異世界イクメン~川に落ちた俺が、異世界で子育てします~

須方三城

現場へ急行中の第42話



 執事長、マコトの目の前、8つの肉片が散る。


「無駄」


 散った肉片が、変形する。
 ぶくぶくと、肉片はあぶくを立てながら膨張。
 1つは、アリアトに。残る7つは、アリアトの型を模した人形に。本物との差異は、その眼球内に瞳があるかないかだけ。


「っ……!」
「私に当てれば、どうにかなると思った?」
「っの!」


 マリの両袖から伸びる無数の蔦。
 8人のアリアトを全員がんじがらめに拘束し、その肉体を全力で締め付ける。
 全てのアリアトから、鈍い音が連続。今、蔦の内には、常人なら即死レベルの圧力をかかっている。


「あ、ぴゃ、はっ…骨盤矯正にしてはぁ…きゃひっ、ふぅ。……少し荒っぽいわね」


 しかし、アリアトの口調から余裕は消えない。


「どらぁっ!」


 ランドーが振りかぶった2つの巨拳が、雨の様なラッシュとしてアリアト達に降り注ぐ。
 破壊対象はアリアトに限定。蔦を傷付ける事無く、アリアトの肉体だけをミンチ状にすり潰していく。


 悲鳴を上げる間も……いや、悲鳴は上げている。
 それをかき消す程の、音。人体を破壊する音が、幾重にも響く。


 無数の拳撃が降り注いだ跡地。
 床には一筋の亀裂も無い。
 まるでイチゴジャムの様な、先程までアリアトだった物が飛散している。


 そのジャム達が、寄せ集まる。


 10秒後には、何事も無かった様にアリアトと7体の人形が再生していた。


「ほんと、こういうのを無駄な努りょきゅやっ」


 アリアトの顔面の左半分が、マリが袖から放った木ノ実の弾丸によって吹き飛ばされる。


「もう……人が喋ってりゅぷっ」


 竜の拳が、アリアトをブン殴り飛ばす。
 その勢いのまま、アリアトは壁に叩きつけられた。


「無駄だって言ってるのに……」
「無駄、とは言うがな」


 壁に減り込み気味のアリアトに接近し、マコトがその拳を固く握る。


「お前の魔力だって、無限では無いはずだ」


 その拳が、アリアトの腹を深く抉る。
 アリアトの全身が8つに裂ける…事は無い。


「ぎゃ、ばは……」


 アリアトの口から吐き出される、尋常では無い量の血液。
 まるでバケツいっぱいに血を溜めてからひっくり返した様な、そんな量。


「位置的に、胃か」


 続けて、マコトはもう一撃叩き込む。


「腸」


 敵意を持って殴った物体を8等分に破砕する魔法。
 それを帯びたその拳で、アリアトの『体内』を滅茶苦茶にしていく。


「肝臓、肺、腎臓、心臓、すい臓、腎臓、横隔膜、肺、声帯……」


 単語ごとに、その語の表す臓器がある位置を、的確に殴り付ける。
 そして、一撃ごとに、アリアトの口から血液が放出され続ける。
 その飛沫で、マコトの髪が赤黒く染まる程に。


「脳」


 渾身の一撃を、アリアトの顔面に叩き込む。
 脳が8つに裂け、アリアトの目や鼻から真っ赤な飛沫が吹き出した。


 だが、


「綺麗な顔して、容赦無いのね」


 それでも、アリアトから余裕は消えない。


「体内がグチャグチャになるの、割と『慣れてる』のよねぇ」


 アリアト人形達が、一斉にマコトへと襲いかかる。
 本体もろとも、マコトをすり潰すつもりらしい。
 それぞれの手が、岩石や鋼鉄へと変貌する。


「くっ……」
「執事長!」


 マリの放った蔦が、人形達を拘束する。
 しかし、人形達の全身から刃が吹き出し、それをすぐさま切断した。


 それでも、一瞬の時間を稼げた。
 マコトは手近に来ていた人形を1体蹴り飛ばし、逃げ道を作る。


 そんなマコトの足元の床が、隆起する。


「っ!?」
「ドラゴンの拳って、かっこいいわね」


 ランドーの魔法に対しての、アリアトのコメント。そして、彼女の手は、既に振るわれていた。
 つまり、リベリオンによる改変が、始まっている。


 床を突き破ったのは、土色の巨大な拳。
 ランドーの物と同じ、ドラゴンのそれを模した物だ。
 それが、マコトに逃げる間も与えず、その体を持ち上げ、天井に叩きつけた。


