異世界イクメン~川に落ちた俺が、異世界で子育てします~
爽やか外道な第31話
静かな夜。
てこてこと廊下を歩くユウカとシング。
「で、アタシにして欲しい仕事とは一体…?」
「身代わr…じゃなくて、ちょっとお風呂場まで来てくれれば、それでいい」
「む、でも今って執事組の連中の入浴時間……」
「ワタシ、ソンナコト、シラナイヨ」
「何故急にカタコトになる!?」
何か企んでるのか!? おい! と言うシングの質問に、ユウカは「あーあーきーこーえーなーいー」と返しつつも、その足は絶対止めない。
その一歩一歩から、「今夜こそ」と言う決意が感じられる。
「あっは、きゃあわいい女の子2人組」
不意に響いた女性の声。
聞いた者を不愉快にさせる、ゲスゲスした感じの声だ。
ユウカ達が振り返ると、そこには2つの人影。
1人はTシャツにジーンズ姿というラフスタイルな若い女性。耳やら舌やら眉やら、顔中にピアスをはめている。チャラいを通り過ぎて柄が悪い。
もう1人は、黒髪の女性。前髪が長く、鼻先まで隠れており、とても陰気な印象をこちらに与えてくる。日がな1日もやしと一緒に暗室に篭っていそうだ。
「……誰? 何か、片方は明らかに悪者っぽい」
「悪者、悪者かぁ、まぁあながち間違っちゃあいないかもねぇ。ねぇ、レディ」
「……どうでもいい……と言うか、多分あなたの事を言ってると思うんだけど」
「えー? 相変わらずツレないねぇ。顔も体付きも声も私好みなのに……惜しいわぁ」
「…………一生悔やんでろレズ女……」
こいつとは組みたく無かった、という気配が黒髪の方から漂っている。
「ま、それはさておき、もしかしてさ、あっちのお人形さんみたいなドレスの子、第1目標じゃない?」
「……うん、メイドはメイド服のはずだし……」
「じゃあ、早速捕獲だね」
「……何か、私達を置いて話が進んでる」
「何だこいつらは?」
「私もわかんない。でもとりあえず逃げた方が良さげかも」
「逃がす訳無いじゃん」
にっこりと、ピアス女が笑う。
「2人とも私好みだから、お持ち帰りしてベッドの上で可愛がって、あ・げ・る」
ピアス女の腕が、朱色の閃光を放ち始める。
光なのに、ドロドロとした、重い印象を受ける。
「まぁ、5体満足でテイクアウトできるかは、運次第って事で」
「っ!? ユウカ! アタシの陰に!」
「え?」
シングがユウカの手を引き、無理矢理その体を自身の背後に回す。
そして、もう片方の手をピアス女の方へと差し向けた。
シングの手も光を帯びる。だが、間に合わない。
「『加工爆撃・大砲弾』」
朱色の衝撃が、シングとユウカに襲いかかる。
「……俺とした事が、恐怖の余り我を忘れてしまったか……」
少し反省しつつ、執事長マコトは窓を開け、屋敷内に戻る。
「よっこらせっと……む?」
窓枠を乗り越えた所で、マコトの耳に破壊音が届く。
遠い。だが、確かに聞こえた。
「……爆発音……?」
この屋敷に爆発系の魔法を使う者はいないはずが……
いや、シングなら可能性はあるか。彼女は様々な魔法に精通している様だし。
「一体何をしているんだ……?」
屋敷内の物…どころか屋敷を壊しちゃいないだろうな、とマコトが顔をしかめたその時、
「おおぉ、獲物はっけーんってなぁ」
「!」
廊下の向こうから聞こえた声と足音。
「……誰だ、お前達は」
ありえない。そう驚愕しつつも、マコトは冷静を装った。
そこにいたのは、灰色のツナギを着た柄の悪そうなチンピラ男と、淡い色のワンピースに身を包んだ少女。
柄の悪い男は禁煙タバコを咥えており、少女は何やらウサギとクマのぬいぐるみを抱いている。
この屋敷の関係者なら、マコトがその顔に見覚えの無い人物など、存在するはずが無い。
しかし、この2人には全く見覚えが無い。
似た顔にすら心当たりが無い。
つまり、全くの部外者。
それが、マコトを驚愕させている。
この屋敷の周辺には、侵入阻害効果は無い物の、侵入者を感知するセンサー結界が張られている。
しかし、結界に反応は全く無かった。
なのに部外者が邸内にいる。
不可解だ。しかし、相手が何者かわからない以上、動揺を見せるべきでない。
マコトはとっさにそう判断した。
「誰だって良いじゃねぇか。なぁ? 俺達はお前らを…」
「私はイザラ・トロメア」
「って、名乗るんかい!?」
「だって、誰だって聞かれた。ガドウも名乗るべき」
「あのな、俺達は客様じゃねぇんだよ! 敵なの! 敵! ってかお前そんな馬鹿キャラだっけ!?」
「イザラハ馬鹿ジャナイヤイ!」
「チョット天然ナ所ガ有ルダケダイ!」
