とある離島のインペリアルボーイ

須方三城

25,VS式神

 家から出てすぐに俺はジョーカーシステムを起動。
 BJ3号機を戦闘モードへと切り替え、乗り込む。


「って、何で俺1人なのに複座型にしてんの……」
『あ、すみません、いつものクセで……』


 まぁ良い。細かい事だ。
 前部座席に座り、目の前の出っ張りにコントローラーを嵌め込む。


 コクピット内の壁がパノラマ型のディスプレイとなって、周囲の風景を映し出す。
 俺の目の前に操縦桿となるパイプが飛び出して来た。そして、シートベルトが俺の体に巻き付き、がっちりとシートに固定。


 準備完了だ、操縦桿パイプに手を突っ込み、ハンドルバーを握る。


 そういや、俺がまともにBJ3号機を操縦するのって初めてだな。
 この前のインバーダの時は最後だけ操縦を代わったけど、上昇からの必殺技ぶっぱってだけだったし。


「とりあえずワープだBJ、波止場に跳んでくれ」


 BJ3号機の機動力なら普通に走っても波止場までそう時間はかからないだろうが、ワープの方が早い。


『了解しました。座標演算開始』






 と言う訳で波止場に転移した訳だが……
 いきなり理解不能な状態に陥った。


 朝っぱらと言う事もあり、波止場には人気が無い。
 そんな静かな波止場に、鋼色に輝く巨大なニャンコがいたのである。
 ……いや、ニャンコはニャンコだが……あれは強いて言えば、虎か?
 直立させたら10メートルくらいはありそうなくらい巨大だ。


「ね、猫型ロボット……?」


 あんなサイズの猫型ロボット、見た事も聞いた事も無いぞ。


『青くないですし耳もある……僕の様に未来から来たって感じでは無いですね』


 その判断基準はおかしくないか?
 いや、まぁ良いけど、何アレ。
 オブジェ……じゃないよな、何か尻尾動いてるし。


「な、なんやこの黒いごっついのは!?」


 後方から、何やら関西っぽい口調の音声を拾った。


「……って、メリーさん!」
「その声……鋼助!?」


 BJ3号機の背後、つまりBJ3号機を挟んで鋼猫と対峙していたのは……何やら超絶デブ猫に跨ったメリーさん。
 ……何かあの猫、尻尾2本生えてね?


「こーすけって……あれか、嬢ちゃんが言うとった助っ人か!」
『ね、猫が喋ってる……』


 しかも関西弁である。


 異世界から1つの国が丸ごと転移してきたり、未来からロボットがやってきたり、幼馴染が魔法少女になったり、幽霊が当然の様に電話をかけてくる昨今、猫が関西弁風で喋る事もあるのか……?
 まぁ、現に喋ってるし、あるんだろうな。


 もう何か最近、現実離れした現象やらモノを目にしても「目の前にあるモンは仕方無い」と諦めて受け入れる癖が付いた気がする。
 これが大人になると言う事だろうか。
 小学生の頃だったら、猫が喋り出したらもうちょいテンション上がってたと思う。


 ってか何で関西弁なんだろ……ってうおぉう!?


『わっ!?』


 ごちゃごちゃ考えていたら、鋼猫がBJ3号機に飛びかかってきた。
 突然の事だったので、バリアを張る暇も無く押し倒されてしまう。
 衝撃がコクピット内に伝わり、大きく揺れる。ちょっとベルトが肉に食い込んで痛い。


「っ痛ってぇな……! 問答無用かよ!」


 鋼猫はそのままBJ3号機の首筋に食らいついて来た。
 ……が、コントローラーのディスプレイで確認した所、機体損傷は未検出。つまり、鋼猫の噛み付き攻撃では、傷1つ付いちゃいない。


 多分、鋼猫の牙がしょぼいと言うより、BJ3号機がすごいだけだろう。


『この機体……内部に生体反応無し……と言うか、そもそもエネルギー反応がありません』


 なんじゃそら。
 この鋼猫、BJ3号機じゃ探知できない謎エネルギーで動いてるって事か。


 なんにせよ……


「無人機なら!」
『はい、遠慮は無しと行きましょう!』


 しっかし、何なんだこの鋼の猫。
 状況的に考えて、この鋼猫がメリーさん達を殺そうとしていると考えて間違いない。
 ……って事は、陰陽師の武器か?
 最近の陰陽師って機動兵器使うのな……しかも無人機。
 何かお札とか投げて戦うイメージあったんだけど……近代化って奴か。