「が、はっ……」
「執事長!」
「マコトさん!」


 拳が引き、支えを失ったマコトの体が自由落下を始める。


「次は、あなたの真似をしてみましょう」


 そう言って、アリアトは更に、腕を振るった。


「全身」


 その言葉に合わせて、土色の拳が落下中のマコトへと襲いかかる。
 もう1度、彼の肉体を、天井へと叩きつけた。


「っぐ……」


 いや、1度では無い。


「全身、全身、全身、全身、全身、全身、ぜ・ん・し・ん」


 何度も、何度も、何度も。
 マコトがアリアトを何度も殴り付けた様に、土色の拳がマコトを襲う。


「はい、お1人様あがり」


 落下したマコトは、動かない。
 僅かに腹が動いている、つまり呼吸はしている。


「虫の息、って所ね」
「くそっ!」
「あ、別に焦って助けに来なくても、殺したりしないわよ」


 アリアトが、手を振るう。


「私、あんまり殺しって好きじゃないのよね。化けて出られたら面倒くさいし、それに生かしておけば、シャンドラの魔法で傀儡にできる」


 マコトを襲った土色の拳。
 その根元から、何かが吹き出す。いや、這い出して来る。


「そうそう、さっきあなた達の言ってた通り、私の魔力も無限じゃないわ。まだお仲間もいるみたいだし…少し、節約しましょう。『この子』に内在した魔力だけで、あなた達を倒すわ」


 現れたのは、土で出来た巨大なドラゴン。
 人型に近いその形状からして、正確に言えば竜人ドラゴニュート
 その竜人は、アリアト人形を次々に喰らい、取り込んでいく。
 人形内の魔力を吸収しているのだろう。


「よろしくね、ドラちゃん」


 アリアトは軽く手を振って、ユウカ達のすぐ傍の玉座へと戻る。


「舐めやがって……!」


 アリアトは、完全にランドー達を舐め腐っている。
 だから、リベリオンの使い方も適当。その気になれば、もっと攻撃的に、ランドー達を追い込めるはずなのだ、アリアトは。
 それをしないのは、完全にランドー達を見下し、虫かごの中の珍虫に軽いイタズラをする様な感覚で相手をしているから。


 こんな人形1体に敵わないと思うな、そうランドーは拳を振るう。
 マリも、竜人へ向けて木ノ実の弾丸を連射。


 拳が竜人の頭を砕き、弾丸がその腹肉を削り取る。


 しかし、瞬く間に竜人は元通りに再生した。


「!」
「その子には、私と同じ『全自動超速再生オートリキュアレイズ』を『設定』してあるわ」
「厄介な……」
「ちなみに、その子に内在してる魔力量は、私の現魔力残量の1000分の1程よ」