「「ガドウノバーカ!!」」
「喋るぬいぐるみ……?」
今の機械の様な声。
確かに少女の抱いたぬいぐるみから発せられていた。
ランドー達から報告は受けている。
「……お前達か。この屋敷の何かを嗅ぎ回っている輩は」
「あぁ、そぉだよ。嗅ぎ回って、そんで今日は殴り込みって訳だ」
「……ガドウ、一応、第1目標も忘れないでね」
「カッ、俺にゃガキのエスコートなんて繊細な仕事ぁ向いて無いっつぅの。俺達コンビは、第2目標をメインにやらせてもらう」
「別にそれはそれで良いけど」
「そぉかい。じゃあ決まりだなぁっ!」
「!」
マコトは異変に気付く。
急激な寒気。
悪寒とか、精神的な物では無い。
物理的に気温が下がっている。おそらく、この廊下周辺だけ。
「さぁて、突然で悪ぃけど、ちょっくら痛い目見てくれや、執事さんよぉ!」
「冷気系、もしくは氷系の魔法使いか…」
この気温の低下現象、どうやらあのガドウと言うチンピラ男が原因らしい。
マコトはタキシードの内ポケットからある物を取り出す。
それは、2つの指輪。指輪の内には、『魔法陣』として機能する文字列が無数に刻まれている。
その指輪を、両手の中指に1つずつはめ、拳を握る。
これで、マコトは『とある魔法』の発動準備が整った。
後は、引き金を引くだけで、魔法が発動する。
「1つ、君の発言を訂正させてもらう。俺は執事じゃない、執事長だ」
どうやって侵入したのか、そして自分達を襲う目的は何なのか。
疑問は多くある。なので、手っ取り早くそれを解消しよう。
この2人を速やかに拘束し、情報を引き出す。
「さぁ、ブチかますぜ……『スーパーアイシング』!」
ガドウの両手から、ドライアイスの様な白い煙が吹き出し、一瞬にして氷の斧へと変化する。
「ラビちゃん、クマッケンジー、お願い」
「オウヨ!」
「ヤッチャウワ!」
イザラの腕から離れたウサギとクマのぬいぐるみ、その2体の体が、急激に膨張を始める。
2秒足らずで、2体のぬいぐるみは3メートル近い巨体へと変貌した。
「氷製魔法に、物体に擬似生命を与え、なおかつ強化する魔法、か」
マコトは少しだけ安心する。
こいつらの魔法と自分の魔法は、相性が悪く無い。
立ち回りに不安要素は無い。
床を蹴り付け、こちらから勝負を決めに行く。
「ヒャッハァッ!」
氷の斧を振りかぶり、ガドウが先陣を切ってマコトを迎撃する。
振り下ろされた氷の斧。
避けた所で、何か策があるのだろう。
でなければ、こんな「避けてください」と言わんばかりの単調な攻撃を仕掛けてくるとは思えない。
舐めないで欲しい物だ、とマコトは溜息を1つだけ吐き捨て、拳を固く握り直す。
そして、その拳を、振り下ろされた斧へ向けて突き出した。
中指にはめた指輪と、斧の氷刃が激突する。
普通に考えれば、指輪は砕け散り、マコトの拳は引き裂かれ、周囲に鮮血が散る状況だろう。
しかし、現実は全くの逆。
ガドウの斧が、砕けた。
それも、ただ破壊された訳では無い。綺麗に8等分に分割されている。
マコトの拳が帯びている魔法の名は『八裂鉄拳』。
敵意を持って殴り付けた物体を、硬度等あらゆる条件を無視して8等分に破砕する魔法だ。
「っ!?」
斧の斬撃を避けた後、このガドウと言う男がどんな罠にはめてくれるつもりだったのか、マコトにはわからない。
ただ、ガドウはこの不可解な破壊現象に気を取られ、一瞬反応が遅れた。
マコトが勝負を決めるには、充分な一瞬だ。
マコトは貫手でガドウの喉を抉り、間髪入れず膝蹴りでガドウのこめかみを強襲する。
貫手も膝蹴りもクリーンヒットだ。
呻き1つ上げず、ガドウは意識を失い、その場に倒れた。
「ガドウガヤラレタ!」
「コノ執事野郎!」
「執事長だと言ったはずだ」
襲い来るぬいぐるみ達。
クマのパンチ、ウサギのオーバーヘッドキックを躱し、その擦れ違い様に軽く一撃ずつ叩き込む。
「ヒデブッ」「アベシッ」とどっかで聞いた事のある悲鳴を上げ、ウサギとクマが8等分に裂け散る。
血肉に代わりに、フェルトと綿が散乱する。
「……さて、勝負は付いたな。大人しく投降してもらえると、有難い」
「…………」
マコトの言葉に、イザラは何も応えない。
「一応、伝えておこう、俺の魔法は、『人体にも有効』だ。そして、俺は『敵に容赦はしない』」
それがどういう意味かは、幼いイザラにだってわかるはずだ。
「……相手が悪かった」
「何?」
イザラがポツリとつぶやいた、その時、
マコトの背後で、一瞬にしてウサギとクマが、再生した。
「なっ…!?」
