私とサーガくんの宇宙人攻略記録

須方三城

8,彼のお父さん





「あら、お帰りなさい」
「あ、アリアトさん」


 家に帰ると、お手伝いのアリアトさんが玄関先で出迎えてくれた。
 見た目20歳くらいの女性で、すごく外人チックでスタイルも良いのに、不思議とツナギ姿も様になっている。
 ……実は『不老の呪い』をかけられてるだけで、実年齢は100歳を越えてるらしいけど。


 これから乳牛達の夕方の搾乳のため、牧場の方に向かう様だ。
 アリアトさんが魔法で作り出したであろう分身達が、ぞろぞろと列を成している。
 このアリアトさんの群れは子供の頃から見てるけど……慣れないなぁこの光景……


「最近、帰りが遅いわね」
「うん、部活始めたから」
「部活?」
「演劇部。演劇はしないけど……」
「……それは演劇部と言えるの?」
「あははは……」


 星野先輩攻略会議のため、僕たちはほぼ毎日の様に演劇部室を利用している訳だ。
 それが先生の耳に届いてしまったらしく、「部室使うんなら一応の手続きは踏めやアホ共」と軽いお叱りを受け、現在に至る。


「あ、ところでアリアトさん」
「何?」
「ヤマモトって人、知ってる?」


 ヤマモト。
 先日、僕のデート計画の時に姿を見せた黒マントの人。
 純白のドラゴンを引き連れ、魔法を使っていた辺り、明らかにこの世界の住人ではない。


 それに、お父さんの名前をやたら口にしていたし、どうやら僕が小さい頃に会っているらしい口振りだった。
 アリアトさんはお父さん達と長い付き合いらしいし、知ってるんじゃないかな、とか思った訳だ。


「……ヤマモト……ってもしかして、『しんせーまおー』がどうとか言ってて、白いドラゴン引き連れてた?」
「あ、うん、そんなこと言ってた」


 ドラゴンもいた。


「……アレがこっちの世界に……」
「あれって……」


 モノ扱いなの……


「まぁ、私は被害にあった事は無いけど……出会ったら存在レベルで無視するか、血祭りにあげた方が良いらしいわ」
「血祭り!?」
「ちなみにロマンだったら問答無用で殺しにかかる」
「あの温厚なお父さんが!?」
「ロマンとは大分深い因縁があるみたいよ」
「因縁って……どんな?」
「詳しくは聞いてない……と言うより、ヤマモト関連の話は触れらない。一種のタブー」


 ……お父さん、相当ヤマモトさんの事が嫌いなんだな……
 お父さんの前にアリアトさんに聞いてみて良かった。


「ロマンが言うには、『アレに関わると十中八九ロクな事にならない。抹消したくて仕方無い男』だそうよ」
「大抵の事なら笑って許してくれるお人好しお父さんが……」
「ま、あのドが付く程のお人好しこじらせたあの馬鹿がここまで言う以上、マジで関わらない方が良い奴って事でしょうね」
「う、うん。わかった……」


 もう既にちょっと関わってしまったんだけど……


 うーん……もう現れない事を祈ろう。








「という訳で、今日はサーガくん家に行ってみたい」
「どういう訳!? ってあれ、このやり取りややデジャヴ?」


 放課後の教室。
 帰る準備をしながら、サーガくんにちょっと無茶ぶりしてみる。


 一応、前々からいずれはお伺いしなきゃ(使命感)と思っていた。
 ウワサの、サーガくんと同じ系のお母さんと、邪神なるモノらしいペットちゃんに会いたい。正確に言うとペロペロしたい。


「ほら、星野先輩との関係向上のための作戦会議も必要」
「演劇部室で良いじゃん……友冷先輩もいるし」
「……そう、私はまだ、サーガくんの家にお呼ばれする様な友達では無いんだね……」
「そういう言い方は卑怯じゃないかな!?」


 まぁ卑劣な手だと思うけど、手段を選ぶ必要性を感じ無い。
 私は聖人では無い。モンスターでも無い。ただ1人の人間。欲望と言う鎖に縛られ抗う事もできない哀れなヒトの果て。
 だから仕方無い。サーガくんは観念すべき。


