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とある離島のインペリアルボーイ

須方三城

26,メリーさんの旅立ち

 陰陽師連盟に連絡を取り、俺達はひとまず家へ戻った。
 奈輝川と言う陰陽師は縄跳びで両手を拘束、お迎えを待つ事3時間。


「はじめまして! 私は陰陽師連盟人事部及び執行部隊所属、飛鷹ひだか大空そらと申します!」


 玄関を開けた途端、元気の良い自己紹介が俺を出迎えた。
 そこに立っていたのは、見た感じの年齢は俺よりやや歳上、トゥルティさんと同年代くらいの女性だ。


「あなたが連絡をくださった鉄軒さんで間違いないですね!」
「そうですけど……」


 俺が肯定した瞬間、飛鷹さんとやらは手に持っていた紙袋を差し出しつつ、ぶぅん! と言う効果音が聞こえるくらいすごい勢いで頭を下げた。


「私の同僚が、大変ご迷惑をおかけしました! これは謝罪の気持ち的なものです!」
「はぁ……どうも……」


 紙袋の中身は……お、東京バナナだ。
 菓子折り的な感覚、らしい。


 ……にしても……


「やたら元気っすね」


 常に腹の底から全力発声って感じだ。


「元気良く潔く、それが私のモットーです!」


 そう言って、飛鷹さんは顔を上げ、にっこりと笑ってみせた。
 何か新進気鋭の市長選挙立候補者みたいなノリの人だな。快活だ。見ていて小気味良い。
 嫌いなタイプでは無いので、投票権さえあれば多分1票を投じてると思う。


「今回の件、上層部での調査が進み次第、追って正式な謝罪の使者が来ると思います!」
「正式なって……じゃああんたは?」
「ひとまず同僚として先に謝罪伺いつつ、あのアホ川を引き取りに来ました!」


 調査、ってのは、俺の告発通りあの奈輝川って人が書類偽造をしていたかどうか、の事だろう。
 そういうのって結構時間がかかると思う。
 その間、あの奈輝川って人をずっとウチに拘束しとく訳にも行かないし、ありがたい気遣いではある。


「まぁ正直いつか何かやらかすと思ってたんですよねあのアホ川! 大事になる前に粛清できて何よりです! 我々組織の浄化作業への協力、感謝します!」
「あの人の本性、知ってたんですか?」
「いいえ! 詳しくは知りませんが、なんとなくロクでもない野郎だなと感じてはいました! ただの直感ですけどね!」


 私の感度の良さは通常の3倍です! と元気良く飛鷹さんが笑う。
 何と言うか、歯に衣を着せない人だな。


「ところで鉄軒さん、あなたもちょっと『特別な』感じですね! 何やら普通とは違う感じがします!」
「はぁ……まぁ……」


 俺は龍宮帝国の人間の血を引いていて、龍宮人特有の超能力もある。
 少しばかり特殊と言えば特殊だろう。


「よくわかりましたね」
「先にも言いましたが、敏感な女なので!」


 さいですか。


「と言うか、アホ川は執行部隊じゃエース級、それをのし倒した方が只者であるはずも無いですしね!」


 のし倒したのは俺じゃないけどな。
 でもいちいちBJ3号機の事を説明するのもアレだし、肯定も否定もしないでおこう。


「ところで質問ですが鉄軒さん、今、お仕事は何を?」
「学生ですけど……」
「そうですか! では、卒業後は是非ご連絡ください!」


 そう言って、飛鷹さんが小さな紙きれを差し出して来た。
 名刺だ。肩書きは陰陽師連盟人事部スカウト担当。飛鷹さん個人のモノと思われる番号やメールアドレスまで記載されている。


「陰陽師連盟は霊感の有無に関わらず、何かと便利な人材を常に募集中です!」
「はぁ……」


 何かと便利……ね。本当に物言いが直球な人だな。
 まぁ俺は婆ちゃんの酒屋継ぐから、陰陽師とか絶対やらないけど。


 と、ここで飛鷹さんのポケットからベルの音が。


「おっと……」
「あ、どうぞ」
「失礼します!」


 ポケットからスマホを取り出し、飛鷹さんが電話に出る。
 電話でも声がデカい。「え、北海道ですか!?」とか、「例の珍種の件ですか! え、私がですか!?」とか、色々と聞こえてくる。


 通話が終了すると、飛鷹さんはすごく申し訳なさそうな感じの表情を浮かべ……


「すみません、至急の仕事ができてしまいました! もっとちゃんと落ち着いて事件の詳細やあなた自身の事をお伺いしたかったのですが……」
「大変ですね……」
「私の式神、空飛べるんで、こういう急ぎの時、あっちこっちに飛ばされるんですよね! 本当に嫌になっちゃいますよ!」


