独裁者の恋愛事情

須方三城

3人の願い

 ってな訳で、冒頭の全校集会に戻る訳だ。


「……ふぅ、つい熱くなってしまった」


 舞台袖でキャサリンが「言い過ぎ! ブレイクブレイク!」というジェスチャーをしているのを目にして、正気に戻った真白。
 咳払いして調子を整える。


 いつもながらヒートアップすると色々口走ってしまう。


「まぁ、こんな話題をここで出したのには理由がある。少し、全校生徒の皆の耳をお借りしたい」


 落ち着いた所で、キャサリンが考えた策、それを口にする。


「我々生徒会は帰宅部創設を訴えた3人に、寛大な方針を示す事にした」


 楽しそうに笑う真白。この笑顔は、走助へ嫌がらせをする際に見せる偽りの笑顔では無い。
 己の恋の大いなる前進を祝福し称える素直な笑顔。


「帰宅部を帰宅部(仮)として一時的に認め、その正式承認のために……『カーストレス・オブジェクション』を許可する」
「かー…すとれす?」


 車のストレスとは一体なんなのだろうか、と?を浮かべる走助達1年生。しかし、2.3年生は大きくザワついた。


「多分、『カースト・レス』…『身分階級を無くす』、『オブジェクション』…『異議』…ってのの和製英語じゃねぇかな」
桐沢きりさわくん!」


 ザワつきに乗じて列を離れ、走助の横に来た1人の男子生徒。
 この男こそ帰宅部創設の差金、桐沢きりさわ充太朗じゅうたろう。走助の友人。


 飄々とした感じで、不良という程では無いが、何事にも不真面目な感じの男だ。
 ただやたらと物知りというか情報通だったり、直感が鋭かったりする。


「要するに、生徒会長と一生徒とか身分関係なく、異議を訴える許可をくれる、って事かもな」


 桐沢の見解はあながち間違いでは無かった。
 このカーストレス・オブジェクションという制度が設けられた『意図』としては正解に近い。


「カーストレス・オブジェクション…略してCLO。それは、生徒会&全部活動VS異議を持つ部活動で行われる、所謂ゲーム……レクレーションだ」


 生徒達の自主性の尊重し、自主統治を謳うこの徳最高校に置いて、生徒会は絶対の権限を持つ。
 しかし、生徒会の完全な独裁体制を徹底している訳では無い。
 生徒会へ要望を通すための制度、それがCLO。


「CLOはその異議を持つ部活動に有利な条件のゲームで生徒会&全部活動と勝負するという物だ。勝利者の異議が要望として受理され、ほぼ100%実現する事が約束される」


 それがCLO。主に支給部費の金額増加などを嘆願する部活動が利用する制度である。


 ただし、そんな美味しいだけの制度では無い。


「なお、生徒会側が勝利した場合、異議を申し立てた部活動の異議は却下。3ヶ月間の生徒会雑務係の責務を負ってもらう事になる」


 戦いを挑むからには、リスクを背負ってもらう。…という事だ。
 もちろん大会等が控えている場合ある程度融通してくれる事もあるが、基本こき使われる。普段行えないレベルの校内大清掃とかさせられる。
 これが、キャサリンが目を付けた理由。


(3ヶ月の生徒会雑務……つまり、真白が羽矢芦くんを呼びつける口実が、3ヶ月間無尽蔵!)


 走助に取っては地獄の底の様な日々だろうが、3ヶ月もあれば、真白のイメージを改善する事もできるはずだ。
 それが、真白の前途多難な恋から、少しでも難を除く糸口になってくれれば……という事だ。


「3日後、CLOを行う。この事をこの場を借りて全校生徒へ通達する。…以上」


 徳最高校は全校生徒が部活に入る事が強制されている。つまり、この場にいる全員が……


「……笑えないな。そう思わないか、羽矢芦」
「ど……どうしてこんな事に……!?」


 走助達帰宅部(仮)部員以外、この学校に所属する全ての生徒が、3日後のCLOとやらで走助達の敵になる、という事だ。










 帰宅部(仮)、CLOにおけるゲームルール。


 1、帰宅部(仮)側の勝利条件は、18時までに部員の1人でも学校正門を抜け、校外に出る事。
 2、生徒会側の勝利条件は、18時まで帰宅部(仮)員を1人たりとも正門から校外へ通さない事。
 3、なお、公平性を保つため、生徒会側が行える校門付近への人員配置数は8名までとする。
 4、どちらかの陣営の全メンバーが降参・拘束・負傷等で続行不可能になった場合、続行可能な陣営の勝利となる。
 5、帰宅部(仮)側が生徒会側に対し危害を加える行為に出た場合、行為者は失権の上、即拘束対象となる。
 6、生徒会側はあらゆる制圧行為を許可される。
 7、生徒会側はあらゆる部活動に協力を要請してよい。
 8、協力を要請された部活動は「生徒会側」としてゲーム内で扱われる。


