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とある離島のインペリアルボーイ

須方三城

23,悩むメリーさん



 1月2日、朝っぱらから俺は何をしてんだろうと思う。


「鋼ちゃん、どうですか?」


 ちゃん呼びなのに未だに敬語ってのもどうなんだろう。とは思うけど、多分、今求められている感想はそれじゃない。


「あー……まぁ、気持ちいい、と思う」




 何か、昨晩から今朝にかけて、トゥルティさんが「……『券』は使わないのですか?」とちょいちょい寂し気に聞いてきて、正直ぶっちゃけやや鬱陶しかった。
 券と言うのはお年玉としていただいた『お姉ちゃんの何でもご奉仕券』の事だ。


 正直全力で思った。
 何に使えと。


 だってトゥルティさん、俺が頼んだら基本的に何でも快諾してくれるよね。
 この券、無用の長物っていうかもう存在意義が無いよね。良いとこの運転代行の名刺みたいに丁寧にラミネートまでしちゃってまぁ……


 だのにトゥルティさんは何やらこの券が行使されるのを期待している。
 何だろうな、多分、「弟ができたらこういう事したい」って言う願望があったんだろうな。
 とにかく、無用の長物とは言え、何らかに使ってあげないと可哀想な気がしてきた。


 でも良い感じのが思いつかないなー……あー、何か耳かゆ。
 そういや、もう2週間くらい耳かきしてねぇわ……と気付き、耳かき棒を手に取った所、トゥルティさんが「鋼ちゃん、今こそ」と言わんばかりに熱い視線を送ってきている事に気付いた。


 そんな訳で、まぁ丁度良いかなーと思い、耳掃除をお願いした訳である。


 ……ただ、若干ミスった。
 耳掃除ならセクハラのしようなんて無いだろうとか思ってたが、甘かった。


 耳掃除をお願いした途端、トゥルティさんは「お姉ちゃんにお任せ!」と元気よく言い放って一時私室へ。
 戻ってきたら、無難なパンツルックが見事なホットパンツに。


「……何故に着替えた……?」
「耳掃除と言えば膝枕ですよね、さぁ」年上の女性の素足な太腿に頬で密着接触する事により、男として嬉しい反面、思春期男子的な辛さに身悶えして、気が気でない絶妙に微妙な表情の可愛らしい鋼ちゃんを見るチャンスかと思いまして。


 ……あれだ、スキンシップが発生する事をお願いする事がそもそもの間違いだった。


「……やっぱり高校の課題の手伝いを……」
「さぁ」キャンセル不可です。




 と言う訳で、俺は現在トゥルティさんの膝に頭を預けつつ竹の棒で(耳の)穴を丹念に蹂躙されている訳である。


 なんだろう、冷静に考えたら、女性の生肌に顔面を密着させたのって初めてな気がする。足だけど。
 何か良い匂いがするのと柔らかく暖かい感触がマジで思春期には辛い。多分俺の顔は今、非常に赤い。だってこれでも思春期だもの。こういう時、どういう面をしていれば良いのかわからない。
 それと、美人さんに自分の汚い部分をじっくり眺められながら尚且つ掃除されていると言う状況が倒錯的な何か醸し出している。


 ちなみに、摘出した耳垢は随時バプン大王が処理している。


 ……まぁ、決して嫌では無いよ、この状況。大事な事なのでもう1度言う、こういう状況は嫌いじゃないよ。
 嫌では無いけど辛い。こういうのをただ純粋に楽しめる程、俺は男としてひと皮剥けていない。
 この複雑なアドレッセンス的アンビバレンツを理解して欲しい。


 しかし、何か予想以上にゾクゾクするな。耳を弄られんのってこんなに妙な感触がするモンだっけか。
 もしかして俺、今、何か開発されてないか……?