裂け散ったはずのフェルトや綿が寄せ集まり、何事も無かったかの様に元の状態に戻ったのだ。
「『フレンドールズ』は、消し炭にでもしない限り、死なない」
「ソノ通リ」
「不死身ッテ素敵!」
「っ……なら、術者を倒すまでだ……!」
マコトがイザラの方へ向き直る。
そこで、マコトは衝撃の光景を目の当たりにした。
全力疾走で逃げる、イザラの背中だ。
「逃げとる!?」
「相手が悪かったって言ったもん!」
もう今までの落ち着きっぷりからは想像もできない、全力のランニングフォームでイザラが遠ざかっていく。
しかも無茶苦茶瞬足だ。肉体強化魔法でも発動しているのかも知れない。
「ソウイウ訳ダ!」
「バイナラ!」
ウサギとクマも、ガドウを抱えてイザラとは逆方向へスタコラサッサ。
「なっ、おい!?」
2方向に逃げられてしまった。
どちらを追うべきか……と一瞬考え、マコトはイザラの走っていった方へ向かう。
あのぬいぐるみ2体よりもイザラの方が捕獲が楽だろうと判断したからだ。
「っく……何なんだあいつらは!?」
「のはっ」
床が、隆起する。
何かが飛び出してきた、訳では無い。
床そのものが変形し、棘となり、ベニムに襲いかかる。
「面倒くせぇ魔法だな……」
自分とは相性が悪い、とベニムは舌打ち。
しかもそれだけでは終わらない。
ベニムのすぐ横。その壁に、まるで波紋の様な波が広がる。
そこから現れるピストルの銃口。
「っの……!」
蛇腹の剣の腹で銃弾を弾く。そこに更に迫る床の棘。
「あーもう! 本当に面倒くっせぇこいつら!」
「面倒面倒うっさい! さっさと死ね!」
叫び声は、ベニムの前方。
床に手を当ててしゃがみ込んだ茶髪の少女。
年齢はロマンと同じくらいだろうか。
床を棘に変えて攻撃してくる魔法は彼女の物だ。
おそらく、触れている物体の形を自在に変化させる系統の魔法だろう。
「……楽になれ……」
今度は、天井に波紋が起きる。
そこから現れたのは、片手に拳銃、もう片手に大ぶりなサバイバルナイフを持った坊主頭の男。
かなり筋肉質だ。その洗練された肉体やナイフの扱い方から、鍛え抜かれた軍人という印象を受ける。
坊主頭は天井からベニムへ、サバイバルナイフの鋒を向けて落下する。
ベニムがそれを躱すと、男はそのまま床の中へと消えた。
男の消失に合わせて床に波紋が広がる。
「坊主頭の方は物質同化魔法ってとこか……!」
「うっさい! 死ね!」
死ねが口癖なのかあの子は、とベニムが辟易するくらいにはさっきから死ね死ね言われる。
まぁどれだけお願いされようと、ベニムとしては死んでやるつもりなど全く無い。
床から飛び出して来た拳型の隆起物をひらりと躱す。
その隆起物から、銃口がベニムの額へと突きつけられる。
「んなっ…」
響く銃声。
ギリギリで、ベニムはその銃を持つ手首を掴み上げ、天井に向けさせていた。
「危ねぇな!」
掴んだ手首を引っ張り、坊主頭を隆起物内から引きずり出す、が、出てきた途端、男はナイフを振りかぶっていた。
「当然そうするわな!」
まぁ予想通りだ。
ベニムは坊主頭の懐に飛び込み、その鳩尾に蛇腹の剣の柄をねじ込む。
「がひっ」
予期せぬタイミングで肺の中の空気が強制排出されたせいか、坊主頭は短い奇声を上げる。
その手から、ナイフとピストルがこぼれ落ちる。
「よし、1人目!」
完全に意識を奪った、そう判断して坊主頭の体を床に投げ捨てる。
すると、坊主頭はまたしても床の中へと沈んでいった。
「あぁ!? タヌキ寝入りかよ汚ぇ!?」
「戦いに汚いも何もない! 死ね!」
襲い来る床の拳。
今度はラッシュだ。
蛇腹の剣は普通の剣より斬れ味は鋭い。
だが大理石を斬り裂くのは流石に無理。
だから先程、相性が悪いと舌打ちしたのだ。
この攻撃は躱すしかない。
そして躱せば躱すほど少女との距離が伸びる。
距離が伸びれば伸びるほど、蛇腹の剣が彼女に届くまでに時間が掛かる。
伸ばしている間に、彼女は自分の周囲に大理石の盾を作るだろう。
ここは一旦退いて、部屋に戻って爆破系や射出系の魔法道具を取ってくるべきか。
「……ランドー辺りが来てくれれば……」
「呼んだ?」
その声と共に、ベニムの背後から緑色の巨大な拳が駆け抜ける。
刺々しいウロコが張った、まるでドラゴンの腕の様な拳だ。
その拳はあっさりと大理石の拳群を砕き散らしてしまう。
「なっ……」
「ランドー!」
最高だぜお前! とベニムが心中叫ぶくらいナイスなタイミングで現れてくれた。
エロの伝道執事、ランドーだ。
その両腕は、先程のドラゴンの様な巨腕へと変貌している。
