異世界イクメン~川に落ちた俺が、異世界で子育てします~

須方三城

★VSケモナーな第23話

 執事生活、2日目。
 リビングホール。


「昨日はモップかけと各所の掃除をしてもらった訳だが、今日もまぁほぼ同じだな」
「はぁ」
「うい」


 俺はサーガを背負いつつ、執事長からモップを受け取った。


「とりあえずこの1週間は、ひたすら清掃だ。それにちょいちょい雑多な作業をこなしてもらう」
「了解」
「それと、モップかけが終わったら1度俺の部屋に来い。次の作業を言い渡す前に、マリとランドーを紹介しておこう」


 マリとランドー……?


 ああ、俺以外の従業者か。
 確か執事長を除くと、後はメイドが1人に執事が2人……


「あと1人は?」
「ベニムは今、休暇中で屋敷を空けている。5日後には戻るだろう。その時に紹介する」


 5日後……って、俺が修行を付けてもらえるかどうか判定する日じゃないか。
 紹介早々サヨナラなんて事にならなきゃいいが……


「おお、ここにいたか」
「シング……って、お前、何だその格好……」
「メイドだ」


 まぁ、わかるよ。
 シングが今着ているのはメイド服だ。
 一口にメイド服と言ってもデザインは千差万別だろうが、パッと見て「あ、メイド服だ」と思うくらい『メイド服』の基本を押えている。
 非常にメイドメイドしている。


 それは良い、それは良いんだ。


「風紀が乱れてる……」
「?」


 こう、何と言うか、シングの着ているメイド服は、胸部装甲が異常に手薄と言うか、がら空きと言うか。
 要するに、着る者によってはナイスな渓谷が見える仕様だ。そして見えてる訳だ。


「何だ、おかしいか? 個人的には似合っていると思ったのだが……」
「いや、まぁ似合ってるけどさ……」
<a href="//14140.mitemin.net/i142217/" target="_blank"><img src="//14140.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i142217/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>
「なら何の問題もあるまい」


 ……ああ、そうだね。もうお前がそれでいいならそれでいいわ。
 本当、お前の羞恥心の基準が俺にはわからない。


「暇を持て余すのは嫌だという話だったのでな。彼女にもメイドとして働いてもらう事になった」
「あの、執事長、あのメイド服……」
「……先代の趣味だ。ちなみにキリカお嬢様はデザイン変更を渇望しておられるが、先代が『死守せよ』と言い残しているため、ままならない」


 キリカがこのメイド服をどうにかしたい理由は、まぁお察しだな。
 コンプレックスという奴だろう。そっとしといてあげよう。


 まぁ、何だ。


 グッジョブ先代。








「やっぱ2人で手分けすると早く終わるな」
「………………」
「ん? どうした?」
「どうしたもあるか……何故お前はその程度の疲労感しかないのだ…?」


 屋敷のモップかけを終え、リビングホールへと戻った俺とサーガとシング。
 シングはソファーの上で自身のふくらはぎをマッサージ中だ。
 かなり汗もかいている。
 ……ああ、何で小麦色の肌って汗がエロく見えるんだろう。


「……? 何だ、アタシの胸に何かついてるのか?」
「いや……」


 一方、俺は少し汗ばんだかな程度な物だ。
 西側をシングがやってくれたおかげで、昨日の3分の2ちょいの範囲で済んだし。


「ま、セレナのしごきのおかげかな」


 考えてみれば、あんな鍛錬を積んでおいてシングと同程度の体力ではお笑い種もいいところだろう。


「むぅ……アタシも体を鍛えておくべきだった」


 溜息を吐くシング。結構辛そうだな。
 サーガが関係していない労働だし、真っ当に疲労を感じてしまうのだろう。
 普通に考えたら、この屋敷のモップかけは、3分の1だとしても若い女性にやらせていい作業量では無い。


「今日はもう、部屋で休んでた方が良いんじゃねぇか?」
「ぶいう」
「サーガ様までアタシにそんな気遣いを……大丈夫です、まだイケます」


 確かに体力じゃ俺には劣るだろうが、シングの根性は中々のモンだと思う。
 まぁ、何日も飲まず食わずでサーガを抱いて走り回ってた様な奴だしな。


「んじゃあ、執事長の部屋に……」
「あなたが、新入りのロマンねって感じ」


 俺の言葉を遮ったのは、今まさにこのリビング内にやって来た、1人の女性。
 年齢は10代後半くらいだろうか。俺と同年代、もしくは1つか2つ上って感じだ。
 シングと同じくけしからんメイド服を着ており、シング程では無いがけしからん事になっている。
 口調や仕草から、何かギャルっぽい印象を受ける。


