異世界イクメン~川に落ちた俺が、異世界で子育てします~

須方三城

1ヶ月が過ぎた第46話

 グリーヴィマジョリティの一件から、1ヶ月。




「見つけたぁ!」
「ヤバい! ランドーだ! イザラ、テルマ!」
「うん、逃げる」
「え、僕も!?」


 隠れ巨乳少女リゼ。
 ぬいぐるみ少女イザラ。と何だかんだ復活したウサギ&クマ。
 ケモケモ化できる男の娘テルマ。
 通称、グリーヴィマジョリティ子供組。


 3人はそれぞれ、メイド服と執事服を身に纏い、屋敷内のモップかけを行っていた。


 しかし、東側の廊下にて、ある人物と遭遇してしまい、モップかけどころでは無くなっていた。
 そのある人物とは、エロの伝道師、ランドーである。


「リゼちゃん達、約束は守らなきゃダメじゃないかな!」
「うっさい、死ね!」
「約束なんて覚えてない……!」
「ソーダソーダ!」「イザラハ何モ悪ク無イ!」
「僕に至っては何の話か理解できてない!」


 先日、リゼはランドーにUNO勝負を挑んだ。
 その際、リゼはランドーに「私が勝ったら、私の半径50メートル以内に近寄るな」と条件を出し、ランドーは「じゃあ僕が勝ったら、このマイクロ紐ビキニ着てセクシーポーズね」と提案。
 UNOに絶対に自信があったリゼはこれを承認してしまい、そして負けてしまった訳である。
 そこに颯爽と現れたイザラが、ランドーにリゼの雪辱戦を挑むも、敗北。


 なので、リゼとイザラは先日から、紐ビキニを携帯したランドーから逃げ回っている訳だ。
 テルマは巻き込まれただけである。


「ついでだからテルマくんにも着てもらう!」
「うぇぇ!? 僕男なのに!?」
「下を脱がさなければ問題無し!」
「ダメだ! あいつは見てくれが女なら何でも良いんだ!」
「女王さ…マリさんと言い、変態しかいないのこの屋敷!?」
「……女王?」
「あ、気にしないでイザラ」


 テルマにも色々あるのである。


「今日こそは逃がさない!」
「あ! あの野郎、身体強化魔法発動しやがった!? 死ねば良いのに!」
「お、追いつかれる……!」
「キャー!」「チカーン!」
「否定はしないよ!」
「もう迎撃するしかない!」


 そう思い切り、子供組が戦闘態勢に入ろうとした時、


「またあんたか、ランドー」


 ランドーと子供組の間に割り込んだ、4つの影。


 氷魔法を使うチンピラ風男、ガドウ。
 物質同化魔法を使う坊主頭、バリス。
 無個性気味ってか地味な青年、イギン。
 そして爆発魔法を使うレズなピアス女、エルザ。


 通称、グリーヴィマジョリティ保護者組…+α。
 4人も子供組と同じく、執事とメイドの装いである。


「ガキに手ぇ出すのぁどぉなんだって、前にも言ったよなぁ、おぉい」
「年齢以前に、嫌がる者に性的な何かを強いる事自体、倫理に反する」
「つぅかあんたの行動は普通に目に余る。男として気持ちはわからんでもないが」
「だから男って嫌いなのよ。リゼちゃんもイザラちゃんも私のモノよ! テルマは好きにしなさい!」
「「「おい」」」
「誤解だよ、手を出すなんて…僕は鑑賞以上の事をするつもりは…………うん、誤解かも」
「せめて嘘でも良いからはっきり否定しろや!」
「嘘を吐くのは良くない、特に、自分(の欲望)に対する嘘は一番良くない!」


 言ってる事は立派だが、やってる事は最低である。


「言ってわかんねぇなら、いつも通り実力行使だ、スーパーアイシング!」
「……マテリアルダイバー……」
「行くぜ、アクセルポイントォ!」
「ぶっ飛びなさいこのクズ男! レトルトブラスト!」
「くっ……僕は性欲を満たしたいだけなのに……どうしてわかってくれないんだ! それでも君たちは人間か!」
「うるせぇそこに直れエロ魔神! そのイカれた感覚、今日こそ矯正したらぁ! 行くぞテメェら!」
「くっ……残念だよ、ガドウ……! ドラゴンナックル!」