彼の魔法、『ドラゴンナックル』だ。
「よく来てくれた!」
「ラフィリアさんとドンパチやってるのかと思ったけど…銃声が聞こえたから、あ、何か違うな、と思って」
「っ……増援とかマジキモイ! 死ね!」
馬鹿の1つ覚えの様に、少女は床から拳やら棘やらを放つ。
ランドーが巨腕を振るうと、それらの攻撃はあっさりと薙ぎ払われ、一掃されてしまう。
「お、あの子……着やせタイプかな? Eはあると見たよ」
「おいランドー、一応戦闘中だからな」
「わかってるよ。あの子敵でしょ、じゃあ……」
ランドーが、すごく、すっごく爽やかな笑みを浮かべる。
「ナニしても良いよね」
「っ……何かお前危険な感じがする! 死ね!」
「却下、僕は君を脱がす。顔も体型も好みだし」
「意味わかんないし! 死ね!」
棘や拳を飛ばすだけでは無駄だと判断したのだろう。
判断は良い、ただそこからの発想が馬鹿っぽい。
何か、拳がチョキやらパーに変わり、棘が枝分かれしただけだ。
「頭が弱そうな所もキュート!」
思い切り、ランドーが巨拳を振るう。
巨腕が伸び、拳が大理石群を破壊しながら突き進む。
ランドーの誇るドラゴンナックルは、多少燃費は悪い物の破壊力は一級品。
蛇腹の剣ほど長距離では無いが、ある程度の伸縮も可能。
そして、『とある付加効果』もある。
本来は『そういう用途』では無いのだが、ランドーに取ってはとっても便利な付加効果が。
「ひっ……」
巨拳は少女を守る全ての障害を粉砕し、そして、少女の華奢な体へと襲いかかる。
「きゃあぁぁ…ああ?」
悲鳴を上げかけた少女だったが、ふと気付く。
勢いのある巨大なパンチを食らったにも関わらず、自身の体に全く衝撃が無い事に。
そして、少女は更に気付く。
ビリビリビリ、と、布が裂ける音に。
「……は?」
ドラゴンの拳は、少女の衣服だけを粉微塵に吹き飛ばしていた。
それも、下着1枚に至るまで、何もかも。
少女に残された衣類は、靴だけ。
「ひ、っきゃあああああああぁぁああぁあぁぁぁぁぁふぁぁあああああああああああっっっ!?!??」
結局悲鳴を上げる事にはなったが、悲鳴のニュアンスが大分異なる。
「服に『限定』したのか……」
「僕は攻め派だし、女の子を辱める趣味はあるけど、甚振るのは趣味じゃないからね」
ランドーのドラゴンナックルには、「破壊対象を限定する」付加効果があるのだ。
その効果を使い、少女の肉体を破壊対象から外し、その衣類だけを吹き飛ばしたという訳だ。
武器だけを破壊し、相手を無傷で無力化させるのが、この魔法の本来の用途だと思われる。
が、ランドーの知った事では無い。
エロに使える力を出し惜しみする必要性を感じ無い。
「さぁて、あの靴もひん剥いて、完全に全裸状態にしてから捕獲といこう」
「お前、爽やかに外道だよな……」
「欲望の邪魔になる良心なんて、僕はいらないよ」
あの子、敵だけど逃がした方が良いんじゃねぇか、とベニムは思う。
「させるか……」
不意に、少女とランドー達の間に、坊主頭の男が立ちはだかる。
先程のベニムの一撃が効いているのだろう、今にも倒れそうなフラフラ加減だ。
それでも、羞恥心と恥辱に涙を流す少女を庇う様に、坊主頭は気力を振り絞り、立つ。
「闇の道に堕ちた俺でも……吐き気のする様な、許してはならない悪という物はわかる……それは、幼気な女子供を嬲り楽しむ外道だ」
「おいランドー、お前のせいで完全に俺らが悪役だよコラ」
「えー」
えーじゃない。
「来い、外道……」
坊主頭は予備のナイフを構える。
「バリス! ナイフ1本で敵う訳無い! あんたまでスッポンポンにされちゃうよ!」
「構うものか……例え全裸になろうとも、奴らの喉笛を引き裂いてやる……来い!」
「いや、男は普通に殴るけど」
「なん…だと、ぶげるぁっ!?」
「バリスゥゥゥゥゥゥゥ!!?」
どうか成仏してくれ、とベニムは坊主頭の冥福を祈る。
「さぁて、次は君の番だ」
「ひっ……ごめんバリス! あんたの事は忘れないから!」
「逃がさないよ!」
「こっち来んな! 死ね変態! 2000回死ね!」
大事な場所を隠しながら逃げ惑うほぼ全裸の少女。
それを追う爽やか笑顔の青年。
もうダメだな、あの絵面は救い様がねぇ、とベニムは諦観の微笑。
「……とりあえず、こいつは拘束しとくか」
可哀想な少女と生粋のエロ外道の追いかけっこを見送りながら、ランドーは坊主頭の拘束準備に入る。
立場上、少女の味方はできないが、どうか少女には無事逃げ切っていただきたい物である。
