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とある離島のインペリアルボーイ

須方三城

21,見つかるメリーさん



 母さんが死んだのは、俺が9歳の時だ。
 病気だった。やたら難しい病名だったから、詳しくは覚えちゃいない。
 母さんを看取った婆ちゃんが言うには、苦しむ事なく、眠る様に息を引き取ったんだそうだ。


 最後のその日、俺は海で遊んでいた。
 母さんがいなくなるなんて思いもせず、呑気に笑って、遊んで、満足して家に帰った。
 そしたら、婆ちゃんが泣いていた。婆ちゃんが泣くところなんて、初めて見た。


 ベッドで眠る母さんの顔には、白い布がかかってた。
 当時の俺には、意味がわからなかった。


 そんなの乗せてたら母さん苦しいよ、息が出来なくて死んじゃうよ。


 でも、そんな心配をする必要は無かった事を知る。


 母さんは、最後の時、俺の名前を呼んだらしい。
 そして、手を伸ばしたんだそうだ。
 ……俺は、その手を掴んであげられなかった。
 最後の最後、母さんに寂しい思いをさせてしまった事だろう。


 母さんは、俺に何か言いたい事があったのかも知れない。
 そりゃあるだろ、俺は母さんの1人息子なんだ。


 俺だって、母さんに言いたい事は山ほどある。


 育ててくれて、ありがとう。
 そう、直接お礼を言わなきゃいけない相手だったはずだ。


 お疲れ様、おやすみなさい。俺はきっと大丈夫だから。
 そう、別れの言葉を告げたかった。あんな別れは、あんまりだ。


 そして何より、謝りたい。
 最後の時、その手を握ってあげられなくてごめん、と。


 だから、俺はメリーさんを探す。
 どうか、母さんに伝えて欲しい。


 ありがとう、それと、ごめん。
 それだけで良い。それだけで良いんだ。


「っ……どこだ……!?」


 波止場は、閑散としていた。ほぼ無人。
 釣りをしている人がいるくらいだ。


「っ……」


 穏やかな海と対象的に、俺は非常に焦る。


「すんません! この辺に、見慣れない外国人の女の子がいませんでしたか!?」


 とにかく、聞き込みだ。
 釣り人に声を掛ける。


「お、鉄軒さん家の倅か、あけましておめっとさん」
「あ、地稔ちねんさん、あけましておめでとうございます」


 ウチの酒屋のお得意さんだった。俺が店番の時にもたまに見る。


「えー、外国人の女の子ねぇ? あれか? とるたさんだっけ? あの外人ねーちゃんなら、今朝神社で見たぞ。巫女さんやってた」
「トゥルティさんじゃなくて……」


 多分この様子は知らないな。
 適当に「あざっす」と礼を言って、他の釣り人を当たってみる。


 しかし、収穫は0だった。


「くっそ……」


 人を恐がらせてストレス発散がどうとか言ってたし……俺以外のターゲットを求めて移動した可能性が高い。
 もう1度、メリーさんにリダイアルしてみる。


 ……ダメだ、今度は繋がりすらしなかった。
 おかけになったお電話番号は~と言う女性のアナウンスに変わってしまった。


 流石は幽霊、番号も自由自在か。


 完全に、メリーさんの消息を見失ってしまった。
 だが、諦め切れない。


 こうなったらローラー作戦だ、ひたすら走り回って探してやる。






「あー……チックショ……」


 遊具が全撤去され、もうほとんど更地同然の公園。
 そのベンチに腰を下ろした俺に、茜色の光がやかましいくらい照りつける。
 普段は美しいと思える西日がひたすら憎々しい。


 最初は部屋着で出てきてしまったためにひたすら寒かったが……島中走り回ったおかげで、もう体中ホットである。
 寒さ問題は解決したが、肝心のメリーさんは未だ見つかっていない。


「一体、どこにいんだよ……」


 どんだけ探し回っても、行く先々で聞き込んでも、メリーさんの痕跡は欠片も掴む事ができなかった。
 皆、見覚えの無い外人どころか、普通の余所者すら見た覚えが無いと言う。


