スズナリくんと一緒

須方三城

02,やり過ぎる変人



「……軽音部……」


 存在感希薄系褐色JKなマリアは、とある一室の前で深い溜息をついた。


 音楽室の隣、元々は楽器を保存していた小部屋。
 その扉には、手作り感溢れる木製の『軽音部』表札が。
 しかも表札の周囲には手彫りで微細な装飾。いわゆる職人芸と言っていいレベルだ。


 ……どうやら例の変人、鈴鳴の立ち上げた部活動は、軽音部で正式決定していたらしい。


「どうだ。中々趣がある表札だろう」
「趣って言うか……純粋にすごいネ」


 満足気に表札を自慢する金髪、鈴鳴。
 制服がやたらはだけているが、寒くないのだろうかとマリアは疑問に思う。


「少し前に木工彫刻に挑戦していたのでな。この程度は容易い。……まぁ、褒められて悪い気はしないぞ」


 悪い気はしないというか、心底嬉しそうである。


「……あのサ、鈴鳴くん」
「堅苦しいな。部長もしくは流次と呼べ」
「部長の方が堅苦しくないカナ……?」
「そうか、なら流次と呼べ。親しみを込めて『りゅーちゃん』『りゅーたん』『りゅーちん』等も可だ」
「す、鈴鳴くんでお願いしマス……」
「むぅ……まぁそれでも構わんが。で、何だ」
「軽音部って言われても……私、楽器できないヨ……?」


 マリアの楽器レベルは、リコーダーでどうにか「オーラリー」が完奏できる程度だ。
 そして完奏できるだけであり、上手いと言えるかは疑問の残る所。


 軽音部と言うからには、主にやる事はバンド系だろう。
 ベースだのギターだのドラムだのキーボードだの、マリアには最早何をどうして音を発しているのかすらわからない物ばかりだ。


「安心しろ。楽器は多分やらん。軽音部なのは名前だけだ」
「…………え…………?」
「今の所、神は俺に『楽器をやれ』とは言っていない」
「神……」
「ああ」


 うなづく鈴鳴の瞳には、何の迷いも曇りも無い。清々しい。
 薄々感じていたが、この人、結構危ない系の人では無いだろうか。
 先日も天啓天啓とうるさかったし。
 一時の勢いで鈴鳴と『友達』になった事を、マリアは少し後悔する。


「……あれ? じゃあこの部活で、何をするノ?」
「天啓に従うのみだ」


 ……要するに、「未定」という事でいいのだろうか。
 どうやら、この部も天啓とやらに言われるがまま、なんとなく設立したに過ぎないらしい。
 軽音部をチョイスしたのは、前にも言っていた通り音楽室の隣だから、というだけの様だ。


 それにしても何だろう、この曖昧過ぎる行動理念からの、異常なまでの行動力は。
 思いついたら即行動、ただひたすらそれだけ。
 どうやらそれが、この鈴鳴流次という男のやり方らしい。


「さて、いつまでもここで立ち話もなんだ。早速部室を有効活用しよう」


 そう言うと鈴鳴は、ポイッと小さな何かをマリアへ向け放った。
 マリアは反射的にそれをキャッチ。


「鍵?」
「ああ、部室の合鍵だ」
「……あれ? 大丈夫なノ、それ」


 いくら部室と言えど、学校の管理下にあるはずだ。
 合鍵とか、勝手に造っていい物とは思えない。


「さぁな。だが、俺を行動を阻むモノは何も無かったぞ」


 それただ単に教師陣が気付いてなかっただけじゃ……
 マリアが「やっぱおかしいヨこの人……」と溜息を吐く中、鈴鳴は構わずに部室を開錠。


「……え……」


 昨日、マリアが鈴鳴を振り切るためにここに逃げ込んだ際には、この室内には古臭い長机と錆だらけのパイプ椅子しか無かった。
 結構埃っぽかった印象もある。


 しかし、現在この部室の隅には、教室に置いてあるのと同じ机が3つと新品のパイプ椅子が4つ。
 唯一かつ非常に小さな窓の手前には、サボテンの入った小さなプランターが設置されている。
 どこから持ってきたのか、大きめの木製本棚まで。本棚には既に数冊の冊子が。
 それと何より、室内がとても綺麗になっている。どこを指でなぞろうと、埃1つ付着しない。ハウスダストが完膚無きまでに駆逐されている。
 床のテカリ具合と独特の残り香から察するに、ワックスもかけられている。