「うぅ……別に家に遊びに来るのは良いけどさ……変な事しないでよ?」
「保証はできない」
「正直な所は評価するけど、そこは了承してよ……」
「……わかった、善処はする」
「本当?」
「うん、善処は」


 善処って、便利な言葉だなぁとつくづく思う。


「うん、じゃあ、良いよ」


 本当、サーガくんは良い子だなぁ。
 何か将来的に悪い人に騙されないか心配になってきた。
 そういう意味では、暴走時以外はしっかり者の星野先輩と相性が良いのかも知れない。








 サーガくんの実家は、割と普通の2階建て一軒家だった。
 マイホームではなく、借家らしいが。


「少し先に言った所に父さんの牧場もあるよ」
「牧場経営……」


 酪農家だったのか、サーガくんの父さん。
 いや、以前ちょろっと聞いてメモった記憶がある気がする。
 お父さんは普通の人間だと聞いて興味が失せてすっかり忘れていた。


「今は乳牛メインだけど、いつかは食肉用の牛、羊や豚もやりたいって言ってた。鶏も面白そうだって」
「ふぅん」


 何か、父さんの話をしているサーガくんは楽しそうだな。
 聞いてもいないのにどんどん情報をくれる。
 本当に父さんが好きなんだろう。他人に胸を張って語り聞かせたいくらいに。


「ただいまー!」
「お邪魔します」


 元気良く、サーガくんがドアを開ける。


「おう、おかえり……ん?」


 私達を出迎えてくれたのは……


「おう、友達か?」


 ……おっふ……


 ……っと、いけない、ちょっとビックリしてしまった。
 私達を出迎えてくれたのは、ちょっと筋肉質な、顎鬚からダンディズムを感じさせる中年男性。
 ガタイの良い、と表現すべき体格。中々威圧感がある。
 まぁ、ここまでなら逞しき農業人って感じだが……


 その左目の周りは、何やら他の皮膚に比べて若干だが赤味が強い。
 大きな火傷痕、って感じだ。それも、結構古そう。


 ガタイが良くて、威圧感があって、顔には大きな火傷痕。


 …いや、まぁまだだ。まだそれだけで済んでいれば、こんなに驚きはしなかっただろう。


 その男性の手には、柄の端から鋒まで、真っ黒に仕上げられた抜き身の剣が握られていたのだ。


 ……どう考えても酪農家のスタイルじゃない。この人、絶対に物騒な職柄の人だ。
 柄にもなく、この私が少しビビっている。それくらい厳つい雰囲気がある。ぶっちゃけ何人か人を殺してそうだ。


 そうだ、きっとこの人はサーガくんのお父さんじゃない。
 こんな荒熊の様な大男が「実は可愛いもの好き」とか、サーガくんを少女趣味に仕立ててしまった根源であるはずが無い。
 どっかの組の鉄砲玉が瀕死の重傷でさまよってた所をきっとサーガくんが拾って…


「それとも、もしかして彼女か?」
「違うよお父さん!」


 父さんでした。


 いやいや、乳牛メインの酪農家とか絶対嘘だ。
 普通に食肉家畜育てて屠殺・解体まで自分でこなしそうな雰囲気あるんですが。


 あ、でも息子をからかうその笑顔の柔らかさは、人が好さそうな印象を受ける。


「とりあえず挨拶だな。どうも、サーガの父です」
「あ、はい……笛地、好実です……」


 握手を求められたので、返しておく。
 うわ、すごい手の皮が厚い。
 無骨、と言う言葉がよく似合う。


「ところで、何でコクトウさん抜いてるの」
「ああ、今、晩飯の準備してたとこなんだよ」


 コクトウサンって、その黒い剣の事? 『抜いてる』って言うくらいだから、多分そうだろう。
 その剣、包丁代わりなのか……ワイルドとか言う次元じゃない気がする。


「あれ、じゃあ今日はお父さんがご飯作るんだ」
「ああ、母さんは今日は遅くまでお出かけだ。隣田となりださんと食事会だってよ」
「え、サーガくん、今日お母さんいないの?」
「みたいだね」


 ちょっと安心してる感じのサーガくんがムカつく。
 良いもん、お母さんの分はペットちゃんに払っていただく。


「あ、隣田さんと食事会ってことは、フーも連れてったの?」
「ああ」
「……フー?」
「話したでしょ? ウチのペット。隣田さん愛犬家で、食事会はいつもペット同伴なんだ」
「…………」


 お母さんも、ペットもいない……?