 つまり、この竜人を再生不能にする労力の1000倍をかけて、ようやくアリアトを殺す事ができる。


「そう言えば、さっき、舐めやがってとか言ってたけど……別に、あなた達を侮っているつもりは無いわよ」


 アリアトは、暗に「私は正当な評価を下している」、「お前達はその程度なんだよ」と言っている。
 そして今から、それを証明するつもりなのだろう。


「さ、せいぜい頑張る事ね。この子を壊す事もできずに、私の魔力を削り切ろうなんて、片腹痛過ぎてそれこそ死んじゃいそうよ」


 玉座に腰を下ろし、アリアトが笑う。
 まるで、虫かごの中でのたうち回る虫けらの、無様な姿を楽しむ様に。


「思い知るといいわ。自分達が掲げた目標ハードルの高さを」






「……予想外だわ」


 ふぅ、とアリアトは溜息を吐いた。


 その視線の先には、未だ健在の土の竜人。
 そして、もうまともに動く事もできない、マリとランドー。


「この子の魔力の半分も削られずに終わるなんて……私の審美眼もまだまだ未熟と言う事ね」


 過大評価を下した己の愚かさを悔やむ様な言葉を漏らしつつ、アリアトは軽く背伸び。


「あー……せっかく調子が良い日なのに、座ってばっかりってのも……」
「皆……」
「だぶ……」
「あらやだ、辛気臭ーい」


 悲痛なつぶやきをこぼしたユウカとサーガ。
 アリアトは、そんな2人を小馬鹿にする様な言葉をかける。


「まだそんな顔をする必要は無いわ。侵入者…つまり、あなたの駒はまだまだ残ってる」


 でもまぁ、ここにたどり着いたら皆こうなるけどね、とアリアトが笑い飛ばす。


「……何で?」
「ん?」
「……何で、あなた達はこんな事をするの……?」
「んー? 欲しい物があるからよ」
「魔剣、シラヌイ……」
「そうそう、それそれ」


 アリアトが求めているのは、魔法の制限を取り払う伝説の魔剣、シラヌイ。
 それを手に入れるために、それを管理しているとウワサされているデヴォラの屋敷を強襲し、ユウカを拐った。


「何で、最初から実力行使を選んだの?」


 シラヌイなんて存在しない。
 例え交渉を持ちかけられても、渡す事なんてできやしない。
 でも、それでも、そちらの目的や、折衷案や妥協の範囲を提示してもらえれば、こんな武力と武力でぶつかり合う以外の未来を探せたはずだ。


「無駄だからよ」
「無駄……?」
「あなた達に、私達の何が理解できるの?」
「え……?」
「のうのうと、毎日楽しく生きてた様な連中に、私達の何がわかるの? と聞いてるの」


 アリアトの表情に浮かぶのは、呆れ。
 説明するのも億劫な程、当たり前の事。彼女はそう認識しているらしい。


「この世界は、1つの世界であって、そうじゃない。はっきりとした境界線がある」


 アリアトが、虚空を指でなぞる。
 その指の軌跡に従い、光のラインが引かれて行く。


「救いの有る世界と、無い世界」
「…………」
「救いの有る世界では、落ちぶれれば誰かが手を差し出してくれる。皆が皆、幸せそうな顔をしている」


 でも、


「私達のいた、救いの無い世界は、手を差し出す誰かなんていなかった。皆が皆、その目に虚無を抱えている」
「被害妄想って奴だな」


 唐突に投げられた、声。
 荒々しい、燃え盛る豪炎の様な声だ。


「ヒエン!」
「ぶいう!」
「よぉ、ユウカお嬢様。しばらく見ねぇ内にデッかくなってんじゃねぇか」


 2代目魔剣豪の3番弟子、炎の魔剣を持つ青年、ヒエンだ。


「マコトさんやらは……意識は無ぇみてぇだが、生きてはいるみてぇだな」
「……被害妄想と言うのは、どういう意味かしら」
「あぁん? そのまんまの意味だ。途中からしか聞いてねぇが、『私は不幸だー、全部世界が悪いんだー』って話だろ、今の」


 くっだらねぇ、そう笑い飛ばして、ヒエンがその腰の魔剣へと手をかける。


「確かに、テメェの言う通りかも知れねぇぜ。救いの有る世界と無い世界、2つの側面が、この世界にゃあるだろうよ」


 勢い良く、その魔剣を抜刀。
 刃に続いて、鞘の中から紅蓮の炎が周囲に爆散、展開される。


「だが、救いの無い世界に甘んじてたのぁ、テメェだろ」
「…………」
「くだらねぇ境界線引いて、その線を踏み越えようともしなかったのは、テメェ自身だろぉが」
「……ほら、あなた達は、私達の事なんて、理解できない。しようともしない」
「そりゃあこっちのセリフだ、って話だがな」
「無駄なのですマスター。あの女性、完全にイっちゃってますです」
「だろぉな。ありゃ、自分が正しいって信じて疑う気も無ぇって面だ」