てこてこと廊下を歩くユウカとシング。
「で、アタシにして欲しい仕事とは一体…?」
「身代わr…じゃなくて、ちょっとお風呂場まで来てくれれば、それでいい」
「む、でも今って執事組の連中の入浴時間……」
「ワタシ、ソンナコト、シラナイヨ」
「何故急にカタコトになる!?」
何か企んでるのか!? おい! と言うシングの質問に、ユウカは「あーあーきーこーえーなーいー」と返しつつも、その足は絶対止めない。
その一歩一歩から、「今夜こそ」と言う決意が感じられる。
「あっは、きゃあわいい女の子2人組」
不意に響いた女性の声。
聞いた者を不愉快にさせる、ゲスゲスした感じの声だ。
ユウカ達が振り返ると、そこには2つの人影。
1人はTシャツにジーンズ姿というラフスタイルな若い女性。耳やら舌やら眉やら、顔中にピアスをはめている。チャラいを通り過ぎて柄が悪い。
もう1人は、黒髪の女性。前髪が長く、鼻先まで隠れており、とても陰気な印象をこちらに与えてくる。日がな1日もやしと一緒に暗室に篭っていそうだ。
「……誰? 何か、片方は明らかに悪者っぽい」
「悪者、悪者かぁ、まぁあながち間違っちゃあいないかもねぇ。ねぇ、レディ」
「……どうでもいい……と言うか、多分あなたの事を言ってると思うんだけど」
「えー? 相変わらずツレないねぇ。顔も体付きも声も私好みなのに……惜しいわぁ」
「…………一生悔やんでろレズ女……」
こいつとは組みたく無かった、という気配が黒髪の方から漂っている。
「ま、それはさておき、もしかしてさ、あっちのお人形さんみたいなドレスの子、第1目標じゃない?」
「……うん、メイドはメイド服のはずだし……」
「じゃあ、早速捕獲だね」
「……何か、私達を置いて話が進んでる」
「何だこいつらは?」
「私もわかんない。でもとりあえず逃げた方が良さげかも」
「逃がす訳無いじゃん」
にっこりと、ピアス女が笑う。
「2人とも私好みだから、お持ち帰りしてベッドの上で可愛がって、あ・げ・る」
ピアス女の腕が、朱色の閃光を放ち始める。
光なのに、ドロドロとした、重い印象を受ける。
「まぁ、5体満足でテイクアウトできるかは、運次第って事で」
「っ!? ユウカ! アタシの陰に!」
「え?」
シングがユウカの手を引き、無理矢理その体を自身の背後に回す。
そして、もう片方の手をピアス女の方へと差し向けた。
シングの手も光を帯びる。だが、間に合わない。
「『加工爆撃・大砲弾』」
朱色の衝撃が、シングとユウカに襲いかかる。
「……俺とした事が、恐怖の余り我を忘れてしまったか……」
少し反省しつつ、執事長マコトは窓を開け、屋敷内に戻る。
「よっこらせっと……む?」
窓枠を乗り越えた所で、マコトの耳に破壊音が届く。
遠い。だが、確かに聞こえた。
「……爆発音……?」
この屋敷に爆発系の魔法を使う者はいないはずが……
いや、シングなら可能性はあるか。彼女は様々な魔法に精通している様だし。
「一体何をしているんだ……?」
屋敷内の物…どころか屋敷を壊しちゃいないだろうな、とマコトが顔をしかめたその時、
「おおぉ、獲物はっけーんってなぁ」
「!」
廊下の向こうから聞こえた声と足音。
「……誰だ、お前達は」
ありえない。そう驚愕しつつも、マコトは冷静を装った。
そこにいたのは、灰色のツナギを着た柄の悪そうなチンピラ男と、淡い色のワンピースに身を包んだ少女。
柄の悪い男は禁煙タバコを咥えており、少女は何やらウサギとクマのぬいぐるみを抱いている。
この屋敷の関係者なら、マコトがその顔に見覚えの無い人物など、存在するはずが無い。
しかし、この2人には全く見覚えが無い。
似た顔にすら心当たりが無い。
つまり、全くの部外者。
それが、マコトを驚愕させている。
この屋敷の周辺には、侵入阻害効果は無い物の、侵入者を感知するセンサー結界が張られている。
しかし、結界に反応は全く無かった。
なのに部外者が邸内にいる。
不可解だ。しかし、相手が何者かわからない以上、動揺を見せるべきでない。
マコトはとっさにそう判断した。
「誰だって良いじゃねぇか。なぁ? 俺達はお前らを…」
「私はイザラ・トロメア」
「って、名乗るんかい!?」
「だって、誰だって聞かれた。ガドウも名乗るべき」
「あのな、俺達は客様じゃねぇんだよ! 敵なの! 敵! ってかお前そんな馬鹿キャラだっけ!?」
「イザラハ馬鹿ジャナイヤイ!」
「チョット天然ナ所ガ有ルダケダイ!」
「「ガドウノバーカ!!」」
「喋るぬいぐるみ……?」
今の機械の様な声。