 そう言えば人に耳を掃除してもらうのって何年ぶりだろうか。
 ……母さんにしてもらったのが最後だから……少なくとも、6年以上前か。


「……母さん、か……」


 昨日の事もあり、母さんに関する記憶が表層に出てきやすくなっている様だ。


 別にメリーさんが悪いって訳じゃないんだが……こう、やっぱりちょっと残念な感情がある。
 手が届きそうに思えた存在が、霞の様に消えてしまった。そんな感覚だ。


「……鋼ちゃん」
「ん? 終わった?」
「……母さんと口走ってしまう程に母性を感じてくれるのは嬉しいのですが、やはり私としてはお姉ちゃんとして……」


 何かどエライ勘違いが起こっている気がする。
 ってか俺、今「母さん」って口にしてしまっていたのか。


「ああ、でも悪くない、良い、良いかも知れません。義姉×義弟も義母×息子も割と近いものがあるっていうかむしろ……ふぅーっ、ふぅーっ」


 おう、何でもありかお姉ちゃん。どうしようもないな(諦め)。
 まぁそれはとにかく、耳の穴に棒を突っ込まれた状態で興奮トリップされんのはちょっと恐い。呼び戻そう。


「お姉ちゃーん、帰ってきて……って何か頬に暖かい液体が!? 涎!? いやこの匂いは血か!? 鼻血かおい!? ちょ、おぉいお姉ちゃん!」
「あ、暴れちゃダメですよ……! 開発…じゃなくて、耳掃除の本領はここからです、逃しませんよ、うふふ……ふふふふ……!」
「逃げないからその鼻血を止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「うふふ、うふふふふ……」
「ダメだ、聞こえてないこの人!」


 ヤバい、俺の頭をがっちりロックするトゥルティさん腕力超強い。そう言えば龍宮人そうだったね、すっかり忘れてたわ、逃げられねぇこれマジで。


 今、BJ3号機は図書館、婆ちゃんは酒屋、ガルシャークさんは不在。
 悲鳴を上げても助けは来ない。


「うふふふふふふふふふふふっ!」
「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」


 美人が相手とは言え、鼻血をぶっかけられて喜ぶ程、俺のレベルは高くない。




 この後、トゥルティさんが貧血で倒れるまで、俺は鼻血を浴びせかけられながら耳の中を激しくそれでいて丁寧に掻き回されると言う恐怖体験をする事になった。


 もう2度と他人に耳掃除を任せたりしない。
 そう一生の誓いを立てるくらいにはトラウマになる出来事だった。








 老朽化により遊具が全て撤去され、半ば更地同然と化した公園。
 メリーさんは1人、ベンチに腰掛けていた。


「……悲鳴……?」


 何か助けを求める少年の叫びの様なモノが聞こえた気がして、メリーさんは空を見上げる。


「……気のせい……だったみたい」


 耳を澄ませても木々のザワめきや小鳥の囀りが優しく鼓膜を撫でるだけ。
 バイオレンスな雰囲気はどこからも感じない。


「………………」


 正月と言う時期が時期だし、朝と言う時間もある。
 何よりこの公園には公園の目玉と言える遊具が無い。
 公園の敷地内には、メリーさん以外誰もいない。


 静寂を拭い去る様に、強めの風が吹く。
 しかし、風の音が吹き抜ければ、また静寂が戻ってくる。


「……暇」


 人に嫌がらせをする以外に、何か純粋に楽しめる趣味を探す。
 メリーさんに取って初めての『友達』に提案された事だ。


 その小さな手を、太陽にかざしてみる。
 メリーさんは人形だ、当然、透かしても血管など見えやしない。


 そんな時、彼女は自分に接近する何かに気付いた。


「なー」
「……猫」


 それは、野良のくせに座布団みたいにブクブクに膨れ上がったデブい三毛猫だった。
 下手すればメリーさんよりもデカい。


「…………」


 ちょっと可愛いかも知れない、とメリーさんが猫に近づくべくベンチから降りようとしたその時、


「なんや嬢ちゃん、えらい寂し気にしとるのう」
「………………」


 デブ猫が、何やら奇妙な訛りで喋り始めた。


「……妖怪?」
「せやで、いわゆる『猫又ねこまた』や」


 ぴょろんっ、とデブ猫の尻から2本目の尻尾が飛び出した。
 その尻尾を見せつける様に揺らしながら、デブ猫はメリーさんの隣りに座る。


 妖怪とは「生体としての肉体を持ちつつ残留思念の影響を受けて異端化した生物」の総称。
 猫又と言うのは、『素質』を持つ猫が残留思念を体内に蓄積し、異端化を遂げた妖怪だ。