 自分は何もかもわかってる。
 そんな、自分を狂信する様な目。


 あれが、アリアトか。
 そう、ヒエンは確信する。


「あの手の奴を口説くにゃ、まず手の内一切合切むしり取って、丸裸にすんのが手っ取り早いわな」
「なのです」


 ヒエンの周囲の炎の勢いが、増す。
 広い室内の温度が、一気に上昇する。


「……つっても、優しく口説いてやるつもりゃ無ぇけどな」


 アリアトには、きっと聞くも涙、語るも涙な事情があるだろう。
 んな事はヒエンにだって想像は付く。


 でも、だから何だ。


 ヒエンは、弱者のために日々奔走するヒーローでは無い。
 罪人の話を聞いて情状酌量の余地を探す裁判員でも、人の罪を赦そうとする聖人君子でも無い。


 家族に手を出しやがった、ダチに手を出しやがった。
 そんなクソッタレをブチのめしに来ただけの、ただ1人の人間だ。


「さぁ、落とし前を付けてもらおぉか。腕の2・3本じゃあ済まねぇぞ、こんのクソアマ」
「……やりなさい」


 アリアトのトーンの低い指示を受け、土色の竜人が咆哮を上げる。


 魔剣の炎と大地の竜が、激突する。








「魔王様に会っただと!?」
「ああ、まぁ亡霊みたいなモンだって言ってたけどな」


 そして、俺は魔王に魔力を流し込まれ、復活を遂げた。
 ……何故か、魔王の魔力が染み付いて、俺の魔力と一体化してしまっているらしいが。


 その辺の事情をシングに説明しながら、俺は暗い回廊を走る。
 コクトウが言うには、この先を真っ直ぐ行って少し下った所に巨大な魔力反応がある。
 おそらく、アリアトの物だろう。


「亡霊……流石は魔王様…簡単には死にはしない、強靭な魂をしておられるのだな! …と言うか、おい、お前は大丈夫なのか……? さっきから平然と走っているが」
「このナリで大丈夫だと思うかよ?」


 こんな包帯ぐるぐる巻きのザマで大丈夫なんて言い張れる人間がいるものか。
 さっきから火傷の跡に擦れて地味に全身痛いわ。関節もやたら曲げ辛い。
 イビルブーストで痛みを誤魔化し、悲鳴をあげてる筋肉を無理矢理黙らせて動かしているのが現状だ。
 アリアトとの闘いで、地味にフル出力を何回か使ったからなぁ……それにさっきの『試運転』の負荷も考慮すると……解除した途端、また指先1本動かせなくなるのは目に見えている。


「シング、先に言っとく、お玉は勘弁してください」
「何の話だ?」


 まぁ、シングに「傷病人の口にお玉を突っ込んではいけません」と言う看病の基本を教えるのは後だ。


「なぁ、結構大事な話があんだけど……」
「大事?」
「ああ、さっき言っただろ、サーガの……」


 その時、俺達の向かう先の壁が、爆発した。
 いや、爆発したと思うくらいの勢いで、向こう側からすごい力で突き破られた。


「げっ」
「む」


 壁を破って現れたのは、ゲオルだ。
 その肩には、かなりボロ雑巾状態のベニムが担ぎ上げられている。


 ……ちょっと予想してたけど、壁を壊して移動するとか言うワイルド進行法を実践してやがった様だ。
 懐かしいな、小学生の時、どうしても解けない迷路を前にした俺は今のゲオルと同じ事をしていた。


「奥義の体得は…意外と早く済んだ様だな、少年」
「な、何故この男までここにいるんだ!?」
「世話役も一緒か」
「え、……お、おい、そのマントミイラ……もしかして、ロマンなのか……!?」
「おう。って、大丈夫かよ、ベニム」
「お、お前に言われたくねぇ……」


 いや、そっちもそっちで中々の重傷に見えるのだが……
 ……まぁ、冷静に考えてみると俺も今の状態は相当なモンか。


 ……って、待て、こんな呑気なやり取りしてる場合じゃねぇ。
 元々の時間が無いのもあるし、ゲオルのセリフ、俺は忘れていない。


 こいつが俺より先にアリアトを倒してしまったら、サーガも一緒にジェノサイドされてしまう。
 そして、こいつはおそらくアリアトに勝てるだろう。正面からひたすら叩き潰し続けると言う正攻法で、難も無く。