確かに少女の抱いたぬいぐるみから発せられていた。
ランドー達から報告は受けている。
「……お前達か。この屋敷の何かを嗅ぎ回っている輩は」
「あぁ、そぉだよ。嗅ぎ回って、そんで今日は殴り込みって訳だ」
「……ガドウ、一応、第1目標も忘れないでね」
「カッ、俺にゃガキのエスコートなんて繊細な仕事ぁ向いて無いっつぅの。俺達コンビは、第2目標をメインにやらせてもらう」
「別にそれはそれで良いけど」
「そぉかい。じゃあ決まりだなぁっ!」
「!」
マコトは異変に気付く。
急激な寒気。
悪寒とか、精神的な物では無い。
物理的に気温が下がっている。おそらく、この廊下周辺だけ。
「さぁて、突然で悪ぃけど、ちょっくら痛い目見てくれや、執事さんよぉ!」
「冷気系、もしくは氷系の魔法使いか…」
この気温の低下現象、どうやらあのガドウと言うチンピラ男が原因らしい。
マコトはタキシードの内ポケットからある物を取り出す。
それは、2つの指輪。指輪の内には、『魔法陣』として機能する文字列が無数に刻まれている。
その指輪を、両手の中指に1つずつはめ、拳を握る。
これで、マコトは『とある魔法』の発動準備が整った。
後は、引き金を引くだけで、魔法が発動する。
「1つ、君の発言を訂正させてもらう。俺は執事じゃない、執事長だ」
どうやって侵入したのか、そして自分達を襲う目的は何なのか。
疑問は多くある。なので、手っ取り早くそれを解消しよう。
この2人を速やかに拘束し、情報を引き出す。
「さぁ、ブチかますぜ……『スーパーアイシング』!」
ガドウの両手から、ドライアイスの様な白い煙が吹き出し、一瞬にして氷の斧へと変化する。
「ラビちゃん、クマッケンジー、お願い」
「オウヨ!」
「ヤッチャウワ!」
イザラの腕から離れたウサギとクマのぬいぐるみ、その2体の体が、急激に膨張を始める。
2秒足らずで、2体のぬいぐるみは3メートル近い巨体へと変貌した。
「氷製魔法に、物体に擬似生命を与え、なおかつ強化する魔法、か」
マコトは少しだけ安心する。
こいつらの魔法と自分の魔法は、相性が悪く無い。
立ち回りに不安要素は無い。
床を蹴り付け、こちらから勝負を決めに行く。
「ヒャッハァッ!」
氷の斧を振りかぶり、ガドウが先陣を切ってマコトを迎撃する。
振り下ろされた氷の斧。
避けた所で、何か策があるのだろう。
でなければ、こんな「避けてください」と言わんばかりの単調な攻撃を仕掛けてくるとは思えない。
舐めないで欲しい物だ、とマコトは溜息を1つだけ吐き捨て、拳を固く握り直す。
そして、その拳を、振り下ろされた斧へ向けて突き出した。
中指にはめた指輪と、斧の氷刃が激突する。
普通に考えれば、指輪は砕け散り、マコトの拳は引き裂かれ、周囲に鮮血が散る状況だろう。
しかし、現実は全くの逆。
ガドウの斧が、砕けた。
それも、ただ破壊された訳では無い。綺麗に8等分に分割されている。
マコトの拳が帯びている魔法の名は『八裂鉄拳』。
敵意を持って殴り付けた物体を、硬度等あらゆる条件を無視して8等分に破砕する魔法だ。
「っ!?」
斧の斬撃を避けた後、このガドウと言う男がどんな罠にはめてくれるつもりだったのか、マコトにはわからない。
ただ、ガドウはこの不可解な破壊現象に気を取られ、一瞬反応が遅れた。
マコトが勝負を決めるには、充分な一瞬だ。
マコトは貫手でガドウの喉を抉り、間髪入れず膝蹴りでガドウのこめかみを強襲する。
貫手も膝蹴りもクリーンヒットだ。
呻き1つ上げず、ガドウは意識を失い、その場に倒れた。
「ガドウガヤラレタ!」
「コノ執事野郎!」
「執事長だと言ったはずだ」
襲い来るぬいぐるみ達。
クマのパンチ、ウサギのオーバーヘッドキックを躱し、その擦れ違い様に軽く一撃ずつ叩き込む。
「ヒデブッ」「アベシッ」とどっかで聞いた事のある悲鳴を上げ、ウサギとクマが8等分に裂け散る。
血肉に代わりに、フェルトと綿が散乱する。
「……さて、勝負は付いたな。大人しく投降してもらえると、有難い」
「…………」
マコトの言葉に、イザラは何も応えない。
「一応、伝えておこう、俺の魔法は、『人体にも有効』だ。そして、俺は『敵に容赦はしない』」
それがどういう意味かは、幼いイザラにだってわかるはずだ。
「……相手が悪かった」
「何?」
イザラがポツリとつぶやいた、その時、
マコトの背後で、一瞬にしてウサギとクマが、再生した。
「なっ…!?」
裂け散ったはずのフェルトや綿が寄せ集まり、何事も無かったかの様に元の状態に戻ったのだ。