「何か1日で増えたネ……それと床もピッカピカ……」
「机と椅子は余っているモノを拝借してきた。無いと不便だからな。本棚は作った。これもあった方が便利だと判断した。それと俺は平気だが、一応女子部員を入れる以上、室内は清潔にしておいた方が良いと思い清掃もした。何か不満はあるか。あれば言え。すぐに対処してみせるぞ」
「う、ううん。大丈夫ダヨ」


 そうか、と鈴鳴が満足気にうなづいてみせる。
 本当、自分がやろうと思ったらすぐに行動するタイプの様だ。


「まぁ、時の需要に合わせて物は適宜増やしていくつもりだ。安心していい」
「う、うん……」
「で、だ」
「?」
「早速だが、何をする?」


 それを私に聞くノ、とマリアは一瞬ズッコケかける。


「君を仲間にしろ、という天啓を受けてから、次の天啓がまだ来ない」


 ……多分、この人の言う天啓とは、「やりたいと思い、ピンと来る事」という意味に近いのだろう。
 要するに現在、特別やりたい事が無い、という事か。


「今、俺は特にやるべき事がない。つまり君に合わせる事ができる、という事は、君がしたい事をすべきだろう」


 何故そうなる、とマリアは全力で思う。


 しかし鈴鳴はもう「マリアの意向に従う」と決めたのだろう。
 ずいずいとマリアに迫る。
 相変わらずすごい気迫である。
 マリアは気圧され、後退するも、あっという間に壁へ追い込まれた。


「さぁ、言え。何をしたい。何を望む、マリア」
「あ、あの、近い、近いヨ鈴鳴くん! 息とか胸とか色々当たってるヨ!」
「それは何か問題があるのか?」
「大有りダヨ!」


 そうか、それはすまない、と鈴鳴はマリアとの距離を取り直す。


 何と言うか、鈴鳴に迫られるのは、超大型犬が「エサをよこせ」とひたすら身を擦り付けてくるアレと同じ感覚だ。
 要するに中々恐い。


「したい事……」


 少し、マリアは考えてみる。
 しかし、これと言って鈴鳴の協力を得たい事は思いつかない。


「うーん……」
「ふむ、思い当たらんか。では仕方無い。校内を散策するとしよう」
「え?」
「天啓が降りてこないのならば、降りてくる場所を探すまでだ」
「え、ちょ、探すって、どーこーにー……」


 ズルズルと鈴鳴に後ろ首を引きずられる形で、マリアは部室を後にする。


 ……こうして、マリアは鈴鳴が『可動式危険地帯ウォーキング・デンジャー』と呼ばれる所以に触れる事になる。








「さぁ放課後の教室にたむろする暇なクラスメイト諸君! 何か困り事は無いか!」
「うわぁ! 鈴鳴が『天啓欠乏状態デンジャーモード』だ!」
「逃げろ! あの状態の鈴鳴に関わったら終わりだぞ!」
「何もかも解決される! 解決すべきで無い事まで何もかも解決される!」
「あいつは『触らぬ神に祟り無し』って言葉を知らずに育っちまったんだ!」


 …………………。


「す、鈴鳴くん……中々すごい嫌われ様だネ……」
「普段はそうでも無いんだがな……何故か『困り事はないか』と聞くと、皆、蜘蛛の子を散らす様に逃げてゆく」


 不思議だネー、と愛想笑いしつつも、マリアは何となく察しがついていた。
 多分、鈴鳴は「やり過ぎる」のだろう。色々と。


「いんやー、相変わらずだねー、鈴鳴」


 不意に横から投げかけられた声。
 声の主は、制服の上からカーディガンを羽織った眼鏡の女子。その手には読みかけの本。
 この教室内にいるという事は、マリア達のクラスメイトだろう。


「おお、藤吉ふじよし。何か困り事は無いか」
「うーん、私も今はノーセンキューかなー」
「フジョシ?」
「わっ、え、いつの間に……えーと……確か、この前転校してきた……」


 マリアに気付き、藤吉と呼ばれた女生徒が少しだけ驚いた様な素振りを見せる。


「……転校してきて、もう2週間経つけどネ……」
「え、そうなんだ、ごめんねー。でもあれー……そんな経ってたっけ……何と言うか、影薄いねー」
「……よく言われるヨ」


