長政前奏曲~熱烈チョロインと一緒に天下布武をお手伝い~

須方三城

15,信長、約束を守る



 清洲城、軍議場。


 上座には信長。
 俺の隣りには秀吉……そして、あぐらを掻いて欠伸をこぼす弥助。


「テメェら、やりやがったな」


 信長の顔には、笑顔。


「まさか……今川を退けるたぁな。しかも、今川義元の首を取ったと来たモンだ」
「まぁ、総大将を直接討ち取ったのは毛利もうりさん……」
「信長様、お褒めに預かり光栄でございます! この秀吉、奮闘の甲斐がありました!」


 好機とばかりに自身の奮闘を主張する秀吉。
 ブレないなこいつも。


 桶狭間での今川との戦いから3日。


 結果から言うと、あの戦いは俺達が勝った。


 弥助、俺、秀吉を筆頭に本陣に攻め込んだ織田軍は、見事総大将・今川義元を討ち、その周囲の重臣達も討ち取った。
 そして今川義元含む重臣達の首級を返還する事と引換に、今川軍を撤退させたのだ。


 専業兵に取っては主君、百姓兵に取っては雇い主がいなくなった以上、士気はダダ下がり。
 更には戦う意義と統率を失った。
 命令に従い戦うだけの者達に取って、それは致命的。


 今川兵達が戦いを続けられるはずもなかった。
 大将らの遺体を持ち、駿河へと帰って行った。


「労いはここまでだ。ここからは礼を言う。助かったぜ、長政、猿。それと弥助」
「ありがたきお言葉ぁ!」
「ありがとうございます」
「ケッ、気持チ、悪イ」
「しかし、お前が手懐けられるたぁな」
「勘違イ、スンナ、阿呆」


 別に弥助は手懐けられた訳ではなく、あくまで協力者だ。


「此度の戦いでの活躍に応じて、各人に褒美を取らす。手始めにここにいる連中には……まず猿は普通の褒賞で良いとして……長政」
「はい?」
「テメェには、弥助をやる」 
「はぁ!?」
「そんで弥助、テメェには今度南蛮から仕入れる果物をたらふく食わせてやる」
「フン、マァ、モラットイテ、ヤル」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「んだよ、弥助じゃ不服か? 一応そいつ、城が1つ建てられるくらいの値だったんだぞ」
「贅沢、ナ、奴、ダナ」


 高いな弥助。いや、まぁ妥当っちゃ妥当か。捕獲するのに相当手間や人員がかかってるだろうし。


 と言うか、その価値に不服があるとかじゃなくて、正直いらない。


「だが、聞いた話だとテメェ、弥助にはもう隷属の鎖をかけさせないって約束したんだろ?」
「はぁ、まぁ……」
「俺様の手元にいるんなら、絶対に鎖は付けてもらうぜ。弥助には鎖をしっかりと付けておく……これはテメェとの約束だからな、長政」
「へ? ……あ……」


 そう言えば、そんな約束したっけ。


「でもテメェは弥助に鎖を付けさせる訳にはいかない。なら、こうすんのが1番の落しどころじゃあねぇか?」
「う……」


 信長は弥助に鎖を付けないと、俺との約束を破る事になる。
 俺は弥助に鎖を付けさせると、弥助との約束を破る事になる。


 だったらもう弥助は俺の物と言う事にして、信長から鎖をどうこうできる権利を失わせてしまえば良い、と。


「っていうか、お前は良いのかよ、弥助」
「良イ。ノブナガ、カラ、離レ、ラレル、カラナ」


 そうですか……


「まぁ、表上の所有権が変わるだけだ。どーせ浅井とは同盟を組むしな。実質弥助は織田軍の戦力のまんまだ」
「同盟……?」
「そら、これから戦国乱世になってくんだ。息子さんを預かってる家とドンパチやる訳にゃいかんだろう」


 ……そうか。
 まだ認識が薄かった。


 名君は討たれ、既に戦を起こした者がいる。
 現在、日ノ本の情勢はかなり不安定になっている訳だ。
 自領防衛のための勢力拡大を理由に、軍備拡張や軍事行動を活発化させてゆく領主がどんどん増えていくだろう。
 今川の様に機あらば今にも隣領へ攻め込もうと画策し始める者も少なからずいるはずだ。
 勢力を広げる手っ取り早い方法は、属領を作って領地を広げる事なのだから。


 最早、この日ノ本のいつどこで新たな戦が起こっても不思議では無いのだ。


「幸い、テメェの親父さんは天下人の座に興味は無ぇみたいだしな」


 そう言えば、この前「大将軍が死んだら、戦乱になるかも知れねぇ、くにを守る準備は怠るなよ」的な内容の文を浅井ウチに送ったって言ってたっけ。
 多分、その返信でそういう感触を得たんだろう。
 まぁ親父殿は皆が楽ならそれで良いじゃん的な方針だし、自分が積極的に統治者になろうと言う意気は薄いはずだ。


「同盟で組み込むか、有利な和睦で吸収か、戦で打ち破るか」


 それを繰り返し、天下から敵を消滅させる。
 そうして、戦乱は終わり、泰平が始まる。


「……予定より大分早い。軍拡は予定の10分の1しか進んでねぇって現状だが……始まったモンは仕方無ぇ。織田は元々の予定通り、戦乱を終わらすべく動く」


 戦乱をさっさと終わらせ、泰平を取り戻すために。
 信長は……いや、織田軍は戦う。


「さっさと終わらせるぞ、クソみたいな時代はな……これから忙しくなる。覚悟しとけよ、テメェら」
「……はい!」


 戦を経験して、思った。
 この行為はなんとアホくさいんだろう、と。


 俺は敵を殺す事に迷いや躊躇い、後悔は感じ無かった。


 それでも、決して気分の良いモンじゃない。
 とても疲れるのに全く楽しくないし、自分や仲間にも生命の危機が迫る。


 こんなアホみたいな事、やってられるかと言う話だ。


 戦とは、実にくだらないモノ。
 無いに越した事は無いモノ。
 そう強く認識した。


 しかし、これから戦は次々に起こっていくのだろう。
 大の大人が万と集まって、くだらない事を続けていく。


 誰かが終わらせなきゃ、終わらない。


 だから俺も信長と共に行く。
 天下泰平のため、戦事の跋扈する時代を1秒でも早く終わらせるため。


 俺は、戦って行こうと思う。










 夜。
 私室の窓枠に腰掛け、信長は1人、夜空を見上げていた。
 美しい弦月だ。


 その手には、尾張でも売られている普通の饅頭。


「けっ……」


 饅頭にかぶりつき、信長は舌打ち。


「やっぱ、栗餡子の方が美味ぇよなぁ」


 そうは言いつつも、きっちり綺麗に饅頭を平らげる。
 自身の指に付いたカスを軽く舐めとりながら、月を見る。


「栗饅頭……食わせてくれるんじゃなかったのかよ。……ったく」


 誰に向けられた言葉か、その声色は、とても寂し気だった。


「……そこで見てろ。テメェの頼み通り、さっさと日ノ本を平定してやるからよ」


 月光を受けて輝く、小さな雫。
 それは、どこから流れ出た物か。


「俺は約束を守る」


 だから、


「あの世で会ったら、今度はテメェが約束守れよ。クソジジィ」


 道は険しく、そして長くなるだろう。


 それでも、やり遂げる。


 それが、信長の約束だ。



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