 つまりだ。


「……シング、ごめん! ちょっと俺先行くわ!」
「え、おい、ロマ…」
「コクトウ、イビルブースト全開だ!」
「ん? 応よ」


 そんな訳で、俺がサーガの親父になる事についてシングに諸々伝えるのは後だ。


 イビルブーストを全開にし、全速力で、先へ向かう。








 俺がその広間に辿り着いた時、そこではまさに『熱戦』が繰り広げられていた。


 衝突する、紅蓮の炎と青い炎。


 紅蓮の炎は、魔剣奥義を発動し、グレンジンと一体化したヒエンの放っている物だ。
 青い炎は、アリアトの周辺に同じ炎が漂っている事から考えて、アリアトが創造した物だろう。


「ぐぅ……っ…え……? ロマン…!?」
「ランドー!」


 執事長、マリもいる。
 ボロボロだし、ランドー以外は意識を失っている様だが、今すぐ生死に関わる状態では無い様だ。


「大丈夫か、ランドー!?」
「ロマンには言われたくない……」


 ベニムと同じ事言いやがった。
 そんなに俺の現状ヤバそうに見えるか。
 まぁ、魔王の魔力とイビルブーストの恩恵で、ちょっと自分の傷への判定が甘くなっている感は否めない。


「一応、大丈夫そうだな……」


 ランドーは出血こそ派手だが、重傷、って訳では無い様だ。
 なら、次に声をかけるべきは……


「ヒエン!」
「んお、ロマンか。兄貴より先に着いたんだな」


 兄貴にゃ悪いが一安心だ。
 そうつぶやきつつ、ヒエンが舞う。紅蓮の炎の軌跡、フレイムサーキットを虚空に刻みつつ、青い炎を蹴散らし、ロマンのすぐそばへと降り立つ。


「だぼん!?」
「え…だぼんって……ロマンさん!?」
「サーガ! ユウカ!」


 広間の奥には、あの球状の結界に囲まれたままのサーガとユウカ。


 結界は健在…間に合った様だ。


「いう……あ、……んち」
「何か安心したからうんち出そう……じゃねぇよ!?」


 ちょっと待てお前コラ。
 今は色々とオムツ替えてる場合じゃない要素がてんこ盛りだぞ。


「あら、その黒い剣……そこのミイラくんはもしかして……」
「うるせぇ! そこをどけアリアト! 今サーガのケツがスクランブルだ!」
「はぁ?」
「おいロマン、多分今はそういう場合じゃねぇって」
『なのです』
「お、おう……」


 っていうか、あれ?
 何か、思ったより怖くない?


 アリアトの前にもう1度立ったら、きっと足がすくむ。そう思っていたんだが……


 何だろう、内側から、支えられている気がする。
 とても、力強い何かに。
 だから、何か心に余裕がある。
 俺の生命を奪いかけた様な相手を目の前にしても、平常心を保てる。


 何故かはわからないが、この現象に不都合は無い。
 このまま行かせてもらうとしよう。


「ヒエン、ちょっとここは任せてもらえるか?」
「……しゃあねぇ。その代わり、ケジメはきっちり付けろよ」
「当然だ」


 きっちり、『やられた分』はやり返す。


「さぁ、本番だぜ、コクトウ……」
「応」


 コクトウの柄を強く握り、発動させる。
 魔剣奥義を。


魔剣融合ユニゾンフォール……」


 魔王の絶大な魔力。
 コクトウの魂の力。
 その2つを、全身に行き渡らせる。


 魔王の魔力で、俺とコクトウを繋ぎ合わせ、混ぜ合わせる。
 魔剣と、1つになる奥義。


「『夜色ノ魔王クロノズィーガ』!」


 見せてやる。
『魔の力』を支配する、『ズィーガ』の姿を。










「サーガちゃん、ロマンだよ……! 無事、だったみたい」
「あう……?」
「……? どうしたの?」


 わからない。
 本当に、何でかはわからない。


 でも、今、あの人の傍に……


「ぱう……? まう……?」


 あの人の傍に、パパとママがいる。
 あの人を支える様に、並び立っている。


 僕にはそう見えたんだ。





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