話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

とある離島のインペリアルボーイ

須方三城

22,友達になるメリーさん



 この島には、お人形さんにぴったりの服を取り扱っている店は無い。
 ちょっと前までは玩具屋に並んでたと思うが、今確認してきた所、無かった。


 こういう時こそ、女としてのあいつを頼るべきだろう。
 と言う訳で、俺はメリーさんを連れて悠葉の家へとやって来た。


 悠葉の家はウチと似た様な物。
 石垣に囲まれた平屋である。


「おう、夜にいきなり悪いな」
「別に……で、急に何?」


 悠葉はいつも通りの仏頂面だが、不機嫌と言う訳では無さそうだ。
 むしろ若干何かを期待してワクワクしている風にも見えるが……よくわからない。


 とにかく、早速本題に入る。


「悠葉、服くれ」
「…………何に目覚めたの?」


 しまった、俺とした事がやや語弊があった。
 これじゃ女装癖に目覚めたか、堂々と女友達の服をオカズにしようとする変態では無いか。


「すまん、あれだ、お人形さんの服をくれ」
「……………………はぁ?」
「ん? お前、子供の時に着せ替えできるでっかい人形持ってたろ?」


 丁度メリーさんくらいの奴。
 悠葉はあれを結構大事にしてたし、その性格的に、遊ばなくなった今でも保存しているかな、と思ったのだが……


「もしかして、捨てちゃったか?」
「い、いや、あ、ある……と思う……けど……」
「おう、よかったな、メリーさん。あるっぽいぞ」
「中古……まぁ、このボロ布よりはマシ。我慢する」
「……!? そ、その小さい子は一体……人形……よね?」
「ああ、人形に宿った幽霊らしい。名前はメリーさんだ」
「よろしく」
「幽、霊っ……!? は、はぁぁぁぁぁ……?」
「正しい反応」
「いやでも魔法少女だろお前、幽霊くらいで何驚いてんだ?」
「そ、そりゃ驚くわよ……それより、魔法少女って表現はやめて」
「何でだよ? 魔法使う少女だろ?」
「……高校生の身空で魔法少女はちょっとキツい」


 そんなモンか? お前まだ少女だろ。


「とにかく、色々と説明して」






 ってな訳で色々と説明した結果、「あんた、こういうのを引き寄せる体質にでも覚醒したの……?」と悠葉のコメント。
 確かに、ここ2週間程すごい勢いで色んなモンが畳み掛けてきたし、そういう主人公体質的なモノに覚醒していたとしても驚かない。


 ま、その辺は置いといて、悠葉はしっかりお人形さんと着せ替え様の服を保存していた。
 その中からメリーさんが気に入ったのは黒いフリフリドレス。
 悠葉と交渉し、今度、丸1日悠葉に付き合うと言う条件で譲ってもらった。


 それに加え、「その子、前髪が少し鬱陶しい」と言うコメントと共にタンポポの花の装飾が付いた髪飾りももらった。






「……うん、良い感じ。ありがとう、人間のくせに」


 悠葉ん家からの帰り道。
 すっかり日が落ちてしまった道を、メリーさんと並んで歩く。


 メリーさんはその言動から伺い知れる以上に上機嫌だ。
 さっきから満面の笑顔で、黒いスカートをフリフリさせている。
 髪飾りもそれなりに気に入っている様子だ。きっちり使っていた。


「礼はいいよ。それ、俺の話を聞いてくれたのと、幽霊についての話を聞かせてくれた事への礼なんだから」
「そう言えばそうだった」


 そういう訳だ。
 ここで礼を言われてしまってはキリが無い。悪い気はしないけどな。


「……私は、人間はクズばかりだと思っていた」
「ん? ああ、まぁ……あんたの生まれの事情が事情だしな」


 無残な最後を迎えた人形やぬいぐるみ達の、負の魂の塊……それが、メリーさんらしい。
 人形ってのは人間が造り、人間が使うモンだ。
 無残な最後……と言う事は、所有する人間にロクでもない扱いをされて、壊れてしまった、もしくは壊された、って事だろう。


 最近、玩具の葬式が密かに流行っていると聞く。
 金持ちや変わり者の道楽だと思っていたが……案外、メリーさんみたいな存在を知っている人達が、手厚く弔っているのかも知れない。


「……あの女の人が持ってた人形には、良い魂が宿っていた」
「あいつ、ちょっと素直じゃないけど、良い奴だからな。物も大事にするんだよ」


 俺がプレゼントした眼鏡クリーナーもかなり大事に使ってくれているみたいだし。


「あなたも、中々良い人間。少なくとも悪くは無い」
「おう、どーも」


 極悪非道、なんて呼ばれる様な生き方は避けてきたつもりだ。
 聖人君子、って程では無いだろうが、善良な一島民である自負はある。


「これからは、嫌がらせをする前に少し相手の事を調べる」
「……嫌がらせは続けるんだな……」
「良い人間がいる事はわかった。でもクズもいるから」


 ま、クズに限定してちょっと酷い目に合わせるって感じなら、別に咎める事でも無い……のだろうか?