「で、嬢ちゃんもワイと同類なんとちゃうんか? 同類に会うんは久々や。ちょいとワクワクしとるワイがここにおるで。ちょっと撫でてみ、顎の下んとこを優しく撫でてみ」
「ワクワクしてるところ悪いけど、ちょっとだけ違う。私はメリーさん、怨霊。それはそれとして、撫でる」
「そーなんか。まぁええわ。うぅむ中々の撫でテクやのう嬢ちゃん……ごろごろふふふふん……」


 メリーさんの小さな手で顎の下をワシャワシャされ、デブ猫は気持ち良さそうに喉を鳴らした。


「あ、そや。ワイは猫山田ねこやまだ三太夫さんだゆう。『電光怒涛の三太夫ワイルドサンダーボルト』とでも呼んでくれや」
「長いから、サンダーで良い?」
「かまへんで……あ、もうちょい右んとこを強めに……ごろふふん」


 デブだしエセ関西弁だし何かおっさん臭い。
 でも何となく可愛い、とメリーさんは思わず口元を綻ばせた。


「ええ笑顔もん持っとるやないか、嬢ちゃん」
「ええもん……?」
「何でさっきはあないに暗い面ぶら下げっとたんや? おじさんに相談してみ。年の功っちゅうもんを見せたるわ」


 おじさんなんだ……とメリーさんはどうでも良い所に気が行ってしまう。


「……私には、やりたい事がないの」
「ほう、人生迷子中って奴やな、ごりっごりの五里霧中か、そのまんま自分探しの旅に出てまうパターンか、レッツ&ゴーか」
「自分探しの旅……旅をすれば、やりたい事が見つかる?」
「いんや、んな事ないわ。やめとけやめとけ。自分探しの旅に出たっちゅう奴はぎょーさん知っとるけど、自分を見つけられたゆう奴は1匹も知らんわ。旅に出たって無駄っちゅうこっちゃな」
「……じゃあ、どうすれば良いの?」
「知らんわそんなん」
「年の功とやらはどうなったの?」
「そない奇抜な悩み持っとるとは思わんかったわ、ワイの専門外や」
「役に立たない」
「ズバッと言いよるな」


 でも歯に衣着せぬレディは嫌いやないで、と笑いながら、サンダーが丸くなる。
 ただでさえ座布団みたいな三毛猫だったのに、最早完全に座布団である。


「…………やっぱり、私はメリーさん……人に嫌がらせする以外に何もない……そんなもの……」
「何をしゅんとしてんねん、せっかくええモン持っとるんやから、笑えや」
「んん~、無粋なデブ猫ですねぇ」
「っ……!?」


 突然響いた、若い男の声。
 その口調と声色に、メリーさんは覚えがあった。
 忘れるはずがない、忘れられるはずがない、だって、その声は……


「その子には、そぉぉいうジメジメとした陰鬱な表情が似合うのですよ」


 メリーさんとサンダーの前に現れた、サラリーマン風の糸目青年。


「何で……そんな、もう、こんな所にまで……」
「ん? どないしたんや、嬢ちゃん?」


 戦慄し、狼狽するメリーさん。
 そんなメリーさんの様を見て、青年は悪意を顔面いっぱいに広げる様に、笑った。


「必ず見つけ出す、そう言ったじゃあないですかぁ。たった5日前ですよ。もぉぉ忘れちゃったんですか?」


 薄情だなぁ、と茶化す様な調子で青年は言う。


 その青年は、メリーさんに取って、最悪の存在。 


「ねぇ、メリーちゃぁぁぁん。この5日間で、すり潰される覚悟はちゃあんと出来ましたか?」




 メリーさんを狙う、『陰陽師』。



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