 そらもう嫌に成程に。


「で、今更失礼かもだけど名前聞いて良い? 私は藤吉ふじよしあおい
「マリア・クララ笹木原デス」
「あ、やっぱハーフさんなんだ。まぁ日本人離れしたエロい体してるもんねー」
「エロッ…!?」
「うむ」
「鈴鳴くんは何に力強くうなづいてるのカナ!?」


 一応補足しておくと、マリアはハーフでは無くクォーターである。


「いやー、でも鈴鳴と一緒に行動してるなんて、変わってるねー」
「やっぱ、そう思うんダ……」


 なんとなくわかってきた。
 やっぱり鈴鳴は変人であり、それは校内全域での認識なのだと。


「……あ、そーだ鈴鳴。あんたに丁度良い話があるよ」
「何、それは本当か」
「うんうん。これなら多少やり過ぎても文句は出ないだろうし……」
「勿体ぶるな」
「はいはい。実はねー。水泳部の子が、『下着ドロ』にあってるらしいんだよねー」
「下着ドロ?」


 この学校には温水プールがある。
 冬場でも水泳部は活動している訳だが…どうやらその更衣室に、下着ドロが入ったらしい。


「……『過去形あった』、ではなく、『進行形あってる』と言う事は、常習化している、という事か」
「鋭いねー鈴鳴」
「では更に深読みさせてもらう。それが公に対処されないのは、学校側の都合だな?」
「大正解」
「学校の都合?」
「マリアは知らんだろうが、この学校は少し前、立て続けに『教職員が原因の事件』が起きてな。保護者勢からの心証はとても悪い」


 成程、だからこれ以上、学校の管理体制を疑われる様な事態は避けたいわけか、とマリアは納得。


「多分下着ドロもその辺を見越してるのかもねー。学校側は鍵の数を増やして対策したみたいだけど……」
「無意味だったと」


 了解した、と鈴鳴がうなづく。


「天啓だ、マリア」
「ふぇ?」
「その下着ドロを捕まえるために、俺達は今暇な時間を過ごしているんだ」
「……そーカナ?」
「そうだ。そうに決まっている。さぁ行くぞマリア」
「行くぞって、どーこーにー…………」


 鈴鳴にズルズルと引きずられてゆくマリア。
 そんなマリアに対し、藤吉は微笑ましいと言いた気な表情で「ばいばーい」と手を振っていた。








 部室に戻ると、鈴鳴は自身の鞄からある物を取り出した。


「……何それ」
「少し前にウチの近所で『ツチノコ』が目撃されてな。俺も『是非1度見るべきだ』という天啓を受け、この装備を揃えた訳だ」
「ツチノコ……」


 鈴鳴が取り出したのは、無線式の小型カメラとタブレット型の映像受信端末。


「で、そのカメラを何で持ち歩いてるノ……っていうか、何に使うノ?」
「俺の持ち物は基本、その日の起床時の天啓で決まる」


 朝の気分次第で学校に小型カメラ持ってくんなよ、と正直マリアは思う。


「そしてこれを使い、下着ドロの正体を暴き、お縄にする訳だ」
「なるほ……って、駄目ダヨ、鈴鳴くん」


 納得しかけたが、1つ大問題がある。


「下着ドロを撮るって事は、女子更衣室に仕掛ける事になるんダヨ? ……今度は私達が犯罪者扱いダヨ……」


 どんな事情があれど、女子更衣室にカメラを仕掛けていい道理は無い。


「……! そうか、気付かなかった」
「鈴鳴くん……」


 鈴鳴はちょっとおかしい上に、結構なバカらしい。


「では、どうするか……そうだ!」
「閃くの早いネ」
「さぁ行くぞマリア」
「だからどーこーにー……」


 もしかして、私はこれから引きずられて移動するのが日常になるんだろうか。
 そんな一抹の不安を覚えながら、マリアは鈴鳴に引きずられて行った。








「…………鈴鳴くん……これはどうナノ……」
「安心しろ。水泳部員は11人、内女子は5人。そして奥のロッカーは他に比べ埃が蓄積していた。つまり、5人は手前の5つのロッカーしか使用していないという事だ」