「……私は今日、何のためにここに来たの……!?」
「えぇっ!? 星野先輩の事で作戦会議するためだよね!?」
「それは建前だよサーガくん! それだけなら演劇部室で済むもん! 友冷先輩もいるし!」
「うぅんこの正直者!」
「……? まぁ、とりあえず、玄関先ではしゃいでないで、上がったらどうだ?」
「そうだね、どうぞ、笛地さん」
「……うん」
「あからさまにテンション下がってるね……」


 そりゃあ、まぁ。


「あ、ところでアリアトさんは?」
「アリアトは調子が悪い日だから、部屋で寝てる」
「そうなんだ……たまには、僕も看病手伝うよ?」
「ダメだ。あの状態のアリアトは18歳未満が見て良いモンじゃねぇ」


 ……アリアトさんとやらは一体どんな状況なんだろうか。






 それにしても、人は見かけによらないなぁ……


 そんな事を噛み締めながら、私は月夜の下、帰路に就いていた。
 サーガくんも一緒だ。もう時間が時間だから、家まで送ってくれるんだそうだ。


「……サーガくんのお父さん、すごかったね」
「うん!」


 夕食をご馳走になった訳だが……うん、すごかった。超凝ってた。
 ……多分、サーガくんを喜ばせるために色々勉強し、研鑽して来たんだろうなぁ……
 証拠にクマさん率高かったし。


 カレーシーズニングで着色したライスで作られたクマさんが、シチューの海で泳いでいたあの1皿……
 その完成度の余り、出てきた瞬間思わず写メってしまったわ。
 サラダの野菜も大体クマさん型にくり抜かれてた。
 皿の柄もクマさんだったり、スプーンの柄の所にクマさんの顔が掘られてるのに気付いた時には、もうその徹底ぶりに戦慄するしか無かった。


 あと、サーガくんが席を外した途端に学校で彼がどう過ごしてるかとか、いじめとか受けてないかとか根掘り葉掘り聞かれた。
 今日は余り片鱗を見せなかったが……多分重度の親バカだ、あの人。


 私の日々のスキンシップの事でサーガくんがお父さんに泣きついたら、私の生命はちょっとヤバいかも知れない。
 ギリギリのラインを見定める必要がありそうだ。


「シチュー、とても美味しかった……これでお母さんとペットちゃんをペロペロできてたら完璧な1日だった……」
「善処するって言葉は何だったの……」


 善処とは、物事を上手く処理しようと頑張る事だ。
 処理できないこの気持ちは仕方無い。


「にしても、あっさり退いたね、笛地さん。お母さんが帰るまで家に留まるとか言い出すかと思ったけど……」
「流石に、遅くまで人の家に留まり続けるのは迷惑」
「…………そんな良識人だっけ……」