 以上。




「どこが俺達に有利なルールなんだ!?」


 声を荒げるのは、CLOを明日に控えた帰宅部(仮)の部員、清川きよかわ豪盛ごうせい
 ガタイの良い、どことなく不良地味た少年。


「一応、裏門をスタートして、1人でも正門を抜けれたら勝ちって事だから…」
「ま、『帰宅』を活動内容にするって事ならホームグラウンドって扱いになっちまうわな」


 2人揃って肩を落とす走助と桐沢。


 確かに、勝利条件は帰宅部(仮)に有利な様に設定されている。
 しかし、走助達は別に帰宅のプロでは無い。


 桐沢は部活やるのが面倒だから。
 清川はバイトするために部活なんぞやってられないから。
 走助は桐沢に誘われたから。


 そんな連中で構成されているのがこの帰宅部(仮)なのだ。
 帰宅の極意とか誰も知らない。というか、そんなもんあるのだろうか。


「問題は5以降の項目だな」


 帰宅部(仮)は敵陣営へ危害を加える事は許されない。
 生徒会はあらゆる行為を許可され、全ての部活動を味方とする。


「不利ここに極まりって感じだなぁおい。鬼側は何でもありの鬼ごっこってこった」
「清川の言う通り。4は実質生徒会側だけの勝利条件だ。何せ、向こうを拘束・負傷させる術は無いし、降参なんて無論してくれないだろ。俺達はただ正門目指して逃げる事しかできない」
「うわぁ……」


 走助は頭を抱える。
 絶望的だ。帰宅部(仮)は敗色濃厚。それはつまり……


「3ヶ月、生徒会の使いっぱしり……あ、僕死ぬね…いや、殺されるんだね……」
「ああ、そういやお前は……」
「もしかしたらこのCLO、それが目的かも知れないな」


 清川も桐沢も、走助と真白の関係は知っている。
 というか、走助が盛大に真白をフって、以来完全に敵視されている事は全校生徒が知っている。


 この徳最高校で生徒会長が失恋したなんて噂、その事実が無かろうとすぐに広がるに決まっている。
 それを裏付ける様に先日の全校集会で名指しの「許さん」宣言。


 あの集会以来、走助の机の中には、走助を励ます匿名メッセージが大量に投函されるようになった。


 CLOで敗北したら、おそらく机上に花を添えられてしまうだろう。


「……あの時、僕は完全に選択を間違えたんだね……」


 でも、仕方無いじゃないか、恐かったんだから。


「……まぁ、生徒会長は代々『暴君』だって噂だしよぉ。お前みたいな気弱な奴じゃ付き合ってても、ストレスで死んでたと俺は思う」
「僕はもう会長に見初められた時点でデッドエンドが決まってたって事……!?」
「しっかし、何で羽矢芦に目を付けたのかねぇ生徒会長様も」
「……昔の知り合いみたい。僕は全然覚えてなかったんだけど……」


 何かあの凶気地味た拉致からの一方的な愛の告白(連呼)の時に「私の事覚えてる? まぁ覚えてるよね」的な事を言っていた。


 ……覚えてません、ごめんなさい。って感じである。


(あんな恐い知り合いいないよ……)


 あの時、真白は暴走気味だっただけで基本良い子である。
 平常時の真白をちゃんと見れば、走助の記憶も呼び覚まされるかも知れない。
 しかし、あの一件以来、平常時の真白ですら走助は直視できない。
 そして勇気を振り絞って直視しても、恐怖のフィルターがかかる。完全なトラウマである。


「恐い……絶対に負けられない……」


 走助からすれば、このゲームには生命が掛かっている。負けられる訳がない。


「あぁ。どんだけ不利だろうとオイラだって負けらんねぇ」
「清川くん……」


 清川は、母子家庭だ。弟妹も多い。
 一応、母がバリバリのキャリアウーマンなおかげで、現時点で家計が苦しいという事は無いが、決して裕福でもない。
 年頃の弟妹達に、玩具やオシャレを我慢させたくない。
 だから清川は高校入ったらバイト三昧の生活に身を投じるつもりだった。


 しかし、徳最高校は全生徒を部活動に参加させるというシステムを取っていた。
 バイトの事しか頭になく、「高校なんぞどこでも一緒じゃい」と選んでしまった結果がこれである。
 募集要項をろくに見ずに「自宅近くの高校だから」と選んだ自分が悪いのは、清川だってわかってる。


 だが、清川は自分が愚かだったからと全てを諦める様な性格では無い。
 故に帰宅部創設に賛同しているのだ。


「ま、清川みたいに綺麗な理由じゃないけど、俺も部活に縛られる生活は御免だね」


 桐沢は元来奔放な性格だ。そして面倒くさがりでもある。
 清川と同じく自宅近くだから通学が楽な徳最高校を選び、入学前から帰宅部創設を企んでいた。


「ぼ、僕は部活やってもやらなくてもどっちでも良いけど……まだ死にたくない!」


 走助も自宅近くと言うだけでこの徳最高校を選び、現在の苦境にある。


 自宅が学校から近い者達が、それぞれの想いを胸にこの帰宅部(仮)にいるのだ。


「覚悟を決めよう。俺達には帰る家がある。すぐ近くに、だ。そして、それぞれの目的もある」


 桐沢が差し出した拳に、走助と清川も拳を合わせる。


「バイトのために…」
「楽をするために…」
「生き残るために…」


 3人は、戦う覚悟を決めた。

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