「もしかして……幽霊だから普通に視認するのは無理って事か?」


 だとしたらとんだ無駄骨である。


 俺が肩を落とした時、二階堂が鳴った。
 表示は非通知だ。
 誰だ、こんな時に……


「もしもし?」
『しつこい男』
「!」


 その幼い声は、メリーさんの声だった。


『そんなに必死になるくらい、私に重要な用事があると言うの?』
「あ、ああ! おい、メリーさん、あんた一体今どこにいるんだ!?」


 絶対問答インペリアル・アシック、発動。


『やだ。教えない。人間を脅かすのは趣味だけど、親しむつもりは無いの。さっさと諦めたら? と言うために電話した』私は今、あなたの後ろにいるの。
「マジかよ!?」


 そらもう全力で振り返る。


 そこには、金髪碧眼の少女がいた。薄汚れた雑巾みたいなドレスを身に纏った、お人形さんの様な……と言うか、まんまお人形さんだ。
 等身の割りに、やたら小さい。俺の膝くらいまでしか身長が無い。どう考えても縮尺がおかしい。
 その碧眼はまんまガラス玉の様だ。


 そんなまさしくお人形な少女が、親指を耳に、小指を口元に当てていた。指電話、って奴だろう。


 人形に宿った怨霊、指電話で電話をかけられる。
 メリーさんに間違いない。


「なっ……」


 視線が交わった事に驚き、そのガラス玉の様な目が大きく見開かれた。


「や、やっと見つけた……」
「な、なんで私が後ろにいるってわかったのよ……?」
「その辺は後でゆっくり説明する。あんたに聞きたい事があるんだ」
「………………」


 メリーさんが訝しむ様な目で俺を見据える。


「……あなた、随分変わってるのね。普通、もっと驚かない?」
「驚くって……いつの間にか後ろにいた事か? 何か人形が動いて喋ってる事か?」
「両方」
「まぁ、色々と耐性が」
「耐性って……」


 制限はあるが、身内にワープ能力を持ってる奴がいる。
 そしてそいつは人間同然に思考し喋るし滑らかに動く機械である。


 いきなり背後に動いて喋る人形が現れたくらいで驚くものか。


「……本当に驚かし甲斐が無さそうね、あなた」
「おう、何かごめん……」
「ま、いいわ。聞きたい事があるって言ったわね」


 やれやれ、と言った具合に溜息を吐き、メリーさんがてこてことこっちに歩いてきた。
 ぴょんっと跳び、ベンチの上、俺の隣りに降り立ち、そして座る。


「あなた、中々面白い経験をしていると見たわ。この私が珍しく興味深々。まずその辺を聞かせなさい。そしたら私もあなたのご要望に応えてあげる」
「本当か!?」
「私はメリーさん、嘘は吐かない」
「おう、じゃあ……そうだな」


 とりあえず、龍宮帝国関係の話から始めるか。
 俺の人生が明確に色々おかしくなり始めたのは、タトスのおっさんの来訪からだった気がするし。










「…………確かに、幽霊くらいじゃ驚かなくなっても無理は無い」
「だろ?」


 ま、元々幽霊自体はあんまり恐がる部類じゃなかったけどな。
 ただ不気味ってだけで悪霊にでもならない限り実害の無いモン、ってイメージがあったから。
 それに、守護霊占いとか学生の時めっちゃ流行ってたし、幽霊ってのはプラスに働く存在である……ってイメージも中々強い。