 どっかーん。






 談話室。


「……また屋敷が壊れる音が……」


 遠くで響く愉快な破壊音を聞きながら、マコトは重々しい溜息。
 やれやれと呆れながらも、その指で白い駒を動かす。


「まぁまぁ、リゼの魔法ですぐ直せるから良いでは無いですか」


 精神操作魔法の使い手、シャンドラは軽く笑いながら黒い駒を動かした。
 黒い騎士が、白の王を射程に捕らえる。
 そして白の王が動けるスペースは全て、逃げ道としての機能を失いつつある。
 逃げた所で、その行き先は変わらない。
 ゲームセットまでにかかる時間が少々変わるだけ。


「……投了だ」
「はい、聡明な判断です」
「……お前、心を読んじゃいないだろうな」
「っ、い、いえいえ、こんな事で魔法を使う訳無いじゃないですかー、やだなーもう」
「…………」


 疑いの眼差しを向けつつ、マコトはコーヒーを呷る。


「……それにしても、だ。びっくりする程に馴染んだな。お前達」
「驚いているのはこちらですよ」


 駒を並べ直しながら語るシャンドラは、とても嬉しそうだ。
 予期せぬ幸運が舞い込み、鼻歌でも歌いたいと言いた気な程に上機嫌に見える。


「まさか、あんな事件を起こした我々全員の身元を引き受けてもらえるなんて……まぁ、ミスターゼアが合流できるのはしばらく後になりそうですが」
「ロマンに感謝する事だ」
「そんな事を考える彼も大概ですが、それをあっさり容認したと言うあなた達も同様ですよ」
「別に、俺達はお前達を救いたくてロマンに同調した訳では無い。ベニム達はどうかは知らないが、俺はまだ、お前達の事を許してはいない」


 マコトがロマンの提案に反対せず、それどころか肩を持ったのは、ロマンのためだ。
 グリーヴィマジョリティに対する負の感情を水に流した訳ではない。


「決して許す訳では無い……彼も、言ってましたね」


 許せない、でも、だからと言って完全に拒絶して淘汰しようなんて考えは、しない。
 それが、ロマン達がグリーヴィマジョリティに対して提示した答え。


「そう言われた以上、我々が取るべき行動は1つ。この救いを甘受しつつ、許してもらえる様に努める事」
「その通りだ。と言う訳で、もう1戦付き合ってもらうぞ」
「……執事長さん、意外と負けず嫌いですよね」








「うーん……やっぱ、あとは残っちまうのかな……」


 自室で鏡と睨めっこしながら、思わず溜息。
 別に、自分の顔が美しくて見蕩れてるとかでは無い。
 俺はそんなナルシストでは無い。


 俺の憂鬱の原因は、左目の周りに残った火傷の痕だ。
 幸運な事に左目の失明は免れたが、その周辺の火傷が酷い事には変わりない。
 あれから1ヶ月……もう傷はほとんど残っちゃいないが、左目周りと背中にはモロに痕が残っている。


 これはあれかも知れない。
 一生残る傷的なモノかも知れない。


「ぱう、だっぷい」


 そんな気にすんなよ、とサーガが慰めてくれている。


「サーガ様の言う通りだ。醜いと言う程の痕でも無い」
「そぉだぜ。大したモンでもねぇ」
「そうよロマンちゃん! ってかむしろニヒルな感じでかっこいい!」
「ありがとな、サーガ。シングとコクトウも。で、だ。姉貴、あんたはいつの間に部屋の中に入りやがった」


 全く気付かなかった。


「ロマンちゃんをスト…まぁ、色々と考えて、お姉ちゃん、気配を殺す魔法『あなたの後ろにいるのステルスオペレーション』なるモノを勉強してみました!」
「本当に俺の安眠を妨害する様な発言ばっかりするよなあんた」
「ロマンちゃん不眠症!? 由々しき事態! 今日こそお姉ちゃんが添い寝を! 添い寝を越えたその先を…」