 そういう問題じゃない、とマリアは全力で思う。


 現在、マリアと鈴鳴はとても狭い密室空間にいる。
 それは、プール付属更衣室のロッカー内。


 人1人でも手狭に感じる空間に2人で収まっている訳だから、そらもうお互いにお互いの色々が密着し放題である。


 更衣室は使用前は施錠されていないらしく、すんなりと侵入ができた。
 見た所私物が全く無いし、部活中の荷物保管時以外は施錠する習慣が無いらしい。


「……まぁ、奥の方のロッカーも1つだけ、埃がハケている物があったが……そういう事、だろうな」


 何やらポツリとつぶやき、鈴鳴は少しだけ笑う。


「ふむ……それにしても、だ。幼少期、友人を驚かせようと他の友人と掃除箱に篭り、待機していた時の感覚を思い出す。少し懐かしい」
「それは何よりダネ……」


 2人は最早、ほとんど抱き合っている状態。
 あとは鈴鳴がマリアの背中に手を回せば恋人ハッグ完成だ。
 場所が場所ならそのままキスシーン突入待った無しである。


「ところで、先程から何かやたら恥ずかしそうだが」
「だ、だってそりゃ、色々と、その……」


 マリアは鈴鳴の胸に顔をうずめている状態で、その心音すら聞き取れる程だ。
 ……全く動揺の感じられない。ゆったりと綺麗なリズムを刻んでいる。
 マリアは、何かさっきから心臓バックバクな自分が情けなくなってきた。


「…………む、すまない。色々失念していた」


 流石の鈴鳴も、色々察してくれたらしい。


「俺は隣のロッカーに移動し…………!」


 その時だった。
 ガチャ、と、ドアの開く音。


 水泳部員達が入ってきた……にしては、ドアが開いた音と閉じた音の間隔が短い。
 入室したのはせいぜい1人か2人。


 ロッカーの扉に空いているわずかな換気穴からでは室内の状況が把握できない。
 ロッカーの扉を開ける音。そして、閉まる音。


 ……以降、何の物音もしない。


「(……あれ? 今誰か入ってきたはずじゃ……)」
「(やはりな)」
「(へ?)」


 ひそひそ話をしていると、また、ドアが開く音が。
 今度は、いくつかの談笑も聞こえる。女子の声だ。


 水泳部の面々らしい。


「…………む……」
「……え…………」


 ……何か、かなり卑猥な話で盛り上がっている様に聞こえる。


「(……女子も中々すごい話をするモノだな。何の躊躇いも無く男性器の名称を口にしている上、それを口内でシゴく行為について議論しているぞ)」
「(……全ての女子を一括りにしないで……)」


 この薄い扉の1枚向こうで、マリアでは決して口にできない様な単語が飛び交っている。
 ……おそるべし純日本製JK、とマリアは戦慄。あと、何か聞いているだけで恥ずかしくなってきた。


 何故に自分は、こんな狭い空間で異性と抱き合って、ガールズトーク(猥)を盗み聞きしているんだろう。
 マリアには本気で理解できない。


「(君の隣の席の宮平みやひら早苗さなえ、処女らしいぞ)」
「(聞こえてるし、わざわざ報告しなくていいヨ……)」


 早くこの話題を終わってくれ、もしくはさっさと着替えて出てってくれ、マリアはそう切に願う。


 その願いが通じたのか、もう1度ドアが開く音。そして猥談の声が遠ざかっていく。
 どうやら水着に着替え終えて、移動を始めたらしい。


 そして、ドアが閉まる。
 カチャリ、カチャリ、と外から鍵をかける音も聞こえた。


「(さて、後は現行犯を押さえるだけだな)」
「(でも、そう都合良く下着ドロが現れるカナ? 常習化してるって言っても、練習ごとに毎回来る訳じゃないんでショ?)」
「(何を言っているんだ君は。もう『奴』は来ているはずだぞ)」
「(え?)」


 マリアが疑問を口にした直後。
 ロッカーの扉が、開いた音がした。


 ……おかしくはないか?
 外から鍵をかけた、という事は、水泳部員は全員出て行ったはずなのに。


「(あ)」


 そうだ。
 直後に入室した水泳部員の猥談のせいでブッ飛んでいたが、水泳部員の前に、この更衣室に入った何者かがいたではないか。


「鍵をいくら増やしても無駄なはずだ」


 そう言って、鈴鳴がロッカーの扉を開け放つ。


「んなっ!?」


 それに驚いた様に、高めのトーンの男の声が響く。


「下着ドロは、鍵がかかる頃には室内にいるのだからな」


 鈴鳴にリードされる形で、マリアもロッカーから出る。


 突如現れた鈴鳴とマリアに驚き、尻餅をついている男子。
 ゴツい訳では無いが、それなりに筋肉が付いていそう…中肉中背、という奴か。
 友風高校の生徒らしいが、見た事の無い顔だ。
 少なくとも同級生では無いだろう。