 ……ふむ、少しずつではあるが、私の事を理解しつつある様だ。
 その通り、私はそんな良識なんて欲望の前では無力だと思っている。
 だから、策を弄した。


 サーガくんの家に、メガネケースをわざと忘れて来たのだ。
 しかもちょっとわかり辛い様に、物陰に隠してきた。


 ぐふふふ……後日、忘れ物回収を口実にもう1度お伺いさせてもらう……そして、その時こそ……


「うわっ」
「?」


 不意に、サーガくんが奇妙な声をあげた。
 サーガくんとそのお母さんの母子丼妄想から現実に意識を戻してみると……


「ふはははははははぁああああぁぁははははははははぁぁはははぁっ!」


 アホみたいなバカ笑い。
 あ、この男は確か……


「また会ったなロマンの連れ子と変態眼鏡。どうも新生魔王ヤマモトだっぜ!」


 黒ずくめのマント男……じゃないけど、ヤマモトだ。
 何か、バーガーショップの店員みたいな服を着てるっていうか、袖口の刺繍を見る限りバーガーショップの制服だあれ。


「……何で、バーガーショップ……?」
「バイトだ! 考えてみたらこの世界での先立つ物が全く無かったからな!」


 魔法が使えるくせに地道にバイトしてる所は褒めよう。
 ん? っていうかあのドラゴンさんが見当たらないが……


「ちなみに俺は今帰宅途中、ジル子はまだバイト中だ!」


 ドラゴンさんまで働いてるのか……今度行くしかないな。お触りしに。


「さぁ、偶然とは言えここであったが百年目だ、ロマンの連れ子!」
「うわぁ、昨日もう会いません様にってお願いしたばっかなのに……」
「……無視で良くない?」


 ドラゴンさんいないし、アホっぽいし、ドラゴンさんいないし。


「逃がすと思ってるのか! 今日こそ俺の部下になってもらうぞ!」
「……部下?」
「そうだ! ……ん? あれ、言ってなかったか?」


 そう言えば、ヤマモトがサーガくんに接触して来た理由って謎のまんまだった気がする。
 興味が全く無いので謎のまんま月日が流れ大人になってやがては朽ち果てて行こうとも何の問題も無いのだが。


「俺は有能・有力な部下を集め……前の世界ではロマンとその周りの連中に完膚無きまでに踏み躙られた悲願、世界征服を成すのだ!」
「……世界征服……」
「そうだ! 良い響きだろう」


 ……うぅん、まぁ、私も妄想族の端くれとして、人の妄想に口を出すのは野暮って事はわかってる。


「行こうか、サーガくん」
「この俺をスルーする気か変態眼鏡!」
「行こうか、サーガくん」
「もうスルーモードかぁぁ!? 泣くぞ! ジル子いない時は独りだから不安で涙脆いんだぞ俺はぁ!」


 なら何でシフト調節なりしてもらって一緒に帰る様にしないんだ。
 こちらとしてもドラゴン連れなら相手してやっても良いと言うのに、この役たたずめ。


「えぇい! こうなれば実力行使だ!」
「!」


 ヤマモトが腕を振るうと、私達の頭上に巨大な魔法陣の様な物が展開された。


「捕らえよ、『粘着質な拘束バインディスライム』!」


 魔法陣から現れたのは、巨大なゲル状の塊。
 そのままそれが、私達に降りかかる。


「危ない!」
「わっ」


 サーガくんが突き飛ばしてくれたおかげで、私は助かったが……


「うわぁっ、何これニュルニュルして……ひゃわぁっ!?」


 サーガくんが、ゲル状の何かに纏わりつかれ……


「ちょ、し、尻尾に絡みついて来、ち、あ、ぁうっ!?」


 何か、スライム責めみたいなシチュが出来上がっている……!(大歓喜) 


 どうしよう、ファンタ人外×ファンタ人外…!?
 DVD化されたら全財産の5分の3を積んででも購入したい理想郷アガルタの光景が目の前に……!


「っぃ、うあ……ちょっ、そんなじゅぷじゅぷって激しく上下にぃ……っ……にゃ、なんで、先っぽばっか……っ」
「ぐははははは! そのスライムは拘束した相手の局部以外の性感帯を見極め、そこを優しく刺激する事で脱力させ続ける仕様だ! 相手を傷付ける事なく、無力化……なおかつ局部は弄らないから性的暴行って訳でもない! はず!」
「待っ、あ、そんな、に…く、ふぅっ……!」
「さぁ! これ以上痴態を晒したく無いのであれば、俺の軍門に下ると誓え、ロマンの連れ子!」


 いいぞ、もっとやれ……じゃなかった。
 これ、止めた方が良いだろう。私の今後の立場的に。
 この光景は口惜しいにも程があるが、ここでの恩を口実に今後ペロペロタイムを1日20分に延長してもらえるなら……うん、まぁ良い取引だろう。


 とりあえず、ヤマモトは完全に私の事が眼中からアウトしちゃってるみたいだし……うん、この石とか、大きさ的に丁度良いんじゃないだろうか。
 これで思いっきりヤマモトの後頭部をぶん殴れば、うん。止まると思うわ。……色々。