 とりあえず、姉貴は部屋の外に蹴り出して鍵をかけておこう。


「ロマンちゃん!? どうしたの!? 思春期リターンズ!? あの頃のロマンちゃんプレイバック!?」
「うるせぇ! あんたはさっさとメイドの仕事に戻りやがれ!」
「お姉ちゃんとのメイドプレイをご所望ね! よし来た! ドアを開けてくださいましロマン様! ご奉仕の極みをお見せします! もちろん性的な意味でも!」


 ダメだこの姉、早くなんとかしないと。
 前の世界にいた頃より、かなりブラコンが悪化してやがる。
 失踪期間の反動がここまでのモノとは。……非常に面倒くさい。


「相変わらず愉快な姉だな」
「ぱう、ねいう」
「そら他人事だったらさぞかし愉快だろうよ……ん? っていうか、シング、お前姉貴に変な事とかされてないの?」
「?」


 お前の姉がアタシにちょっかいかける理由なんてあるのか?
 と言いた気に首を傾げるシング。


「いや、だって、お前……」


 だって、下心的要素皆無とは言え、俺とシングは同じベッドで寝ている訳だ。
 あのおれへ歪んだ愛情を注ぎ続ける姉が、快く思っているとは思えない。
 なのに、シングはどうも姉貴と敵対している様な雰囲気が無い。


「ふふふ、ロマンちゃん。お姉ちゃんは、そんな短絡的では無いのよ」


 ドアの外で、姉貴が勝ち誇った様に笑う。


「ロマンちゃんの嫁候補に取り入れば、そっちの方からロマンちゃんを交えた3Pを狙える!」
「シング、ちょっと提案なんだが、姉貴と2度と口を利かないでくれないか」
「ええ!? これダメなの!? 流石に近親だけ相姦はダメかなと思ってアプローチを変えてみたのに!」


 他人混ぜれば近親でも許される訳じゃねぇからなこの阿呆。
 それとシングは別に嫁候補とかじゃねぇ。


「あーもう、良いからマジで仕事戻れよ、後で構ってやるから」
「言ったわねロマンちゃん! 今夜は寝かせないわよ!」


 俄然テンション上がってまいりましたー! とか言う姉貴の叫びがどんどん遠ざかっていく。
 今日はしっかり施錠して早めに寝るとしよう。


「本当に愛されているな」
「……まぁ、愛されちゃいるのは確かだろうが……」


 肉親の愛し方として、少々間違っている気がしてならない。


 ……でもまぁ、あんな姉でも、感謝はしている。
 俺は、ちゃんと覚えてる。
 アリアトにやられて、生きるか死ぬかの狭間にいた時…一番最初に助けに来てくれたのが、誰なのか。


「お前も、ありがとな」


 鏡台の上に乗っけた招き猫、ディシフトキャットくんにもお礼を言っておく。
 やっぱり、あの魔王との邂逅はこいつが引き寄せてくれたモノだったらしい。全てが終わった後に部屋に戻ったら、こいつは粉々に砕け散っていた。
 生命の恩人とも言えるこの招き猫を捨てるのもアレだと思い、テープでツギハギして、今もインテリアとして安置している。


「では、アタシも仕事に戻ろう」
「そうだな。……さて……」


 んじゃ、俺もそろそろ仕事に戻るか。


 グリーヴィマジョリティメンバー達の、教育係。
 連中が業務に就いて3週間が過ぎ、大体のメンバーがこの屋敷に馴染んだ今、正直もうその肩書きは、余り機能していない。
 もう皆大体の作業は無難にこなせるのだ。


 ……ただ、1人だけ、残っている。
 特定の作業だけ、どれだけ教えても全然進歩が見られない、かなりの問題児が。


「……今日こそ、せめて、せめて『炭』以外の物が作れます様に……」


 連中の教育以上に「やらなきゃいけない事」がある現状、そろそろ何か進展が欲しい所なのだが……



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