「でもさ、それでお前は楽しいのか?」
「ちょっとスッとするけど、楽しいと言う程でもない。でも、これ以外に特にやる事も見当たらない」
「ふぅん……そういう感じなら、探せば良いんじゃねぇの? やりたい事」
「……探す……考えた事もなかった」
「そっか。じゃあ、丁度良いじゃん。考えてみろよ」


 腹いせに人へ嫌がらせをする以外にやる事が無いなんて、何か虚しい。
 人の趣味に口を出す主義では無いが、流石にもうちょっと前向きな趣味を開拓した方が良いと思う。
 嫌がらせをする事が特別楽しい訳でも無いってんなら、尚更。


「うん、わかった。私、メリーさんは今宵、改心する」


 改心って、そんな宣言してからするモンだっけ?


「人間への嫌がらせは一旦休止。何か、他に楽しい事を探してみる」
「おう、それが良い」


 幽霊とは言え、見た目は可愛らしいお人形、もとい女の子だ。
 今みたいに楽しそうに笑っている方が可愛いし、似合う。


「とりあえず、あなたとは友達になれそう」
「お、イイね」


 友達ってのは多くて困るモンでも無い。大歓迎だ。
 少し話してみて、メリーさんが悪い奴でも無いって事はわかったし。


「そう言えば、あなたの名前、聞いてない」
「そうだったな、俺は鉄軒鋼助。苗字が鉄軒で、名前が鋼助だ」
「鋼助、覚えた。気が向いたらたまに電話する」
「おう、じゃあ、またいつかな」
「うん、バイバイ、鋼助」


 メリーさんは駆け出した。
 そして、闇に溶ける様に消えてしまった。
 いや、俺には認識できなくなってしまった……ってのが正しいのか。


「頑張れよー」


 なんとなく、応援の言葉を贈る。
 次、メリーさんから電話が来たら、良い報告が聞ける事に期待しよう。








 家に帰ると、居間にトゥルティさんがいた。巫女装束だ。
 たった今、神社のバイトから帰ってきたんだろう。


 ……金髪碧眼の巫女ってなんだかなぁ……まぁ、悪くはない。むしろ良いかも知れない。


「あ、鋼ちゃん、おかえりなさい」
「お、おう……」


 未だに鋼ちゃん呼びに慣れない俺がいる。


『遅かったですね。慌てて飛び出して行って……何かあったのですか?』


 BJ3号機はバプン大王を指でつついて遊んでいた。
 バプン大王は特に意に介する事もなく、その黒い指先が触れる度にぷるんと揺れるだけ。


「ちょっと不思議体験と言うか、そんな感じ」
「不思議体験、ですか?」
「幽霊に会ってきた」
「幽霊って……」
「皇子サマって、何か奇妙なモンに縁があるよなぁ」


 コタツでミカン食いながらくつろぐガルシャークさん。悠葉と同じ様な事を言っている。
 ……一応、この空間にいる奴全員、あんたの言う「奇妙なモン」に分類される輩だからな、あんた含めて。


『で、幽霊とは、一体どの様な……』


 何かBJ3号機が幽霊と言う単語にやたら興味深々だ。
 科学の塊かつ知識欲の塊だからなこいつ。


 とりあえず、今日の出来事を掻い摘んで説明するとするか……








 生垣島と本島を結ぶフェリーは、朝昼晩1本ずつの計3本。
 と言っても、船員以外の人間を乗せて来る事は希だ。大体、いつも荷物の運搬のみに終始する。
 その最終フェリーが今、生垣島に着港していた。


 そして、本日は珍しい事に、乗客が1名いた。


「流石、亜熱帯ですねぇ。冬の夜だってのに、中々どうして過ごしやすいじゃあないですか。コートは脱いで正解でしたね」


 波止場にて、満天の星空を眺めながら、その男は楽しそうに笑った。


 ビシッとしたスーツに身を包んだ優形の青年。その手にはビジネスバッグと、丁寧に畳まれたロングコート。
 オールバックヘアが爽やか感を演出している。
 青年の顔に常に張り付いている細目の笑顔も温和な雰囲気を醸し出していた。
 総合的に、「物腰やわらかそうなエリートサラリーマン」と言う印象を受ける。


「んん~……ふぅ。ああ、『彼女』の匂いがしますねぇ。情報は間違いない様だ」


 深呼吸をした後、青年は傍から聞けば意味不明なつぶやきを漏らした。


「さぁて……とりあえず、今日はもう遅い。宿に向かいましょうか」


 独り言をつぶやき、青年はスマートフォンを取り出した。
 自分が取った宿の位置を調べるためだ。


 画面を点灯させて、ラインメッセージが届いている事に気付く。
 送り主は、彼の上司に当たる人物。


『話は聞いたぞ、休暇中、しかも元旦早々から悪霊の尻を追いかけるとは、熱心だな』
「んん~、まぁ、『彼女』は僕好みですからねぇー」


 適当に、『これも世界平和のためですよん』と返信し、青年はインターネットブラウザを起動。
 宿の名前を入力し、ナビゲーションモードを起動しながら、静かに笑う。


「んふふ……ふふふふ……」


 スマートフォンの光が暗闇を拭い去り照らし出すのは、極上の笑み。
 好青年には程遠い、邪悪さを顔面いっぱいに塗りたくった様な、最悪の笑顔。


「逃がしませんよぉ……メリーちゃぁぁん……」



「とある離島のインペリアルボーイ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く