 ああ、だから人事部なのにこんな離島にまで謝罪に駆り出されているのか。


「こんな感じになってしまいましたが、アホ川を回収させていただいてもよろしいでしょうか!」
「ああ、どうぞ」


 こちらとしては別に聞きたい事も無い。
 急ぎの仕事があると言うのなら、そっちに行ってもらって構わない。
 さっさとあの人を連れて帰ってもらおう。






「何やら私の知らない間に色々あった様ですが……一件落着したのですね」


 居間、貧血からようやく復活したトゥルティさんが、少し寂しそうな表情を浮かべた。
 まぁ、自分だけ蚊帳の外ってのは色々と寂しいモンだろう。


 トゥルティさん、一応歩き回れる程度には回復した様だが、まだ顔色は悪めだ。やたらトマトジュースをガバガバ飲んでいるが、血液の補充でもしているつもりなのだろうか。


「で、こちらが昨日の話に出ていたメリーさんと……この猫は?」
「猫山田三太夫、サンダーって呼んでや」
「喋る猫ですか……珍しいですね」


 トゥルティさんの感想はそれだけ。
 珍しいとか言うレベルを越えてるとは思うが……まぁバプン大王の様な珍動物が普通にいる国の人だし、喋る猫なんてそんな程度のモノなのかも知れない。


「とりあえず、その人の言う通り一件落着。これでもう私を追う者はいない」


 少しだけ安心した様に、メリーさんがつぶやいた。


「あ、そうだメリーさん。やりたい事ってのは、見つかったか?」
「……あの男のせいで忘れてた……そう言えば、まだ見つかってない」
『何の話ですか?』
「メリーさん、今、趣味にできそうな事を探してるんだよ」


 中々苦戦中の様子だが。


「ま、人生っちゅうんわ悩んでなんぼや。嬢ちゃんはまだ若いんやし、せいぜいよう悩みや」


 そう言うと、サンダーはゆっくりした動きで立ち上がった。
 手を振る代わりと言わんばかりに2本の尻尾を振るいながら、玄関の方へ向かって歩き出す。


「ほな、またどっかで逢えたらよろしゅうな」
「サンダー、どこか行くの?」
「ワイは風来坊、猫やからな。西へコロコロ東でゴロゴロ、着の身着のままニャンコ旅や」


 猫って、縄張りの外には中々出ないんじゃなかったっけ。


「旅……そうだ、じゃあ、私もついてく」
「あぁん? さっき公園で言うたやろ、自分探しの旅なんてロクなモンやないぞ」
「自分じゃない。鋼助みたいな人を探す旅」
「俺?」


 俺みたいな人って……男子高校生、って意味では簡単に見つかるかも知れないが、異世界人のハーフとかそういう意味だとかなり難しい気がする。


「鋼助と友達になったおかげで、私は良い意味で変われたと思う」


 確かに、俺の助言がなかったら、人に嫌がらせをする以外の趣味を探そうとすら思わなかったみたいな事言ってたしな。


「だから、鋼助みたいな人を探す。そして友達になる。そしたらまた何か変わるかも知れない。趣味を見つけるヒントになるかも」
「そういう事なら、良いんじゃねぇの、旅」
『ええ、素敵な出会いを求める旅、有意義だと思います』
「で、なんでワイと一緒に行くいう話になっとんのや?」
「独り旅よりマシそう」
「マシてお前な……まぁええけど」


 決まりの様だ。


「思い立ったが吉日と言う。行こう、サンダー」
「おう。じゃあ次のフェリーに密航すんで」
「密航って……」


 まぁ、メリーさんは存在感を消せるし、サンダーはとても素早いらしい。
 乗組員に常人しかいないフェリーなら、密航はそう難しくないだろう。


「じゃあ、ありがとう、鋼助。私行ってくる」
「おう、頑張れよ」


 今度の電話こそ、良い報せであることを祈っている。












 とある都会での出来事である。
 どこにでもいそうな量産型っぽいOLが実際に体験した話だ。


 夜道を歩いて帰宅途中、不意に形態電話が鳴った。通知は非通知。見覚えのない番号。
 電話に出ると、聞こえたのは幼い少女の声。
 声だけで可愛らしいと思える。そんな声で、電話の主はこう告げる。


『私、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの』


 振り向けば、そこにいるのは大きな猫に跨ったお人形さん。
 視線が交わると、お人形さんはにんまりと薄ら笑いを浮かべて、こう言った。


「私、メリーさん。今、友達を探しているの」
「ちゅー訳でおねーさん、ちょいと茶でもしばこうや」






「…………あれ、何で悲鳴上げて逃げるの?」
「なんや恐いモンでも見た様な面しとったな。ワイらに驚いてもうたんちゃうか?」
「でも、いきなり声をかけて驚かせない様に、ちゃんと電話で前フリしたし、営業スマイルなるものも作ってる。恐がられる要素は無いはず」
「確かになぁ……ワイもキュートの限りを尽くしとるし……ようわからんやっちゃな。ま、逃げてもうたモンはしゃーない。縁が無かったちゅー事や。気を取り直して次行こか」
「うん」


 目的や意識は変わったものの、以前とやっている事が大差無い。
 そして突如背後に現れる喋る人形と喋る猫というコンビのインパクトは、一般人に取っては中々筆舌に尽くし難いものがある。


 メリーさんとサンダーがその事に気付くのは、もうしばらく先の事である。



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