ありがとよ」


 ポカン、とジアが妙な目でガツィアの顔をマジマジと見つめる。


「んだよ」
「いやぁ、……やっぱ、人ってのは種類構わず環境次第なんだなって話だよ」
「あぁ?」


 今、ガツィアはジアの知らない表情で礼を言った。無垢な少年の面影を感じさせる様な、そんな表情だ。


(何より、今までこいつが嫌味以外で礼を言ったの見た事無ぇって話)


 一ヶ月間、あのハイネという女性と過ごした日々は、ガツィアに大きな変化をもたらしている様だ。


「……まぁ、ガツィア。1つアドバイスしてやるって話だ」
「?」
「……自分の命より大事なモン抱えると、死ぬ時しんどいぞ」
「……わかってる」
「だったら良いって話だ」


 ジアはよっこらせと実におっさん臭く立ち上がる。とりあえず、用は済んだ。


「キリトに電話してやれよ。じゃ、またなって話だ。次の機会まで、お互い生きてたらな」










 ✽






「グレイン、何故だ?」


 魔国、タルダルス王城。


 玉座の間にて、魔王軍総司令であるグレインは片膝をついて魔王ハンクとの謁見に臨んでいた。


「失礼ながら、何の事でしょうか」


 とぼける訳でも無く、グレインには何の身に覚えも無い。


「先日のGジャマーの試運転、完璧な結果を叩き出したと聞いた」


 Gジャマーは予測を遥かに上回る速度で開発が進み、ほぼ実用段階にまで至っていた。


「量産は難しくとも、2・3機なら用意できるはずだ。それだけあれば、この大陸を制するには充分なはずだ」
「ハンク様、お言葉ですが、事を急ぎ過ぎでは無いかと。Gジャマーを用いて行う戦は、我々に取ってとても大きな意味を持ちます。万全を……」
「五月蝿い」


 魔王、ハンク=ウォウホウパーは、グレインの言葉に耳を貸す気は無かった。


「俺は気に入らない。尾を持たぬ下等人種が跋扈する現状を。一秒でいい。早くどうにかしたい。少しでもいい。奴らを減らしたい」


 その衝動が、抑えられない。


「何も一度の戦いで全ての害虫を駆除せよとは言わない。それが難しい事はわかっている。この大陸全土…いや、せめてこの大陸の半分ならば、今すぐにでも取れるはずだ。そうだろう」
「…時期尚早です。どうか、冷静になっていただきたい。今のあなたは、感情的過ぎる」
「……グレイン、私は、誰だ?」


 その質問の意味を、グレインは悟る。


「っ…独裁者だと呼ばれる事になりますよ…あなたは今、自分が何を…」
「構わない。俺をどう呼ぶかは、後の歴史を紡ぐ者達に委ねる」
「ハンク様…!」
「進軍だ、グレイン。今すぐGジャマーの複製を急がせろ。3機だ。それが完成次第、手始めにこの大陸の北半分を取り戻す」


 ダメだ。


 この王はもう、止められない。







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