「私物を置いていないからと言って、常に更衣室を施錠する習慣を持っていない水泳部員にも、いささか問題があるがな」
「な、なななな、何なんだテメェらは!」
「軽音部だ!」


 その名乗りで良いの? とも思うが、突っ込むまい。


「さぁ、現行犯だ。神の名の元に観念するがいい、下着ドロ」
「神……? な、何を訳のわかんねぇ事を……!」
「俺はお前を捕まえる。天啓だ」
「……イカれてんのか」


 残念ながら、これが鈴鳴の正常な状態である。


 相手をしてられるか、そう下着ドロは判断したのだろう。
 跳ね起きると、真っ直ぐにドアの方へ向かって走り出した。


「捕まえると言った!」
「ぎゃふん!?」


 その下着ドロの後頭部へ向け、鈴鳴は全力の飛び膝蹴りを叩き込む。


 クリーンヒットしたのだろう。
 下着ドロはドサッと力無く倒れ、白目を剥いている。


「確保完了」


 スタッと着地する鈴鳴。


「やり過ぎダヨッ!?」


 マリアの時もそうだったが、肉体的手段を行使するに至るまでが早すぎる。
 もうちょっと穏便に取り押さえる手は無かったのか。


「安心しろ。意識を奪っただけだ。昔、天啓を受け、実戦用の軍隊式対人格闘を少しばかり学んだ事があるのでな。相手を無力化するのは得意だ」


 マリアには獲物を仕留めに行く全力の蹴りに見えたのだが……


「さて、事件は解決だ。さっさとこの男を生徒指導室に連行…」
「本当だって、何か大きな音と男の悲鳴が……」


 ガチャ、と更衣室のドアが開く。
 鈴鳴と、競泳水着の女子5人組の視線が、交差する。


「………………」
「………………」


 更衣室に、男子が2人(おそらくマリアの存在には気付いていない)。
 そして男子の1人は白目を向いてブッ倒れていて、もう1人は変人と名高いあの鈴鳴流次。


 水泳部員達が悲鳴を上げるのは、当然の反応である。










「……全く、一時的とは言え、俺が犯人扱いされるとはな」


 すっかり日が落ちた頃。
 軽音部室。
 鈴鳴は少し不機嫌そうにつぶやきながら、パイプ椅子に腰を下ろした。


「災難だったネ……」
「全くだ。だが、事件は解決した」
「……完全にやり過ぎだとは思うけどネ……」


 いくら相手が最低な下着ドロとは言え、やはり突然後頭部に膝蹴りはやり過ぎだろう。


「そういえば、あの下着ドロの人、どうなるのカナ」
「学校側としては公にはしたくないだろう。この件も、生徒内に犯人がいた事も。まぁ順当に行けば、水泳部員へ謝罪させられた後に長期停学処分だろうな」


 ただ、水泳部員達が絶対にそれだけでは許さないと訴えた場合、学校側もこれは公にせざるを得ないだろうが。


「ま、何にせよここから先は、俺達には関係の無い話だ」


 下着ドロを捕まえるという天啓は果たした。
 鈴鳴はもう満足しているらしい。


「さて、もうこんな時間だ。帰るとしよう」
「うん」
「すまないな、俺が犯人扱いされ指導室で拘束されている間、待たせてしまって」
「別にいいヨ、私だけあのまま帰っていいのかわからなかっただけだし……」
「だが、時間が時間だ。……家まで送ろう」
「え……でも、私の家、結構遠いヨ?」
「構わん。この時間まで君を残してしまったのは俺のせいだ。こんな夜道を1人歩いて帰らせる訳にはいかん」


 ……まぁ、正直マリアの体質的に不審者に目を付けられる事はありえないが。


「……うん、じゃあ、お願いしていいカナ」
「任せろ」


 友達と談笑しながら帰路に就く、というのは、今まで友人に恵まれなかったマリアの憧れの1つでもある。


 何気に、嬉しい提案だった。



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