 とにかくだ、いきなり問答無用で襲いかかってきたと言う事は、俺らにも敵意があるって事だろう。
 反撃したって文句は言われないはずだ。ってか反撃すんなって言われてもふざけんなって話である。


「BJ!」
『ぶち抜きます! バスターフィンガー!』


 BJ3号機の右手、その5本の指先がそれぞれ小さな砲門へと変わる。
 そこから放たれるのは、5本の青白いビーム砲撃。バスターナックルの小出力版だ。


 BJ3号機は「指の形をしているので、ビーム攻撃ではありません! フィンガー攻撃です!」とか言ってたが、指の形とビーム本来の形状に差異が見当たらないのは俺だけか。


 放たれた5本のビームは、BJ3号機をどうにか噛み砕こうと奮闘する鋼猫の装甲を軽々と抉り抜き、その胸部を完全に吹き飛ばした。
 接続部位を失い、鋼猫の頭部と前足がもげ落ちる。


「よくわかんないけど、悪く思うなよ」


 BJ3号機を操作、上に乗っかったままの鋼猫の下半身を蹴っ飛ばし、機体を立ち上がらせる。


「し、式神をあないに簡単に……ごっついな……!」
「これが……鋼助の言ってたビージェイ……」
『はい。あなたがメリーさんですか……確かに人形さんですね。それと、そちらの猫さんは……』
「ワイは猫山田三太夫。又の名をワイルドサンダーボルトや。長い様ならサンダーでええで。あと猫又や」


 サンダーってお前か。
 ってか猫又ってあれだよな、猫の妖怪。
 そう言えば妖怪も実在するとか言ってたっけ……


「……鋼助、ありがとう、助けに来てくれて……」
「友達だしな、それに戦うのはBJだ。BJに礼を言ってくれ」
『お礼は良いですよ。それより、今の機械の猫……式神と言っていましたが……一体……』


 式神って言うと、アレだよな。
 映画知識だけど、陰陽師が使役する使い魔的な奴。


「陰陽師共が使う思念術兵器や」
『しねんじゅつ……?』


 そんな感じで話していると、スクラップと化した鋼猫に異変が起きた。
 鋼色の破片が、徐々に収縮し始め、色も鋼色から白に変わっていく。
 最終的には、小さな紙切れになってしまった。


『……明らかに非科学オカルトの分野ですね……』
「だな」


 紙切れが鋼の獣に変わる……絶対に科学の範疇に収まるモンでは無いだろう。
 悠葉の使う魔法みたいな、よくわからんファンタジックな何かだろう。


「で、肝心の陰陽師さんはどこだ……?」


 話合いで解決できりゃそれに越した事は無いのだが……


「気を付けて、戦闘用の式神は、あと1体いた」
「せやで! 鬼みたいな奴や!」
『鋼助さん、それっぽいのが』


 おう、何か向こうの方からすごい綺麗なランニングフォームで走ってくる巨大なのが見える。
 サンダーの言う通り、鋼で象られた巨大な鬼だ。


「何か、アレも問答無用な感じだな……!」


 いかにも「殺ってやるぜ!」って雰囲気でこっちに猛進して来る。


『ですね……あれも無人機の様ですし、とりあえず破壊しましょう』


 鋼鬼に狙いを定め、バスターフィンガーを射出する。


 5筋のビームは全て鋼鬼に着弾、貫通。
 鋼鬼もさっきの猫同様、紙切れと化した。


 ……思いのほか、あっさり片付いたな。
 俺がBJ3号機のメインパイロットを務めるのはほぼ初だと言うのに……何か味気無い。
 つっても、ガルシャークさんwithギャングファング級の敵に出てこられても困るが。
 何かこう……もうちょっと程よく戦ってみたかった。
 ……ま、いいけどさ。


「さて……もう式神とか言うのはいないんだよな?」
「戦闘用はさっきの2匹だけ」
「1匹、追跡用のが残っとるが、あれは戦闘には役に立たんタイプや」
「で、陰陽師さんは?」
「……おらんのう」
「もしかしたら、鋼助達を警戒して隠れてるのかも知れない」