「う?」


 誰? とサーガが疑問を口にする。


 まぁ、俺も初対面の人だが、大体誰かはわかる。
 この屋敷に元々いた、唯一のメイドさんだ。
 名前の感じから察するに、執事長の言っていた「マリとランドー」の「マリ」の方だろう。


 ……でも、何だろう、気のせいかな。
 あの人、めっちゃ俺の事を睨んでない?
 目つきが悪いとかじゃなくて、瞳の奥に憎悪の色が見える。


「えーと……あんたがマリって人か?」
「そうよ、って感じ」


 マリは不快そうな表情でうなづいた。


 ……あれー……何か、すごい嫌われてる感じじゃないか、これ。
 初対面なのに、何故?


 マリは静かに俺を指差すと、強い意思を感じられる口調で、こう言った。


「私は、あんたに決闘を申し込むわって感じ」








「で、お前さんらの決闘に、何で俺が立ち会うんだ?」


 渋い声の質問。


 晴天の空。吹きすさぶ風。
 現在地、デヴォラの屋敷の庭。


 俺&サーガとマリが対峙し、それを見守る形でシング・執事長・そして魔パンダのヘルが顔を揃えている。


「この状況が何なのかのは、俺が一番聞きたい」
「うい」
「とりあえず決闘なんだろ、ほら、早く俺っちを抜け」


 お断りだ魔剣この野郎。


「マリ、とりあえず軽く事情を説明しろ。決闘のアンパイアをするのは一向に構わんが、執事長として事情は把握したい」


 いや、構えよ執事長。
 部下同士が決闘しようとしてんだぞ?


「この男は、私から大切な物を奪ったわって感じ」
「大切な物……?」
「だい?」
「何か粗相をしたのか、ロマン」
「してねぇよ」


 してないはずだ。
 第一、ついさっき初顔合わせをしたばっかの相手だぞ。


「あんたは私から大切な物を奪った……この、泥棒猫!」
「ど、泥棒猫……」


 まさか、そんなセリフを吐き付けられる日が来るとは夢にも思わなかった。


「あんただけは……絶対に許さないって感じ!」
「いや、待てよ。もうちょい詳しく説明してくれ! 正直意味がわからん!」
「いいわよって感じ。よぉく聞きなさいこの泥棒猫」


 ……俺の呼び名はそれで固定なんですか。






 マリは、ユウカのペットであるヘルの世話を、基本的に全般任されている。
 そんな彼女には、1つだけ、何にも代え難い楽しみがあった。
 どんな高級デザートを食すよりも、上限の無いウィンドウショッピングなんかよりも、絶対に楽しい物。


 しかし、昨晩。


「ヘル? 何だか楽しそうって感じ」
「おう、新入りのロマンってのが、中々の撫でテクを持っててな。かなりトんじまったぜ」
「え?」
「ありゃあ、『今までで最高に気持ち良かった』な」






「わかった!? って感じ」
「いや、わからん」


 え、以上?
 回想今ので終わりなのか?


 短い上に何の脈絡も無い様に感じたのだが……
 あれ、何か執事長が納得してるんだけど。


「ロマン、まぁお前はわからんだろうが……マリは、いわゆる変態だ」
「私のどこが変態なのよって感じ!」


 マリはスッと胸に手を当て、


「私の人生における最大の楽しみ、それは快感に打ち震えるケモケモしい獣ちゃんの痴態を眺める事!」


 ああ、確かに変態だ。


「そんな獣ちゃん達を悦ばせるテクを極めた私の『撫で』……それよりも気持ち良い『撫で』をポッと出の新入りが……? 許せる訳無いじゃないって感じ!」
「えー……」
「へルたんの中での『最高の撫でリスト』の座、この決闘で必ず取り返してみせるって感じよ!」


 どうしよう、死ぬほどどうでもいい理由で敵対心燃やされてる。
 ってか、撫でリストって何?