「『フレンドールズ』は、消し炭にでもしない限り、死なない」
「ソノ通リ」
「不死身ッテ素敵!」
「っ……なら、術者を倒すまでだ……!」
マコトがイザラの方へ向き直る。
そこで、マコトは衝撃の光景を目の当たりにした。
全力疾走で逃げる、イザラの背中だ。
「逃げとる!?」
「相手が悪かったって言ったもん!」
もう今までの落ち着きっぷりからは想像もできない、全力のランニングフォームでイザラが遠ざかっていく。
しかも無茶苦茶瞬足だ。肉体強化魔法でも発動しているのかも知れない。
「ソウイウ訳ダ!」
「バイナラ!」
ウサギとクマも、ガドウを抱えてイザラとは逆方向へスタコラサッサ。
「なっ、おい!?」
2方向に逃げられてしまった。
どちらを追うべきか……と一瞬考え、マコトはイザラの走っていった方へ向かう。
あのぬいぐるみ2体よりもイザラの方が捕獲が楽だろうと判断したからだ。
「っく……何なんだあいつらは!?」
「のはっ」
床が、隆起する。
何かが飛び出してきた、訳では無い。
床そのものが変形し、棘となり、ベニムに襲いかかる。
「面倒くせぇ魔法だな……」
自分とは相性が悪い、とベニムは舌打ち。
しかもそれだけでは終わらない。
ベニムのすぐ横。その壁に、まるで波紋の様な波が広がる。
そこから現れるピストルの銃口。
「っの……!」
蛇腹の剣の腹で銃弾を弾く。そこに更に迫る床の棘。
「あーもう! 本当に面倒くっせぇこいつら!」
「面倒面倒うっさい! さっさと死ね!」
叫び声は、ベニムの前方。
床に手を当ててしゃがみ込んだ茶髪の少女。
年齢はロマンと同じくらいだろうか。
床を棘に変えて攻撃してくる魔法は彼女の物だ。
おそらく、触れている物体の形を自在に変化させる系統の魔法だろう。
「……楽になれ……」
今度は、天井に波紋が起きる。
そこから現れたのは、片手に拳銃、もう片手に大ぶりなサバイバルナイフを持った坊主頭の男。
かなり筋肉質だ。その洗練された肉体やナイフの扱い方から、鍛え抜かれた軍人という印象を受ける。
坊主頭は天井からベニムへ、サバイバルナイフの鋒を向けて落下する。
ベニムがそれを躱すと、男はそのまま床の中へと消えた。
男の消失に合わせて床に波紋が広がる。
「坊主頭の方は物質同化魔法ってとこか……!」
「うっさい! 死ね!」
死ねが口癖なのかあの子は、とベニムが辟易するくらいにはさっきから死ね死ね言われる。
まぁどれだけお願いされようと、ベニムとしては死んでやるつもりなど全く無い。
床から飛び出して来た拳型の隆起物をひらりと躱す。
その隆起物から、銃口がベニムの額へと突きつけられる。
「んなっ…」
響く銃声。
ギリギリで、ベニムはその銃を持つ手首を掴み上げ、天井に向けさせていた。
「危ねぇな!」
掴んだ手首を引っ張り、坊主頭を隆起物内から引きずり出す、が、出てきた途端、男はナイフを振りかぶっていた。
「当然そうするわな!」
まぁ予想通りだ。
ベニムは坊主頭の懐に飛び込み、その鳩尾に蛇腹の剣の柄をねじ込む。
「がひっ」
予期せぬタイミングで肺の中の空気が強制排出されたせいか、坊主頭は短い奇声を上げる。
その手から、ナイフとピストルがこぼれ落ちる。
「よし、1人目!」
完全に意識を奪った、そう判断して坊主頭の体を床に投げ捨てる。
すると、坊主頭はまたしても床の中へと沈んでいった。
「あぁ!? タヌキ寝入りかよ汚ぇ!?」
「戦いに汚いも何もない! 死ね!」
襲い来る床の拳。
今度はラッシュだ。
蛇腹の剣は普通の剣より斬れ味は鋭い。
だが大理石を斬り裂くのは流石に無理。
だから先程、相性が悪いと舌打ちしたのだ。
この攻撃は躱すしかない。
そして躱せば躱すほど少女との距離が伸びる。
距離が伸びれば伸びるほど、蛇腹の剣が彼女に届くまでに時間が掛かる。
伸ばしている間に、彼女は自分の周囲に大理石の盾を作るだろう。
ここは一旦退いて、部屋に戻って爆破系や射出系の魔法道具を取ってくるべきか。
「……ランドー辺りが来てくれれば……」
「呼んだ?」
その声と共に、ベニムの背後から緑色の巨大な拳が駆け抜ける。
刺々しいウロコが張った、まるでドラゴンの腕の様な拳だ。
その拳はあっさりと大理石の拳群を砕き散らしてしまう。
「なっ……」
「ランドー!」
最高だぜお前! とベニムが心中叫ぶくらいナイスなタイミングで現れてくれた。
エロの伝道執事、ランドーだ。
その両腕は、先程のドラゴンの様な巨腕へと変貌している。
彼の魔法、『ドラゴンナックル』だ。
「よく来てくれた!」