 陰陽師からしたら俺達は、突然現れて自分の武器をぶっ壊した黒い巨大ロボット。
 そりゃそいつの前にノコノコと姿を見せる訳もないか。


 まぁ、近くで俺らの様子を伺っているのなら、俺とBJ3号機の『合わせ技』で探し様はある。


「BJ、外部スピーカー、音量マックス」
『了解です』


 幸い、ここは波止場。
 民家とはそれなりに距離がある。
 ある程度の大きな音を立てても、騒音災害扱いはされないはずだ。


 さて……絶対問答インペリアル・アシック、発動。


「陰陽師の人! どこにいますか!?」


 BJ3号機の拡声機能を介して、俺の肉声が波止場どころか港全域に響き渡る。


「………………」


 どこかから微かに「ん~、僕はあなた達から30メートルほど離れた倉庫の陰にいますよ」と聞こえて来た。


「BJ、あっちの倉庫の方だ」
『相変わらず、便利な能力ですね』


 相手が俺の質問さえ認識してくれれば、例え口を紡ごうが、姿を隠そうが、回答を強制できる……我ながら本当に便利な能力だと思う。






 陰陽師というと、何か白い着物に烏帽子ってイメージだったが……実際の陰陽師はやたら現代っぽかった。
 ビシッとしたスーツにビジネスバッグ。顔立ちも特別変わった点は無く、オールバックヘアが無難に似合っている。
 多分、街中で普通にすれ違ったら、陰陽師だなんて欠片も思わないだろう。


 そんな陰陽師青年を発見したわいいが、えらい勢いで逃げようとしたので、仕方なくBJ3号機でとっ捕まえた。
 BJ3号機の黒腕にがっちりとワシ掴みにされ、最初は抵抗していたが、今ではしおらしくしている。


 青年が従えていた鋼のブルドッグは、特に戦意を見せる事はなかった。
 今も、暇潰しのつもりか、自分の短い尻尾を追いかけてグルグル回っている。


「っ……ん~……! なんなんですか、あなた達は……! この黒い機動兵器は一体……ぐぅ……式神でも、妖怪の類でも無い様ですが……!」
『僕は地球防衛軍マザー……って言ってもこの時代の人には通じないですね。僕はBJ3号機。科学技術の粋を集めた地球を守るロボット兵器です』
「……科学……?」


 青年が首を傾げるのも最もである。
 未来じゃどうか知らんが、現代人から見てBJ3号機は明らかに科学的常識を飛び越えている。


「とりあえず、色々と聞きたい事がある」


 BJ3号機にコクピットハッチを開かせ、俺も陰陽師の青年と直接対面する。


「……ふん、まぁ良いでしょう」


 逃げられそうにない、そう観念しているのだろう。
 青年は素直に応じてくれた。


 とりあえず、俺には陰陽師やらなんやらの知識がまったくない。
 常時絶対問答インペリアル・アシックを使用して、真実を吐き続けてもらう。


「まず、あんたの名前は?」
奈輝川なきがわ斗真とうま……陰陽師連盟、執行部隊所属です」奈輝川斗真です。
「何で、メリーさんを殺そうとするんだ?」
「……陰陽師として、悪霊を退治するのは当然の職務ですよ」殺すつもりなんて毛頭ありませんよ。


 ……ん?


「嘘吐けや! さっきぶっちゃけとったやろが! こんのクレイジーサイコペドが!」
「何の話でしょうか?」だって、そういう風にしといた方が怖がってくれるじゃないですか。
「とぼける気かおどれ!」
「……ちょっと待ってくれ」


 何かおかしいぞ。


「あんた、メリーさんを殺すつもりなんて毛頭無かったって、どういう事だ?」
「……っ……んん~? 何の話でしょう」そのまんまの意味ですよ。


 こりゃ、何かあるな。
 全部まるっと説明していただこう。


「あんたの本当の目的はなんだ?」
「はて、質問の意図がよくわかりませんね」怯え逃げ惑う幼女の姿にハァハァしたいんです。


 ……この人、アレだ。
 トゥルティさんと同じ人種だ。
 しれっと脳内爆発系の人だ。


「強いて言うのであれば、陰陽師としての使命をまっとうする事ですね」全国の幼女チックな見た目の悪霊や妖怪を追い掛け回し、恐怖に歪むその表情を眺める事が僕の楽しみです。生きがいと言っても良い。
「………………」
「悪霊や妖怪は全て抹消すべきです、人類に取って有害な可能性を大いに秘めた存在なのですから」殺してしまったらリアクションが見れないじゃないですか。殺す殺すと脅しをかけ、程よく怯えさせはしますが、実際に殺したりなんてしませんよ、勿体無い!
「……マジでクレイジーサイコペドだな、おい……」
「何を勝手に脈絡無く認定してくれてんですか」僕こう見えて元舞台俳優なんで、猟奇殺人者の演技もこなれたモンでしてね。
「………………」