 そんな訳で私が大きめの石を掴んだその時だった。


 サーガくんを拘束していたスライムが、虚空に霧散した。


「「「!?」」」
「よう、山本くぅぅぅぅん……」


 いつの間にだろうか。
 私が気付かない内に、その人物はヤマモトの背後に回り込んでいた。


 テレポートでも使ったのか、もしくは時間でも止めて移動してきたか。
 そう疑いたくなるくらい、その出現は突然だった。


「あ、あぷ、あぷぷぷぷ……」


 ヤマモトが、すんごい青ざめた表情で振り返る。
 多分、今の声で誰がいるのか理解したのだろう。


 そこにいるのは、紛れもなく、サーガくんのお父さんだ。


 すごい、あれが、真の無表情って奴か。
 私やサーガくんに優しい笑顔を見せていたあのおじさんはどこへ行ってしまったんだろう。


 サーガくんのお父さんの手には、あの黒い剣。


「そ、その魔剣、ロマンか……おお、かなり良い感じに老けたな、あは、あはははははは」
「お前は全然変わってねぇなぁ……はは、ははははははは」


 どうしよう、お父さん、声は笑ってるのに、眼光が殺人レベルに鋭くて口角が直線なんだけど。


「ところで、何故ここに……?」
「サーガのお友達が眼鏡ケース忘れてったから、追いかけようと思って外に出たわけだ。そしたら、なーんか『クソ不愉快な魔力を感じる』ってコクトウが言い出してよぉ……」


 ちっ、眼鏡ケース、見つかってしまったか。


「さて、何か今、サーガに面白い事してる様に見えたが……」
「あ、あははははは。その、アレだ。うん。あのだなロマ…んぁぁあい!? ちょっ、いきなり全力で唐竹割りってお前! 今の死んでた! 避けてなかったらヤマモトさんは死んでましっとぅあぁっ!?」


 すごい、今のひと振りは何の躊躇いも無く殺しに行っていた。
 サーガくんに危害を加えられただけにしては、ブチキレ過ぎな気もしないでは無いが……


「なっ、何故お前は俺を目の敵にするんだロマン! 俺が一体何をした!? えぇ答えろロマン! 答えてください! お願い、せめて何か言って! 掛け声とかでも良いから! 終始無言は恐い! その無言無表情での斬撃は夢に出てきそうなくらい恐い! 本当に恐いってばぁぁっ!?」


 最早私には目で追う事すらできない剣速で、お父さんはヤマモトに何度も斬りかかる。
 ヤマモトはそれを何度もギリギリで躱しているが、あの分だと捉えられるのは時間の問題だろう。


「くっ!」


 ヤマモトも避け続けるのは厳しいと判断したのだろう。
 その手が光を放ち始める。魔法を撃つ気だ。


 しかし、その光は先程のスライムと同様、霧の様に散り、消滅してしまった。


「くそう! 相変わらず卑怯だぞその魔剣の魔法無効化能力! ってのわぁっ! ダメだ! マジで殺されるこれ!」


 ヤマモトは今更ながら己の死期を悟ったらしい。


「ヤマモト!」


 そんな時、上空から幼気残る女の子の声。


 一瞬にして、上空から急速降下して来た白銀のドラゴン。
 ドラゴンはヤマモトを咥えて、即座に上空へ戻る。


「!」
「お、おおおおおおお! ジル子! よく助けに来てくれた!」
「何か嫌な予感がして……うう、バイト中に飛び出して来たから店長に怒られるぅ……」
「店長に怒られる覚悟をしてまで俺の生命を優先してくれるなんて……!」
「感謝してよ」
「当然だ! そして覚えていろロマン! その息子&変態眼鏡もだ! 次は無いぞ……ってわひゃあああぁぁ!? 風の飛翔魔法で追ってきたぁぁぁぁぁぁ!?」
「馬鹿! 余計な挑発しないでよ!」


 ……次が無いのは、ヤマモト側な気がする。




 結局、この後ヤマモトは無事逃げ延びたらしい。
 サーガくんのお父さんはガチめの舌打ちの後、柔らかな笑顔で私に眼鏡ケースを渡し、帰っていった。


 ……ヤマモト、一体あのお父さんに何をしたんだろうか。



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