「にしても、質問に強制的に回答させる超能力……便利なものね」
「あんたも大概だろ、電話の能力とか」


 指で電話かけられるし、番号を簡単に変更できるし。


「まぁね。あと、存在感を薄くする能力もある。『特定の人種』以外には認識されにくくなる」


 成程、だから追跡が困難だったり、後ろに立たれても気付けなかったのか。


「特定の人種って?」
「『陰陽師おんみょうじ』。特別悪い事をしてる訳でも無いのに、私達怨霊の類をシバき回す理不尽の権化」
「陰陽師なんてのも実在したのか……」


 ……ってか、メリーさん、あんた人を恐がらせてストレス発散してるんじゃなかったっけ。
 それはおそらく『悪い事』に分類される気がするのですが。


「……ところで、あなたの聞きたい事って、何?」
「あ、そうだ」


 危ね、超本題を忘れるところだった。


「なぁ、メリーさん。怨霊って言うくらいだし、死んだ人間の幽霊とコンタクトを取れたりしないか?」
「それは無理」


 即答だった。


「何か勘違いしてる様だけど……幽霊と言うのは、死んだ人間の『残留思念』の集合体で、『誰かの魂』そのものでは無い」
「…………?」
「人が死ぬと、魂は『冥界めいかい』へと行く、そして残留思念と言うエネルギーが体外に放出されるの」
「?????」


 よく意味がわからん。


「……まず、幽霊と言うモノの概念が根本的に違う。人が死ぬと、生命は魂と思念体に分裂する。魂は冥界へ、そして思念体はただのエネルギーとしてこの世界に残留、蓄積されていく」
「えーと……じゃあ、俺が死んだとして、俺の魂は冥界とやらに行って……思念体って名前のエネルギーが放出される、って事か?」
「そう言う事。そして蓄積された残留思念が何かの切掛に集合し、形を持ち、その形に新たな意思が芽生える事で『幽霊』が誕生する」


 ……じゃあ、死んだ人間は幽霊になる、と言う前提認識そのものが間違っていたと言う訳か。
 幽霊とは、『死人の放出したエネルギー』の集合体が意思を持った、全く新たな生命体。


「生物と同様、物にも微量だけど生命が宿る事がある。そして、私は無残な最後を迎えた人形やぬいぐるみから放出された、負の思念体が幽霊化した存在」


 それが、人形の怨霊を名乗るメリーさんの真実か。


「とりあえず、結論。あなたが誰とコンタクトを取りたいのか知らないけど、私の知る限り、現世を生きながら死んだ人間『そのもの』とコンタクトを取る術は、無い」
「……俺が死なない限り、会えやしないって事か」
「その頃には、相手は新たな生命として転生してしまっている可能性があるけどね」


 だからと言って、さっさと死ぬ訳にもいかないだろう。
 普通に長生きしたいし、婆ちゃんや、皆を悲しませたくない。
 それに、きっとこんな理由で死んで会いに行っても、母さんだって良い顔はしちゃくれない。


「モノのついでに忠告してあげる。世の中には人間の魂や思念体を狙って人を襲う悪霊や『妖怪』と言うのもいる。数は少ないし、陰陽師達が総力を上げて退治してるけど……注意して」
「……おう、ありがとう」


 我ながら、一気に声から活力が失せたな、と思う。


「……何かごめん、力になれなくて」
「いいや、メリーさんが謝る事じゃねぇよ」


 何も知らない阿呆が、勝手な妄想で期待して、それが叶わないと現実を思い知っただけだ。
 誰かが悪い訳じゃない、強いて言えば、俺の勉強不足が原因だ。


「話を聞かせてくれてありがとな。安いモンで良ければ、お礼に奢るよ」
「!」


 ピクッ、とメリーさんが反応する。


「……さ、さっき言ったでしょ、私は無残な最後を迎えた人形やぬいぐるみ、人間を恨んでるのよ、な、なのに人間と懇意になるような事……」


 何か、歯切れの悪い物言いだな。


「もしかして、何か欲しいモンがあんのか?」
「そ、そんな訳がない」新しいお洋服が欲しい。
「……まぁ、女の子だし、そんなボロボロの格好じゃあれだよな」
「っ……例の能力を使ったわね……!」


 悠葉以外とは特に約束してねぇもん。


「お洋服、か」


 うーん……中々値が張りそうだ。
 今回得られた知識への対価としては高過ぎる気がしないでも無いが……


 人形だ怨霊だつってもメリーさんは女の子。
 こんなボロ雑巾みたいなドレスでいさせるのもアレである。


「……仕方無ぇ」


 婆ちゃんが言っていた。「女の子のために使う金を惜しむな、色男の必須条件だよ」と。
 どうせお年玉が入るし、お人形さんの服なんて高くても数千円だろう。ちょっと奮発するか。





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