 呆れてモノも言えない気分ってのは、こういう事か。


 ……要するに、だ。
 この人は、見た目が幼女な生物が自分に怯え惑う様を見て興奮する真性のサディスト型ペドフィリア、って事か。


「あんたなぁ……いくらそういう性癖とは言え、やって良い事と悪い事があんだろ……」


 俺には理解できないが、この人は幼女が怯える様に興奮するらしい。
 まぁ興奮できるモノを追及する気持ちはよくわかるよ。それが人間の3大欲求が1つ、性欲って奴だ。俺も人間である以上、性欲の追及そのものについては理解できる。
 でも、今回の件はやり過ぎだろう。


「んん~……? ちょっとお伺いしたい事が。……もしかして少年、君……読心の心得か何かがあるのかな?」


 俺の態度や言動から、本音を見透かされている事に薄々感付いたらしい。


「まぁ、近い事ができるよ。……あんたがメリーさんを殺すつもりなんて無くて、ただ逃げ惑うメリーさんを見てハッスルしてた変態だって事はよくわかった」
『……闇が深いですね』
「はぁ? つまりなんや、こんのクレイジーサイコペドがワイらを殺す殺す言うとったのは、狂言やったって事か!?」
「……本当?」
「俺がそんな嘘吐くメリットなんてないだろ、それに見ろ、この人の面」


 奈輝川の表情から笑顔が消え、気不味そうな、なんとも言えない顔になっている。
 必死に隠したつもりだったオネショが白日の元に晒されてしまい、必死に言い訳を考えている子供に近い雰囲気を感じる。


「……仕方無いじゃないですか……だって、萌えるんですもん」いや、ホント、マジで。


 おおう、弟フェチが露呈した時のトゥルティさんとほぼ同じ台詞を吐いたぞ。


「……成程……だったら合点が行くこともある……今まで、この人は私を殺す殺す言いながら、私を見失うとすぐに退いていた。やたら芝居じみた脅し文句を残して」


 殺す気は無いのだから、当然ある程度追い掛け回して満足したら退く。そういう事だったのだろう。
 脅し文句については、より恐怖を煽り、次に追う時に更に怯えさせるための下準備、か。


「じゃあお前、ワイらの前での発言は全部演技だったんか!? 大した演技派やのうワレェ! こちとらあの話聞いて割とマジで『こんのクサレ外道、刺し違えてでも殺したるわ』とか思ったんやぞ!? ワイの怒りと覚悟を返せや!」
「………………」仕方無いじゃないですか、萌えるんですもん。
「……真性だな……」


 とりあえずアレだ。
 動機はどうあれ、この人がやった事は笑って許せる事じゃない。
 何かしら痛い目を見せて、懲りさせておく必要があるだろう。


「もう1つ質問だ。あんたが今、されて1番困る事は?」
「……………………」陰陽師連盟本部に、僕がこの趣味のために書類偽造等を行った事を告発される事ですね。詳しく調べられればすぐにバレてしまいますし、僕の場合余罪を追及されればポロポロ出てくる。そうなれば、まず執行部隊としての権限の剥奪は免れないでしょう。専用の更生施設への収容もありえますね。


 口を噤んでも、俺の能力の前には無駄である。


 ふむ、にしても中々丁度良いな。
 執行部隊としての権限剥奪……って事は、もうあの式神って奴で悪霊や妖怪を追い掛け回す事はできなくなるって事だろう。
 これなら、禁欲と言う罰になるし、再発防止策にもなる。
 更に更生施設で性根を叩き直してもらえるフルコースだ。


 早速、陰陽師連盟本部とやらの連絡先を吐かせて、告発させてもらうとしよう。





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