「ラフィリアさんとドンパチやってるのかと思ったけど…銃声が聞こえたから、あ、何か違うな、と思って」
「っ……増援とかマジキモイ! 死ね!」
馬鹿の1つ覚えの様に、少女は床から拳やら棘やらを放つ。
ランドーが巨腕を振るうと、それらの攻撃はあっさりと薙ぎ払われ、一掃されてしまう。
「お、あの子……着やせタイプかな? Eはあると見たよ」
「おいランドー、一応戦闘中だからな」
「わかってるよ。あの子敵でしょ、じゃあ……」
ランドーが、すごく、すっごく爽やかな笑みを浮かべる。
「ナニしても良いよね」
「っ……何かお前危険な感じがする! 死ね!」
「却下、僕は君を脱がす。顔も体型も好みだし」
「意味わかんないし! 死ね!」
棘や拳を飛ばすだけでは無駄だと判断したのだろう。
判断は良い、ただそこからの発想が馬鹿っぽい。
何か、拳がチョキやらパーに変わり、棘が枝分かれしただけだ。
「頭が弱そうな所もキュート!」
思い切り、ランドーが巨拳を振るう。
巨腕が伸び、拳が大理石群を破壊しながら突き進む。
ランドーの誇るドラゴンナックルは、多少燃費は悪い物の破壊力は一級品。
蛇腹の剣ほど長距離では無いが、ある程度の伸縮も可能。
そして、『とある付加効果』もある。
本来は『そういう用途』では無いのだが、ランドーに取ってはとっても便利な付加効果が。
「ひっ……」
巨拳は少女を守る全ての障害を粉砕し、そして、少女の華奢な体へと襲いかかる。
「きゃあぁぁ…ああ?」
悲鳴を上げかけた少女だったが、ふと気付く。
勢いのある巨大なパンチを食らったにも関わらず、自身の体に全く衝撃が無い事に。
そして、少女は更に気付く。
ビリビリビリ、と、布が裂ける音に。
「……は?」
ドラゴンの拳は、少女の衣服だけを粉微塵に吹き飛ばしていた。
それも、下着1枚に至るまで、何もかも。
少女に残された衣類は、靴だけ。
「ひ、っきゃあああああああぁぁああぁあぁぁぁぁぁふぁぁあああああああああああっっっ!?!??」
結局悲鳴を上げる事にはなったが、悲鳴のニュアンスが大分異なる。
「服に『限定』したのか……」
「僕は攻め派だし、女の子を辱める趣味はあるけど、甚振るのは趣味じゃないからね」
ランドーのドラゴンナックルには、「破壊対象を限定する」付加効果があるのだ。
その効果を使い、少女の肉体を破壊対象から外し、その衣類だけを吹き飛ばしたという訳だ。
武器だけを破壊し、相手を無傷で無力化させるのが、この魔法の本来の用途だと思われる。
が、ランドーの知った事では無い。
エロに使える力を出し惜しみする必要性を感じ無い。
「さぁて、あの靴もひん剥いて、完全に全裸状態にしてから捕獲といこう」
「お前、爽やかに外道だよな……」
「欲望の邪魔になる良心なんて、僕はいらないよ」
あの子、敵だけど逃がした方が良いんじゃねぇか、とベニムは思う。
「させるか……」
不意に、少女とランドー達の間に、坊主頭の男が立ちはだかる。
先程のベニムの一撃が効いているのだろう、今にも倒れそうなフラフラ加減だ。
それでも、羞恥心と恥辱に涙を流す少女を庇う様に、坊主頭は気力を振り絞り、立つ。
「闇の道に堕ちた俺でも……吐き気のする様な、許してはならない悪という物はわかる……それは、幼気な女子供を嬲り楽しむ外道だ」
「おいランドー、お前のせいで完全に俺らが悪役だよコラ」
「えー」
えーじゃない。
「来い、外道……」
坊主頭は予備のナイフを構える。
「バリス! ナイフ1本で敵う訳無い! あんたまでスッポンポンにされちゃうよ!」
「構うものか……例え全裸になろうとも、奴らの喉笛を引き裂いてやる……来い!」
「いや、男は普通に殴るけど」
「なん…だと、ぶげるぁっ!?」
「バリスゥゥゥゥゥゥゥ!!?」
どうか成仏してくれ、とベニムは坊主頭の冥福を祈る。
「さぁて、次は君の番だ」
「ひっ……ごめんバリス! あんたの事は忘れないから!」
「逃がさないよ!」
「こっち来んな! 死ね変態! 2000回死ね!」
大事な場所を隠しながら逃げ惑うほぼ全裸の少女。
それを追う爽やか笑顔の青年。
もうダメだな、あの絵面は救い様がねぇ、とベニムは諦観の微笑。
「……とりあえず、こいつは拘束しとくか」
可哀想な少女と生粋のエロ外道の追いかけっこを見送りながら、ランドーは坊主頭の拘束準備に入る。
立場上、少女の味方はできないが、どうか少女には無事逃げ切っていただきたい物である。
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