「さぁ、さっさと決闘を始めましょう。そしてはっきりさせる…どちらがヘルたんをより気持ちよくさせてあげられるか!」


 だからヘルを呼んだのか……


「まずは私からよって感じ! さぁヘルたん! こっちにおいで!」


 俺がまだやるなんて一言も言ってないのにヘルを呼び寄せるマリ。


「全く、仕方の無ぇ女だぜ……」


 やれやれ、と言った雰囲気を出しつつも、そんな満更でも無い感じでヘルはマリの元へ。
 そのヘルの顎の下へ、マリがその滑らかそうな指を差し込む。


 途端に、ヘルの足がガクガクと震えだし、そのケモケモしい口から媚声が溢れ始める。


「さぁヘルたん、どぉ? ここが良いんでしょって感じ。ほら、ほらほらほら」
「お、おうふぅ…ちょ、あっ、い、いつもより激し、っうぅ……!」
「うふ、ここも、たまらないんでしょう? ほら、こうやってぇ、(首の)根元から(顎の)先っちょまで、優しく指でなぞると、ゾクゾクしちゃう?」
「あ、あぁん……うぅ、も、もうやめ……じゅ、充分だからぁ……」
「まだよ、もっともっと、快感を刻みつけてあげるわって感じ……」
「あ、やぁっ……そんな所までっひ……丹念に……ひゃっ!?」
「さぁ、最高の絶頂フィニッシュと共に記憶に焼き付けるのよ、ヘルたんの人生における、私の重要性を。私無しでは、私の指無しでは生きれない体にしてあげる……うふふふ、あはははははは!」


 ……何この絵面。
 谷間が絶景なメイドさんが、パンダの顎の下を撫でてるだけなのに、何でこんなエロ同人誌みたいな会話が展開されているのだろう。
 しかも喘いでいる方はかなりの低音ボイスである事を忘れないでいただきたい。


「あぁ、ああああっ、はぁぁあああああっ……」


 一際大きな媚声を上げて、ヘルがその場にヘタリ込んでしまった。息を荒げ、腰をビクつかせながら、恍惚とした表情をしている。パンダが。


「あは、蕩けちゃって、可愛いって感じぃ……もっとシてあげようかしら……」
「あ、んん……少しだけ、休ませて……」


 ……何だろう、グデッとしてるパンダって絵面は可愛らしいのに、会話がエロい。けど何かキモい。かわいエロキモい。


「さ、次はあなたの番よ泥棒猫。これで白黒つくわって感じ」
「えー……」
「早くやれよロマン……お前も俺を滅茶苦茶にしたいんだろ……? エロ同人みたいに」
「丁重にお断りします」
「逃げるのって感じ!?」
「逃げて良いなら是非逃げるけど」
「まぁ、そう言うなって、ほら、撫でろよ。もう落ち着いたから」
「ほら、早く撫でなさい。不戦勝なんて、私のプライドが許さないわって感じ」
「えぇー……」
「さぁ、決着の時よって感じ」
「さぁ、撫でろ。ほら、良いから撫でろよ! もっと滅茶苦茶にしろよ! エロ同人みたいに!」


 さっきからうるせぇなこのパンダ。


 いや、正直さ、誰かの不興を買ってまでこのパンダを撫でたいとは思わない訳だよ。
 もう俺の負けで良い。本当に。
 ここまで心の底から不戦敗を望んだのは初めてだ。
 基本、戦わずして負けるのは主義じゃないのだが、今回は不思議なくらい抵抗が無い。


 こういう感情を、人は「どうでもいい」と形容するのだろう。


「さっさと終わらせろよ面倒くせぇ」
「ぶい」


 コクトウもサーガも呆れ果てている様である。
 特にコクトウは「決闘」という単語にちょっと期待しただけに、かなり不機嫌そうだ。


「仕方無い……」
「お、何だよ?」


 コクトウを、鞘ごとベルトから引き抜き、俺は腰砕け状態のヘルの元へ。
 鞘に収めた鋒を、ヘルの顎の下に当て、ゴリゴリと動かしてみる。


「あふぉぉぉぉっ……何これぇぇ、し、新感覚ぅ……はぁぃんっ!?」
「……何の真似だクソガキ」
「いや、とりあえず使ってやれば満足するかなと……」


 何だかんだ調理とかに使うと満足するし、こんな感じでも良いんじゃないかな、とか思ったりしたんだが……


「んな訳ねぇだろ」
「ですよねー」
「いっ、ひゃはぁぁん……このひんやりした無機物で作業的に蹂躙されてる感覚がたまんねぇぇぇ……」
「ああ、ヘルたん! 気を確かに持つのよって感じ! 私の責めの方が気持ち良かったでしょ!? ねぇ!?」


 マリの言葉がヘルに届いているかは微妙だ。
 何かヘル、無茶苦茶トリップ顔だもの。






 結局、この後、ヘルは「甲乙付けがたい」という判定を下し、決闘は引き分けに終わった。


 以降、俺がマリにライバル視され続けているのは、言うまでも無い。





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